レコルト国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「どうしたの、小狼君?
小狼君!?」
サクラちゃんの困惑した声がして、2人のいる方に駆け寄る。
黒様も向こうから駆けてきた。
「小狼君、小狼君!!」
サクラちゃんの声が聞こえていない様子の小狼君は、本を手にしたまま涙を流していた。
その本は淡く光っていて、魔法の力が発動していることが分かる。
サクラちゃんとモコナが小狼君が手にしている本を取ろうと引っ張るけど、びくともしない。
オレもやってみるけど。
「……離れない」
すっと手が伸びて、本に細い手がかかる。
次の瞬間、光が急に強くなって、本が小狼君の手から離れた。
倒れていく小狼君の手を、細い手が、黒りんがつかんだ。
「……黒鋼さん……」
震える声で、小狼君が名を呼ぶ。
「ごめんなさい……」
そのまま気を失ってしまったみたいだ。
いったい何が起こったのだろうか。
黒りんも首をかしげながら、そっと抱き上げる。
腕の中の小狼君はひどくつらそうな顔をしている。
オレ達に気づいた係りのお姉さんが来てくれた。
「どうかしましたか?」
「実はこの本を読んでいたら、彼、なんか泣いちゃってて、声かけても反応しなくなっちゃったんです。
で、あの人が本を引っ張ったら意識が戻ったみたいなんですけど、気を失っちゃって」
とりあえずオレが説明をすると、お姉さんははっとした顔になる。
「こちらの本が何か、ご存じなかったのでしょうか?」
「ええ」
お姉さんは少し考えるそぶりを見せ、それから少し歩きだした。
「医務室へどうぞ。
そちらでお話しします」
図書館の奥に進み、扉を出て、廊下を通り、奥の部屋につく。
中のベッドに小狼君を寝かせるけれど、起きる気配はない。
黒様はどこか不安げだ。
「あの本は、記憶の本と呼ばれています。
手にした者の記憶を写し取って、次に開いたものにそれを見せる本なのです」
小狼君は泣いていた。
辛そうな顔をして。
きっとその理由は、見た記憶の中にある。
つまり。
「あの本を彼に渡されたのは、どなたですか?」
女の人が静かに尋ねた。
「……俺だ」
オレは静かに目を伏せ、サクラちゃんは驚いたように目を見開いた。
お姉さんはすまなそうに頭を下げ、席を立とうとした。
「……あの本は……」
黒様がお姉さんに声をかける。
気まずそうに振り返るお姉さんの傍に、黒様は歩みよった。
真剣な紅い眼差しが向けられ、お姉さんはたじろぐ。
「あの本は、いつどこで作られた?」
「……展示されていた本自体はそれほど古いものではありませんが、原本は900年ほど前です」
「原本はどこに?」
「中央図書館です」
「そうか、ありがとう」
お姉さんはぺこりと一礼してその場から立ち去り、重い沈黙が訪れる。
皆互いに口を開くことを躊躇していた。
その沈黙を破ったのは黒たんだった。
「俺の記憶は、ほとんどが血生臭いものだ。
……忍、だからな」
紅い目は、じっと小狼君を見つめている。
「記憶のどこをとっても残酷だ。
俺自身もあまり覚えていない程に」
紅い目は静かに閉じられ、黒様は小さくため息をついた。
やはり血生臭い過去は忘れたいものだ。
オレも同じで、昔のことなんてあまり覚えていない。
気づいたら忘れているのだ。
あるのはおぼろげな記憶ばかり。
「それを見てしまったんだ。
無理はない」
サクラちゃんはきゅっとモコナを抱きしめている。
記憶を失った者と、記憶を失いたい者。
世の中いろんなことがある。
求めるもの、疎まれるもの……まったく訳が分からない。
だから、オレ達は旅をしている。
訳の分からない運命に、絡め取られて。
「……すまない」
黒りんの謝罪に、オレ達は驚いて顔を上げる。
「俺の不注意だ」
珍しく情けなく垂れた眉。
まさか自分の記憶のせいで誰かが辛い思いをするなんて、誰も思いはしない。
サクラちゃんが一生懸命首を横に振った。
「黒鋼さんのせいじゃないです!
誰も悪くない……悪いとすればあの悲しい本です」
確かに悲しい本かもしれない。
楽しい記憶も、苦しい記憶も、写し取って他人に見せる。
そこに本当は何もないのに、ただただ写して見せる。
何故そんな虚しい本を作ったんだろう。
黒様は何か少し考えているようだ。
「……本は悪くない。
作者におそらく悪意はないだろう」
優しくサクラちゃんの頭を撫でる。
その左手の甲には、パックリと割れていたであろう大きな傷がある。
手のひらにも同じ傷があったから、昔貫通したんだろう。
彼女の口ぶりはどこか意味深で、偶然なんてこの世にはない、あるのは必然だけ、なんて言葉を思い出す。
そしてオレもひとつ思い至った。
記憶に関連する性質、そしてあの本の表紙の模様。
(サクラちゃんの羽根に関係しているのかもしれない)
サクラちゃんはこのことを知ったら傷つくに違いない。
だから黒りんは自分のせいだと言ったのだろう。
だとしたら、本当に悲しいのはオレ達だ。
みんな、過去に、記憶にとらわれていて、離れることはできない。
「そうだね。
悪いのは黒ぴーだ」
オレがふざけてそう言うと、黒様はいつもの無表情に戻った。
「お前に言われたくない」
そんな言い合いをしていると、サクラちゃんが小さく声を上げた。
「小狼君?」
どうやら目を覚ましたらしい。
「大丈夫?
気分悪い?」
サクラちゃんの問いかけに、小狼君は首を振る。
オレもベッドの傍に寄った。
「ここは図書館の医務室だよ。
係りの人に教えてもらって、黒様が運んでくれたんだ」
小狼君は誰かを探しているようだ。
その人は一人しかいないけれど。
「……黒鋼さん、話があるんです」
壁にもたれたままの黒りんは静かに頷いた。
「じゃあオレ達はちょっと出ていようか」
サクラちゃんとモコナを外に連れ出す。
サクラちゃんの方はオレの仕事。
小狼君の方は黒たんの仕事。
心配そうに部屋を振りかえるサクラちゃん。
「大丈夫だよ、黒様がついているから。
オレ達はその間に、羽根を探さないとね」
そう声をかければ、彼女はオレを見上げて笑って見せた。
まだ少し不安そうだけど。
「……はい」
あっちもこっちも、本当に大変なんだ。
この旅は。
「確かに俺の過去だ」
黒鋼さんは静かにそう言った。
おれは布団から身体を起こした。
「……すみませんでした。
勝手に黒鋼さんの過去を見てしまって」
頭を下げる。
黒鋼さんが首を振る気配がした。
「望んで見たわけではないだろう」
「でも……」
「俺もあまり覚えていないんだ。
血生臭いものだから。
俺の方こそ不注意だった、悪かったな」
どこか遠くを眺める黒鋼さんに、おれは首を振る。
違う、黒鋼さんは悪くない。
辛くて、苦しんで、そして今の黒鋼さんがある。
それを見てしまったおれが、見てほしいはずのないあの過去を見たおれが悪いんだ。
たとえ黒鋼さんがあまり覚えていなくても、あの記憶は見ていい物じゃない。
大切な優しい思い出も、あの血の匂いも、苦しい涙も。
「黒鋼さんの思い出は、黒鋼さんだけのものなのに!」
奥方様と、領主さまの笑顔も。
「そうだ」
黒鋼さんの手が、無意識に胸元を握りしめていたおれの手をそっと握った。
知世姫に貫かれた、左手がそっと俺の左手を包む。
「だから、知ってしまったからと言って、俺の過去をお前が背負い込むことはない」
紅い目は優しかった。
その優しさは、昔から何一つ変わってはいない。
この人は今のおれよりも幼い頃から、人を守ってきた。
ずっとずっと守って、だからこんなに安心できるのかもしれない。
小狼君!?」
サクラちゃんの困惑した声がして、2人のいる方に駆け寄る。
黒様も向こうから駆けてきた。
「小狼君、小狼君!!」
サクラちゃんの声が聞こえていない様子の小狼君は、本を手にしたまま涙を流していた。
その本は淡く光っていて、魔法の力が発動していることが分かる。
サクラちゃんとモコナが小狼君が手にしている本を取ろうと引っ張るけど、びくともしない。
オレもやってみるけど。
「……離れない」
すっと手が伸びて、本に細い手がかかる。
次の瞬間、光が急に強くなって、本が小狼君の手から離れた。
倒れていく小狼君の手を、細い手が、黒りんがつかんだ。
「……黒鋼さん……」
震える声で、小狼君が名を呼ぶ。
「ごめんなさい……」
そのまま気を失ってしまったみたいだ。
いったい何が起こったのだろうか。
黒りんも首をかしげながら、そっと抱き上げる。
腕の中の小狼君はひどくつらそうな顔をしている。
オレ達に気づいた係りのお姉さんが来てくれた。
「どうかしましたか?」
「実はこの本を読んでいたら、彼、なんか泣いちゃってて、声かけても反応しなくなっちゃったんです。
で、あの人が本を引っ張ったら意識が戻ったみたいなんですけど、気を失っちゃって」
とりあえずオレが説明をすると、お姉さんははっとした顔になる。
「こちらの本が何か、ご存じなかったのでしょうか?」
「ええ」
お姉さんは少し考えるそぶりを見せ、それから少し歩きだした。
「医務室へどうぞ。
そちらでお話しします」
図書館の奥に進み、扉を出て、廊下を通り、奥の部屋につく。
中のベッドに小狼君を寝かせるけれど、起きる気配はない。
黒様はどこか不安げだ。
「あの本は、記憶の本と呼ばれています。
手にした者の記憶を写し取って、次に開いたものにそれを見せる本なのです」
小狼君は泣いていた。
辛そうな顔をして。
きっとその理由は、見た記憶の中にある。
つまり。
「あの本を彼に渡されたのは、どなたですか?」
女の人が静かに尋ねた。
「……俺だ」
オレは静かに目を伏せ、サクラちゃんは驚いたように目を見開いた。
お姉さんはすまなそうに頭を下げ、席を立とうとした。
「……あの本は……」
黒様がお姉さんに声をかける。
気まずそうに振り返るお姉さんの傍に、黒様は歩みよった。
真剣な紅い眼差しが向けられ、お姉さんはたじろぐ。
「あの本は、いつどこで作られた?」
「……展示されていた本自体はそれほど古いものではありませんが、原本は900年ほど前です」
「原本はどこに?」
「中央図書館です」
「そうか、ありがとう」
お姉さんはぺこりと一礼してその場から立ち去り、重い沈黙が訪れる。
皆互いに口を開くことを躊躇していた。
その沈黙を破ったのは黒たんだった。
「俺の記憶は、ほとんどが血生臭いものだ。
……忍、だからな」
紅い目は、じっと小狼君を見つめている。
「記憶のどこをとっても残酷だ。
俺自身もあまり覚えていない程に」
紅い目は静かに閉じられ、黒様は小さくため息をついた。
やはり血生臭い過去は忘れたいものだ。
オレも同じで、昔のことなんてあまり覚えていない。
気づいたら忘れているのだ。
あるのはおぼろげな記憶ばかり。
「それを見てしまったんだ。
無理はない」
サクラちゃんはきゅっとモコナを抱きしめている。
記憶を失った者と、記憶を失いたい者。
世の中いろんなことがある。
求めるもの、疎まれるもの……まったく訳が分からない。
だから、オレ達は旅をしている。
訳の分からない運命に、絡め取られて。
「……すまない」
黒りんの謝罪に、オレ達は驚いて顔を上げる。
「俺の不注意だ」
珍しく情けなく垂れた眉。
まさか自分の記憶のせいで誰かが辛い思いをするなんて、誰も思いはしない。
サクラちゃんが一生懸命首を横に振った。
「黒鋼さんのせいじゃないです!
誰も悪くない……悪いとすればあの悲しい本です」
確かに悲しい本かもしれない。
楽しい記憶も、苦しい記憶も、写し取って他人に見せる。
そこに本当は何もないのに、ただただ写して見せる。
何故そんな虚しい本を作ったんだろう。
黒様は何か少し考えているようだ。
「……本は悪くない。
作者におそらく悪意はないだろう」
優しくサクラちゃんの頭を撫でる。
その左手の甲には、パックリと割れていたであろう大きな傷がある。
手のひらにも同じ傷があったから、昔貫通したんだろう。
彼女の口ぶりはどこか意味深で、偶然なんてこの世にはない、あるのは必然だけ、なんて言葉を思い出す。
そしてオレもひとつ思い至った。
記憶に関連する性質、そしてあの本の表紙の模様。
(サクラちゃんの羽根に関係しているのかもしれない)
サクラちゃんはこのことを知ったら傷つくに違いない。
だから黒りんは自分のせいだと言ったのだろう。
だとしたら、本当に悲しいのはオレ達だ。
みんな、過去に、記憶にとらわれていて、離れることはできない。
「そうだね。
悪いのは黒ぴーだ」
オレがふざけてそう言うと、黒様はいつもの無表情に戻った。
「お前に言われたくない」
そんな言い合いをしていると、サクラちゃんが小さく声を上げた。
「小狼君?」
どうやら目を覚ましたらしい。
「大丈夫?
気分悪い?」
サクラちゃんの問いかけに、小狼君は首を振る。
オレもベッドの傍に寄った。
「ここは図書館の医務室だよ。
係りの人に教えてもらって、黒様が運んでくれたんだ」
小狼君は誰かを探しているようだ。
その人は一人しかいないけれど。
「……黒鋼さん、話があるんです」
壁にもたれたままの黒りんは静かに頷いた。
「じゃあオレ達はちょっと出ていようか」
サクラちゃんとモコナを外に連れ出す。
サクラちゃんの方はオレの仕事。
小狼君の方は黒たんの仕事。
心配そうに部屋を振りかえるサクラちゃん。
「大丈夫だよ、黒様がついているから。
オレ達はその間に、羽根を探さないとね」
そう声をかければ、彼女はオレを見上げて笑って見せた。
まだ少し不安そうだけど。
「……はい」
あっちもこっちも、本当に大変なんだ。
この旅は。
「確かに俺の過去だ」
黒鋼さんは静かにそう言った。
おれは布団から身体を起こした。
「……すみませんでした。
勝手に黒鋼さんの過去を見てしまって」
頭を下げる。
黒鋼さんが首を振る気配がした。
「望んで見たわけではないだろう」
「でも……」
「俺もあまり覚えていないんだ。
血生臭いものだから。
俺の方こそ不注意だった、悪かったな」
どこか遠くを眺める黒鋼さんに、おれは首を振る。
違う、黒鋼さんは悪くない。
辛くて、苦しんで、そして今の黒鋼さんがある。
それを見てしまったおれが、見てほしいはずのないあの過去を見たおれが悪いんだ。
たとえ黒鋼さんがあまり覚えていなくても、あの記憶は見ていい物じゃない。
大切な優しい思い出も、あの血の匂いも、苦しい涙も。
「黒鋼さんの思い出は、黒鋼さんだけのものなのに!」
奥方様と、領主さまの笑顔も。
「そうだ」
黒鋼さんの手が、無意識に胸元を握りしめていたおれの手をそっと握った。
知世姫に貫かれた、左手がそっと俺の左手を包む。
「だから、知ってしまったからと言って、俺の過去をお前が背負い込むことはない」
紅い目は優しかった。
その優しさは、昔から何一つ変わってはいない。
この人は今のおれよりも幼い頃から、人を守ってきた。
ずっとずっと守って、だからこんなに安心できるのかもしれない。
