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先の試合で刃こぼれがしたものだから、武器を売っている店に寄った帰りだった。
つけられていることに店を出てすぐに気がついた。
気配は消し切れていないが、素人ではない。
数は5人。
この国の武器はよく作られている。
光で敵を焼いたり、自由に動く虫に毒を仕込んだり、電撃を発したり。
だから、たとえ気配を敵に探られてしまうような輩でも軽視するのは危険だ。
家までつけられては困る。
(見張っていたやつらだろうか。)
そんなことを考えながら、まるで目的地をしっかり分かっているかのように歩いて見せる。
本当は家からはどんどん離れた知らない土地を歩いているのだが。
人気自体は少なくなっているのに、敵の数は徐々に増えている。
これはどう考えてもまずい。
逃げ切ることも難しいだろう。
俺が覚悟を決めてしばらくしたころ、ようやく求めていた地形に出会った。
袋小路だ。
袋小路は簡単に敵に追い詰められてしまうため、本来は避けるべきである。
しかし、自分のほうが敵よりも確実に強いときと、死んででも相手を仕留める覚悟があるときとは別。
ここに入った瞬間、背後から何かが飛びかかる気配がして、俺は左に体を揺らす。
飛んでいく虫を抜刀と同時に攻撃する。
峰で鋭く衝撃を与えたため、粉々に砕け散った。
振り返りざまに襲いかかってきた男を蹴り飛ばす。
そして峰打ちでもう一人気を失わせる。
建物の上のほうから光線が降り注ぎ、肩を焼いた。
痛みとともに嫌なにおいがする。
どうやら相手は本気で殺そうとしているらしい。
俺は脚を踏み込み、刀に力を込める。
チリチリと、刀が電光を帯びる。
「閃竜・飛光撃!」
一撃で数人が吹き飛んだ。
建物の上から光線を放った者も吹き飛ばせた。
そのかわり、昨日の背中の傷も開いたようだが。
壁の際から覗いた銃口に、俺は足元に倒れている男の刀を拾い上げて飛び出す。
振り向きながら壁際の男に向かって勢いよく投げれば、肩に深く刺さった。
もう銃は持てないだろう。
左前方から襲いかかる斧状の武器を避け、大きく袈裟がけに切る。
さらに振り向きざまに足を蹴り飛ばし、倒れたところを腹に刀を立てた。
男は断末魔かと思う叫びをあげたが、これは死ぬような傷ではない。
次の瞬間、足と腰に巻きつく鞭状の武器がギリギリと肌を傷つける痛みに目を細める。
その先にいる男の笑みをにらみ、縄の一部をつかむ。
手に食い込む刃の痛みを気にしている場合ではない。
「っはぁッ!!」
手繰り寄せるように勢いよく引き、男の肘を砕く。
そして手に持ったままの武器を振りまわして投げ、後方で逃げようと走り出した男をとらえる。
これで全員しとめたはずだ。
あとはこの地域の警察か何かがなんとかしてくれるだろう。
俺は刀の血を拭った。
面倒事に巻き込まれないために一刻も早くこの場所から離れようと、建物の屋上へと駆け上がる。
一応あたりを確認したが、他に敵らしきものは見当たらない。
雨が降り始めた。
俺の血痕も、これで洗い流されるはずだ。
ひとつ溜息をついてから屋根伝いに逃げる。
傷がズキズキと痛むが、そんなことよりも、早く帰らねばならない。
待つ人達の、もとへ。
しかしある屋上で、俺は膝をついた。
眩暈がひどいし呼吸も荒い。
少し血を流しすぎたのと、刃に毒が塗ってあった可能性がある。
(だめだ、俺が帰らなければ・・・。)
青年は死ぬ。
守るものもいなくなる。
チェスに出られない。
雨が体を伝う。
熱が奪われ、血がコンクリートに赤く広がる。
(だめだ、誰かに見つかる・・・。)
それでも耐えきれなくて、俺は意識を手放した。
「おい。」
俺は目を見開き跳び起きた。
枕元の銀龍に手を伸ばすが、そこに思っていたものはなく、とりあえず防御の姿勢を取る。
そこでようやく、自分が旅をしていて、ここは日本ではなくインフィニティ国であることを思い出した。
そこは物がほとんど置いていない、誰の部屋か見間違えそうなほど、殺風景な部屋だった。
だがその部屋の作りや配置から、持ち主に強い親近感を抱く。
そして正面の壁には、今は亡き父にそっくりな男が腕を組んでもたれていた。
「・・・父上、ではないな?」
慎重に問いかける。
真っ赤な燃えるような目は、どこまでも父に似ていた。
だからだろうか。
俺にはその返答は、分かっていた。
「ああ。
この世界のお前だ。」
紅い瞳が交差する。
俺と、もう一人の俺。
いくらか年上で、きっとこの世界でいろんなことを学んだ俺。
だれかを守るために強くなった俺。
しかし、今まで出会ってきた別の世界に居る同じ魂同士の人達とは決定的に違うことがある。
「お前・・・女か?」
「ふざけんな。」
「悪い、分かっている。」
相手はため息をついた。
「俺も納得がいかねぇ。
お譲が言っていた別の世界の俺が、まさか女だとはな。」
彼の言う“お譲”が誰か、俺には分かる気がした。
「何故助けた。
捨て置くだろ、俺なら。」
「ああ。
だが、それを放っておけない奴がいるだろ。」
それが“お譲”のことだとは、言われなくても分かった。
この世界にも、知世がいる。
俺は体制を崩して壁にもたれかかる。
だが、俺の知世は、ここにもいない。
それは当り前のことだった。
当り前のことだけれど、今の俺にはどこか、空しいものだった。
「夜ここに向かうと言っていた。
お前と話をしてみたいと。」
何を話したいのだろう、と思う。
あのピッフル国の知世のように、日本国の知世と夢であったとでも言うのだろうか。
「俺はどのくらい寝ていたのだろうか。」
「治療をしてからは3時間ほどだ。」
そう言えば傷には新しい包帯が巻かれ、毒も消されているようだ。
懐中時計を投げてよこされる。
もう家を出てから5時間もたっていた。
心配していることだろう。
知世には会ってみたい。
だが。
「・・・仲間が待っている。」
「連絡するか?」
ふと、先日の白饅頭の言葉を思いだす。
ー黒鋼が起きていてくれると、安心して寝ていられるよ、みんな。ー
「いや、暗くなるまでに帰る。」
男はひとつ頷いた。
「送る。」
「必要ない。」
「俺がお嬢に怒られんだ。」
俺も過去に何度か行ったことのある台詞だったから、思わず頬が緩んだ。
「・・・分かった。」
その時部屋の扉がノックされた。
「洋服が仕上がりました。」
「ああ。」
男が部屋の入り口で黒い服を受け取った。
それは俺が来ていたものらしい。
「洗濯、乾燥、それから修繕済みだ。」
「・・・かたじけない。」
投げてよこされたそれを広げてみる。
確かに切り裂かれた場所はすべてきれいに縫い合わされていた。
これは助かる。
「出ているから着替えておけ。
しばらくしたら戻る。」
「ああ。
ありがとう。」
つけられていることに店を出てすぐに気がついた。
気配は消し切れていないが、素人ではない。
数は5人。
この国の武器はよく作られている。
光で敵を焼いたり、自由に動く虫に毒を仕込んだり、電撃を発したり。
だから、たとえ気配を敵に探られてしまうような輩でも軽視するのは危険だ。
家までつけられては困る。
(見張っていたやつらだろうか。)
そんなことを考えながら、まるで目的地をしっかり分かっているかのように歩いて見せる。
本当は家からはどんどん離れた知らない土地を歩いているのだが。
人気自体は少なくなっているのに、敵の数は徐々に増えている。
これはどう考えてもまずい。
逃げ切ることも難しいだろう。
俺が覚悟を決めてしばらくしたころ、ようやく求めていた地形に出会った。
袋小路だ。
袋小路は簡単に敵に追い詰められてしまうため、本来は避けるべきである。
しかし、自分のほうが敵よりも確実に強いときと、死んででも相手を仕留める覚悟があるときとは別。
ここに入った瞬間、背後から何かが飛びかかる気配がして、俺は左に体を揺らす。
飛んでいく虫を抜刀と同時に攻撃する。
峰で鋭く衝撃を与えたため、粉々に砕け散った。
振り返りざまに襲いかかってきた男を蹴り飛ばす。
そして峰打ちでもう一人気を失わせる。
建物の上のほうから光線が降り注ぎ、肩を焼いた。
痛みとともに嫌なにおいがする。
どうやら相手は本気で殺そうとしているらしい。
俺は脚を踏み込み、刀に力を込める。
チリチリと、刀が電光を帯びる。
「閃竜・飛光撃!」
一撃で数人が吹き飛んだ。
建物の上から光線を放った者も吹き飛ばせた。
そのかわり、昨日の背中の傷も開いたようだが。
壁の際から覗いた銃口に、俺は足元に倒れている男の刀を拾い上げて飛び出す。
振り向きながら壁際の男に向かって勢いよく投げれば、肩に深く刺さった。
もう銃は持てないだろう。
左前方から襲いかかる斧状の武器を避け、大きく袈裟がけに切る。
さらに振り向きざまに足を蹴り飛ばし、倒れたところを腹に刀を立てた。
男は断末魔かと思う叫びをあげたが、これは死ぬような傷ではない。
次の瞬間、足と腰に巻きつく鞭状の武器がギリギリと肌を傷つける痛みに目を細める。
その先にいる男の笑みをにらみ、縄の一部をつかむ。
手に食い込む刃の痛みを気にしている場合ではない。
「っはぁッ!!」
手繰り寄せるように勢いよく引き、男の肘を砕く。
そして手に持ったままの武器を振りまわして投げ、後方で逃げようと走り出した男をとらえる。
これで全員しとめたはずだ。
あとはこの地域の警察か何かがなんとかしてくれるだろう。
俺は刀の血を拭った。
面倒事に巻き込まれないために一刻も早くこの場所から離れようと、建物の屋上へと駆け上がる。
一応あたりを確認したが、他に敵らしきものは見当たらない。
雨が降り始めた。
俺の血痕も、これで洗い流されるはずだ。
ひとつ溜息をついてから屋根伝いに逃げる。
傷がズキズキと痛むが、そんなことよりも、早く帰らねばならない。
待つ人達の、もとへ。
しかしある屋上で、俺は膝をついた。
眩暈がひどいし呼吸も荒い。
少し血を流しすぎたのと、刃に毒が塗ってあった可能性がある。
(だめだ、俺が帰らなければ・・・。)
青年は死ぬ。
守るものもいなくなる。
チェスに出られない。
雨が体を伝う。
熱が奪われ、血がコンクリートに赤く広がる。
(だめだ、誰かに見つかる・・・。)
それでも耐えきれなくて、俺は意識を手放した。
「おい。」
俺は目を見開き跳び起きた。
枕元の銀龍に手を伸ばすが、そこに思っていたものはなく、とりあえず防御の姿勢を取る。
そこでようやく、自分が旅をしていて、ここは日本ではなくインフィニティ国であることを思い出した。
そこは物がほとんど置いていない、誰の部屋か見間違えそうなほど、殺風景な部屋だった。
だがその部屋の作りや配置から、持ち主に強い親近感を抱く。
そして正面の壁には、今は亡き父にそっくりな男が腕を組んでもたれていた。
「・・・父上、ではないな?」
慎重に問いかける。
真っ赤な燃えるような目は、どこまでも父に似ていた。
だからだろうか。
俺にはその返答は、分かっていた。
「ああ。
この世界のお前だ。」
紅い瞳が交差する。
俺と、もう一人の俺。
いくらか年上で、きっとこの世界でいろんなことを学んだ俺。
だれかを守るために強くなった俺。
しかし、今まで出会ってきた別の世界に居る同じ魂同士の人達とは決定的に違うことがある。
「お前・・・女か?」
「ふざけんな。」
「悪い、分かっている。」
相手はため息をついた。
「俺も納得がいかねぇ。
お譲が言っていた別の世界の俺が、まさか女だとはな。」
彼の言う“お譲”が誰か、俺には分かる気がした。
「何故助けた。
捨て置くだろ、俺なら。」
「ああ。
だが、それを放っておけない奴がいるだろ。」
それが“お譲”のことだとは、言われなくても分かった。
この世界にも、知世がいる。
俺は体制を崩して壁にもたれかかる。
だが、俺の知世は、ここにもいない。
それは当り前のことだった。
当り前のことだけれど、今の俺にはどこか、空しいものだった。
「夜ここに向かうと言っていた。
お前と話をしてみたいと。」
何を話したいのだろう、と思う。
あのピッフル国の知世のように、日本国の知世と夢であったとでも言うのだろうか。
「俺はどのくらい寝ていたのだろうか。」
「治療をしてからは3時間ほどだ。」
そう言えば傷には新しい包帯が巻かれ、毒も消されているようだ。
懐中時計を投げてよこされる。
もう家を出てから5時間もたっていた。
心配していることだろう。
知世には会ってみたい。
だが。
「・・・仲間が待っている。」
「連絡するか?」
ふと、先日の白饅頭の言葉を思いだす。
ー黒鋼が起きていてくれると、安心して寝ていられるよ、みんな。ー
「いや、暗くなるまでに帰る。」
男はひとつ頷いた。
「送る。」
「必要ない。」
「俺がお嬢に怒られんだ。」
俺も過去に何度か行ったことのある台詞だったから、思わず頬が緩んだ。
「・・・分かった。」
その時部屋の扉がノックされた。
「洋服が仕上がりました。」
「ああ。」
男が部屋の入り口で黒い服を受け取った。
それは俺が来ていたものらしい。
「洗濯、乾燥、それから修繕済みだ。」
「・・・かたじけない。」
投げてよこされたそれを広げてみる。
確かに切り裂かれた場所はすべてきれいに縫い合わされていた。
これは助かる。
「出ているから着替えておけ。
しばらくしたら戻る。」
「ああ。
ありがとう。」