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ようやく唇を解放されたころには、俺の血はだいぶ飲まれてしまったのか、それとも背中の傷を抉られた痛みのせいか、めまいがひどかった。
それでも一瞬だけ、蒼い瞳と目があった。
虚ろでない方の瞳も、ひどく虚ろで、きっと俺を捕えてはいないだろう。
そのまま彼は、瞳を閉じ、身体を横たえた。
それに引きづられるように倒れそうになる俺を、昴流が慌てて支える。
「・・・大丈夫だ。」
その手を離させ、俺は魔女を見る。
俺は迷ってはならない。
戸惑ってはならない。
事実を受け入れ、命を背負うだけだ。
「こいつはこれからどうなる。」
「生きていくために血を餌の血を必要とするわ。
ファイは元々持っていた魔力が大きいから、寿命も大して変わらないでしょうし。」
「そんなことも知らずに餌になることを承知したのか。
お前に有利かもわからないのに。」
驚く神威に、何を言うか、と思う。
「後数瞬遅れていたらこいつは死んでいただろう。
それに魔女が何を考えていようが、あれが信用してあの女に助けを求めたんだ。
俺はあれを信じる。」
ただ、それだけなのだ。
己で判断できなければ、仲間を信じる。
白饅頭はどこまでも俺達と一緒だ。
どこかの馬鹿達のように、離れていくことはない。
頼りになる仲間だ。
「黒鋼・・・。」
嬉しそうに微笑む頭をぽんぽん、と叩く。
「ありがと・・・
ファイに血をくれて。」
モコナが神威に抱きつく。
神威の方は少し驚いたように目を丸くしている。
「ごめんねファイ。
ファイきっと優しいからきっとこれからもっと辛い。
でもね、やっぱり死んじゃったらやだよ・・・。」
そう言ってくれる者が今ここに一人でもいることが、俺を支える。
小狼が今までつけていた眼帯を俺に差し出した。
頷いてそれを受け取り、青年につけてやる。
「左目が戻らなくても、この子には貴方の血を飲まないという選択肢もある。
これからも笑っているからと言ってその子が納得したとは思わないことね。」
追い打ちをかけるかのようにも聞こえるが、今それを知って覚悟しなければならないのだ。
「分かっている。」
青年のひねくれた性格も、張り付けた笑顔も、ずいぶん見てきた。
金色の髪を、できるだけそっと梳く。
これから背負わせる苦しみを、少しでも凪げるように。
「聞きたいことはまだあるが、まずは地下の水だな。
お前も来い、姫もだ。」
不安そうな顔をしている小狼に声をかけ、青年を抱きかかえようとしてめまいにベットに手をつく。
深呼吸をして落ち着け、再び目を開いた。
それでもめまいがひどい。
「黒鋼!」
白饅頭が不安そうに駆け寄ってくる。
(だめだ、俺が・・・。)
「顔色が悪いです、無理しない方が・・・。」
昴流の言葉に、首を振る。
「大したことない。」
そう、このくらい大したことはない。
きっとこれから、もっと苦しみが続く。
彼の魔力が生きるということは、少年の力が強大なまま在るということ。
旅は過酷になるだろう。
青年も、少年も、姫も、白饅頭も、そして、小狼も、きっと苦しくてたまらない。
ここまでの決断をしたのは俺だ。
守ると決めたのも、青年に言い聞かせたのも。
だからここでくたばっていられない。
青年を抱き上げる。
一緒に行くんだ、ずっと、ずっと。
「行こう。」
見た目よりも重たい体は、確実に彼がここに居ることを教えてくれる。
白い肌から想像するよりも温かい体は、俺に温もりを与えてくれる。
白饅頭が頷く。
姫を抱きかかえた少年も、頷く。
俺がつなぐ、つなぎ直して、みせる。
あの日の約束の通り、守り通して見せる。
「なんだかすごく揺れたみたいだけど、水は大丈夫なのかな。」
子どもが問う。
こちらを見た草薙を睨む。
「ああ、大丈夫だ。」
不意にモーター音が響いた。
慌てて外に向かうと、タワーの連中が集まっている。
バイクを降りてきた封真の手には、姫の羽根があった。
話はこうだ。
タワーの水がじきに無くなるらしい。
そして都庁からは羽根が消えた。
羽根がなければ、酸性雨から建物は守れない。
両者が協力するのが一番いい案だと言うことは、誰の目にも明らかだった。
そう、俺達を覗いて。
「それサクラの羽根なの!」
白饅頭が叫ぶ。
「それを探すためにみんなで旅をしているの!
今は一人いないけど・・・だから」
「まって。」
静かな姫の声がした。
目を覚ましてしまったのか、と思う。
対価を払ってから目を覚ましてほしかった。
この子なら、自分が払うと言いかねないから。
支える小狼と、姫の目があう。
「大丈夫です。」
そして、ふいっとそらされる。
どうしてこんなにも2人は辛そうなのだ。
どうして、どうして、こんなことになった。
「その羽はそのまま、この国に。」
「サクラの記憶が戻らないよ!」
「それでもいいの。」
一体、彼女の中でなにが変わったのだろう。
タワーの連中も含め、地下に降りる。
その降りていく姫の顔を横目で盗み見るが、やはり表情が変わってしまったと思う。
戻った羽根で、一体何を思い出したと言うのだろう。
彼女の表情を、これほどまでに変えてしまう過去とは、何なのだろう。
魔女の指示に従い、モコナの口から出てきた瓶から地下がいっぱいの水を出した。
これでこちらの願いはすべて叶った。
後は。
「さて、水の対価ね。」
魔女の言葉に、俺は頷いた。
「やってほしいことがあるの。」
「それはおれが」
「私がやります。」
言ってほしくなかった。
そんな言葉は聞きたくなかった。
これ以上、誰かが傷つく姿を見ていると、俺が死んでしまいそうだったから。
俺は目を閉じて、心を落ち着ける。
魔女の同情するかのような視線が、辛かった。
振り返ると、決心した姫がいた。
「私はこの国でずっと眠っていて、何もできませんでした。
だから、私がやります。」
断ることはできなかった。
きっとそれは俺と同じように、彼女をまた壊すことにつながると思うから。
しかし、魔女は口を開いた。
「黒鋼、貴方がするのよ。
彼女と共に。」
目を見開いたのは、俺だけではなかった。
「待ってください、黒鋼さんはこれ以上」
「黒鋼だから対価になる。」
魔女の強い瞳が、姫を見つめた。
「黒鋼は、ファイの命をつなぐ方法を求め、神威に血を与えられ、水を私に頼んだ。
間接的にこの水の対価は、ファイの延命を含んでいる。
つまり、その対価は重い。
貴方だけで払いきれるものではないわ。」
辛そうに目をそむけるようすが居たたまれない。
「いこう。」
俺はそう言って魔女を見上げる。
「俺が頼んだ願いだ。
当然だ。」
姫の細い肩に手を置くと、小さく震えていた。
これ以上苦しめたくないのに、苦しんでいるこの細い肩が愛おしく、俺は静かに目を閉じた。
それでも一瞬だけ、蒼い瞳と目があった。
虚ろでない方の瞳も、ひどく虚ろで、きっと俺を捕えてはいないだろう。
そのまま彼は、瞳を閉じ、身体を横たえた。
それに引きづられるように倒れそうになる俺を、昴流が慌てて支える。
「・・・大丈夫だ。」
その手を離させ、俺は魔女を見る。
俺は迷ってはならない。
戸惑ってはならない。
事実を受け入れ、命を背負うだけだ。
「こいつはこれからどうなる。」
「生きていくために血を餌の血を必要とするわ。
ファイは元々持っていた魔力が大きいから、寿命も大して変わらないでしょうし。」
「そんなことも知らずに餌になることを承知したのか。
お前に有利かもわからないのに。」
驚く神威に、何を言うか、と思う。
「後数瞬遅れていたらこいつは死んでいただろう。
それに魔女が何を考えていようが、あれが信用してあの女に助けを求めたんだ。
俺はあれを信じる。」
ただ、それだけなのだ。
己で判断できなければ、仲間を信じる。
白饅頭はどこまでも俺達と一緒だ。
どこかの馬鹿達のように、離れていくことはない。
頼りになる仲間だ。
「黒鋼・・・。」
嬉しそうに微笑む頭をぽんぽん、と叩く。
「ありがと・・・
ファイに血をくれて。」
モコナが神威に抱きつく。
神威の方は少し驚いたように目を丸くしている。
「ごめんねファイ。
ファイきっと優しいからきっとこれからもっと辛い。
でもね、やっぱり死んじゃったらやだよ・・・。」
そう言ってくれる者が今ここに一人でもいることが、俺を支える。
小狼が今までつけていた眼帯を俺に差し出した。
頷いてそれを受け取り、青年につけてやる。
「左目が戻らなくても、この子には貴方の血を飲まないという選択肢もある。
これからも笑っているからと言ってその子が納得したとは思わないことね。」
追い打ちをかけるかのようにも聞こえるが、今それを知って覚悟しなければならないのだ。
「分かっている。」
青年のひねくれた性格も、張り付けた笑顔も、ずいぶん見てきた。
金色の髪を、できるだけそっと梳く。
これから背負わせる苦しみを、少しでも凪げるように。
「聞きたいことはまだあるが、まずは地下の水だな。
お前も来い、姫もだ。」
不安そうな顔をしている小狼に声をかけ、青年を抱きかかえようとしてめまいにベットに手をつく。
深呼吸をして落ち着け、再び目を開いた。
それでもめまいがひどい。
「黒鋼!」
白饅頭が不安そうに駆け寄ってくる。
(だめだ、俺が・・・。)
「顔色が悪いです、無理しない方が・・・。」
昴流の言葉に、首を振る。
「大したことない。」
そう、このくらい大したことはない。
きっとこれから、もっと苦しみが続く。
彼の魔力が生きるということは、少年の力が強大なまま在るということ。
旅は過酷になるだろう。
青年も、少年も、姫も、白饅頭も、そして、小狼も、きっと苦しくてたまらない。
ここまでの決断をしたのは俺だ。
守ると決めたのも、青年に言い聞かせたのも。
だからここでくたばっていられない。
青年を抱き上げる。
一緒に行くんだ、ずっと、ずっと。
「行こう。」
見た目よりも重たい体は、確実に彼がここに居ることを教えてくれる。
白い肌から想像するよりも温かい体は、俺に温もりを与えてくれる。
白饅頭が頷く。
姫を抱きかかえた少年も、頷く。
俺がつなぐ、つなぎ直して、みせる。
あの日の約束の通り、守り通して見せる。
「なんだかすごく揺れたみたいだけど、水は大丈夫なのかな。」
子どもが問う。
こちらを見た草薙を睨む。
「ああ、大丈夫だ。」
不意にモーター音が響いた。
慌てて外に向かうと、タワーの連中が集まっている。
バイクを降りてきた封真の手には、姫の羽根があった。
話はこうだ。
タワーの水がじきに無くなるらしい。
そして都庁からは羽根が消えた。
羽根がなければ、酸性雨から建物は守れない。
両者が協力するのが一番いい案だと言うことは、誰の目にも明らかだった。
そう、俺達を覗いて。
「それサクラの羽根なの!」
白饅頭が叫ぶ。
「それを探すためにみんなで旅をしているの!
今は一人いないけど・・・だから」
「まって。」
静かな姫の声がした。
目を覚ましてしまったのか、と思う。
対価を払ってから目を覚ましてほしかった。
この子なら、自分が払うと言いかねないから。
支える小狼と、姫の目があう。
「大丈夫です。」
そして、ふいっとそらされる。
どうしてこんなにも2人は辛そうなのだ。
どうして、どうして、こんなことになった。
「その羽はそのまま、この国に。」
「サクラの記憶が戻らないよ!」
「それでもいいの。」
一体、彼女の中でなにが変わったのだろう。
タワーの連中も含め、地下に降りる。
その降りていく姫の顔を横目で盗み見るが、やはり表情が変わってしまったと思う。
戻った羽根で、一体何を思い出したと言うのだろう。
彼女の表情を、これほどまでに変えてしまう過去とは、何なのだろう。
魔女の指示に従い、モコナの口から出てきた瓶から地下がいっぱいの水を出した。
これでこちらの願いはすべて叶った。
後は。
「さて、水の対価ね。」
魔女の言葉に、俺は頷いた。
「やってほしいことがあるの。」
「それはおれが」
「私がやります。」
言ってほしくなかった。
そんな言葉は聞きたくなかった。
これ以上、誰かが傷つく姿を見ていると、俺が死んでしまいそうだったから。
俺は目を閉じて、心を落ち着ける。
魔女の同情するかのような視線が、辛かった。
振り返ると、決心した姫がいた。
「私はこの国でずっと眠っていて、何もできませんでした。
だから、私がやります。」
断ることはできなかった。
きっとそれは俺と同じように、彼女をまた壊すことにつながると思うから。
しかし、魔女は口を開いた。
「黒鋼、貴方がするのよ。
彼女と共に。」
目を見開いたのは、俺だけではなかった。
「待ってください、黒鋼さんはこれ以上」
「黒鋼だから対価になる。」
魔女の強い瞳が、姫を見つめた。
「黒鋼は、ファイの命をつなぐ方法を求め、神威に血を与えられ、水を私に頼んだ。
間接的にこの水の対価は、ファイの延命を含んでいる。
つまり、その対価は重い。
貴方だけで払いきれるものではないわ。」
辛そうに目をそむけるようすが居たたまれない。
「いこう。」
俺はそう言って魔女を見上げる。
「俺が頼んだ願いだ。
当然だ。」
姫の細い肩に手を置くと、小さく震えていた。
これ以上苦しめたくないのに、苦しんでいるこの細い肩が愛おしく、俺は静かに目を閉じた。