ツァラストラ国2
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「西には大きな湖がある。
神にささげる水はそこで汲むことに決まっているのだ」
長老さんの言葉に、小狼君が頷く。
「行き方を教えてください」
真剣な表情。
本当にいい子だ。
羽根と、それからその世界で出会った人のために、本気で頑張れるなんて。
「俺も連れて行ってくれ!
案内する!」
部屋の隅で控えていた空ちゃんが声を上げた。
「必ずあの羽を手に入れて、生きて見せる!」
ずいぶん御執心だ。
頷こうとした小狼君を遮るように、黒様が口を開いた。
「お前を連れていくかは話を全て聞いてからだ」
珍しい、なぜなのだろうか。
こういうことには口を出さない性質で、むしろ放っておけなくて助けてあげることが多いはずなのに。
空ちゃんは黒りんを睨みながらも口を閉じた。
そう、黒たんには不思議と人を黙らせる力がある。
「この国では竜はよく見かける生き物なのか?」
黒たんは何もなかったかのようにそのまま長老に尋ねた。
「それほど頻繁に見かけるわけではないが、生息はしておる」
「この土地に、竜に関する何か伝承が残ってはいないませんか?」
小狼君の問いかけに長老さんはひとつ頷いた。
どうやら黒りんの考勘があたっていたらしい。
「遠い遠い昔のことじゃ。
神の使いとして一頭の竜が仕えておった。
その竜はまだ子どもで、いたずら好きであったが、神は殊に目をかけていたという。
ある日、竜は神が大切にしていたリンゴの木に雷を落としてしまった。
当然木は死んでしまい、神は怒りのあまり大地を陥没させてしまった。
それが西の湖というわけじゃ」
「そのリンゴの木が余程大切だったんですね」
小狼君の呟きに、長老は頷く。
「その子どもの竜はどうなったんですか。」
サクラちゃんが問いかけ、長老は静かに神殿の方を眺めた。
「神のもとを去ったといわれている」
しばらくの沈黙ができた。
「だがそれはおとぎばなしだ」
空ちゃんが沈黙を破る。
「あの竜がその竜だなんてありえない。
必ず羽根を……」
黒たんが立ちあがった。
それにつられてオレ達も立ち上がる。
「行くのか?!
では俺が案内を」
「案内はいらない」
黒様は冷たく言い放ち、家から出ていく。
「では連れて行ってくれ!」
その後ろを追いかける空ちゃん。
どうして彼はこんなに必死なんだろう。
「長老、道は」
「ここから西に、ただただ西に進め。
一本道じゃ」
「待てよ!」
最早怒りに駆られている空ちゃん。
「黒鋼さん、どうしてダメなんですか?」
小狼君とサクラちゃんも一緒に行けばいいのに、と思っているのがにじみ出ている。
「……おい」
黒様は家の方、家の西側に目を向ける。
驚いたオレ達もそっちに目を向けると、女性がでてきた。
「嵐、なぜここに……」
まさに、阪神国で出会った嵐さんだ。
どうやらこの国でも、空ちゃんと嵐さんは夫婦らしい。
「一度は死んだ身で、何故生きたい?」
その言葉に、空ちゃんはピクリと反応する。
「死んでもいいから叶えたいと、あの神殿に向かったはずだろう」
その言葉は正しい。
正しいが、胸をえぐるものがある。
「そんな言い方!」
止めようとするサクラちゃんを、小狼君がそっと肩に手を置いて止めた。
「俺は……嵐の病を治したかった」
空ちゃんはじっと足元を見ている。
「生き返ってみると、なぜだか嵐の病が治っている。
奇跡だと思った。
それを知ったら、俺は無性に生きたくなった。
嵐と、ずっと一緒に生きたいと思った」
仕方がないことだと思う。
人は貪欲で、嵐さんの病気を治したいと思ったのは、もちろん楽にしてあげたいからだろうけれど、
一緒に生きていきたいと思ったからだろう。
「だから頼む!
頼むから連れて行ってくれ!」
黒りんはじっと空ちゃんと嵐さんを見つめる。
そして
「お前のようなものを、連れていくつもりはない」
そう言い残して、西に向かって歩き始めてしまった。
オレは小狼君とサクラちゃんに、黒様の後を追うように促す。
2人は不安そうに黒い背中を追いかけた。
「どうして……」
悔しげに唇を噛む空ちゃんの腕に、そっと触れる嵐さん。
「黒様はああ見えてすっごく強いから安心してください」
とりあえずなだめるように言ってみるが、なかなか難しそうだ。
黒様が思っていることもよくわかるけれど、オレには説得が難しい気がする。
なら何で残ったのかと聞かれると答えに困るけれど。
「でも俺は!」
「空汰」
長老さんが静かに呼びかける。
「黒鋼殿の言う通りじゃ。
そなたは行くべきではない」
「長老まで!」
悔しげに顔をゆがめる空ちゃん。
「お前はここで、せねばならないことがある。
分からぬか?」
その言葉に、虚を突かれた顔をする。
嵐さんがきゅっと空ちゃんの手を握り、空ちゃんはそれを見て、じっと考えているようだ。
おまえのような者ーーそれは空ちゃんを貶める言葉なんかじゃなかったんだ。
たぶん、もう大丈夫。
オレはゆっくり西へと歩き始める。
「再び逢うことを許された幸せを、無駄にするでない」
背中で聞く長老の言葉は、ひどく重たい。
そう、人は忘れがちなんだ。
すぐそばにある幸せを。
失わないと分からない幸せを。
空ちゃんみたいに、力量を測れず、望みのために命を落とすことは、黒様はきっと嫌いだ。
隣にいた嵐さんの思いを考えればなおさら。
オレは、あまりに多くのものを失ってきた。
だから忘れることなんてない。
オレが今、それを奪う側に立っているということを。
神にささげる水はそこで汲むことに決まっているのだ」
長老さんの言葉に、小狼君が頷く。
「行き方を教えてください」
真剣な表情。
本当にいい子だ。
羽根と、それからその世界で出会った人のために、本気で頑張れるなんて。
「俺も連れて行ってくれ!
案内する!」
部屋の隅で控えていた空ちゃんが声を上げた。
「必ずあの羽を手に入れて、生きて見せる!」
ずいぶん御執心だ。
頷こうとした小狼君を遮るように、黒様が口を開いた。
「お前を連れていくかは話を全て聞いてからだ」
珍しい、なぜなのだろうか。
こういうことには口を出さない性質で、むしろ放っておけなくて助けてあげることが多いはずなのに。
空ちゃんは黒りんを睨みながらも口を閉じた。
そう、黒たんには不思議と人を黙らせる力がある。
「この国では竜はよく見かける生き物なのか?」
黒たんは何もなかったかのようにそのまま長老に尋ねた。
「それほど頻繁に見かけるわけではないが、生息はしておる」
「この土地に、竜に関する何か伝承が残ってはいないませんか?」
小狼君の問いかけに長老さんはひとつ頷いた。
どうやら黒りんの考勘があたっていたらしい。
「遠い遠い昔のことじゃ。
神の使いとして一頭の竜が仕えておった。
その竜はまだ子どもで、いたずら好きであったが、神は殊に目をかけていたという。
ある日、竜は神が大切にしていたリンゴの木に雷を落としてしまった。
当然木は死んでしまい、神は怒りのあまり大地を陥没させてしまった。
それが西の湖というわけじゃ」
「そのリンゴの木が余程大切だったんですね」
小狼君の呟きに、長老は頷く。
「その子どもの竜はどうなったんですか。」
サクラちゃんが問いかけ、長老は静かに神殿の方を眺めた。
「神のもとを去ったといわれている」
しばらくの沈黙ができた。
「だがそれはおとぎばなしだ」
空ちゃんが沈黙を破る。
「あの竜がその竜だなんてありえない。
必ず羽根を……」
黒たんが立ちあがった。
それにつられてオレ達も立ち上がる。
「行くのか?!
では俺が案内を」
「案内はいらない」
黒様は冷たく言い放ち、家から出ていく。
「では連れて行ってくれ!」
その後ろを追いかける空ちゃん。
どうして彼はこんなに必死なんだろう。
「長老、道は」
「ここから西に、ただただ西に進め。
一本道じゃ」
「待てよ!」
最早怒りに駆られている空ちゃん。
「黒鋼さん、どうしてダメなんですか?」
小狼君とサクラちゃんも一緒に行けばいいのに、と思っているのがにじみ出ている。
「……おい」
黒様は家の方、家の西側に目を向ける。
驚いたオレ達もそっちに目を向けると、女性がでてきた。
「嵐、なぜここに……」
まさに、阪神国で出会った嵐さんだ。
どうやらこの国でも、空ちゃんと嵐さんは夫婦らしい。
「一度は死んだ身で、何故生きたい?」
その言葉に、空ちゃんはピクリと反応する。
「死んでもいいから叶えたいと、あの神殿に向かったはずだろう」
その言葉は正しい。
正しいが、胸をえぐるものがある。
「そんな言い方!」
止めようとするサクラちゃんを、小狼君がそっと肩に手を置いて止めた。
「俺は……嵐の病を治したかった」
空ちゃんはじっと足元を見ている。
「生き返ってみると、なぜだか嵐の病が治っている。
奇跡だと思った。
それを知ったら、俺は無性に生きたくなった。
嵐と、ずっと一緒に生きたいと思った」
仕方がないことだと思う。
人は貪欲で、嵐さんの病気を治したいと思ったのは、もちろん楽にしてあげたいからだろうけれど、
一緒に生きていきたいと思ったからだろう。
「だから頼む!
頼むから連れて行ってくれ!」
黒りんはじっと空ちゃんと嵐さんを見つめる。
そして
「お前のようなものを、連れていくつもりはない」
そう言い残して、西に向かって歩き始めてしまった。
オレは小狼君とサクラちゃんに、黒様の後を追うように促す。
2人は不安そうに黒い背中を追いかけた。
「どうして……」
悔しげに唇を噛む空ちゃんの腕に、そっと触れる嵐さん。
「黒様はああ見えてすっごく強いから安心してください」
とりあえずなだめるように言ってみるが、なかなか難しそうだ。
黒様が思っていることもよくわかるけれど、オレには説得が難しい気がする。
なら何で残ったのかと聞かれると答えに困るけれど。
「でも俺は!」
「空汰」
長老さんが静かに呼びかける。
「黒鋼殿の言う通りじゃ。
そなたは行くべきではない」
「長老まで!」
悔しげに顔をゆがめる空ちゃん。
「お前はここで、せねばならないことがある。
分からぬか?」
その言葉に、虚を突かれた顔をする。
嵐さんがきゅっと空ちゃんの手を握り、空ちゃんはそれを見て、じっと考えているようだ。
おまえのような者ーーそれは空ちゃんを貶める言葉なんかじゃなかったんだ。
たぶん、もう大丈夫。
オレはゆっくり西へと歩き始める。
「再び逢うことを許された幸せを、無駄にするでない」
背中で聞く長老の言葉は、ひどく重たい。
そう、人は忘れがちなんだ。
すぐそばにある幸せを。
失わないと分からない幸せを。
空ちゃんみたいに、力量を測れず、望みのために命を落とすことは、黒様はきっと嫌いだ。
隣にいた嵐さんの思いを考えればなおさら。
オレは、あまりに多くのものを失ってきた。
だから忘れることなんてない。
オレが今、それを奪う側に立っているということを。
