ツァラストラ国2
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「そうなの」
姫はうんうん、と頷きながら竜と話しているが、俺達にはさっぱり分からない。
「姫は昔から、ああして生き物や声なき者の声を聞くことができる、不思議な力がありました」
小僧はそう言って静かに微笑む。
彼にとってそれは美しく懐かしい記憶の一つなのだろう。
若いのによく耐える男だ。
泣きも喚きもせず、ただ隣に寄りそうことは、そう簡単にできることではない。
「わかったよ!」
元気よく駆けてくる姫。
「やっぱりあの伝説の子どもの竜はこの子でした。
本当は神様と仲直りしたいとずっと思っていたらしいんですが……」
「ずっとが長すぎるくらいですね」
1000年以上もたってしまっている。
気の長いことだ。
「手伝ってあげようよ、仲直り!」
モコナが姫の肩に飛び乗って言った。
答えを聞かなくても、その表情を見れば彼女の答えなどすぐに分かる。
となればもちろん、小僧も協力するわけで。
男は小さく笑った。
楽しそうに、笑った。
「そうだね、手伝っちゃおうかー」
いつも、自分は優しくないと言わんばかりん顔をしているが、本当は彼が優しいことはみんな知っている。
頼まれると断れない性格も、姫と小僧のためなら少しくらい無理をしてくれることも、危険さえも顧みないことも。
(彼が変わったことは、もしかしたら気づいていないかもしれない。
みんな、変わっているから)
初めて出会った時にはない何かを、俺達は得た。
(……そして何かを失うのかもしれない)
そう思うと恐ろしくて、ただただ刀の柄を握り締めてしまう。
(でも、そんなことはさせない)
「いいよね、黒りん?」
男の問いかけに、俺はひとつ、頷いた。
「じゃあ早速神殿に、れっつ」
「待ってモコナ」
肩の上で右手をつきあげようとするモコナに小僧が待ったをかけた。
そして竜の目の前まで歩いていく。
「おれの言葉も、分かりますか?」
竜は小さくうなずいた。
そう、大切な大切な、この旅の目的がまだ達成されていない。
「貴方の角の中に、羽根がありますよね」
竜はひとつ頷いた。
「その羽根は、姫の大切なものなんです」
その言葉に、ぎょろりとした目を姫に向ける。
「おれたちはその羽根を探して、旅をしています」
小僧はいつも相手に真摯に向き合う。
それがたとえ人ではない者でも。
「ごめんねって、言ってる」
姫がぽつりとつぶやいた。
「これがあるととても温かいからって……」
竜はくぅんと鳴いて、鼻先を姫の前に差し出した。
すると角が姫の頭あたりの高さになる。
ふわふわと角の先から羽根が現れ、姫の元へと降りて行った。
「大切に持っていてくれて、ありがとう」
羽根を優しく握ると、彼女は温かい笑みを浮かべた。
「実は、この国に前に来た時に、神殿にある羽根を手に入れた者の願いを、神様が叶えてくれたんです。
その時は、その羽根を手に入れるために命を失った人たちを生き返らせてくれるように頼みました。
ですが、生き返った人は次の新月の夜に無に帰るとお告げがあったそうです」
小僧が説明をしてくれる。
こんなところも、本当に真面目だと思う。
「……たとえ神様でも、亡くした命を取り戻すことなんてできないって。
夢を見せることしかできないって、言ってる」
姫は暗い表情で、俯きながらそう言った。
小僧も辛そうな顔をして姫を見つめた。
「でも、私達はもう一度神様にお願いしなきゃ」
そう言って姫は決意したように顔を上げた。
「みんながそう望んでいるの。
羽根をささげて、もう一度お願いすれば命が長らえるかもしれないって。
それが命を取り戻したみんなの、最後のお願いなの」
竜はじっと何かを考えた後、突然水から身体を上げた。
そして大きく羽根を広げ、ついた水滴を払うように動かした。
「きゃっ」
「あっ」
「おっと」
「わぁっ」
辺りに雨のように水が降り注ぎ、それぞれが腕で顔を覆った。
俺は雨に慣れているから特に気にせずみていると、その竜の頭の上に、虹が現れるのが見えた。
「……神殿まで連れて行ってくれるの?」
また竜の声を聞いたのか、目をあけて嬉しそうに尋ねる。
そして何か返事を聞いたのか、小さく笑った。
「なんて言ってるんですか?」
「独りで会いに行くのは心細いから、一緒に来てほしいんだって」
それは気遣いと、そして甘えからくる温かい言葉だと思った。
俺達は竜に促されるままにその背に乗る。
「わぁっすごい!」
「高いですね」
「ひゃっほー」
小僧も姫も、白饅頭もすっかりはしゃいでいる。
それを見ている青年も、優しく微笑んでいる。
そして、こんな温もりを感じる度、俺は決心をまた固いものとする。
(壊させやしない)
これほどまでに暖かい場所を、再び得ることができた。
もう、失いたくない。
失わせたくない。
「それでは、改めて、行こうか」
小僧が白饅頭に笑いかけた。
その言葉に、白饅頭もぱあっと笑顔になる。
「神殿にれっつごー!」
竜は羽ばたいた。
4人の歓声が蒼い空に響く。
(俺が守ってみせる)
空の青さは、諏訪の湖のようであり、そして。
(男が、俺達を守ってくれたように)
姫はうんうん、と頷きながら竜と話しているが、俺達にはさっぱり分からない。
「姫は昔から、ああして生き物や声なき者の声を聞くことができる、不思議な力がありました」
小僧はそう言って静かに微笑む。
彼にとってそれは美しく懐かしい記憶の一つなのだろう。
若いのによく耐える男だ。
泣きも喚きもせず、ただ隣に寄りそうことは、そう簡単にできることではない。
「わかったよ!」
元気よく駆けてくる姫。
「やっぱりあの伝説の子どもの竜はこの子でした。
本当は神様と仲直りしたいとずっと思っていたらしいんですが……」
「ずっとが長すぎるくらいですね」
1000年以上もたってしまっている。
気の長いことだ。
「手伝ってあげようよ、仲直り!」
モコナが姫の肩に飛び乗って言った。
答えを聞かなくても、その表情を見れば彼女の答えなどすぐに分かる。
となればもちろん、小僧も協力するわけで。
男は小さく笑った。
楽しそうに、笑った。
「そうだね、手伝っちゃおうかー」
いつも、自分は優しくないと言わんばかりん顔をしているが、本当は彼が優しいことはみんな知っている。
頼まれると断れない性格も、姫と小僧のためなら少しくらい無理をしてくれることも、危険さえも顧みないことも。
(彼が変わったことは、もしかしたら気づいていないかもしれない。
みんな、変わっているから)
初めて出会った時にはない何かを、俺達は得た。
(……そして何かを失うのかもしれない)
そう思うと恐ろしくて、ただただ刀の柄を握り締めてしまう。
(でも、そんなことはさせない)
「いいよね、黒りん?」
男の問いかけに、俺はひとつ、頷いた。
「じゃあ早速神殿に、れっつ」
「待ってモコナ」
肩の上で右手をつきあげようとするモコナに小僧が待ったをかけた。
そして竜の目の前まで歩いていく。
「おれの言葉も、分かりますか?」
竜は小さくうなずいた。
そう、大切な大切な、この旅の目的がまだ達成されていない。
「貴方の角の中に、羽根がありますよね」
竜はひとつ頷いた。
「その羽根は、姫の大切なものなんです」
その言葉に、ぎょろりとした目を姫に向ける。
「おれたちはその羽根を探して、旅をしています」
小僧はいつも相手に真摯に向き合う。
それがたとえ人ではない者でも。
「ごめんねって、言ってる」
姫がぽつりとつぶやいた。
「これがあるととても温かいからって……」
竜はくぅんと鳴いて、鼻先を姫の前に差し出した。
すると角が姫の頭あたりの高さになる。
ふわふわと角の先から羽根が現れ、姫の元へと降りて行った。
「大切に持っていてくれて、ありがとう」
羽根を優しく握ると、彼女は温かい笑みを浮かべた。
「実は、この国に前に来た時に、神殿にある羽根を手に入れた者の願いを、神様が叶えてくれたんです。
その時は、その羽根を手に入れるために命を失った人たちを生き返らせてくれるように頼みました。
ですが、生き返った人は次の新月の夜に無に帰るとお告げがあったそうです」
小僧が説明をしてくれる。
こんなところも、本当に真面目だと思う。
「……たとえ神様でも、亡くした命を取り戻すことなんてできないって。
夢を見せることしかできないって、言ってる」
姫は暗い表情で、俯きながらそう言った。
小僧も辛そうな顔をして姫を見つめた。
「でも、私達はもう一度神様にお願いしなきゃ」
そう言って姫は決意したように顔を上げた。
「みんながそう望んでいるの。
羽根をささげて、もう一度お願いすれば命が長らえるかもしれないって。
それが命を取り戻したみんなの、最後のお願いなの」
竜はじっと何かを考えた後、突然水から身体を上げた。
そして大きく羽根を広げ、ついた水滴を払うように動かした。
「きゃっ」
「あっ」
「おっと」
「わぁっ」
辺りに雨のように水が降り注ぎ、それぞれが腕で顔を覆った。
俺は雨に慣れているから特に気にせずみていると、その竜の頭の上に、虹が現れるのが見えた。
「……神殿まで連れて行ってくれるの?」
また竜の声を聞いたのか、目をあけて嬉しそうに尋ねる。
そして何か返事を聞いたのか、小さく笑った。
「なんて言ってるんですか?」
「独りで会いに行くのは心細いから、一緒に来てほしいんだって」
それは気遣いと、そして甘えからくる温かい言葉だと思った。
俺達は竜に促されるままにその背に乗る。
「わぁっすごい!」
「高いですね」
「ひゃっほー」
小僧も姫も、白饅頭もすっかりはしゃいでいる。
それを見ている青年も、優しく微笑んでいる。
そして、こんな温もりを感じる度、俺は決心をまた固いものとする。
(壊させやしない)
これほどまでに暖かい場所を、再び得ることができた。
もう、失いたくない。
失わせたくない。
「それでは、改めて、行こうか」
小僧が白饅頭に笑いかけた。
その言葉に、白饅頭もぱあっと笑顔になる。
「神殿にれっつごー!」
竜は羽ばたいた。
4人の歓声が蒼い空に響く。
(俺が守ってみせる)
空の青さは、諏訪の湖のようであり、そして。
(男が、俺達を守ってくれたように)
