ツァラストラ国2
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「次の世界に到着!」
モコナの声と共にそれぞれその場に構えを解くことなく着地し、辺りに目を光らせる。
ゆっくりと目を開けた姫が小さく微笑んだ。
「綺麗……」
無事に移動ができたことに俺達もほっとして、構えを解く。
「本当にいいところだねぇ。
……天国だったりして」
男はけろりとしてそんなことを言っている。
「縁起でもないこと言うな」
嗜めれば、あの笑顔を張りつけて返した。
「羽根を探すのも大事だけどさ、のんびりできるといいよね。
前の世界は忙しかったし」
「はい」
小僧の表情が暗い。
彼も気にしているようだ。
「ファイ、魔法は使わないんじゃなかったの?」
白饅頭が問いかける。
こいつはどこまでも素直だ。
男にはこのくらいの方がいいのかもしれないと思う。
何もかも隠そうとしても、もう俺達と切り離せない己を痛感するだろう。
「んー
一応今まで使っていたのとは別系統なんだけど」
「魔力は魔力だろう」
「かなぁ」
いつも通りの、張り付けられた笑顔。
彼はいったい、何を隠しているのか。
(いい加減素直になれば良いものを)
「すみません、おれがもっと図書館からの脱出方法を考えていれば」
「小狼君は精一杯やったでしょ?
記憶の羽根も取り戻せたし」
過去を隠して、己を隠して、彼はどこまでも隠すつもりなのかもしれない。
しかし隠している中にも、隠しきれないものもある。
例えば。
(……小僧への気遣い)
「さーて、今日の泊るところ探さないといけないねぇ」
そう言って歩きだすので、俺と小僧は顔を見合わせる。
いつも通りの小僧の優しさにに安堵するが、いつまたあのもうひとつの顔が現れるのか、不安だ。
旅の連れ達の雲行きが、どこか怪しい。
(いつまでも、今までのようでいることはできないのだろうか)
そんな不安は彼らには見せてはいけない。
きっともっと崩れていってしまうから。
「心配するな。
あいつには目を光らせておく」
そう言うと小僧も神妙な顔で頷いた。
俺達は男と姫の後ろを歩く形で草原を進んでいった。
「あの……」
小僧は少しだけ言いにくそうに俺に話しかける。
「黒鋼さんの過去は、確かにたくさんの血が流れていました。
でも、おれは素敵なものにたくさん出会いました」
ちらりと見ると、小僧も俺を見上げていた。
その表情は明るく、温かい。
「だから、もし黒鋼さんがいつかその気になれたら、思い出してみてください。
その方が奥方様も領主様も喜ばれると思うんです」
俺が忘れた記憶を、彼は見た。
そしてその中でまた、彼は何かを感じ、思ったのだろう。
「……分かった」
俺がそう返事をすると、小僧は嬉しそうに笑った。
優しい彼を、このままずっと守りたいと、ただ、そう思った。
「この前の思い出は、私が買っていた砂兎の思い出だったの。
でも……」
小狼のいない記憶を語るサクラちゃん。
しばらく歩いても人の姿が見えなくて、でも羽根の気配はするみたいだから歩いているんだけど、
ちょっと疲れちゃったから休憩だ。
「サクラちゃんって、記憶が戻ってもやっぱり小狼君のことだけ思い出せないんだね」
分かっている。
桜都国でもあった、あの悲しいこと。
思い出そうとしても、それが拒否されてしまう。
サクラちゃんにとっても、小狼君は大切な人だったはずだ。
だからこそ、きっと心が小狼君のことを思い出すことを求めている。
「小僧もわざわざ真っ向から向かっていって思い出話をしなくとも」
黒たんは寂しそうな顔をしてため息をついた。
心配なんだよね、小狼君が傷ついてしまわないか。
こう見えて優しいから。
「小狼君はさ、ああして思い出話をしながらサクラちゃんの記憶がどこまで戻っているか確かめてるんじゃないかな。
本当にけなげだよね、小狼君」
向こうの丘の上でのんびりと思い出話をするサクラちゃんと、笑顔で相槌を打つ小狼君。
穏やかで、優しい昼下がり。
ちょっとお腹はすいたけれど。
「俺はそもそもあの魔女のやり方が気にくわない。
……何か他」
「次元の魔女さんがどうかしたんですか?」
黒様は言葉を切った。
小狼くんがこっちに向かってきたのだ。
小狼君のまでは話すつもりはないようだ。
(なんと言おうとしたんだろう。
何か他に方法はないのか。
何か他の大切なものではいけなかったのか。
それとも、
何か他に目的があるのか……とか)
「なんでもないよ」
オレは笑顔でそう言った。
無駄な心配はしなくていいから。
「感じる!」
モコナがぴょこんと耳を揺らした。
「この近くにサクラの羽根があるの!
だんだん強くなってきている!」
それは迫ってきているということだろうか。
黒様はもう立ち上がって動きだす準備をしている。
サクラちゃんも羽根、と聞いて立ち上がった。
もちろん小狼君も。
「行こう」
先頭を走る小狼君の後を、サクラちゃん、オレ、黒様が追う。
モコナは小狼君の頭の上だ。
「めきょ!
小狼、あれ!」
角のようなものが地面から生えている。
そしてその中に、羽根が光って見えた。
「確かに姫の羽根です!
モコナ、緋炎を!」
小狼君の手に刀が納まり、そして振り上げる。
「き……切れない!」
激しい音を立ててぶつかるも、羽根を取り出すことはできないようだ。
「あの太刀筋では難しいだろう」
隣でぽつりとつぶやく黒たん。
「黒たんがとってあげたら?」
そう言うと、黒様は目を細めて羽根を見つめた。
「……生き物の気配が……強くなってくる」
静かなつぶやきは気配を読んでのことだ。
「白饅頭、刀!」
「はい!」
急に焦ったように発された声に、モコナが慌てて刀を出す。
受け取った黒様は風のように走り出す。
小狼君はといえば、もう一度刀を振り上げて羽根を切り出そうとしている。
「やめろ!」
黒りんの声に振り上げたまま手を止める小狼君。
そして次の瞬間、辺りに光が満ちた。
オレは咄嗟にサクラちゃんを抱き上げて飛びずさる。
辺りに激しい爆発音が響き渡った。
くらんだ目に次第に見えてきたのは、土煙。
「小狼君!黒鋼さん!」
サクラちゃんはレコルト国あたりからずいぶん2人を案じている。
(記憶が増えるほど、悲しいことも、不安だったことも思い出す。
だから、あの危険に飛び込む2人のことが心配になる)
「離れろ!」
煙の向こうから黒たんの声がする。
オレは煙の中に戻ろうとするサクラちゃんを抱き上げる。
「ファイさん!
置いて行くんですか!?」
何を言われても、指示に従うまで。
「違うよ、オレ達は足手まといになっちゃうから。
黒りんなら大丈夫」
再び光が放たれ、爆発音が響いた。
サクラちゃんは驚いてオレにしがみつく。
(怖いのに、戻ろうとするなんて、健気だなぁ)
ぼんやりと思う。
温かくて柔らかい。
まだ大人になりきれていない、サクラちゃん。
(いつまでも、笑っていてほしい)
出来ることなら、ずっと、ずっと。
モコナの声と共にそれぞれその場に構えを解くことなく着地し、辺りに目を光らせる。
ゆっくりと目を開けた姫が小さく微笑んだ。
「綺麗……」
無事に移動ができたことに俺達もほっとして、構えを解く。
「本当にいいところだねぇ。
……天国だったりして」
男はけろりとしてそんなことを言っている。
「縁起でもないこと言うな」
嗜めれば、あの笑顔を張りつけて返した。
「羽根を探すのも大事だけどさ、のんびりできるといいよね。
前の世界は忙しかったし」
「はい」
小僧の表情が暗い。
彼も気にしているようだ。
「ファイ、魔法は使わないんじゃなかったの?」
白饅頭が問いかける。
こいつはどこまでも素直だ。
男にはこのくらいの方がいいのかもしれないと思う。
何もかも隠そうとしても、もう俺達と切り離せない己を痛感するだろう。
「んー
一応今まで使っていたのとは別系統なんだけど」
「魔力は魔力だろう」
「かなぁ」
いつも通りの、張り付けられた笑顔。
彼はいったい、何を隠しているのか。
(いい加減素直になれば良いものを)
「すみません、おれがもっと図書館からの脱出方法を考えていれば」
「小狼君は精一杯やったでしょ?
記憶の羽根も取り戻せたし」
過去を隠して、己を隠して、彼はどこまでも隠すつもりなのかもしれない。
しかし隠している中にも、隠しきれないものもある。
例えば。
(……小僧への気遣い)
「さーて、今日の泊るところ探さないといけないねぇ」
そう言って歩きだすので、俺と小僧は顔を見合わせる。
いつも通りの小僧の優しさにに安堵するが、いつまたあのもうひとつの顔が現れるのか、不安だ。
旅の連れ達の雲行きが、どこか怪しい。
(いつまでも、今までのようでいることはできないのだろうか)
そんな不安は彼らには見せてはいけない。
きっともっと崩れていってしまうから。
「心配するな。
あいつには目を光らせておく」
そう言うと小僧も神妙な顔で頷いた。
俺達は男と姫の後ろを歩く形で草原を進んでいった。
「あの……」
小僧は少しだけ言いにくそうに俺に話しかける。
「黒鋼さんの過去は、確かにたくさんの血が流れていました。
でも、おれは素敵なものにたくさん出会いました」
ちらりと見ると、小僧も俺を見上げていた。
その表情は明るく、温かい。
「だから、もし黒鋼さんがいつかその気になれたら、思い出してみてください。
その方が奥方様も領主様も喜ばれると思うんです」
俺が忘れた記憶を、彼は見た。
そしてその中でまた、彼は何かを感じ、思ったのだろう。
「……分かった」
俺がそう返事をすると、小僧は嬉しそうに笑った。
優しい彼を、このままずっと守りたいと、ただ、そう思った。
「この前の思い出は、私が買っていた砂兎の思い出だったの。
でも……」
小狼のいない記憶を語るサクラちゃん。
しばらく歩いても人の姿が見えなくて、でも羽根の気配はするみたいだから歩いているんだけど、
ちょっと疲れちゃったから休憩だ。
「サクラちゃんって、記憶が戻ってもやっぱり小狼君のことだけ思い出せないんだね」
分かっている。
桜都国でもあった、あの悲しいこと。
思い出そうとしても、それが拒否されてしまう。
サクラちゃんにとっても、小狼君は大切な人だったはずだ。
だからこそ、きっと心が小狼君のことを思い出すことを求めている。
「小僧もわざわざ真っ向から向かっていって思い出話をしなくとも」
黒たんは寂しそうな顔をしてため息をついた。
心配なんだよね、小狼君が傷ついてしまわないか。
こう見えて優しいから。
「小狼君はさ、ああして思い出話をしながらサクラちゃんの記憶がどこまで戻っているか確かめてるんじゃないかな。
本当にけなげだよね、小狼君」
向こうの丘の上でのんびりと思い出話をするサクラちゃんと、笑顔で相槌を打つ小狼君。
穏やかで、優しい昼下がり。
ちょっとお腹はすいたけれど。
「俺はそもそもあの魔女のやり方が気にくわない。
……何か他」
「次元の魔女さんがどうかしたんですか?」
黒様は言葉を切った。
小狼くんがこっちに向かってきたのだ。
小狼君のまでは話すつもりはないようだ。
(なんと言おうとしたんだろう。
何か他に方法はないのか。
何か他の大切なものではいけなかったのか。
それとも、
何か他に目的があるのか……とか)
「なんでもないよ」
オレは笑顔でそう言った。
無駄な心配はしなくていいから。
「感じる!」
モコナがぴょこんと耳を揺らした。
「この近くにサクラの羽根があるの!
だんだん強くなってきている!」
それは迫ってきているということだろうか。
黒様はもう立ち上がって動きだす準備をしている。
サクラちゃんも羽根、と聞いて立ち上がった。
もちろん小狼君も。
「行こう」
先頭を走る小狼君の後を、サクラちゃん、オレ、黒様が追う。
モコナは小狼君の頭の上だ。
「めきょ!
小狼、あれ!」
角のようなものが地面から生えている。
そしてその中に、羽根が光って見えた。
「確かに姫の羽根です!
モコナ、緋炎を!」
小狼君の手に刀が納まり、そして振り上げる。
「き……切れない!」
激しい音を立ててぶつかるも、羽根を取り出すことはできないようだ。
「あの太刀筋では難しいだろう」
隣でぽつりとつぶやく黒たん。
「黒たんがとってあげたら?」
そう言うと、黒様は目を細めて羽根を見つめた。
「……生き物の気配が……強くなってくる」
静かなつぶやきは気配を読んでのことだ。
「白饅頭、刀!」
「はい!」
急に焦ったように発された声に、モコナが慌てて刀を出す。
受け取った黒様は風のように走り出す。
小狼君はといえば、もう一度刀を振り上げて羽根を切り出そうとしている。
「やめろ!」
黒りんの声に振り上げたまま手を止める小狼君。
そして次の瞬間、辺りに光が満ちた。
オレは咄嗟にサクラちゃんを抱き上げて飛びずさる。
辺りに激しい爆発音が響き渡った。
くらんだ目に次第に見えてきたのは、土煙。
「小狼君!黒鋼さん!」
サクラちゃんはレコルト国あたりからずいぶん2人を案じている。
(記憶が増えるほど、悲しいことも、不安だったことも思い出す。
だから、あの危険に飛び込む2人のことが心配になる)
「離れろ!」
煙の向こうから黒たんの声がする。
オレは煙の中に戻ろうとするサクラちゃんを抱き上げる。
「ファイさん!
置いて行くんですか!?」
何を言われても、指示に従うまで。
「違うよ、オレ達は足手まといになっちゃうから。
黒りんなら大丈夫」
再び光が放たれ、爆発音が響いた。
サクラちゃんは驚いてオレにしがみつく。
(怖いのに、戻ろうとするなんて、健気だなぁ)
ぼんやりと思う。
温かくて柔らかい。
まだ大人になりきれていない、サクラちゃん。
(いつまでも、笑っていてほしい)
出来ることなら、ずっと、ずっと。
