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「もうちょっと遅れていたら穴だらけだったね。」
外を眺めてほっと呟く青年。
雨に気がいっているせいだろうか。
そこに漂う死臭に、2人は気づいていないようだ。
しかし、気づかせねばならない。
「そうでもない。」
振り返る2人は、ひどい光景に目を見開く。
瓦礫に山に放置された死体。
身体に刺さった弓や取れた腕や足が、悲惨な戦いを物語る。
「ホンモノ・・・だね。」
「ああ。
殺されている。」
「サクラちゃんが眠っていてくれてよかったよ。」
ここで一体何が起こったのか。
そして起こっているのか。
あの雨は何なのか。
この戦いに関係があるのか。
考えなければならないことは山ほどあるのに、青年から出てきた言葉はそれだし、青年の手が、優しく少女に触れる。
彼は分かっているのだろうか。
俺達がもう、この2人の子どもの運命から、そして互いの運命から逃れることなんてできないことを。
自ら、互いに関わる道を選んでしまっているということを。
彼の言葉は真実であるけれど、それが無自覚なだけに、彼は不幸になるだろう。
それならば、それを突きつけるしかない。
青年が“ふぁい”であるなら、彼は大きな嘘をついている。
―いっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来る。―
あの日そう言ったのだ。
“ふぁい”は。
そして。
―どんなに力を使っても一回世界を渡るのが精一杯なんだ。―
青年は言った。
彼らは同一人物に違いない。
となれば、後者が嘘をついているのは明白。
つまり、青年の旅の目的はアシュラ王から逃げることではない。
もしかしたらそれも目的のひとつかもしれないが、本当の目的は、この旅に同行することで果たされるものだ。
そうでなければ自分の力で行きたい世界へと渡っていくことだろう。
ならば、俺達も選ばなければいけない時が来るのかもしれない。
(俺は選ぶこともできるが・・・)
ちらりと少年を見る。
「モコナ、中に入ってくれていていいから。」
少年の言葉に白饅頭は頭を振った。
姫はと言えば、俺の腕の中ですやすやと寝息を立てている。
(こいつらには無理だ。)
ならば、青年がこいつ達を選ぶように仕向けるしか方法はない。
俺には、そうすることしか、出来ない。
姑息な手でも、何でもいい。
俺はこいつらをつなぎとめたい。
「サクラの羽根の気配探さなきゃ。」
涙ぐみながら呟く白饅頭も。
「小狼君も、無理しない方がいいよ。」
少年を気遣う青年も。
「・・・大丈夫です、ありがとうございます。
モコナ、羽根の気配感じるか?」
真っ直ぐに大切な人のために進む少年も。
それから腕の中で眠る少女も、一緒にいる時にはあれほど楽しげに微笑んでいることができたから。
「分からない。
でもすごく大きな力を感じる。」
「どこから?」
「・・・下。」
地下に降りることができるか、それとも何かが埋まっているのか。
「様子を見てきます。
姫をお願いします。」
少年は俺達を振り返ってそう微笑んだ。
移動したばかりだ。
そして雨の中を走ってきて、こんな建物に飛び込んですぐ。
言ったところで聞く輩ではないが。
「少し休んだらどうだ。」
「大丈夫です。」
俺はひとつため息をついた。
「・・・あまり離れるな。」
「はい。」
廃墟であることに興味があるのだろう。
若干目が輝いていることが不安ではあるが、白饅頭が一緒だから無理はしないはずだ。
「優しいんだね。」
少年の後ろ姿が物陰に消えると、嫌味な声が俺に届いた。
「気味の悪いことを言うな。」
腕に抱えた姫の顔をそっとぬぐう。
少しだけ赤くなっているのが痛々しい。
今朝もあんなに青年のことを心配していた、柔らかい頬が赤く爛れている。
きっと少年もそうだ。
そう思うと、彼を一人で行かせたのが気になってしまう。
俺は青年に姫を渡した。
不思議そうな顔でこちらを見てくる青年も、濡れているようだ。
しかし残念ながら拭く物はない。
手を伸ばして軽く頬の水滴を払う。
嫌そうな表情を見せるも、姫を抱きかかえているせいで手は出せないようだ。
「見てくる。」
「心配性だね。」
笑う青年は無視だ。
その時、硬質なものがぶつかる音が連続して響く。
「なになに?!」
反響して響いてくる声は脅えている。
「モコナの声?」
俺は青年と共に駆けだした。
やはり独りにしてはいけなかった。
気配を読むことは教えたけれど、少年はまだそれが身に染みついていないのだ。
複数の人間の気配が近づいてくる。
(あの馬鹿、遠くに行くなと言ったのに!)
羽根のこととなると我身を顧みないところがあるのが、痛々しい。
物陰に身を潜めうかがうと、向こうに見えたのは左腿に矢を刺した少年の辛そうな姿だった。
「ここに足を踏み入れたっていうことは、死にたいんだな。」
敵は7人。
全員弓を持っている。
全身を覆う長い衣と、深いフードで男女の別すら分からない。
入口の惨状が彼らの手によるものであるならば、彼らは人を殺すのをいとわない人間だ。
少年とは違う。
「見ねぇ顔だな。」
「蹴り格好良かったなー」
「何悠長なこと言ってんの。
侵入者よ。」
「その上泥棒。」
「でどうする?
神威?」
中央にいた人物がフードを抜いだ。
まだ若い青年だ。
俺と同じか、少し若いかもしれない。
強いことはその気配で分かる。
「・・・おまえ、エか。
・・・殺す。」
放たれた矢。
少年は足の傷で動けない。
戯言を聞くのはここまでいいだろう。
近くにあった石を拾い、投げる。
小気味良い音を立てて、矢にあたった。
「黒鋼さん!」
少年がほっとした顔を見せた。
「離れるなと言っただろう。
白饅頭、刀。」
肩に乗る白饅頭に手を伸ばす。
「うん!」
口から出てきた蒼氷を受け取る。
しっかりとした重み。
「先に手を出したのはそっちだ。」
刀をすらりと抜く。
「まだいた。
あの武器もかっこいー」
「どこの区よ。」
外野の会話は無視だ。
少年を背後に回す。
気にしなければならないのは、ただ一人。
「お前が大将か。」
弓を使うということは、懐に入るが勝ちということ。
入るのは大将の懐に限る。
しかし彼は口を閉ざしたままだ。
「偉そうだなぁ。」
「神威に勝てると思っているのかな。」
「そりゃ無理でしょ。
神威とやりあえるのなんってあいつしか・・・」
野次馬はどうでもいい。
だが、やはり相手は分かっているようだ。
俺達がそれなりに殺りあえるということを。
「神威!?」
神威と呼ばれる男がひらりと近づいてくる。
こんな軽い動き、見覚えがない。
しかも羽織っていた長い衣を脱いで目くらましをし、その隙に突いてくる。
刀を振るもかすりもしない。
この年でどれだけ戦っているのかと不審になるほど、あまりに冷静で戦いなれている。
(何者だ・・・?)
それは一瞬だった。
左右に振れる気配。
強い一撃が襲う前触れの、微かな殺気。
(どちらからくる気だ!?)
ふわりと飛び上がったのは正面で、刀に指を添えられている。
その圧力に動きが遅れた。
「く・・・ぅっ・・・!!」
激痛が腹、そして全身に走る。
体が背後にあった壁にめり込むのが分かる。
今朝の青年の傷に追い打ちをかける、この打撃。
骨が悲鳴を上げる。
砕ける一歩手前だ。
「黒鋼さん!!」
「黒鋼!」
少年の焦った声と白饅頭の悲鳴が木霊する。
激痛の中、神威と呼ばれた男の気配が急速に近づいてくる。
その動きがスローに見えるのは、もう末期なのかもしれない。
(この構えはさっきも見た。)
目を閉じる。
気配に集中するためだ。
腕が空を切る。
同時に刀を下から神威の首に向けて振り上げる。
そして、首筋ギリギリで止めた。
目をあけると、神威も目を見開いてこっちを見ている。
久しぶりだ。
冷や汗が流れる戦いなんて。
「昇龍閃!」
そのまま神威を吹き飛ばすが、彼がその程度で命を落とすとは思えない。
案の定、身体を岩にめり込ませながらも血は流していない。
「神威!」
「来るな。」
まるで痛みを感じていないようだ。
何もなかったかのように床に降り立つ。
「やるなぁ。
神威を吹き飛ばしたよ。」
「武器ででしょ。」
「でもすごいよ。」
「何おもしろがっているの。」
ふいに音がした。
聞き覚えがある。
これはピッフル国にいた時にも聞いた、モーターの音。
「来た。
タワーの奴らだ。」
神威は俺から興味を失ったかのように、音に引き寄せられていく。
「ちょっと神威!
一人じゃ駄目よ!」
「ああ、もう!」
残りのものたちがバタバタとその後を追った。
外を眺めてほっと呟く青年。
雨に気がいっているせいだろうか。
そこに漂う死臭に、2人は気づいていないようだ。
しかし、気づかせねばならない。
「そうでもない。」
振り返る2人は、ひどい光景に目を見開く。
瓦礫に山に放置された死体。
身体に刺さった弓や取れた腕や足が、悲惨な戦いを物語る。
「ホンモノ・・・だね。」
「ああ。
殺されている。」
「サクラちゃんが眠っていてくれてよかったよ。」
ここで一体何が起こったのか。
そして起こっているのか。
あの雨は何なのか。
この戦いに関係があるのか。
考えなければならないことは山ほどあるのに、青年から出てきた言葉はそれだし、青年の手が、優しく少女に触れる。
彼は分かっているのだろうか。
俺達がもう、この2人の子どもの運命から、そして互いの運命から逃れることなんてできないことを。
自ら、互いに関わる道を選んでしまっているということを。
彼の言葉は真実であるけれど、それが無自覚なだけに、彼は不幸になるだろう。
それならば、それを突きつけるしかない。
青年が“ふぁい”であるなら、彼は大きな嘘をついている。
―いっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来る。―
あの日そう言ったのだ。
“ふぁい”は。
そして。
―どんなに力を使っても一回世界を渡るのが精一杯なんだ。―
青年は言った。
彼らは同一人物に違いない。
となれば、後者が嘘をついているのは明白。
つまり、青年の旅の目的はアシュラ王から逃げることではない。
もしかしたらそれも目的のひとつかもしれないが、本当の目的は、この旅に同行することで果たされるものだ。
そうでなければ自分の力で行きたい世界へと渡っていくことだろう。
ならば、俺達も選ばなければいけない時が来るのかもしれない。
(俺は選ぶこともできるが・・・)
ちらりと少年を見る。
「モコナ、中に入ってくれていていいから。」
少年の言葉に白饅頭は頭を振った。
姫はと言えば、俺の腕の中ですやすやと寝息を立てている。
(こいつらには無理だ。)
ならば、青年がこいつ達を選ぶように仕向けるしか方法はない。
俺には、そうすることしか、出来ない。
姑息な手でも、何でもいい。
俺はこいつらをつなぎとめたい。
「サクラの羽根の気配探さなきゃ。」
涙ぐみながら呟く白饅頭も。
「小狼君も、無理しない方がいいよ。」
少年を気遣う青年も。
「・・・大丈夫です、ありがとうございます。
モコナ、羽根の気配感じるか?」
真っ直ぐに大切な人のために進む少年も。
それから腕の中で眠る少女も、一緒にいる時にはあれほど楽しげに微笑んでいることができたから。
「分からない。
でもすごく大きな力を感じる。」
「どこから?」
「・・・下。」
地下に降りることができるか、それとも何かが埋まっているのか。
「様子を見てきます。
姫をお願いします。」
少年は俺達を振り返ってそう微笑んだ。
移動したばかりだ。
そして雨の中を走ってきて、こんな建物に飛び込んですぐ。
言ったところで聞く輩ではないが。
「少し休んだらどうだ。」
「大丈夫です。」
俺はひとつため息をついた。
「・・・あまり離れるな。」
「はい。」
廃墟であることに興味があるのだろう。
若干目が輝いていることが不安ではあるが、白饅頭が一緒だから無理はしないはずだ。
「優しいんだね。」
少年の後ろ姿が物陰に消えると、嫌味な声が俺に届いた。
「気味の悪いことを言うな。」
腕に抱えた姫の顔をそっとぬぐう。
少しだけ赤くなっているのが痛々しい。
今朝もあんなに青年のことを心配していた、柔らかい頬が赤く爛れている。
きっと少年もそうだ。
そう思うと、彼を一人で行かせたのが気になってしまう。
俺は青年に姫を渡した。
不思議そうな顔でこちらを見てくる青年も、濡れているようだ。
しかし残念ながら拭く物はない。
手を伸ばして軽く頬の水滴を払う。
嫌そうな表情を見せるも、姫を抱きかかえているせいで手は出せないようだ。
「見てくる。」
「心配性だね。」
笑う青年は無視だ。
その時、硬質なものがぶつかる音が連続して響く。
「なになに?!」
反響して響いてくる声は脅えている。
「モコナの声?」
俺は青年と共に駆けだした。
やはり独りにしてはいけなかった。
気配を読むことは教えたけれど、少年はまだそれが身に染みついていないのだ。
複数の人間の気配が近づいてくる。
(あの馬鹿、遠くに行くなと言ったのに!)
羽根のこととなると我身を顧みないところがあるのが、痛々しい。
物陰に身を潜めうかがうと、向こうに見えたのは左腿に矢を刺した少年の辛そうな姿だった。
「ここに足を踏み入れたっていうことは、死にたいんだな。」
敵は7人。
全員弓を持っている。
全身を覆う長い衣と、深いフードで男女の別すら分からない。
入口の惨状が彼らの手によるものであるならば、彼らは人を殺すのをいとわない人間だ。
少年とは違う。
「見ねぇ顔だな。」
「蹴り格好良かったなー」
「何悠長なこと言ってんの。
侵入者よ。」
「その上泥棒。」
「でどうする?
神威?」
中央にいた人物がフードを抜いだ。
まだ若い青年だ。
俺と同じか、少し若いかもしれない。
強いことはその気配で分かる。
「・・・おまえ、エか。
・・・殺す。」
放たれた矢。
少年は足の傷で動けない。
戯言を聞くのはここまでいいだろう。
近くにあった石を拾い、投げる。
小気味良い音を立てて、矢にあたった。
「黒鋼さん!」
少年がほっとした顔を見せた。
「離れるなと言っただろう。
白饅頭、刀。」
肩に乗る白饅頭に手を伸ばす。
「うん!」
口から出てきた蒼氷を受け取る。
しっかりとした重み。
「先に手を出したのはそっちだ。」
刀をすらりと抜く。
「まだいた。
あの武器もかっこいー」
「どこの区よ。」
外野の会話は無視だ。
少年を背後に回す。
気にしなければならないのは、ただ一人。
「お前が大将か。」
弓を使うということは、懐に入るが勝ちということ。
入るのは大将の懐に限る。
しかし彼は口を閉ざしたままだ。
「偉そうだなぁ。」
「神威に勝てると思っているのかな。」
「そりゃ無理でしょ。
神威とやりあえるのなんってあいつしか・・・」
野次馬はどうでもいい。
だが、やはり相手は分かっているようだ。
俺達がそれなりに殺りあえるということを。
「神威!?」
神威と呼ばれる男がひらりと近づいてくる。
こんな軽い動き、見覚えがない。
しかも羽織っていた長い衣を脱いで目くらましをし、その隙に突いてくる。
刀を振るもかすりもしない。
この年でどれだけ戦っているのかと不審になるほど、あまりに冷静で戦いなれている。
(何者だ・・・?)
それは一瞬だった。
左右に振れる気配。
強い一撃が襲う前触れの、微かな殺気。
(どちらからくる気だ!?)
ふわりと飛び上がったのは正面で、刀に指を添えられている。
その圧力に動きが遅れた。
「く・・・ぅっ・・・!!」
激痛が腹、そして全身に走る。
体が背後にあった壁にめり込むのが分かる。
今朝の青年の傷に追い打ちをかける、この打撃。
骨が悲鳴を上げる。
砕ける一歩手前だ。
「黒鋼さん!!」
「黒鋼!」
少年の焦った声と白饅頭の悲鳴が木霊する。
激痛の中、神威と呼ばれた男の気配が急速に近づいてくる。
その動きがスローに見えるのは、もう末期なのかもしれない。
(この構えはさっきも見た。)
目を閉じる。
気配に集中するためだ。
腕が空を切る。
同時に刀を下から神威の首に向けて振り上げる。
そして、首筋ギリギリで止めた。
目をあけると、神威も目を見開いてこっちを見ている。
久しぶりだ。
冷や汗が流れる戦いなんて。
「昇龍閃!」
そのまま神威を吹き飛ばすが、彼がその程度で命を落とすとは思えない。
案の定、身体を岩にめり込ませながらも血は流していない。
「神威!」
「来るな。」
まるで痛みを感じていないようだ。
何もなかったかのように床に降り立つ。
「やるなぁ。
神威を吹き飛ばしたよ。」
「武器ででしょ。」
「でもすごいよ。」
「何おもしろがっているの。」
ふいに音がした。
聞き覚えがある。
これはピッフル国にいた時にも聞いた、モーターの音。
「来た。
タワーの奴らだ。」
神威は俺から興味を失ったかのように、音に引き寄せられていく。
「ちょっと神威!
一人じゃ駄目よ!」
「ああ、もう!」
残りのものたちがバタバタとその後を追った。