インフィニティ
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
私と同じ魂の男性や、黒りんと同じ魂の女の子の居る奇妙な晩餐会の後、知世お嬢様は予定通りサクラちゃんに提案した。
「そうですわ!
せっかくですから、今日はダイドウジ邸に泊ってくださいませんか?」
驚いた顔をしたサクラちゃんだけれど、喜んでいるのはその明るい顔色でよくわかる。
小狼くんは早くもサクラちゃんのその表情に流されているし、モコナも。
「いいの?」
嬉しそうにお嬢様に確認している。
「もちろんですわ。」
戸惑っているのはどちらかというと大人組の方だ。
“ファイ”を名乗る男性の私と、それから女の子の黒たん。
だが、私たちが用があるのは、あの二人の方だ。
「せっかくお友達になれたんですもの。
今夜はゆっくり泊っていってくださいな?」
お嬢様のお願いに、そしてサクラちゃんとモコナの嬉しそうに目を輝かせる。
その様子に小狼君は少し困ったように、でも嬉しそうに笑った。
でも男性の方は心配げに眉を寄せた。
女の子は表情を変えない。
やはり黒ぴーそっくりだと思う。
「ご安心ください。
我が家の警備は万全です。」
どうやらビジョン家からずっと見張られているらしく、それに気づいているのだろうというお嬢の読みは正しかった。
二人は納得したようにうなずく。
「そうと決まればお部屋にご案内!」
立ちあがった私は、女の子の黒様(黒ちゃんと呼ぼう)の手をグイッとつかむ。
雰囲気はよく似ているのに、やっぱり女の子。
手は細くて指も長い。
でも古傷の後が指に触れ、彼女はたくさんの戦いを乗り越えてきていることが知れた。
特に左手の甲には、大きく裂けた跡がある。
「黒ちゃんは私の部屋でいい?」
「ええ。」
お嬢様が優しく微笑む。
「お、おいっ」
客間に泊ると思っていたのだろう。
戸惑う黒ちゃんはかわいいと思う。
私よりも背は高いけれど、黒りんよりも二回りくらい小さくて、余計にそう思うのかもしれない。
「いいでしょ、女の子同士。」
私はくるりと室内のメンバーを振り返って、そして。
「おやすみー!」
元気にあいさつをした。
あきれ顔の黒ぽっぽ。
笑顔でお休みを言ってくれるお嬢様。
ちょっと呆気にとられている小狼君とサクラちゃん。
モコナはおやすみーと元気に手を振ってくれる。
そして私と同じ蒼い目が、一瞬すがるように黒ちゃんを見た。
あの目は知っている。
一人取り残されることに不安を感じているんだ。
私もいつも黒たんと一緒だから、離れると同じように感じるから、分かる。
だから。
「また明日ね。」
その目にそっと言うと、私によく似た笑顔を張り付けた。
「うん。
おやすみ、黒鋼。」
この部屋に来て、彼が初めて黒ちゃんに向けて発した言葉だった。
黒ちゃんは表情一つ変えず、うなずいた。
傷ついていない振りして、ひどく傷ついていることは、誰よりも黒様の傍にいるからこそ、気づいたことかもしれない。
ぐいぐい手を引っ張っても、黒ちゃんは抵抗しない。
そのまま私の部屋に引っ張り込んだ。
「女の子同士、ゆっくりしようよ。」
振り返って笑顔を向けると。
「邪魔させてもらう。」
そう静かに言った。
きれいな人だなと、素直に思う。
黒たんと同じ紅い瞳だけれど、黒たんよりも小さくて細い身体、白い肌、長いつやのある髪。
知らなければ綺麗な男の人だと思うだろう。
誰もが振り返るような、美男子だと。
でも私は知っている。
黒ちゃんは女の子なのだ。
「黒ちゃんのパジャマはこれね。」
だから今日ばかりはとひらひらのパジャマを用意した。
「へ、変な名前で呼ぶな。」
パジャマのひらひらから目を背け、黒ちゃんは困ったように言った。
本当にかわいい。
(あの人もきっと、そう思うんだろうな。)
自分と同じ魂を持つ人を思った。
そんなことを悠長に考えていたからだろう。
パジャマを渡すときに手を取られて、驚く。
強く握られているわけではなかった。
でも、逃げることは許されない。
本当に、玄人(プロ)だと思った。
「お前の名前は?」
紅の瞳が、鋭く問う。
「いやだなぁ、ファイだっていったでしょ?」
笑顔を張り付けながら、さっきの男の人と同じ顔だと思った。
「ではもう一度聞く。」
黒ちゃんは部屋の奥の鏡を見つめた。
そこにはまるで私を襲おうとしているかのような、黒ちゃんが映っている。
獲物をとらえたような真赤な瞳が、殺気を帯びて細められた。
(恐、い・・・。)
純粋にそう思った。
私の蒼い瞳が怯えたように見開かれている。
黒たんは、こんな顔を私には向けない。
敵を見るような、こんな鋭い視線は向けない。
黒りんに比べ、彼女は若いし、女の子だ。
苦しいこともたくさんあっただろう。
早く手を打たねばならないことも、たくさんあっただろう。
まだまだとげとげしていて、まるで手負いの獣のように見えるのは気のせいだろうか。
こんな彼女を、旅の仲間たちは、あの男性のファイは、何とも思わないのだろうか。
それとも、こんな姿は彼らの前では見せないのだろうか。
「お前の名前は?」
短い問いは、逃げを許さない。
鏡がふわりと揺れた。
そしてその中から、私の片割れが姿を現す。
私にそっくりの容姿の、大切な大切な片割れが。
「「・・・だましてごめん。」」
私たちはうつむいて同時に言った。
手から黒ちゃんが手を離した。
小さなため息が聞こえる。
「青年に気でも遣ったか?」
返事はできなかった。
本当はずっと隠れているつもりだったのだ。
彼らの過去は、知らないことにするつもりだった。
でも、私たちもあの“ファイ”の過去を黒様伝手に聞いただけで、詳しいことは知らない。
それに、目の前の黒ちゃん自身がどのくらい知っているかも知らない。
だからこの話題は危険だからだ。
干渉値を越えてしまう可能性がある。
別の部屋にいた方がいいかもしれないと考えはしたが、気になるからと鏡で気配を絶った向こうに“ファイ”は隠れていた。
まさかそれにも気づいてしまうなんて。
「・・・お前がファイ・・・だな?」
名前まで当てられるとは思わず、ファイがはじかれたように顔を上げた。
「お前は・・・ユゥイ?」
今度は私の名前まで当てられ、紅い瞳を見つめる。
流石だと思う。
相手は女の子のはずなのに、黒ちゃんに見つめられるとなんだかドキドキしてしまうのは不思議だ。
「私たちを見分けられるのは、お嬢様と黒りんくらいなのに。」
ファイが言った。
「黒りんと魂の元が一緒だからかな。」
私がいうと、黒ちゃんはすっと目を閉じて。
「青年への気遣い、感謝する。」
そう言って頭を下げた。
綺麗な立ち姿だと思う。
よく見ると、目の下にうっすらクマができている。
この国についてからほとんど寝てないらしい。
唯一、怪我をして気を失った3時間くらいなものだと聞いた。
それでよく体がもつものだと思う。
普通だったら死んでしまうだろう。
過酷な環境に耐えうるのが“忍”なのか、それとも仲間への強い思い故か。
どこか痛々しくさえ見える姿に、心が痛んだ。
(どうして彼女の思いに、私と同じ魂の人は、応えないのだろう・・・。)
同じ魂を持つはずなのに、片方だけの蒼い目の考えることは私にはわからなかった。
