レコルト国
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中央図書館までは空飛ぶ電車に乗っていくらしい。
滑るように走り出した電車の中、2人ずつ向かい合って腰かける。
窓の外ではどんどん街並みが小さくなっていて、とても不思議な景色だ。
「うわーお空飛んでる!」
興奮気味のモコちゃん。
「これも魔術で飛んでるんだねぇ」
楽しげに眺めるファイさん。
「魔術っていろんなことができるんですね」
興味深々の小狼君。
そして、いつも通り表情のない黒鋼さんは、聞いていないようでちゃんと会話を聞いている。
楽しく弾む会話。
小狼君も今は笑顔を見せてくれているけれど、昨日図書館で見た泣き顔を、私は忘れられない。
あんなにつらそうに涙を流すなんて、きっと見たくない記憶を見たんだろう。
つまりそれは。
(黒鋼さんが見せたくないと思うような……)
そう思うと胸が痛い。
いつもそうだ。
黒鋼さんが最前線に出て傷ついて、小狼君やファイさんが私を傍で守ってくれている。
そしてこの旅の目的が、私の羽根を集めることになってしまっている気がする。
初めは、2人には確かにあったのだ。
黒鋼さんは元の世界に戻るという、ファイさんは元の世界には戻らないという、大切な目的が。
確かにそれは私の羽根を探しながらでも出来ることだけれど、いつの間にか私の羽根を見つけることにばかりみんな気を回している。
それはとてもありがたいことで、嬉しいことだけれど。
(……私の羽根は、人を傷つけることもある)
何故だかわからないけれど、私の記憶の羽根には強い魔力があって、いつも事件の発端になってばかり。
昨夜だって、黒鋼さんはああ言ってくれたから、本当は笑顔で恩返しを出来るように頑張らないといけないと分かっている。
小狼君だってもう吹っ切れたみたいだから、気にしちゃいけないって分かってる。
それでも胸の内にはやはりもやもやしたものがある。
(小狼君のあんな顔……もう見たくない)
どうしたらいいのか分からなくなってしまう。
黒鋼さんはいつも今を見て、先を見ている。
過去はどこに置いてきたんだろうと、思ってしまうほど。
——……俺にはもう過去なんていらないと思った。
苦しいことは忘れて、今守れるものを守ると誓った——
それはとても強いことであり、弱いことでもあるのかもしれない。
自分のできる限りをするための選択と言えばそうであるが、今まであったことを自分の中でなかったことにしてしまうということだ。
(それは……悲しい)
——大切なのは、過去なのか——
ジェイド国で黒鋼さんが私に問うた。
私は確か、今が大事と答えた。
黒鋼さんと、ファイさんと、モコちゃんと、それから小狼君と旅をするこの生活がとても幸せだから。
それは、過去を思い出せない不安を、忘れてしまうほど。
「サクラ姫?」
小狼君が不安そうに私の顔を覗き込んだ。
「ううん、何でもないの」
考え込んでしまっていたから、心配をかけてしまったみたい。
「着いたみたいだよ」
電車を降りていくファイさん。
その後ろを小狼君がついていく。
(……どうしていつも、辛い思いをしても、私のために羽根を探してくれるの?)
不意に肩に温もりが触れ、驚く。
黒鋼さんだ。
「体調が悪いのか?」
感情が見えにくい紅い目だけれど、本当はとても温かいことを私たちはもう知っている。
こんなに大人なのに、いつも私たちを守ってくれるのに、いつも甘えてしまっているのに、この人もまだ、乗り越えなければならない過去があることも。
「いいえ、ちょっと眠かっただけです」
笑ってみせると黒鋼さんは頷く。
「心配するな。
小僧も、必ず守る」
この人はいつも守ってくれる。
私たちを、痛みから、苦しみから、全力で。
いつも、いつも。
でも黒鋼さんを守ってくれる人は、たぶんいない。
それでも。
「……ありがとうございます」
無力な私には、笑顔でそう言うことしかできない。
そしてそう言うことが、彼女を安心させる唯一の方法だと、思っていた。
電車を降りると、大きな建物が湖の中央に見えた。
「あれが中央図書館」
「大きい」
サクラちゃんも小狼君もびっくりしているみたいだ。
湖をボートのようなもので渡って、入口に続く階段にたどり着く。
きっとすごいお宝がたくさんあるから、こんな不便にしてあるんだろうなぁと思う。
不意にオレ達の前に大きな羽根の生えたライオンが現れた。
その大きさは驚くほどのもので、思わず黒様がオレ達をかばって前に飛び出たくらい。
燃えるような鬣と、地に響くような声は、小さい子では泣いてしまうだろう。
彼らが町で聞いた、「すごい番犬」だ。
番犬につまみ出されることもなく、無事に総合案内所に辿りつく。
ここは小狼君にお任せだ。
「すみません、『記憶の本』の原本を借りたいのですが」
「その本は貸出し禁止となっています」
案内所のお姉さんは淡々と返した。
「貸出し禁止!?」
思わず小狼君が聞き直してしまった。
「『記憶の本』はレコルト国の国宝書に指定されていますので、この中央図書館から持ち出すことはできません」
「では閲覧させてください」
「それもできません。
強い魔力の宿っている本で、何度も盗難されかけましたから。
入口番犬などのとソルダ―機能が全て捕まえましたが」
お姉さんが立ち上がった。
何かもしかしてまずいかも?
「もちろん複本はありますのでそちらをどうぞ」
間違いなく怪しまれてしまっている。
「……ありがとうございました」
どうしようもなく、オレたちは館内をぐるっと一周して、中庭に出た。
「見せてもらえないなんて」
「こまったねぇ」
のんびり声をかける。
「それでも取り戻します」
小狼君は俯き加減に、難しい顔をして答える。
「どうやって?」
黒様はじっとそんな小狼君を見つめた。
しばらくたって上げた顔は、きりりとしていて。
「盗みます」
ちょっとドキドキすることを言ってくれる。
結局オレ達はもう一度館内を回りながら、モコナに一番サクラちゃんの羽根の波動を感じるところまで案内してもらうことにした。
まずは場所を特定しないと始まらないからね。
黒たんはさっきから、辺りを見ている風を装いつつも、サクラちゃんと小狼君をずっと気にしている。
そんな黒たんが気になって、オレは声をかけた。
「どうかした?」
黒たんはじっとサクラちゃんを見る。
「姫を、頼む」
そう言えば、今日はサクラちゃん、ちょっと不安そうに小狼君を見ているなぁと思う。
「黒りんは?」
すっと小狼君を見た。
なるほど、役割分担ね。
「りょーかい」
いつまで続くか分からない旅だけど、いまだけでも心安らかにいたいもんね。
