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目が覚めると外はまだ薄暗い。
しかしあまり太陽が顔を見せることのないこの世界では、きっと朝になったことだろう。
朝食の手伝いが何かあればと、部屋を出た。
廊下をしばらく行くと、神威にあった。
相手は俺のことなど着に求めぬ様子で、隣を過ぎていこうとするから、慌てて呼びとめる。
「おい。」
彼は無表情に俺を振り返った。
「なんだ。」
「なにか手伝うことはないか。
朝食の準備や、洗濯や、何か。」
その言葉に、神威の表情がピクリと驚きの色を見せた。
「意外だな。
お前からそんな言葉が出るとは。」
俺はどこか居心地が悪くてマントに顔をうずめ、視線をそらす。
「世話になる身だ。」
「用心棒かと思っていたが、雑用係だったか。」
俺はそれには答えない。
歯に衣着せぬ言い方に、彼は敵も多かろうに、と思う。
敵が多くても気にしないタイプなのだろうが。
「分かった。
ついてこい。」
自分よりもいくらか高い背を追いかける。
連れてこられたのはいい香りの漂う厨房だ。
中の女性達が俺を見る。
「神威くん、なんだいこの子は。」
「昨日から居候してる子。
朝食の手伝いさせて。」
それだけ言うとくるりと背を向けて出ていこうとして、隣ですっと耳に口を近づけた。
「彼女達のパワーはすごいから。」
忠告なのか、面白がっているのか分からない声色だ。
俺の返事は待たず、厨房から出て行く。
「へぇ、名前は?」
「黒鋼です。」
「あんた、綺麗な顔しているわねぇ。」
「あらやだ、ひどい痣。
どうしたの?」
「いえ、用心棒なもので。」
「あらそう、ちょうど良かったわ。
このお肉、ちょっと硬いんだけど切るののお願いできるかしら?」
「マント、邪魔だからそっちにかけておきなさい。」
「分かりました。」
「あんた歳いくつ?」
「昨日来たってことは、あの可愛い女の子と、ぼくちゃんと、金髪の人も一緒なのよねぇ?」
「どこからきたの?」
たしかに、すごい。
おばちゃんパワーと言うべきか、途切れない質問に、話す暇もない。
それでも確実に手は動いて、仕事を進めているのだからすごい。
「こんな感じでいいですか?」
「いいねぇ、ありがとね!
それ鍋に入れてくれる?」
大きな鍋に肉を入れていく。
「台所は女の仕事場だけど、男の子が一人いてくれると、助かるねぇ。」
「また都合がつけばお手伝いしますよ。」
俺は苦笑を洩らした。
この世界は、まだ元気だと思った。
外はあんなに荒れていて、水も限られているけれど、それでも人はまだまだ明るく生きていた。
完成した朝食をもらって部屋に戻る。
青年は洗面に行っているのか、姿は見えなかった。
熱が出ていないか不安になり、俺は少年の額に手を乗せようとして、不意に腕が掴まれる。
掴んだのは、ついさっきまで寝ていたはずの少年だ。
その気配が、いつもとは異なっていて、でも知っているもので、俺は息をのんだ。
「おい。」
唇が震える。
名を呼ぼうかと。
しかし俺が呼ぶよりも先に、少年の口が動いた。
「ずっと待っていた・・・小狼。」
その言葉の違和感に驚く。
恐る恐るその頭に手を伸ばすと、強い力でその手を捕えられてしまう。
これで両手がふさがった。
生気のない瞳がじっと見つめる。
彼は今、一体何を見ているのだろう。
腕を振り払おうにも、予想外に力が強い。
これは投げ飛ばすか蹴りを入れるかして振り払うしかなさそうだ。
(・・・そんなこと。)
俺はじっと相手を観察することしかできない。
冷たい瞳は、何かを探しているように見える。
「サクラちゃん、小狼君、朝だよーって、・・・小狼君?」
部屋に現れた気配。
青年だ。
「・・・どうしたの?」
冷たい声になったのは、俺が少年に何かしたかと思ったのだろう。
近づいてどうやらそうではないと分かったらしい。
青年が慌てて肩を掴む。
「小狼君?」
反応がない。
青年がもう片方の手で俺の手を掴む腕を強く引く。
「小狼君!」
少年は我に返り、青年に引かれていた反動でよろめく。
「え・・・ファイさん?」
そしていつもの温かい目は俺を見上げた。
「黒鋼さん?」
一つため息をついてから、俺はまだ掴まれたままだったもう片方の少年の手をほどき、少女の様子を見に行く。
「ここにいる人がおれ貸してくれて、ここにいるならやってほしいことがあるんだって。
ちょっと大変そうだから休んでいて。」
「いえ、行きます。
羽根のことも分かるかもしれないし。」
「無理しないようにって言っても聞かないよね。
後で説明するよ。
着替えておいで。」
部屋の隅で着替え始める少年。
俺と青年は朝食を並べる。
「あれ、小狼君じゃ・・・」
流石に気になるのか、青年が話しかける。
「ない。」
「さっきが初めて?」
「いや、前にも会った。」
青年はしばらく黙りこむ。
何かを考えているようだ。
「狩り、オレが行くから。」
唐突な言葉に、俺は手を止める。
「お前はここにいろ。」
「関係ないでしょ。」
「おい、」
「あの・・・」
俺が反論しようとしていたところで、後ろから不安げな少年の声がかかった。
「どうしたんですか?」
くるっと青年が少年を振り返る。
「黒様がね、頼まれたお仕事したいんだって。
でもオレがしたいって言っていたの。
たまにはいいよねぇ?」
「お、おれは構いませんが・・・。」
頷いてしまった少年。
「決まり!」
いけすかない青年の張り付けられた笑顔の下で、一体何を考えているのか。
(少年のことを試すつもり・・・か?)
誰も不幸にしたくないと言った青年が、一体何をするつもりなのか。
(任せてみるしか、ない。)
しかしあまり太陽が顔を見せることのないこの世界では、きっと朝になったことだろう。
朝食の手伝いが何かあればと、部屋を出た。
廊下をしばらく行くと、神威にあった。
相手は俺のことなど着に求めぬ様子で、隣を過ぎていこうとするから、慌てて呼びとめる。
「おい。」
彼は無表情に俺を振り返った。
「なんだ。」
「なにか手伝うことはないか。
朝食の準備や、洗濯や、何か。」
その言葉に、神威の表情がピクリと驚きの色を見せた。
「意外だな。
お前からそんな言葉が出るとは。」
俺はどこか居心地が悪くてマントに顔をうずめ、視線をそらす。
「世話になる身だ。」
「用心棒かと思っていたが、雑用係だったか。」
俺はそれには答えない。
歯に衣着せぬ言い方に、彼は敵も多かろうに、と思う。
敵が多くても気にしないタイプなのだろうが。
「分かった。
ついてこい。」
自分よりもいくらか高い背を追いかける。
連れてこられたのはいい香りの漂う厨房だ。
中の女性達が俺を見る。
「神威くん、なんだいこの子は。」
「昨日から居候してる子。
朝食の手伝いさせて。」
それだけ言うとくるりと背を向けて出ていこうとして、隣ですっと耳に口を近づけた。
「彼女達のパワーはすごいから。」
忠告なのか、面白がっているのか分からない声色だ。
俺の返事は待たず、厨房から出て行く。
「へぇ、名前は?」
「黒鋼です。」
「あんた、綺麗な顔しているわねぇ。」
「あらやだ、ひどい痣。
どうしたの?」
「いえ、用心棒なもので。」
「あらそう、ちょうど良かったわ。
このお肉、ちょっと硬いんだけど切るののお願いできるかしら?」
「マント、邪魔だからそっちにかけておきなさい。」
「分かりました。」
「あんた歳いくつ?」
「昨日来たってことは、あの可愛い女の子と、ぼくちゃんと、金髪の人も一緒なのよねぇ?」
「どこからきたの?」
たしかに、すごい。
おばちゃんパワーと言うべきか、途切れない質問に、話す暇もない。
それでも確実に手は動いて、仕事を進めているのだからすごい。
「こんな感じでいいですか?」
「いいねぇ、ありがとね!
それ鍋に入れてくれる?」
大きな鍋に肉を入れていく。
「台所は女の仕事場だけど、男の子が一人いてくれると、助かるねぇ。」
「また都合がつけばお手伝いしますよ。」
俺は苦笑を洩らした。
この世界は、まだ元気だと思った。
外はあんなに荒れていて、水も限られているけれど、それでも人はまだまだ明るく生きていた。
完成した朝食をもらって部屋に戻る。
青年は洗面に行っているのか、姿は見えなかった。
熱が出ていないか不安になり、俺は少年の額に手を乗せようとして、不意に腕が掴まれる。
掴んだのは、ついさっきまで寝ていたはずの少年だ。
その気配が、いつもとは異なっていて、でも知っているもので、俺は息をのんだ。
「おい。」
唇が震える。
名を呼ぼうかと。
しかし俺が呼ぶよりも先に、少年の口が動いた。
「ずっと待っていた・・・小狼。」
その言葉の違和感に驚く。
恐る恐るその頭に手を伸ばすと、強い力でその手を捕えられてしまう。
これで両手がふさがった。
生気のない瞳がじっと見つめる。
彼は今、一体何を見ているのだろう。
腕を振り払おうにも、予想外に力が強い。
これは投げ飛ばすか蹴りを入れるかして振り払うしかなさそうだ。
(・・・そんなこと。)
俺はじっと相手を観察することしかできない。
冷たい瞳は、何かを探しているように見える。
「サクラちゃん、小狼君、朝だよーって、・・・小狼君?」
部屋に現れた気配。
青年だ。
「・・・どうしたの?」
冷たい声になったのは、俺が少年に何かしたかと思ったのだろう。
近づいてどうやらそうではないと分かったらしい。
青年が慌てて肩を掴む。
「小狼君?」
反応がない。
青年がもう片方の手で俺の手を掴む腕を強く引く。
「小狼君!」
少年は我に返り、青年に引かれていた反動でよろめく。
「え・・・ファイさん?」
そしていつもの温かい目は俺を見上げた。
「黒鋼さん?」
一つため息をついてから、俺はまだ掴まれたままだったもう片方の少年の手をほどき、少女の様子を見に行く。
「ここにいる人がおれ貸してくれて、ここにいるならやってほしいことがあるんだって。
ちょっと大変そうだから休んでいて。」
「いえ、行きます。
羽根のことも分かるかもしれないし。」
「無理しないようにって言っても聞かないよね。
後で説明するよ。
着替えておいで。」
部屋の隅で着替え始める少年。
俺と青年は朝食を並べる。
「あれ、小狼君じゃ・・・」
流石に気になるのか、青年が話しかける。
「ない。」
「さっきが初めて?」
「いや、前にも会った。」
青年はしばらく黙りこむ。
何かを考えているようだ。
「狩り、オレが行くから。」
唐突な言葉に、俺は手を止める。
「お前はここにいろ。」
「関係ないでしょ。」
「おい、」
「あの・・・」
俺が反論しようとしていたところで、後ろから不安げな少年の声がかかった。
「どうしたんですか?」
くるっと青年が少年を振り返る。
「黒様がね、頼まれたお仕事したいんだって。
でもオレがしたいって言っていたの。
たまにはいいよねぇ?」
「お、おれは構いませんが・・・。」
頷いてしまった少年。
「決まり!」
いけすかない青年の張り付けられた笑顔の下で、一体何を考えているのか。
(少年のことを試すつもり・・・か?)
誰も不幸にしたくないと言った青年が、一体何をするつもりなのか。
(任せてみるしか、ない。)