ツァラストラ国2
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「一度下がるぞ。」
土煙の中、少年に叫ぶ。
「でも!」
「あれはただの竜じゃない。
生き物の気配は少し前までなかったのに、お前が羽根を取ろうとしたら急に現れた。」
少年もその奇異性に、一度下がることを納得したようだ。
竜は俺達が手出ししないことが分かったのか、西の方へ飛んで行ってしまった。
新しい気配が近づいてくる。
晴れてきた砂煙の向こうに、男達がいた。
彼らは俺達がいることに気づかなかったようで、驚いている。
「まさかお前たち、あの羽根を狙っているんじゃないだろうな?」
見覚えのある顔だ。
確か阪神国にいた男。
「空太さん・・・。」
少年が呟く。
相手はずいぶんいらだっているようだ。
「どうなんだ!」
少年は少し迷っているようだ。
嘘をつけるタイプでもない。
しかし本当のことを言って、ここで争いを避けることは難しそうだ。
俺は辺りを見回し、一つの可能性にたどり着く。
「俺達は旅をしている。
以前ここに訪れたことがある。
長老に挨拶をしたい。」
俺がそう言うと、男達は少し相談をしてから、ついてこいと言った。
隠れていた少女と青年も戻って来たので、4人と1匹で後をついていく。
村にはずいぶん活気が戻っていた。
それもそうかもしれない。
前に来た時は男達はほとんどいなくなっていたのだから。
(死者は本当に蘇るのか・・・?)
実際に俺が神に対峙したわけではないから本心など分からないが、そんなことは在るはずがない。
邪神がこの土地の人達をだましているのか。
それとも何か条件でもあるのか。
「お久しぶりです。」
少年の声に、長老は淡い笑みを浮かべた。
「戻ってきてくれたのか。」
しかし長老の顔は、どこか疲れていた。
「いったい、何があったのですか?」
少女の問いに、長老はため息をついてから話し始めた。
「かつて願を叶えるために神殿に向かい、命を落としたもの達は、
そなたたちのおかげで命を取り戻すことができた。
だが、そなたたちが消えた後、我等は神から新たなる言葉を授かったのじゃ。
よみがえった魂達は次の新月の夜、無となるであろうと。」
「そんな。」
少女は少しショックを受けたらしい。
失ったままよりも、再び得られたものを失う方がきっと辛い。
「まだ希望はある!」
部屋に今までなかった声がした。
空太だ。
「この人たちが帰ってきてくれたんだ。
後は光る羽根があれば、神殿に羽根をささげ、この娘さんに願ってもらえば、
きっと新たな奇跡が起こるはずだ!
そうすれば俺達は消えずに済むんだ。」
「それじゃあ貴方も・・・。」
少女の呟きに、彼は目をそらす。
死にたくないのだ、もう二度と。
しかしそう簡単には行かないだろう。
「頼む、もう一度、もう一度俺達を助けてくれ!」
空太は少女の前で必死に頭を下げた。
少女は慌ててその体を起こす。
「もちろんです。
頭をあげてください。」
「放っておけないタイプだもんねぇ、サクラちゃん。」
青年がぽつりと呟いた。
「またお前たちを危険な目に合わせてしまうやもしれぬぞ?」
冷静なのは長老だ。
「大丈夫です。
慣れていますから。」
でもそう言って笑顔を見せてしまうのが少年なのだ。
確認を取るように、2人は俺達の方を見た。
彼らがそう言うのだ、つきあわないわけにはいかない。
俺達もひとつ頷いて見せた。
「・・・すまない。
もちろん、全てが終わったら羽根はお返ししよう。」
羽根をささげたところで、きっと助かることがないことは、
俺も青年も、そしてきっと少年も分かっていた。
微かな可能性を信じているのは、この村の人たちと、あとは少女くらいかもしれない。
昔のことを思い出せと言われても、困るものは困る。
ベッドの上で仰向けになりながら、過去を思い出そうとしたが、その記憶は曖昧だ。
美しい青い湖と、美しい母と、頼もしい父がいた。
他にも、父を慕う兵士と、母を助ける女もいた。
村人がいて、豊かな土地だったような気がする。
いつも両親には心配ばかりかけていたかもしれない。
女なのに巫女の力もなく、父の真似をして刀ばかり振り回していた。
思えば母の病状の悪化も心労のせいやもしれないと思ってしまう。
馬鹿だ。
過ぎたことを思っても仕方ないのに。
しかし思い出し始めると、ぽろぽろと思いではよみがえる。
父と釣りに言ったこと。
母の押し寿司がおいしかったこと。
でも病状が悪化すると魚が食べられなくなって。
(そうだ、あの日も、母上は魚が食べられなくて・・・。)
ー私が作ってあげればよかったのだけれど。
貴方も好きでしょう?ー
そう言って、具合が悪いのに笑ってくれたんだ。
その笑顔に連鎖するように、優しい父の顔が思い出された。
ーああ、強くなった。
だからその強さで、お前の愛するものを守れ。ー
あれはいつだったのだろう。
思い出せないけれど、大切な時だった気がする。
(俺に守れるのだろうか・・・。)
あの悲劇の王子を演じつづける青年と、純真な2人の子どもと、おまけの白饅頭。
彼らを、守りたい。
大切な、大切な絆を持つ、仲間だから。
愛する大切な人達だから。
だがどこか嫌な予感がする。
青年は言っていた。
もとにいた国の水底で眠っているやつが目覚めたら追いつかれるかもしれないと。
だから魔法は使わないと決めていると。
それはきっと、魔力を察知されるからだ。
知世も強い巫女ならばどこで力を使っているのか分かるものだと言っていた。
魔力にもきっと同じような効果があるのだろう。
青年は魔力を使った。
たとえ、別系統の魔法であっても、魔力は魔力だ。
つまり、追いつかれる可能性が出てきたということ。
(追いつかれたら、どうなる?)
青年は罪人だったのだろうか。
なぜ世界を離れてまで追われるのだろうか。
その敵は、青年よりも強いのだろうか。
どんな敵なのだろうか。
彼が脅えるほどであれば、かなりのものなのだろうか。
知らねば戦いに備えられない。
結局ここに結論がきてしまう。
(どうしたものか。)
久しぶりに思い出していたからだろうか。
何年かぶりの夢を見た。
青い湖、豊かな緑、風に揺れる花、歌う鳥、舞う蝶。
まるで楽園のような、今は亡き故郷。
俺は湖のほとりでぼんやり青を眺めていた。
その青を誰かに重ねていた。
(誰を思っていたんだろう。)
静かに夜が明けた。
外に出ると、乾いた空気が肺に満ちる。
豊かな土地だった。
今やもう、誰も住んでいないかもしれない。
(確か知世が、亡くなった民を弔うために社を立ててくれたと言っていた。)
俺自身は知世に仕えてからは、訪ねたことはなかった。
訪ねられなかった。
恐ろしい記憶を、蘇らせてしまいそうで。
(そうしたら俺は一歩も進めなくなってしまうと思った。)
「おはよう、黒りんた。」
後ろから声がする。
彼は俺の隣にやってきて、伸びをした。
「んー
良い天気。」
ヘラリと笑う。
呑気な男だ。
こちらはなんとかしたいと気をもんでいるというのに。
「今日はどうするの?」
「竜を探すのが先だ。
気配が独特だったから、もしかしたら傷つけてはいけない者かもしれない。」
「なるほどねぇ。」
青年の顔に射す朝日。
青い瞳に、橙色が光る。
「そういう、傷つけてはいけない者って、黒りんが住んでいたところにいたの?」
「ああ。
日本国には八百万の神がいた。
水にも、土地にも、炎にも神がいて、彼らが俺達が生きることを許してくださっていたから、
彼らを傷つけることは許されることではない。
お前のところにはなかったのか。」
問いかけると興味深そうに聞いていた青年は、首を横に振った。
「なかったよ。
宗教はいくつかあったけど。」
「そうか。」
不思議だ。
世界の成り立ち自体も全く異なっているなんて。
だがそれもそうかもしれない。
魔法を使う国があれば、科学が進歩した国もある。
きっと根本的なところが違っているのだろう。
隣の家からも気配がした。
少年と少女も目を覚ましたようだ。
「おはようございます。」
「おはよー!」
「おはようございます。」
やってくる3人を見る。
朝日は少しずつ眩しさをなくし、辺りに光が満ちてきた。
「おはよー、いい天気だね。」
「はい。」
こんなにも穏やかなのだ、心配いらないと言い聞かせても、
心のどこかで警笛が鳴りやむことはない。
あの口笛の音が、耳から離れない。
土煙の中、少年に叫ぶ。
「でも!」
「あれはただの竜じゃない。
生き物の気配は少し前までなかったのに、お前が羽根を取ろうとしたら急に現れた。」
少年もその奇異性に、一度下がることを納得したようだ。
竜は俺達が手出ししないことが分かったのか、西の方へ飛んで行ってしまった。
新しい気配が近づいてくる。
晴れてきた砂煙の向こうに、男達がいた。
彼らは俺達がいることに気づかなかったようで、驚いている。
「まさかお前たち、あの羽根を狙っているんじゃないだろうな?」
見覚えのある顔だ。
確か阪神国にいた男。
「空太さん・・・。」
少年が呟く。
相手はずいぶんいらだっているようだ。
「どうなんだ!」
少年は少し迷っているようだ。
嘘をつけるタイプでもない。
しかし本当のことを言って、ここで争いを避けることは難しそうだ。
俺は辺りを見回し、一つの可能性にたどり着く。
「俺達は旅をしている。
以前ここに訪れたことがある。
長老に挨拶をしたい。」
俺がそう言うと、男達は少し相談をしてから、ついてこいと言った。
隠れていた少女と青年も戻って来たので、4人と1匹で後をついていく。
村にはずいぶん活気が戻っていた。
それもそうかもしれない。
前に来た時は男達はほとんどいなくなっていたのだから。
(死者は本当に蘇るのか・・・?)
実際に俺が神に対峙したわけではないから本心など分からないが、そんなことは在るはずがない。
邪神がこの土地の人達をだましているのか。
それとも何か条件でもあるのか。
「お久しぶりです。」
少年の声に、長老は淡い笑みを浮かべた。
「戻ってきてくれたのか。」
しかし長老の顔は、どこか疲れていた。
「いったい、何があったのですか?」
少女の問いに、長老はため息をついてから話し始めた。
「かつて願を叶えるために神殿に向かい、命を落としたもの達は、
そなたたちのおかげで命を取り戻すことができた。
だが、そなたたちが消えた後、我等は神から新たなる言葉を授かったのじゃ。
よみがえった魂達は次の新月の夜、無となるであろうと。」
「そんな。」
少女は少しショックを受けたらしい。
失ったままよりも、再び得られたものを失う方がきっと辛い。
「まだ希望はある!」
部屋に今までなかった声がした。
空太だ。
「この人たちが帰ってきてくれたんだ。
後は光る羽根があれば、神殿に羽根をささげ、この娘さんに願ってもらえば、
きっと新たな奇跡が起こるはずだ!
そうすれば俺達は消えずに済むんだ。」
「それじゃあ貴方も・・・。」
少女の呟きに、彼は目をそらす。
死にたくないのだ、もう二度と。
しかしそう簡単には行かないだろう。
「頼む、もう一度、もう一度俺達を助けてくれ!」
空太は少女の前で必死に頭を下げた。
少女は慌ててその体を起こす。
「もちろんです。
頭をあげてください。」
「放っておけないタイプだもんねぇ、サクラちゃん。」
青年がぽつりと呟いた。
「またお前たちを危険な目に合わせてしまうやもしれぬぞ?」
冷静なのは長老だ。
「大丈夫です。
慣れていますから。」
でもそう言って笑顔を見せてしまうのが少年なのだ。
確認を取るように、2人は俺達の方を見た。
彼らがそう言うのだ、つきあわないわけにはいかない。
俺達もひとつ頷いて見せた。
「・・・すまない。
もちろん、全てが終わったら羽根はお返ししよう。」
羽根をささげたところで、きっと助かることがないことは、
俺も青年も、そしてきっと少年も分かっていた。
微かな可能性を信じているのは、この村の人たちと、あとは少女くらいかもしれない。
昔のことを思い出せと言われても、困るものは困る。
ベッドの上で仰向けになりながら、過去を思い出そうとしたが、その記憶は曖昧だ。
美しい青い湖と、美しい母と、頼もしい父がいた。
他にも、父を慕う兵士と、母を助ける女もいた。
村人がいて、豊かな土地だったような気がする。
いつも両親には心配ばかりかけていたかもしれない。
女なのに巫女の力もなく、父の真似をして刀ばかり振り回していた。
思えば母の病状の悪化も心労のせいやもしれないと思ってしまう。
馬鹿だ。
過ぎたことを思っても仕方ないのに。
しかし思い出し始めると、ぽろぽろと思いではよみがえる。
父と釣りに言ったこと。
母の押し寿司がおいしかったこと。
でも病状が悪化すると魚が食べられなくなって。
(そうだ、あの日も、母上は魚が食べられなくて・・・。)
ー私が作ってあげればよかったのだけれど。
貴方も好きでしょう?ー
そう言って、具合が悪いのに笑ってくれたんだ。
その笑顔に連鎖するように、優しい父の顔が思い出された。
ーああ、強くなった。
だからその強さで、お前の愛するものを守れ。ー
あれはいつだったのだろう。
思い出せないけれど、大切な時だった気がする。
(俺に守れるのだろうか・・・。)
あの悲劇の王子を演じつづける青年と、純真な2人の子どもと、おまけの白饅頭。
彼らを、守りたい。
大切な、大切な絆を持つ、仲間だから。
愛する大切な人達だから。
だがどこか嫌な予感がする。
青年は言っていた。
もとにいた国の水底で眠っているやつが目覚めたら追いつかれるかもしれないと。
だから魔法は使わないと決めていると。
それはきっと、魔力を察知されるからだ。
知世も強い巫女ならばどこで力を使っているのか分かるものだと言っていた。
魔力にもきっと同じような効果があるのだろう。
青年は魔力を使った。
たとえ、別系統の魔法であっても、魔力は魔力だ。
つまり、追いつかれる可能性が出てきたということ。
(追いつかれたら、どうなる?)
青年は罪人だったのだろうか。
なぜ世界を離れてまで追われるのだろうか。
その敵は、青年よりも強いのだろうか。
どんな敵なのだろうか。
彼が脅えるほどであれば、かなりのものなのだろうか。
知らねば戦いに備えられない。
結局ここに結論がきてしまう。
(どうしたものか。)
久しぶりに思い出していたからだろうか。
何年かぶりの夢を見た。
青い湖、豊かな緑、風に揺れる花、歌う鳥、舞う蝶。
まるで楽園のような、今は亡き故郷。
俺は湖のほとりでぼんやり青を眺めていた。
その青を誰かに重ねていた。
(誰を思っていたんだろう。)
静かに夜が明けた。
外に出ると、乾いた空気が肺に満ちる。
豊かな土地だった。
今やもう、誰も住んでいないかもしれない。
(確か知世が、亡くなった民を弔うために社を立ててくれたと言っていた。)
俺自身は知世に仕えてからは、訪ねたことはなかった。
訪ねられなかった。
恐ろしい記憶を、蘇らせてしまいそうで。
(そうしたら俺は一歩も進めなくなってしまうと思った。)
「おはよう、黒りんた。」
後ろから声がする。
彼は俺の隣にやってきて、伸びをした。
「んー
良い天気。」
ヘラリと笑う。
呑気な男だ。
こちらはなんとかしたいと気をもんでいるというのに。
「今日はどうするの?」
「竜を探すのが先だ。
気配が独特だったから、もしかしたら傷つけてはいけない者かもしれない。」
「なるほどねぇ。」
青年の顔に射す朝日。
青い瞳に、橙色が光る。
「そういう、傷つけてはいけない者って、黒りんが住んでいたところにいたの?」
「ああ。
日本国には八百万の神がいた。
水にも、土地にも、炎にも神がいて、彼らが俺達が生きることを許してくださっていたから、
彼らを傷つけることは許されることではない。
お前のところにはなかったのか。」
問いかけると興味深そうに聞いていた青年は、首を横に振った。
「なかったよ。
宗教はいくつかあったけど。」
「そうか。」
不思議だ。
世界の成り立ち自体も全く異なっているなんて。
だがそれもそうかもしれない。
魔法を使う国があれば、科学が進歩した国もある。
きっと根本的なところが違っているのだろう。
隣の家からも気配がした。
少年と少女も目を覚ましたようだ。
「おはようございます。」
「おはよー!」
「おはようございます。」
やってくる3人を見る。
朝日は少しずつ眩しさをなくし、辺りに光が満ちてきた。
「おはよー、いい天気だね。」
「はい。」
こんなにも穏やかなのだ、心配いらないと言い聞かせても、
心のどこかで警笛が鳴りやむことはない。
あの口笛の音が、耳から離れない。
