レコルト国
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「破魔・竜王刃!」
ごうっと風が起きる。
一撃で魔物が倒れ伏した。
それはそれだけ鷹王が強くなったということ。
「お見事です、若」
隻眼の家臣が満足げに微笑む。
しかし鷹王はどこか納得のいかない様子だ。
「ありがとうございます!
若様!」
村人たちが嬉しそうに駆けよってくる。
「怪我はなかったか?」
納得のいかない表情をすぐに引っ込めて、笑顔を見せる。
12,3歳の子どもとは思えない大人の対応だ。
その姿は、どこか黒鋼さんを思い出させた。
(本当に、いつも大人だった。
何歩も先を歩く背中ばかり見ていた)
「なに、こんな傷舐めときゃ治ります!」
民たちもそんな鷹王にずいぶん心を許しているようだ。
「すまない、俺がもっと早く着いていれば」
苦笑を見せる鷹王。
「何をおっしゃる!」
村人たちは首を振った。
「御領主と若様が魔物を倒してくださるから、ここで住んでいけるんです!
巫女である奥方様もだ!」
鷹王は何かを思い出したかのように顔を上げた。
「みんな……」
ギュッと刀を握る。
(鷹王はもっと強くなる、きっと)
小さな少女が鷹王のもとに駆け寄る。
「あのあの若様、これを奥方様の御寝所に飾ってください。
奥方様が早く良くなられますように」
鷹王は片膝をついて、少女と視線を合わせた。
そしてそっと差し出された花束を握る。
「……ありがとう」
その後、花を持って鷹王は戻った。
頼まれた通り、奥方様の寝所に花を飾る。
それから鍛錬のため外に出て、汗を流してから帰ってきた。
家に近づくとどこか騒がしい。
嫌な予感がしたのか、鷹王は駆けだした。
「領主!
治療が先です!」
家の中を走っていくと室内から焦った声が漏れてくる。
「大きな声を出すな、鷹王に」
(知られたくないのか)
嫌な予感は当たるもので、鷹王が開けた部屋の中には傷だらけの領主と、その部下たちがいた。
その姿は鷹王には衝撃的だったようだ。
「父上!!」
「ほら見つかったじゃないか」
目を見開き、青ざめる鷹王に、笑って見せる領主。
「刀が折れている……
今回討伐に向かった魔物はそんなに強いのか?」
鷹王はひどく焦っていた。
諏訪で最も強い男が、それも父親が、傷だらけなのだ。
当たり前と言えば当たり前で。
「まぁな。
怪我したことは母上には内緒だぞ。
格好悪いからな」
大きな手が、鷹王の頭にぽんと乗った。
「じゃあいってくるぞ、我が子よ」
どこか穏やかなまでの領主に、鷹王は目を見開く。
きっと感じたのだ。
領主の決意を。
(死んでも守り抜くという、意志を)
「先に治療を!
薬、いや医者だ!」
侍女が慌てて部屋を出る。
その後を追って出ようとする領主の腕に鷹王はすがる。
「父上!」
「いい、すぐに出る。
ちょっと取るものがあって戻っただけなんだ」
哀しいまでにすれ違った会話。
鷹王がそんな返事を欲しているのではないことは、領主は知っている。
しかし、彼は鷹王の父親として今在るわけではない。
(……これが、領主)
空いた襖の奥から、隻眼の家臣が刀を持って現れた。
恭しく領主にさしだされる刀。
鷹王は驚いたようにそれを見つめる。
「それは!」
「我が家の家宝、銀龍」
(あれは黒鋼さんが持っていた刀!)
ーなっ!
こ……これだけはだめだ!ー
旅の初めの日にそう言って拒否していた、次元の魔女さんに対価として渡した、何よりも大切なもの。
「銀龍を連れて行かないといけないほどの魔物なのか!?」
「ああ。
だが、必ず倒すさ」
その気迫に、鷹王は自然と唾を飲み込んだ。
「いけませんわ」
不意に聞こえた声に、誰もがそちらを見た。
「母上!」
鷹王はまた焦ったように、そしてどこかすがるように奥方様を見た。
「家宝をお持ちになるのに、私をお呼びにならないなんて、いけません」
領主様は一瞬切なげに眼を細めた。
本当は、鷹王にも奥方様にも会わないつもりだったのだろう。
(会えば、別れがつらくなるから。
決心は決して揺るいではならないから)
「昔からそうだったな、奥は無茶ばかりする」
「それは貴方もでしょう」
鷹王は今も目を見開いている。
彼女もまた、悟ったのだろう。
両親の、決意を。
領主と巫女の、あるべき姿を。
「巫女の祝詞を」
領主様が銀龍を抜く。
巫女様が枝を取り、ふわりと降ろした。
「諏訪を護る
水を統べ
天翔る龍よ
その名を戴し
家宝を持つ者を守り
この諏訪を守り賜え」
剣と枝がまばゆいばかりに光を放つ。
そして、領主様は剣を柄に収めた。
「出る」
ひと房の髪に唇を落とす。
「御武運を」
それは初めて見た時と何一つ変わらない、穏やかで温かな夫婦だった。
これほど痛々しい姿なのに。
領主の指先を、艶やかな奥方様の髪が滑り落ちた。
領主様が部屋を出る。
その後を鷹王は駆けていく。
「俺も行く!」
「残れ」
「嫌だ!
俺も少しは強くなった!
一緒に戦える!」
初めて会った時、まだ領主さまの膝に簡単に座りこめてしまうほど小さかった若姫様は、
今や立派な風格を備えつつある。
確かに一緒に行けば心強いだろう。
領主様はやはり穏やかに鷹王を見下ろし、その頭を優しく撫でた。
「ああ、強くなった。
だからその強さで、お前の愛するものを守れ」
それは偉大な父の姿だった。
だが鷹王は唇を噛む。
(鷹王は、誰よりも、貴方と奥方様を愛しているのに)
「……父上、俺は」
「二度は言わん!」
鋭い声に、鷹王はぎゅっと目を瞑り、慌てて開いた。
きっと、父の姿を1秒でも長く目に焼き付けたいのだろう。
そんな彼女の頭をくしゃっと撫でるのを最後に、父は背中を向けた。
彼の領主として免れない責務の中での、唯一の願いは、彼女の命かもしれない。
遠のいていく馬を、鷹王はじっと見送った。
目に焼き付けるかのように。
「きゃあああ!」
切り裂くような侍女の悲鳴に、鷹王は慌てて室内へと引き返す。
「母上!」
領主のいなくなった部屋に、また新しく血を吐きながら、奥方様は倒れていた。
鷹王は慌てて奥方様を抱き起こす。
「寝所に医者を!」
「いいえ、私を祷場へ」
「こんなお身体で!」
「先ほどまで伏せていらしたのに!」
侍女も達不安を隠しきれない。
「領主の出陣です。
そしてこれからこの国を、みなを守るために戦われる。
その勝利を祈り、結界を守るのが巫女の務め」
美しい決意のこもった瞳に、鷹王は唇をかみしめた。
ジワリと白い歯のふちに赤がにじむ。
(……また、血が流れた)
鷹王の心中は、おれが想像するだけでも苦しすぎる。
どれほど父を追いかけたかっただろう。
どれほど母に代わりたかっただろう。
どれほど、己の無力を呪っただろう。
全ては諏訪を守るため——
鷹王は細い奥方様の手を取った。
同じ女であるのに、奥方様の手は細く美しく、鷹王の手は細くとも節張っていて傷だらけだ。
「……分かった、巫女様」
震える声に、奥方様は淡く微笑んだ。
ごうっと風が起きる。
一撃で魔物が倒れ伏した。
それはそれだけ鷹王が強くなったということ。
「お見事です、若」
隻眼の家臣が満足げに微笑む。
しかし鷹王はどこか納得のいかない様子だ。
「ありがとうございます!
若様!」
村人たちが嬉しそうに駆けよってくる。
「怪我はなかったか?」
納得のいかない表情をすぐに引っ込めて、笑顔を見せる。
12,3歳の子どもとは思えない大人の対応だ。
その姿は、どこか黒鋼さんを思い出させた。
(本当に、いつも大人だった。
何歩も先を歩く背中ばかり見ていた)
「なに、こんな傷舐めときゃ治ります!」
民たちもそんな鷹王にずいぶん心を許しているようだ。
「すまない、俺がもっと早く着いていれば」
苦笑を見せる鷹王。
「何をおっしゃる!」
村人たちは首を振った。
「御領主と若様が魔物を倒してくださるから、ここで住んでいけるんです!
巫女である奥方様もだ!」
鷹王は何かを思い出したかのように顔を上げた。
「みんな……」
ギュッと刀を握る。
(鷹王はもっと強くなる、きっと)
小さな少女が鷹王のもとに駆け寄る。
「あのあの若様、これを奥方様の御寝所に飾ってください。
奥方様が早く良くなられますように」
鷹王は片膝をついて、少女と視線を合わせた。
そしてそっと差し出された花束を握る。
「……ありがとう」
その後、花を持って鷹王は戻った。
頼まれた通り、奥方様の寝所に花を飾る。
それから鍛錬のため外に出て、汗を流してから帰ってきた。
家に近づくとどこか騒がしい。
嫌な予感がしたのか、鷹王は駆けだした。
「領主!
治療が先です!」
家の中を走っていくと室内から焦った声が漏れてくる。
「大きな声を出すな、鷹王に」
(知られたくないのか)
嫌な予感は当たるもので、鷹王が開けた部屋の中には傷だらけの領主と、その部下たちがいた。
その姿は鷹王には衝撃的だったようだ。
「父上!!」
「ほら見つかったじゃないか」
目を見開き、青ざめる鷹王に、笑って見せる領主。
「刀が折れている……
今回討伐に向かった魔物はそんなに強いのか?」
鷹王はひどく焦っていた。
諏訪で最も強い男が、それも父親が、傷だらけなのだ。
当たり前と言えば当たり前で。
「まぁな。
怪我したことは母上には内緒だぞ。
格好悪いからな」
大きな手が、鷹王の頭にぽんと乗った。
「じゃあいってくるぞ、我が子よ」
どこか穏やかなまでの領主に、鷹王は目を見開く。
きっと感じたのだ。
領主の決意を。
(死んでも守り抜くという、意志を)
「先に治療を!
薬、いや医者だ!」
侍女が慌てて部屋を出る。
その後を追って出ようとする領主の腕に鷹王はすがる。
「父上!」
「いい、すぐに出る。
ちょっと取るものがあって戻っただけなんだ」
哀しいまでにすれ違った会話。
鷹王がそんな返事を欲しているのではないことは、領主は知っている。
しかし、彼は鷹王の父親として今在るわけではない。
(……これが、領主)
空いた襖の奥から、隻眼の家臣が刀を持って現れた。
恭しく領主にさしだされる刀。
鷹王は驚いたようにそれを見つめる。
「それは!」
「我が家の家宝、銀龍」
(あれは黒鋼さんが持っていた刀!)
ーなっ!
こ……これだけはだめだ!ー
旅の初めの日にそう言って拒否していた、次元の魔女さんに対価として渡した、何よりも大切なもの。
「銀龍を連れて行かないといけないほどの魔物なのか!?」
「ああ。
だが、必ず倒すさ」
その気迫に、鷹王は自然と唾を飲み込んだ。
「いけませんわ」
不意に聞こえた声に、誰もがそちらを見た。
「母上!」
鷹王はまた焦ったように、そしてどこかすがるように奥方様を見た。
「家宝をお持ちになるのに、私をお呼びにならないなんて、いけません」
領主様は一瞬切なげに眼を細めた。
本当は、鷹王にも奥方様にも会わないつもりだったのだろう。
(会えば、別れがつらくなるから。
決心は決して揺るいではならないから)
「昔からそうだったな、奥は無茶ばかりする」
「それは貴方もでしょう」
鷹王は今も目を見開いている。
彼女もまた、悟ったのだろう。
両親の、決意を。
領主と巫女の、あるべき姿を。
「巫女の祝詞を」
領主様が銀龍を抜く。
巫女様が枝を取り、ふわりと降ろした。
「諏訪を護る
水を統べ
天翔る龍よ
その名を戴し
家宝を持つ者を守り
この諏訪を守り賜え」
剣と枝がまばゆいばかりに光を放つ。
そして、領主様は剣を柄に収めた。
「出る」
ひと房の髪に唇を落とす。
「御武運を」
それは初めて見た時と何一つ変わらない、穏やかで温かな夫婦だった。
これほど痛々しい姿なのに。
領主の指先を、艶やかな奥方様の髪が滑り落ちた。
領主様が部屋を出る。
その後を鷹王は駆けていく。
「俺も行く!」
「残れ」
「嫌だ!
俺も少しは強くなった!
一緒に戦える!」
初めて会った時、まだ領主さまの膝に簡単に座りこめてしまうほど小さかった若姫様は、
今や立派な風格を備えつつある。
確かに一緒に行けば心強いだろう。
領主様はやはり穏やかに鷹王を見下ろし、その頭を優しく撫でた。
「ああ、強くなった。
だからその強さで、お前の愛するものを守れ」
それは偉大な父の姿だった。
だが鷹王は唇を噛む。
(鷹王は、誰よりも、貴方と奥方様を愛しているのに)
「……父上、俺は」
「二度は言わん!」
鋭い声に、鷹王はぎゅっと目を瞑り、慌てて開いた。
きっと、父の姿を1秒でも長く目に焼き付けたいのだろう。
そんな彼女の頭をくしゃっと撫でるのを最後に、父は背中を向けた。
彼の領主として免れない責務の中での、唯一の願いは、彼女の命かもしれない。
遠のいていく馬を、鷹王はじっと見送った。
目に焼き付けるかのように。
「きゃあああ!」
切り裂くような侍女の悲鳴に、鷹王は慌てて室内へと引き返す。
「母上!」
領主のいなくなった部屋に、また新しく血を吐きながら、奥方様は倒れていた。
鷹王は慌てて奥方様を抱き起こす。
「寝所に医者を!」
「いいえ、私を祷場へ」
「こんなお身体で!」
「先ほどまで伏せていらしたのに!」
侍女も達不安を隠しきれない。
「領主の出陣です。
そしてこれからこの国を、みなを守るために戦われる。
その勝利を祈り、結界を守るのが巫女の務め」
美しい決意のこもった瞳に、鷹王は唇をかみしめた。
ジワリと白い歯のふちに赤がにじむ。
(……また、血が流れた)
鷹王の心中は、おれが想像するだけでも苦しすぎる。
どれほど父を追いかけたかっただろう。
どれほど母に代わりたかっただろう。
どれほど、己の無力を呪っただろう。
全ては諏訪を守るため——
鷹王は細い奥方様の手を取った。
同じ女であるのに、奥方様の手は細く美しく、鷹王の手は細くとも節張っていて傷だらけだ。
「……分かった、巫女様」
震える声に、奥方様は淡く微笑んだ。
