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「遅いね」
「黒鋼さん……」
「やはり何かあったんでしょうか」
珍しくサクラちゃんも小狼君もリビングに一緒にいて、二人は心配そうに時計や部屋の扉や窓の外を眺めている。
黒鋼の存在は、引き裂かれた二人を同じ部屋に呼び寄せる力があるのかと思うと、意外なような、当然のような気がしてくる。
モコナも不安げに部屋の中を行ったり来たり。
彼女が家を出たのは昼すぎだった。
すぐに帰ると言っていたのに、もう外は夕暮れ。
「大丈夫だよ。
強いから、多少のことじゃ死なないし」
「そうですけど、誰かに攫われていたり……」
不安げにサクラちゃんが口を開いた。
「たぶん気配を読んで逃げるか、相手を倒しているでしょ」
「例え倒せても敵が多くて、怪我をして帰れないとか……」
今度は小狼君。
「どんだけ多くても、黒鋼の技なら一発だよ。
武器持って行っているから大丈夫」
「でも……ファイも心配だよね?」
モコナがぴょこんとオレの肩に乗った。
「……そんなことないよ。
大丈夫だよ、黒鋼なら」
オレは笑顔を張り付ける。
「嘘」
ぽつりと落ちた声に、みんなの視線がサクラちゃんに集中する。
「笑いたくないときに、無理に笑わないでください」
悲しげな視線が、オレを見つめ返した。
言葉に詰まってしまって、オレは笑顔を失う。
心配でないことはない。
彼女がいないと、オレは死ぬ。
あの血が飲めないなんて、考えただけで喉が渇くほどだ。
それだけじゃない。
この子たちを守っていくためにも、彼女は必要不可欠。
そんな条件ばかりを並べて、オレは自分の気持ちに蓋をする。
オレの心は、彼女を欲してはいないと。
その時だった。
ドアが開き、皆がそちらを向く。
「遅くなった。
すまない」
その声に、自分の身体の緊張がほぐれたのが分かる。
それほどまでに思いつめていた自分が馬鹿らしい。
ようやく帰ってきた黒鋼に、モコナが跳びつき、小狼君とサクラちゃんが駆け寄る。
こうしている姿だけは、昔と何ら変わらない。
ただ、オレの鼻は彼女の血に敏感だから、いくら隠していても怪我をして帰ってきたことはすぐにわかった。
袖口から包帯が見え隠れしている。
「どこ行ってたの?」
「黒鋼さん、怪我したんですか!?」
「いったい何が?」
一度に話す3人を押して、黒鋼は目をやわらかく細めた。
彼女は本当に、3人のことが愛おしいのだろう。
「すまないが客人だ」
赤い目がオレを見て微かに柔らかく細められた。
ひとつだけ頷くのが精一杯だった。
黒鋼がドアの前から室内に入って来て、それに続いて入ってきた姿にオレ達は皆、目を見開く。
「黒、鋼、さん……?」
小狼君がぽつりと尋ねる。
そう言いたくなってしまうのもわかる。
彼はそっくりなのだ。
雰囲気も、真赤な目も。
ただ、性別が違う。
だから髪形も、背格好も違う。
でも、そっくりなのだ。
「この世界の俺だそうだ」
黒鋼の紹介後、彼は一通り顔ぶれを見、そしてオレを見て驚いたように目を見開いた。
それからにやりと笑って、そういうことか、と呟く。
(……なにがどういうことだ?)
当然ながら、女の黒鋼よりも低く、太い声だ。
それがありえないはずなのに、やけになじんでいる。
まるで彼自身を見たことがあるかのような印象を受けてしまう。
黒の短髪、真赤な瞳、落ち着く声。
幼い頃、あの腕に抱きあげられた記憶さえあるかのような錯覚にさえーー
(馬鹿な)
オレの疑問は置き去りに、男の黒鋼は事情を話し始めた。
「うちのお嬢がこいつを夕食に招待したいらしい」
男の黒鋼は女の黒鋼をくいっと顎で指した。
「だがこの女ときたら、てめぇらをおいては来れねぇと言った。
だからまとめて招待したいが、いいか?」
唐突にそういう男の黒鋼に、オレたちは戸惑ってしまう。
「特に姫には楽しい夕食になるだろうな」
女の黒鋼がそういう。
サクラちゃんは首をかしげた。
「うちのシェフの腕は自慢じゃねぇがなかなかだ。
どうだ?」
彼の真赤な目がオレをじっと見つめる。
彼女とそっくりな瞳の男に見つめられるは、会ったことがある気がするという以上に、どうも気が変になる。
「……いいかな?」
オレは目をそらして3人に尋ねた。
「はい」
「なんだか楽しみ!」
「そうね」
男の黒鋼はくっくと小さく笑いを漏らして、準備ができたら声をかけるようにと言って部屋から出て行った。
「……お前っ!!」
目を見開く女の黒鋼。
男の黒鋼がそういうことか、と呟いた理由がようやくわかった。
この世界のオレと同じ魂を持つ人はーー女なのだ。
「本当だね、黒りん。
女の子なんだー」
話し方はそっくりなのに、声はきれいなソプラノ。
長い金髪がふわりと風に乗る。
昔から女の子だったらどんなに可愛いだろうと言われたけれど、それが目の前にいる。
まるでオレ達とは正反対だーー面白いほどに。
「それから、私が男の人、ね……
なんだか不思議」
くすりと笑う姿は、やはりオレだ。
根本的な、魂がオレなのだ。
「本当にね」
オレもつられて笑った。
その二人の後ろから登場した少女に、サクラちゃんが目を見開き、呼んだ。
「知世ちゃん!?」
この世界にもいたらしい。
黒鋼がさっき、サクラちゃんに楽しいだろうといった理由が分かった。
(きっと黒鋼にとっても楽しいんだろうけれど)
「お嬢」
「知世お嬢様」
男の黒鋼と女のオレが道をあける。
「はじめまして。
私はトモヨ・ダイドウジ。
お話には伺っていましたが……」
知世ちゃんはオレと黒鋼を交互に見、それから。
オレ達の間を通り越して。
「本当にかわいらしいお嬢さんですこと!
お名前は?」
と言ってサクラちゃんの手を取った。
どこの知世ちゃんもこんな感じなのかな、と思う。
「さ、サクラです」
最近は暗い表情がほとんどだったサクラちゃんだけど、久しぶりに戸惑いながらも笑顔を浮かべている。
でもピッフル国のことを思い出しているのだろう。
「サクラちゃん、とお呼びしてもいいでしょうか?」
「もちろん。
私もトモヨちゃんってよんでもいい?」
「もちろんですわ!」
初めて会ったようには見えない二人。
そして2度目に思える光景。
どうやらこの世界でも、トモヨちゃんはなかなか凄腕のお嬢様であることは、この雰囲気から分かる。
トモヨちゃんはサクラちゃんの手を引いて夕食の席へと座らせた。
オレたちも男の黒鋼や女のオレに従って席に着く。
知世ちゃんはサクラちゃんの隣に腰かけ、オレ達を見回していった。
「ようこそ、ダイドウジ家の晩餐会へ。
シェフが腕によりをかけて作りましたの。
どうぞ楽しんでいってくださいな」
「黒鋼さん……」
「やはり何かあったんでしょうか」
珍しくサクラちゃんも小狼君もリビングに一緒にいて、二人は心配そうに時計や部屋の扉や窓の外を眺めている。
黒鋼の存在は、引き裂かれた二人を同じ部屋に呼び寄せる力があるのかと思うと、意外なような、当然のような気がしてくる。
モコナも不安げに部屋の中を行ったり来たり。
彼女が家を出たのは昼すぎだった。
すぐに帰ると言っていたのに、もう外は夕暮れ。
「大丈夫だよ。
強いから、多少のことじゃ死なないし」
「そうですけど、誰かに攫われていたり……」
不安げにサクラちゃんが口を開いた。
「たぶん気配を読んで逃げるか、相手を倒しているでしょ」
「例え倒せても敵が多くて、怪我をして帰れないとか……」
今度は小狼君。
「どんだけ多くても、黒鋼の技なら一発だよ。
武器持って行っているから大丈夫」
「でも……ファイも心配だよね?」
モコナがぴょこんとオレの肩に乗った。
「……そんなことないよ。
大丈夫だよ、黒鋼なら」
オレは笑顔を張り付ける。
「嘘」
ぽつりと落ちた声に、みんなの視線がサクラちゃんに集中する。
「笑いたくないときに、無理に笑わないでください」
悲しげな視線が、オレを見つめ返した。
言葉に詰まってしまって、オレは笑顔を失う。
心配でないことはない。
彼女がいないと、オレは死ぬ。
あの血が飲めないなんて、考えただけで喉が渇くほどだ。
それだけじゃない。
この子たちを守っていくためにも、彼女は必要不可欠。
そんな条件ばかりを並べて、オレは自分の気持ちに蓋をする。
オレの心は、彼女を欲してはいないと。
その時だった。
ドアが開き、皆がそちらを向く。
「遅くなった。
すまない」
その声に、自分の身体の緊張がほぐれたのが分かる。
それほどまでに思いつめていた自分が馬鹿らしい。
ようやく帰ってきた黒鋼に、モコナが跳びつき、小狼君とサクラちゃんが駆け寄る。
こうしている姿だけは、昔と何ら変わらない。
ただ、オレの鼻は彼女の血に敏感だから、いくら隠していても怪我をして帰ってきたことはすぐにわかった。
袖口から包帯が見え隠れしている。
「どこ行ってたの?」
「黒鋼さん、怪我したんですか!?」
「いったい何が?」
一度に話す3人を押して、黒鋼は目をやわらかく細めた。
彼女は本当に、3人のことが愛おしいのだろう。
「すまないが客人だ」
赤い目がオレを見て微かに柔らかく細められた。
ひとつだけ頷くのが精一杯だった。
黒鋼がドアの前から室内に入って来て、それに続いて入ってきた姿にオレ達は皆、目を見開く。
「黒、鋼、さん……?」
小狼君がぽつりと尋ねる。
そう言いたくなってしまうのもわかる。
彼はそっくりなのだ。
雰囲気も、真赤な目も。
ただ、性別が違う。
だから髪形も、背格好も違う。
でも、そっくりなのだ。
「この世界の俺だそうだ」
黒鋼の紹介後、彼は一通り顔ぶれを見、そしてオレを見て驚いたように目を見開いた。
それからにやりと笑って、そういうことか、と呟く。
(……なにがどういうことだ?)
当然ながら、女の黒鋼よりも低く、太い声だ。
それがありえないはずなのに、やけになじんでいる。
まるで彼自身を見たことがあるかのような印象を受けてしまう。
黒の短髪、真赤な瞳、落ち着く声。
幼い頃、あの腕に抱きあげられた記憶さえあるかのような錯覚にさえーー
(馬鹿な)
オレの疑問は置き去りに、男の黒鋼は事情を話し始めた。
「うちのお嬢がこいつを夕食に招待したいらしい」
男の黒鋼は女の黒鋼をくいっと顎で指した。
「だがこの女ときたら、てめぇらをおいては来れねぇと言った。
だからまとめて招待したいが、いいか?」
唐突にそういう男の黒鋼に、オレたちは戸惑ってしまう。
「特に姫には楽しい夕食になるだろうな」
女の黒鋼がそういう。
サクラちゃんは首をかしげた。
「うちのシェフの腕は自慢じゃねぇがなかなかだ。
どうだ?」
彼の真赤な目がオレをじっと見つめる。
彼女とそっくりな瞳の男に見つめられるは、会ったことがある気がするという以上に、どうも気が変になる。
「……いいかな?」
オレは目をそらして3人に尋ねた。
「はい」
「なんだか楽しみ!」
「そうね」
男の黒鋼はくっくと小さく笑いを漏らして、準備ができたら声をかけるようにと言って部屋から出て行った。
「……お前っ!!」
目を見開く女の黒鋼。
男の黒鋼がそういうことか、と呟いた理由がようやくわかった。
この世界のオレと同じ魂を持つ人はーー女なのだ。
「本当だね、黒りん。
女の子なんだー」
話し方はそっくりなのに、声はきれいなソプラノ。
長い金髪がふわりと風に乗る。
昔から女の子だったらどんなに可愛いだろうと言われたけれど、それが目の前にいる。
まるでオレ達とは正反対だーー面白いほどに。
「それから、私が男の人、ね……
なんだか不思議」
くすりと笑う姿は、やはりオレだ。
根本的な、魂がオレなのだ。
「本当にね」
オレもつられて笑った。
その二人の後ろから登場した少女に、サクラちゃんが目を見開き、呼んだ。
「知世ちゃん!?」
この世界にもいたらしい。
黒鋼がさっき、サクラちゃんに楽しいだろうといった理由が分かった。
(きっと黒鋼にとっても楽しいんだろうけれど)
「お嬢」
「知世お嬢様」
男の黒鋼と女のオレが道をあける。
「はじめまして。
私はトモヨ・ダイドウジ。
お話には伺っていましたが……」
知世ちゃんはオレと黒鋼を交互に見、それから。
オレ達の間を通り越して。
「本当にかわいらしいお嬢さんですこと!
お名前は?」
と言ってサクラちゃんの手を取った。
どこの知世ちゃんもこんな感じなのかな、と思う。
「さ、サクラです」
最近は暗い表情がほとんどだったサクラちゃんだけど、久しぶりに戸惑いながらも笑顔を浮かべている。
でもピッフル国のことを思い出しているのだろう。
「サクラちゃん、とお呼びしてもいいでしょうか?」
「もちろん。
私もトモヨちゃんってよんでもいい?」
「もちろんですわ!」
初めて会ったようには見えない二人。
そして2度目に思える光景。
どうやらこの世界でも、トモヨちゃんはなかなか凄腕のお嬢様であることは、この雰囲気から分かる。
トモヨちゃんはサクラちゃんの手を引いて夕食の席へと座らせた。
オレたちも男の黒鋼や女のオレに従って席に着く。
知世ちゃんはサクラちゃんの隣に腰かけ、オレ達を見回していった。
「ようこそ、ダイドウジ家の晩餐会へ。
シェフが腕によりをかけて作りましたの。
どうぞ楽しんでいってくださいな」
