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現れたのは大きな岩だらけの土地だった。
「さて、今度はどんなとこかなぁ。」
いつも通りファイさんがのんびりとした口調でそう言うと、岩に登り、辺りを見回した。
黒鋼さんはいつも通り何の反応も返さず、無表情だ。
2人のいつも通りなところが、引っかかって、それでも何も聞けなくて、俺は黒鋼さんの腕の中で眠る姫を見つめた。
移動する前の、姫が眠る前のことだった。
「小狼君・・・。」
朝、川に顔を洗いに行った姫は暗い顔をして帰ってきた。
村の人と何かあったのだろうか。
「どうしたんですか?」
慌ててそう尋ねると、姫は困惑したように口に手を当て、言っていいのか迷っているようだった。
「おれにできることがあるなら教えてください。」
姫は小さく頷いて、予想外の言葉を口にした。
「・・・ファイさんが、泣いていたの。」
「えっ。」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
「川に言ったら、ファイさん、必死に手が真っ赤になるまで洗っていたの。
汚れてしまったからって。
すごく辛そうな顔していた。」
そういう姫の表情も、いつになく辛そうだった。
姫はファイさんのことが大好きだ。
王であったお兄さんがいたからかもしれないが、本当によく懐いていた。
そのファイさんのそんな様子を見たら、誰よりも感情に敏感な姫のことだ。
今にも泣きそうな顔をしているのもうなずける。
「黒鋼さんは?」
「見てないの。」
それもこの表情の要因かもしれない。
いつもおれたちを守ってくれる2人の間に、何かあったことをどこか匂わせているから。
2人が泊っていたのは少し離れた家だったはずだ。
ここに来た時は蘇った人達がいたから、小さな家を2件、離れてしか借りることができなかったのだ。
「見に行きましょう。」
おれ達はモコナがまだ寝ているのを確認して、家を出た。
家はしんと静まり返っている。
もしかしたら2人ともいないのかもしれない。
その向こうに川が流れているのが見えて、黒い人影が見える。
いつも通り、黒い服に鎧、マントを身につけた黒鋼さんだ。
近づいていくとその黒い背中は立ち上がった。
「おはようございます。」
「ああ。」
襟で口まで隠され、額や頬を覆う鎧のせいで表情はあまり見えない。
そうでなくとも、職業柄上、いつもと変わりないように見えてしまう。
姫もおれの後ろからうかがっているようだ。
「・・・もう出るのか。」
おれが黙っていたせいか、黒鋼さんがそう尋ねた。
「あ、いえ。」
気まずくなって目をそらしてしまう。
何を言おうか、考えていなかった。
「青年にでも会ったか?」
黒鋼さんはまた問いかけた。
その言葉に、姫はおれの後ろでぴくりと反応する。
「何か言われたのか?」
どこか面白そうにした口調に、姫が眉をひそめる。
「一人にしてくれって・・・。
とてもつらそうな顔をしていました。」
黒鋼さんは静かに瞳を閉じた。
次に開いた時には、その紅は微かに微笑んでいた。
「お前たちが気にするほどのことではない。
ただのケンカだ。」
本当にただの喧嘩なのだろうか。
彼女の左の頬、鎧で隠しきれない紫の痣は、一体何なのだろう。
それを上手に聞けるほど、おれも姫も、器用ではなかった。
結局4人が集まると、ファイさんと黒鋼さんは話をすることはなく、
でもだからと言ってピリピリしているわけでもなかった。
その疎遠な様子はどこか旅の初めのことを思い出させる。
モコナも不思議に思ったのか尋ねたが、やはり黒鋼さんに、ただのケンカだから気にするな、と言われただけだった。
姫に羽根が返り、しばらくして、時期にまた目が覚めるだろうということになり、おれたちはこの新しい世界へとやってきた。
ファイさんに続いて、おれ達も岩を登る。
そこに広がっていたのは、まさに廃墟だった。
壊れた建物が散乱する景色。
ひどい有様だ。
空は重い雲で覆われている。
雨が降りそうだ。
そのまま進んでいくファイさんの後ろを、やはりおれ達も進んでいく。
黒鋼さんはファイさんを見ている。
いつになく、ずっと。
そんなに気になるなら、話しかけてみればいいのにと思ってしまうくらい。
このままではみんながばらばらになってしまうような気さえして、どこか不安になる。
「小狼。」
襟元にもぐりこんでいるモコナが囁きかけた。
「あのね、黒鋼もファイも、とってもとっても寂しいの。
それから、とっても怖いの。
2人とも、そう・・・。」
泣きそうな声で訴える。
何があったのか、おれには分からない。
どうしようもないのかもしれない。
それでも、いつもおれたちを守ってくれる人たちだから、こんなときくらい、力になれたらいいのに、と思う。
「早く仲直りできるといいな。」
モコナは小さく頷いた。
ふと瓦礫の角が目に付いた。
角、と言っても、もうすっかり風化してまるくなってしまっている。
その様子が奇妙で首をかしげた。
「どうした。」
黒鋼さんが声を掛けて同じように瓦礫の角を覗き込んだ。
「ここの廃墟の瓦礫の角が丸いんです。
風化したにしても、風だけでこうなるものかなのか。」
黒鋼さんも同じように思ったのか、一つ頷いた。
ぽつり
雨が降ってきた。
「あっいたい!いたいよぉ」
ひりりとした痛みに、濡れた手を見れば、焼けているのが分かった。
おれは黒鋼さんの抱える姫を見る。
すると黒鋼さんは、もうかばうように抱きすくめてくれていて、そしておれを見て大丈夫だというように頷いてくれた。
申し訳ないくらい、おれたちは大切にされている。
それなのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
「このままだとまずいねぇ。」
ファイさんもおれ達のところまで戻ってきて、そう言って空を仰いだ。
「あ!あの建物はまだ倒壊していないみたいです!」
目を凝らした向こうに見える建物を指さす。
「走るぞ。」
強くなる雨足。
無言で走る。
どうしてだろう。
黒鋼さんとファイさんの間におれはいるのに、いつも安心させてくれる2人の間にいるはずなのに、なんだかひどくその距離が遠く感じて、寒かった。
これがモコナが感じている人の心なのだろうか、と思う。
飛び込むころには外は土砂降りの雨になっていた。
おれは泣きだしそうなモコナの頭をそっと撫でた。
「さて、今度はどんなとこかなぁ。」
いつも通りファイさんがのんびりとした口調でそう言うと、岩に登り、辺りを見回した。
黒鋼さんはいつも通り何の反応も返さず、無表情だ。
2人のいつも通りなところが、引っかかって、それでも何も聞けなくて、俺は黒鋼さんの腕の中で眠る姫を見つめた。
移動する前の、姫が眠る前のことだった。
「小狼君・・・。」
朝、川に顔を洗いに行った姫は暗い顔をして帰ってきた。
村の人と何かあったのだろうか。
「どうしたんですか?」
慌ててそう尋ねると、姫は困惑したように口に手を当て、言っていいのか迷っているようだった。
「おれにできることがあるなら教えてください。」
姫は小さく頷いて、予想外の言葉を口にした。
「・・・ファイさんが、泣いていたの。」
「えっ。」
咄嗟に言葉が出てこなかった。
「川に言ったら、ファイさん、必死に手が真っ赤になるまで洗っていたの。
汚れてしまったからって。
すごく辛そうな顔していた。」
そういう姫の表情も、いつになく辛そうだった。
姫はファイさんのことが大好きだ。
王であったお兄さんがいたからかもしれないが、本当によく懐いていた。
そのファイさんのそんな様子を見たら、誰よりも感情に敏感な姫のことだ。
今にも泣きそうな顔をしているのもうなずける。
「黒鋼さんは?」
「見てないの。」
それもこの表情の要因かもしれない。
いつもおれたちを守ってくれる2人の間に、何かあったことをどこか匂わせているから。
2人が泊っていたのは少し離れた家だったはずだ。
ここに来た時は蘇った人達がいたから、小さな家を2件、離れてしか借りることができなかったのだ。
「見に行きましょう。」
おれ達はモコナがまだ寝ているのを確認して、家を出た。
家はしんと静まり返っている。
もしかしたら2人ともいないのかもしれない。
その向こうに川が流れているのが見えて、黒い人影が見える。
いつも通り、黒い服に鎧、マントを身につけた黒鋼さんだ。
近づいていくとその黒い背中は立ち上がった。
「おはようございます。」
「ああ。」
襟で口まで隠され、額や頬を覆う鎧のせいで表情はあまり見えない。
そうでなくとも、職業柄上、いつもと変わりないように見えてしまう。
姫もおれの後ろからうかがっているようだ。
「・・・もう出るのか。」
おれが黙っていたせいか、黒鋼さんがそう尋ねた。
「あ、いえ。」
気まずくなって目をそらしてしまう。
何を言おうか、考えていなかった。
「青年にでも会ったか?」
黒鋼さんはまた問いかけた。
その言葉に、姫はおれの後ろでぴくりと反応する。
「何か言われたのか?」
どこか面白そうにした口調に、姫が眉をひそめる。
「一人にしてくれって・・・。
とてもつらそうな顔をしていました。」
黒鋼さんは静かに瞳を閉じた。
次に開いた時には、その紅は微かに微笑んでいた。
「お前たちが気にするほどのことではない。
ただのケンカだ。」
本当にただの喧嘩なのだろうか。
彼女の左の頬、鎧で隠しきれない紫の痣は、一体何なのだろう。
それを上手に聞けるほど、おれも姫も、器用ではなかった。
結局4人が集まると、ファイさんと黒鋼さんは話をすることはなく、
でもだからと言ってピリピリしているわけでもなかった。
その疎遠な様子はどこか旅の初めのことを思い出させる。
モコナも不思議に思ったのか尋ねたが、やはり黒鋼さんに、ただのケンカだから気にするな、と言われただけだった。
姫に羽根が返り、しばらくして、時期にまた目が覚めるだろうということになり、おれたちはこの新しい世界へとやってきた。
ファイさんに続いて、おれ達も岩を登る。
そこに広がっていたのは、まさに廃墟だった。
壊れた建物が散乱する景色。
ひどい有様だ。
空は重い雲で覆われている。
雨が降りそうだ。
そのまま進んでいくファイさんの後ろを、やはりおれ達も進んでいく。
黒鋼さんはファイさんを見ている。
いつになく、ずっと。
そんなに気になるなら、話しかけてみればいいのにと思ってしまうくらい。
このままではみんながばらばらになってしまうような気さえして、どこか不安になる。
「小狼。」
襟元にもぐりこんでいるモコナが囁きかけた。
「あのね、黒鋼もファイも、とってもとっても寂しいの。
それから、とっても怖いの。
2人とも、そう・・・。」
泣きそうな声で訴える。
何があったのか、おれには分からない。
どうしようもないのかもしれない。
それでも、いつもおれたちを守ってくれる人たちだから、こんなときくらい、力になれたらいいのに、と思う。
「早く仲直りできるといいな。」
モコナは小さく頷いた。
ふと瓦礫の角が目に付いた。
角、と言っても、もうすっかり風化してまるくなってしまっている。
その様子が奇妙で首をかしげた。
「どうした。」
黒鋼さんが声を掛けて同じように瓦礫の角を覗き込んだ。
「ここの廃墟の瓦礫の角が丸いんです。
風化したにしても、風だけでこうなるものかなのか。」
黒鋼さんも同じように思ったのか、一つ頷いた。
ぽつり
雨が降ってきた。
「あっいたい!いたいよぉ」
ひりりとした痛みに、濡れた手を見れば、焼けているのが分かった。
おれは黒鋼さんの抱える姫を見る。
すると黒鋼さんは、もうかばうように抱きすくめてくれていて、そしておれを見て大丈夫だというように頷いてくれた。
申し訳ないくらい、おれたちは大切にされている。
それなのに、どうしてこんなに不安なんだろう。
「このままだとまずいねぇ。」
ファイさんもおれ達のところまで戻ってきて、そう言って空を仰いだ。
「あ!あの建物はまだ倒壊していないみたいです!」
目を凝らした向こうに見える建物を指さす。
「走るぞ。」
強くなる雨足。
無言で走る。
どうしてだろう。
黒鋼さんとファイさんの間におれはいるのに、いつも安心させてくれる2人の間にいるはずなのに、なんだかひどくその距離が遠く感じて、寒かった。
これがモコナが感じている人の心なのだろうか、と思う。
飛び込むころには外は土砂降りの雨になっていた。
おれは泣きだしそうなモコナの頭をそっと撫でた。