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小狼君とサクラちゃんを横たえたベットに腰をおろし、2人を愛おしいものを見るような目で黒りんはずっと見ている。
まるで兄姉か、親のようだ。
しかし彼女は今、打ち身がひどいに違いない。
朝オレが殴って蹴った分と、神威くんの打撃の分。
「寝たら。」
気づいたらそっけない声が、口から出ていた。
それがどこか悔しい。
「お前が寝ろ。
疲れているだろう。」
優しい視線が、すっとオレに向けられた。
どうしてそんな目で見るんだろう。
どうしてそんな、2人を見るのと同じ目で、オレを見続けるんだ。
オレは今朝それを、振り払ったばかりなのに。
「あんなことされた後じゃ、そう簡単に眠りにつくことはできないよ。」
オレがそう言えば、黒様は困ったように笑って見せた。
彼女がこんな顔を見せるなんて、初めてかもしれない。
どうしたんだろう。
彼女はどうしてそんな表情をオレに見せるんだろう。
彼女はその疑問に答えることなく、再び眠ったままの2人に視線を向けた。
小狼君は足の傷のせいで熱が出るかもしれない。
さっきおでこを障ったときはまだ平熱だったけれど、ちょっと心配だ。
サクラちゃんも目を覚ませばきっとこの国の惨状に涙さえ流すだろう。
そう思うと、ずっと眠ったままでいてほしい。
そんなことを、彼女も考えているのだろうかと思うと、胸が苦しくなる。
「あの口笛・・・。」
黒様がぽつりと呟くように言った。
「・・・高麗国で死ぬかもしれないときでもお前は魔力を使わなかった。
言っていたな。
もとにいた国の水底で眠っているやつが目覚めたら追いつかれるかもしれない。
だから逃げなきゃならない。
いろんな世界を。」
「言ったねぇ。」
まったく、よくそんなことを覚えているものだ。
「お前が罪人で追われているのか、それとも別の理由があるのか俺には関係ない。」
「黒様らしいねぇ。」
「いや、きっとこいつらも気にしない。」
黒様の視線の先には、あどけない3つの寝顔。
「お前はへらへらしながら誰も寄せ付けない。
誰とも関わらないことを、望んでいる。
だが、今のお前は少年の熱を気にして、少女がこの国の惨状を知るのを案じている。
それに逃げるために使ったあの魔力。」
彼女は一体何がいいたいんだろう。
「言ったでしょ?
オレは死ねないって。」
「お前は自分で死ねないだけだろう。
だが誰かのせいで死ぬなら別だ。
あのまま何もしなければ、俺達はつかまるか悪くすれば死んでいたかもしれない。
だがお前は自分から魔力を使った。
自分から関わったんだ。
こいつらに。」
紅い瞳が、再びオレを映す。
「お前は、逃れられない。
こいつらからも、俺からも。
お前が自分の命を捨てても使わなかった魔力を、こいつらのために使うのと同じように、」
「オレは・・・」
思わず言葉を遮ってしまった。
昨日より離れているのに、昨日と同じくらい近くに黒様の瞳を感じるのが、怖い。
「オレが関わることで誰も不幸にしたくない。」
「お前は、」
黒様が拳を握り、言葉を切った。
「お前は、生きたくないのか?」
紅い目が、まるですがるようにオレを見た。
どうしてそんなに必死に見るんだろう。
この前も、そうだった。
だからオレは、壊れそうになるんだ。
「ちょっと良いかな。」
「おっともう寝ているか。」
丁度いいタイミングで遊人さんと草薙さんが顔を出した。
「大丈夫、黒様が聞きまーす。」
オレが立ち上がると、黒りんがオレの方に歩いてくる。
当然だ。
オレの向こうに2人がいるんだから。
でも黒りんはオレのとなりでふと足を止めた。
怖くて顔を見ることができない。
魔法を使うこともできない、オレに暴力を振るうとも思えない、オレよりも体の小さな彼女が、今、誰よりも恐ろしいと思った。
「お前の過去は関係ない。
ただ、お前の未来から逃れられないのは、お前だけじゃないことを忘れるな。
俺達もまた、お前のために命をかける。
俺が、お前たちを守る。
だからいい加減、今の自分に腹括れ。」
胸がえぐられる。
壊れてしまいそうになる。
「寝ているなら外で話そう。」
「ああ。」
消えていく黒りん。
壁にふらりと持たれてズルズルと座り込んでしまう。
彼女は、どうしてオレを壊そうとするんだろう。
どうしてオレを、守るだなんて言うんだろう。
今までそんなこと、言われたことなんてないのに。
「あはは、無理だよ。」
守られることに、慣れてなんかいないんだ。
傷つけてばかり、嘘をついてばかりきたから。
だからその言葉は胸を占めて、締め付けて、壊してしまう。
「大嫌いだよ、君なんて。」
遊人と草薙の話はここにいる限り何か仕事を頼まなければならないということだった。
簡単にいえば食料調達だ。
ただし、食料になる獲物は突然変異をくりかえし、獰猛になった生物らしい。
俺が行くから、その点は問題はない。
(もう誰も傷つけさせない。)
ここの戦闘能力を見ていれば、俺一人で5人分働くことなんて簡単だ。
部屋に帰ってくると、少年と少女のベットのふちにもたれるようにして青年が眠っていた。
冷えるのに馬鹿だ。
ベットがもうひとつしかあいていなかったせいだろう。
(もう俺とは寝たくない、か。)
俺は青年を抱き上げる。
疲れているのか、眠りが深い。
あどけない寝顔が、一緒に雑魚寝をした少年を思い出させる。
「ふぁい・・・。」
毛布をかける。
「お前はたくさん練習してちゃんとできるようになったんだな。」
遠いあの日、世界を移動する練習をしていたのだ、彼は。
そしてたまたま俺のもとにきてしまった。
しかし、もう彼は自分で次元の魔女のところに行けるようになった。
それだけの年月が流れたということだ。
頬にかかった髪を避けてやる。
「俺も、ふぁいがびっくりするくらい、強くなれたか?
・・・まだ、だめだな。
安心して頼ってくれないから。」
寝顔は、あのころから何も変わっていないように見える。
「よい夢を。」
「黒鋼?」
小さなささやき声に、起こしてしまったかと振り返る。
少女の横で、白饅頭が目をこすっていた。
「どうした?」
傍に寄っていく。
「・・・黒鋼、今ファイのこと、ふぁいって・・・」
気を抜いてしまった自分を後悔する。
「・・・呼んだな。」
じっと見上げてくる白饅頭。
「ねぇ、黒鋼。
ファイは何ができるようになったの?」
素直な、真っ白なこの子は、真っ直ぐに尋ねてくる。
「ファイがびっくりするくらいって、どういうこと?」
俺は黙っていた。
否、言葉を探していた。
探しても、適切な言葉が見つからなかった。
「もしかして・・・」
白饅頭は首をかしげた。
「この旅に出る前に、ファイに会ったことがあるの?」
俺はひとつため息をついた。
白饅頭は素直だ。
本当に。
俺が頭を突けばえへへ、と笑う。
「ああ。
俺もすっかり忘れていたが 少年は見たんだ。
俺達の過去を。」
「それであんなこと言っていたんだ・・・。」
ー黒鋼さんの過去は、確かにたくさんの血が流れていました。
でも、おれは素敵なものにたくさん出会いました。
だから、もし黒鋼さんがいつかその気になれたら、思い出してみてください。
その方が奥方様も領主様も喜ばれると思うんです。ー
少年は真っ直ぐな子だ。
真っ直ぐだから、思い出さなければいけないものを思い出させてくれた。
「だが、青年は忘れている。
・・・それだけの話だ。」
俺は白饅頭をもふっと布団に沈め、毛布をかけてやる。
「寝ろ。
もう遅い。」
「黒鋼は、」
同時に話して、お互い顔を見合わせた。
「黒鋼は、ファイが忘れていて寂しい?」
俺は少し考えてから、口を開いた。
「俺も忘れていたんだ。
人のことを言える立場じゃない。」
「どうして言わないの?
思い出すかもしれないのに。」
俺は向かいのベットに眠る青年を見た。
寝顔は変わらないのに、彼は変わってしまった。
大人になった。
世界を渡れるようになった。
アシュラ王から逃げるようになった。
笑顔を張りつけるようになった。
「・・・良いんだ、覚えていなくても。
一方的に約束したのは、俺だったから。」
まるで兄姉か、親のようだ。
しかし彼女は今、打ち身がひどいに違いない。
朝オレが殴って蹴った分と、神威くんの打撃の分。
「寝たら。」
気づいたらそっけない声が、口から出ていた。
それがどこか悔しい。
「お前が寝ろ。
疲れているだろう。」
優しい視線が、すっとオレに向けられた。
どうしてそんな目で見るんだろう。
どうしてそんな、2人を見るのと同じ目で、オレを見続けるんだ。
オレは今朝それを、振り払ったばかりなのに。
「あんなことされた後じゃ、そう簡単に眠りにつくことはできないよ。」
オレがそう言えば、黒様は困ったように笑って見せた。
彼女がこんな顔を見せるなんて、初めてかもしれない。
どうしたんだろう。
彼女はどうしてそんな表情をオレに見せるんだろう。
彼女はその疑問に答えることなく、再び眠ったままの2人に視線を向けた。
小狼君は足の傷のせいで熱が出るかもしれない。
さっきおでこを障ったときはまだ平熱だったけれど、ちょっと心配だ。
サクラちゃんも目を覚ませばきっとこの国の惨状に涙さえ流すだろう。
そう思うと、ずっと眠ったままでいてほしい。
そんなことを、彼女も考えているのだろうかと思うと、胸が苦しくなる。
「あの口笛・・・。」
黒様がぽつりと呟くように言った。
「・・・高麗国で死ぬかもしれないときでもお前は魔力を使わなかった。
言っていたな。
もとにいた国の水底で眠っているやつが目覚めたら追いつかれるかもしれない。
だから逃げなきゃならない。
いろんな世界を。」
「言ったねぇ。」
まったく、よくそんなことを覚えているものだ。
「お前が罪人で追われているのか、それとも別の理由があるのか俺には関係ない。」
「黒様らしいねぇ。」
「いや、きっとこいつらも気にしない。」
黒様の視線の先には、あどけない3つの寝顔。
「お前はへらへらしながら誰も寄せ付けない。
誰とも関わらないことを、望んでいる。
だが、今のお前は少年の熱を気にして、少女がこの国の惨状を知るのを案じている。
それに逃げるために使ったあの魔力。」
彼女は一体何がいいたいんだろう。
「言ったでしょ?
オレは死ねないって。」
「お前は自分で死ねないだけだろう。
だが誰かのせいで死ぬなら別だ。
あのまま何もしなければ、俺達はつかまるか悪くすれば死んでいたかもしれない。
だがお前は自分から魔力を使った。
自分から関わったんだ。
こいつらに。」
紅い瞳が、再びオレを映す。
「お前は、逃れられない。
こいつらからも、俺からも。
お前が自分の命を捨てても使わなかった魔力を、こいつらのために使うのと同じように、」
「オレは・・・」
思わず言葉を遮ってしまった。
昨日より離れているのに、昨日と同じくらい近くに黒様の瞳を感じるのが、怖い。
「オレが関わることで誰も不幸にしたくない。」
「お前は、」
黒様が拳を握り、言葉を切った。
「お前は、生きたくないのか?」
紅い目が、まるですがるようにオレを見た。
どうしてそんなに必死に見るんだろう。
この前も、そうだった。
だからオレは、壊れそうになるんだ。
「ちょっと良いかな。」
「おっともう寝ているか。」
丁度いいタイミングで遊人さんと草薙さんが顔を出した。
「大丈夫、黒様が聞きまーす。」
オレが立ち上がると、黒りんがオレの方に歩いてくる。
当然だ。
オレの向こうに2人がいるんだから。
でも黒りんはオレのとなりでふと足を止めた。
怖くて顔を見ることができない。
魔法を使うこともできない、オレに暴力を振るうとも思えない、オレよりも体の小さな彼女が、今、誰よりも恐ろしいと思った。
「お前の過去は関係ない。
ただ、お前の未来から逃れられないのは、お前だけじゃないことを忘れるな。
俺達もまた、お前のために命をかける。
俺が、お前たちを守る。
だからいい加減、今の自分に腹括れ。」
胸がえぐられる。
壊れてしまいそうになる。
「寝ているなら外で話そう。」
「ああ。」
消えていく黒りん。
壁にふらりと持たれてズルズルと座り込んでしまう。
彼女は、どうしてオレを壊そうとするんだろう。
どうしてオレを、守るだなんて言うんだろう。
今までそんなこと、言われたことなんてないのに。
「あはは、無理だよ。」
守られることに、慣れてなんかいないんだ。
傷つけてばかり、嘘をついてばかりきたから。
だからその言葉は胸を占めて、締め付けて、壊してしまう。
「大嫌いだよ、君なんて。」
遊人と草薙の話はここにいる限り何か仕事を頼まなければならないということだった。
簡単にいえば食料調達だ。
ただし、食料になる獲物は突然変異をくりかえし、獰猛になった生物らしい。
俺が行くから、その点は問題はない。
(もう誰も傷つけさせない。)
ここの戦闘能力を見ていれば、俺一人で5人分働くことなんて簡単だ。
部屋に帰ってくると、少年と少女のベットのふちにもたれるようにして青年が眠っていた。
冷えるのに馬鹿だ。
ベットがもうひとつしかあいていなかったせいだろう。
(もう俺とは寝たくない、か。)
俺は青年を抱き上げる。
疲れているのか、眠りが深い。
あどけない寝顔が、一緒に雑魚寝をした少年を思い出させる。
「ふぁい・・・。」
毛布をかける。
「お前はたくさん練習してちゃんとできるようになったんだな。」
遠いあの日、世界を移動する練習をしていたのだ、彼は。
そしてたまたま俺のもとにきてしまった。
しかし、もう彼は自分で次元の魔女のところに行けるようになった。
それだけの年月が流れたということだ。
頬にかかった髪を避けてやる。
「俺も、ふぁいがびっくりするくらい、強くなれたか?
・・・まだ、だめだな。
安心して頼ってくれないから。」
寝顔は、あのころから何も変わっていないように見える。
「よい夢を。」
「黒鋼?」
小さなささやき声に、起こしてしまったかと振り返る。
少女の横で、白饅頭が目をこすっていた。
「どうした?」
傍に寄っていく。
「・・・黒鋼、今ファイのこと、ふぁいって・・・」
気を抜いてしまった自分を後悔する。
「・・・呼んだな。」
じっと見上げてくる白饅頭。
「ねぇ、黒鋼。
ファイは何ができるようになったの?」
素直な、真っ白なこの子は、真っ直ぐに尋ねてくる。
「ファイがびっくりするくらいって、どういうこと?」
俺は黙っていた。
否、言葉を探していた。
探しても、適切な言葉が見つからなかった。
「もしかして・・・」
白饅頭は首をかしげた。
「この旅に出る前に、ファイに会ったことがあるの?」
俺はひとつため息をついた。
白饅頭は素直だ。
本当に。
俺が頭を突けばえへへ、と笑う。
「ああ。
俺もすっかり忘れていたが 少年は見たんだ。
俺達の過去を。」
「それであんなこと言っていたんだ・・・。」
ー黒鋼さんの過去は、確かにたくさんの血が流れていました。
でも、おれは素敵なものにたくさん出会いました。
だから、もし黒鋼さんがいつかその気になれたら、思い出してみてください。
その方が奥方様も領主様も喜ばれると思うんです。ー
少年は真っ直ぐな子だ。
真っ直ぐだから、思い出さなければいけないものを思い出させてくれた。
「だが、青年は忘れている。
・・・それだけの話だ。」
俺は白饅頭をもふっと布団に沈め、毛布をかけてやる。
「寝ろ。
もう遅い。」
「黒鋼は、」
同時に話して、お互い顔を見合わせた。
「黒鋼は、ファイが忘れていて寂しい?」
俺は少し考えてから、口を開いた。
「俺も忘れていたんだ。
人のことを言える立場じゃない。」
「どうして言わないの?
思い出すかもしれないのに。」
俺は向かいのベットに眠る青年を見た。
寝顔は変わらないのに、彼は変わってしまった。
大人になった。
世界を渡れるようになった。
アシュラ王から逃げるようになった。
笑顔を張りつけるようになった。
「・・・良いんだ、覚えていなくても。
一方的に約束したのは、俺だったから。」