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目が覚めた。
なんだか深く穏やかな夢を見ていた気がする。
そして、何があったのか、ぼんやり思い出していく。
自分の体が変わってしまったこと。
なにより、自分が生きていると言うこと。
(黒鋼・・・。)
彼女に近づきすぎたのだ。
ニックネームで呼ぶのが楽しかった。
不思議と彼女といると安心できた。
嫌いじゃなかった、ただそれだけだったのに。
(こんな結果になった。)
誰も傷つけたくないと言いながら、オレは彼女たちの温もりに甘んじていたのだ。
「ファイ・・・。」
小さな呼びかけが足元から聞こえ、オレは目を細めた。
「モコナ、ごめんねー。」
魔女さんと通信をつないでもらう。
現れた彼女は、ひどく暗い表情をしていた。
だからオレは笑って見せた。
「オレ、気づかなかったんです。
自分で引いた線を越えていたことに。
オレが生きることを選んだ彼女を、許しちゃいけないんです。
許せばまた、近づくことになる。」
「今回は貴方がいたせいではないわ。」
「それでも、もう誰も不幸にしたくないんです。」
魔女さんは一つため息をついて、じっとオレをみた。
「貴方にももう分かるでしょう。
貴方はもう、黒鋼にとっても、あの子たちのとっても、通り過ぎていくだけの人じゃないの。」
そうであってほしいと願い、そうであってほしくないと思う。
砕けてしまったオレたちには、互いの存在の喪失はあまりに痛い。
「・・・サクラちゃんはまだ上で眠っているんですか。」
「いいえ、外よ。
対価を取りに行ったわ。」
その言葉にオレは駆けだす。
「ファイ!!」
モコナが追いかけてきたが、振り返ることはなかった。
拳を握りしめていた。
返答次第によっては、彼女を殴るためだとふと気付き、そんな自分が嫌になる。
彼女を殴り、蹴り、爪を立て、傷を抉った。
これ以上、傷つけるのかと。
本当に、オレは彼女を何だと思っているのか、と。
ー心配するな。
俺が守る。ー
優しい声だと思った。
そしてその時に聞こえた子どもの声。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
自分を守ると言ってくれた人がいたとは、それを忘れているとは、不思議だった。
今でもそれが誰だったのか思い出せない。
でも、今はそれを考えている場合じゃない。
オレを守ると言った彼女は、いったい、いったいなぜ。
外に駆けだせば、降りしきる雨の中に小狼君がいた。
てっきり黒鋼も一緒だと思っていたから、拍子抜けてしまう。
「黒鋼は・・・?」
小狼君は俯いた。
「黒鋼さんは、姫と一緒に対価を取りに行きました。」
握りしめられた手は、なぜ自分ではなく彼女が、と言う思いを語る。
それはやはりオレも一緒で。
「なんでっ」
「黒鋼さんが武器も持たずに一緒に行くことが、対価になるそうです。」
ありえない言葉に耳を疑う。
「どういうこと?」
「分かりません。
ただ姫が対価となる物を取るだけでは足りないそうです。」
何が起こるのか予想できない。
どれほどの痛みが待っているのか、分からない。
そんな中に2人は行った。
だから彼もこうしてずっと外で待っているのだ。
無事であることを祈るしかできないけれど、きっと無事であるはずがないと、勘が訴えていた。
「行くんですか・・・?」
進み始める足を、声が呼びとめた。
「心配ですか。」
だれが、とは言わなかった。
「武器がない黒鋼が一緒じゃね。」
再び歩きだすオレを、小狼君は見つめ、そして。
「待ってください。」
今度こそ止めた。
「貴方が姫を助けに行って傷つけば、身体の何倍も心が傷つく。
貴方が姫を傷つけたくないように。」
あの子とは違う、でも同じ声が、鼓膜を打つ。
そして、その言葉はどこまでも。
「本当に同じなんだね、君達は。」
オレは俯いた。
一見何も変わってはいない。
なのに、彼は別人なのだ。
こんなににも、考え方さえも同じだと言うのに。
オレ達はもう、取り返しがつかないほど、心が離れてしまっていると言うのに。
「あれ、サクラだ!」
モコナの悲鳴にも似た声に、オレは駆けだす。
見えた小さい影はだんだんと大きくなってくる。
間違いない。
「サクラちゃんッ!」
倒れ込むその子を抱き起こす。
だめだ、このままじゃサクラちゃんが雨で焼けてしまう。
傷もひどい。
足を引きずっていた。
血の匂いも濃い。
(いったい、この小さな体にどれほどの傷を、心の痛みを・・・)
ふと震えるオレの手に、ひやりとした感覚が走る。
それがサクラちゃんの手だと言うことに気づき、オレは悲しくなった。
柔らかく白く温かな彼女の手はそこにはない。
血だらけの冷たい手だった。
それでもそれが、今を生きる彼女の手だった。
「黒鋼さんがっ!」
彼女の絞り出すような声に、オレは体をこわばらせた。
「・・・死んじゃうっ・・・」
これが対価だと、分かった。
サクラちゃんが苦しむことが、対価だと。
あれほど優しく笑っていた彼女が、己の無力さを突きつけられ、心を引き裂かれることこそ、対価なのだと。
「魔女さん、対価はもう充分ですか。」
振り返ることなく問いかける。
モコナの額から現れたであろう魔女さんは静かに言った。
「ええ。」
オレはサクラちゃんを抱えて立ち上がる。
「小狼君、颯姫ちゃんに頼んでサクラちゃんを治療してもらって。」
「はい。」
「待ってください、早く行かないと!」
腕の中でサクラちゃんがなけなしの力で暴れる。
「大丈夫、黒鋼は頑丈にできているから、多少のことじゃ死なないよ。」
彼女はそういう人だ。
ましてや今はオレの命を背負っている。
啖呵を切った手前、死ねるはずがないのだ。
「足跡たどれば分かるから大丈夫。
サクラちゃんは今は治療に専念してね。」
冷たくなった腕の中の温もりに、安心させるように笑いかける。
しかしその言葉に何を思ったのか、サクラちゃんはしゅんと小さくなった。
「ファイさんが辛いときに何もできなくてごめんなさい。」
彼女は聞いたのだろう。
オレが吸血鬼になったことも、黒鋼の血をもらったことも。
「今もきっと、私よりもずっと貴方の方が辛い。」
その言葉に、オレは思わず目を見開いた。
「それでも、貴方が生きていてくれてよかった。」
足を止め、至近距離の瞳を見つめる。
疲れきっているはずなのに、微かに優しく細められたそれに、オレは唇をかんだ。
「ごめんなさい・・・。」
それを言うべきはオレの方なのに、オレは何も言うことができず、ただただサクラちゃんを抱きしめた。
なんだか深く穏やかな夢を見ていた気がする。
そして、何があったのか、ぼんやり思い出していく。
自分の体が変わってしまったこと。
なにより、自分が生きていると言うこと。
(黒鋼・・・。)
彼女に近づきすぎたのだ。
ニックネームで呼ぶのが楽しかった。
不思議と彼女といると安心できた。
嫌いじゃなかった、ただそれだけだったのに。
(こんな結果になった。)
誰も傷つけたくないと言いながら、オレは彼女たちの温もりに甘んじていたのだ。
「ファイ・・・。」
小さな呼びかけが足元から聞こえ、オレは目を細めた。
「モコナ、ごめんねー。」
魔女さんと通信をつないでもらう。
現れた彼女は、ひどく暗い表情をしていた。
だからオレは笑って見せた。
「オレ、気づかなかったんです。
自分で引いた線を越えていたことに。
オレが生きることを選んだ彼女を、許しちゃいけないんです。
許せばまた、近づくことになる。」
「今回は貴方がいたせいではないわ。」
「それでも、もう誰も不幸にしたくないんです。」
魔女さんは一つため息をついて、じっとオレをみた。
「貴方にももう分かるでしょう。
貴方はもう、黒鋼にとっても、あの子たちのとっても、通り過ぎていくだけの人じゃないの。」
そうであってほしいと願い、そうであってほしくないと思う。
砕けてしまったオレたちには、互いの存在の喪失はあまりに痛い。
「・・・サクラちゃんはまだ上で眠っているんですか。」
「いいえ、外よ。
対価を取りに行ったわ。」
その言葉にオレは駆けだす。
「ファイ!!」
モコナが追いかけてきたが、振り返ることはなかった。
拳を握りしめていた。
返答次第によっては、彼女を殴るためだとふと気付き、そんな自分が嫌になる。
彼女を殴り、蹴り、爪を立て、傷を抉った。
これ以上、傷つけるのかと。
本当に、オレは彼女を何だと思っているのか、と。
ー心配するな。
俺が守る。ー
優しい声だと思った。
そしてその時に聞こえた子どもの声。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
自分を守ると言ってくれた人がいたとは、それを忘れているとは、不思議だった。
今でもそれが誰だったのか思い出せない。
でも、今はそれを考えている場合じゃない。
オレを守ると言った彼女は、いったい、いったいなぜ。
外に駆けだせば、降りしきる雨の中に小狼君がいた。
てっきり黒鋼も一緒だと思っていたから、拍子抜けてしまう。
「黒鋼は・・・?」
小狼君は俯いた。
「黒鋼さんは、姫と一緒に対価を取りに行きました。」
握りしめられた手は、なぜ自分ではなく彼女が、と言う思いを語る。
それはやはりオレも一緒で。
「なんでっ」
「黒鋼さんが武器も持たずに一緒に行くことが、対価になるそうです。」
ありえない言葉に耳を疑う。
「どういうこと?」
「分かりません。
ただ姫が対価となる物を取るだけでは足りないそうです。」
何が起こるのか予想できない。
どれほどの痛みが待っているのか、分からない。
そんな中に2人は行った。
だから彼もこうしてずっと外で待っているのだ。
無事であることを祈るしかできないけれど、きっと無事であるはずがないと、勘が訴えていた。
「行くんですか・・・?」
進み始める足を、声が呼びとめた。
「心配ですか。」
だれが、とは言わなかった。
「武器がない黒鋼が一緒じゃね。」
再び歩きだすオレを、小狼君は見つめ、そして。
「待ってください。」
今度こそ止めた。
「貴方が姫を助けに行って傷つけば、身体の何倍も心が傷つく。
貴方が姫を傷つけたくないように。」
あの子とは違う、でも同じ声が、鼓膜を打つ。
そして、その言葉はどこまでも。
「本当に同じなんだね、君達は。」
オレは俯いた。
一見何も変わってはいない。
なのに、彼は別人なのだ。
こんなににも、考え方さえも同じだと言うのに。
オレ達はもう、取り返しがつかないほど、心が離れてしまっていると言うのに。
「あれ、サクラだ!」
モコナの悲鳴にも似た声に、オレは駆けだす。
見えた小さい影はだんだんと大きくなってくる。
間違いない。
「サクラちゃんッ!」
倒れ込むその子を抱き起こす。
だめだ、このままじゃサクラちゃんが雨で焼けてしまう。
傷もひどい。
足を引きずっていた。
血の匂いも濃い。
(いったい、この小さな体にどれほどの傷を、心の痛みを・・・)
ふと震えるオレの手に、ひやりとした感覚が走る。
それがサクラちゃんの手だと言うことに気づき、オレは悲しくなった。
柔らかく白く温かな彼女の手はそこにはない。
血だらけの冷たい手だった。
それでもそれが、今を生きる彼女の手だった。
「黒鋼さんがっ!」
彼女の絞り出すような声に、オレは体をこわばらせた。
「・・・死んじゃうっ・・・」
これが対価だと、分かった。
サクラちゃんが苦しむことが、対価だと。
あれほど優しく笑っていた彼女が、己の無力さを突きつけられ、心を引き裂かれることこそ、対価なのだと。
「魔女さん、対価はもう充分ですか。」
振り返ることなく問いかける。
モコナの額から現れたであろう魔女さんは静かに言った。
「ええ。」
オレはサクラちゃんを抱えて立ち上がる。
「小狼君、颯姫ちゃんに頼んでサクラちゃんを治療してもらって。」
「はい。」
「待ってください、早く行かないと!」
腕の中でサクラちゃんがなけなしの力で暴れる。
「大丈夫、黒鋼は頑丈にできているから、多少のことじゃ死なないよ。」
彼女はそういう人だ。
ましてや今はオレの命を背負っている。
啖呵を切った手前、死ねるはずがないのだ。
「足跡たどれば分かるから大丈夫。
サクラちゃんは今は治療に専念してね。」
冷たくなった腕の中の温もりに、安心させるように笑いかける。
しかしその言葉に何を思ったのか、サクラちゃんはしゅんと小さくなった。
「ファイさんが辛いときに何もできなくてごめんなさい。」
彼女は聞いたのだろう。
オレが吸血鬼になったことも、黒鋼の血をもらったことも。
「今もきっと、私よりもずっと貴方の方が辛い。」
その言葉に、オレは思わず目を見開いた。
「それでも、貴方が生きていてくれてよかった。」
足を止め、至近距離の瞳を見つめる。
疲れきっているはずなのに、微かに優しく細められたそれに、オレは唇をかんだ。
「ごめんなさい・・・。」
それを言うべきはオレの方なのに、オレは何も言うことができず、ただただサクラちゃんを抱きしめた。