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「ひどい雨だ……」
若姫様は障子の外を眺めながら不安そうにつぶやいた。
外は滝のような雨が降っている。
「大丈夫かなぁ、父上」
「今日は南の領土を見にゆかれたのだっけ」
「うん」
ファイ君も部屋の中からどこか不安げに外を見ている。
「母上が領土の水を司る神様に祈りをささげてくれているから、大きな災害はとくにはないと思うけれど……」
こんなに幼いのに、そんなことを心配しているなんて。
(やはり若姫様は領主の子だ)
小さい背中が頼もしく見える。
不意に家の中が騒がしくなった。
若姫様とファイ君ははっと顔を上げ、玄関の方を見る。
「西の街道の傍の崖が崩れかけているんです!
このままいくと、街道付近の村が危ないんです!」
どうやら西の村の民が危機を感じて助けを求めに来たらしい。
「巫女様に取り次ぎましょう」
侍女たちがバタバタと動く。
廊下に出ると、侍女たちの言葉が耳に入ってくる。
「今月の祈祷もきちんと行われたはず。
一体どうして地の神がお怒りになられたのでしょう」
「理由はともかく、祈祷が必要ではないですか?」
「ですが地の神様への祈祷には巫女様の祈りと領主様の血が必要なはずです」
「領主様は今南の領土におられるのですから、連絡をつけようにもこの雨です、丸1日はかかります」
「ですがこのままだと村が……どうすれば……」
若姫様とファイ君は邪魔にならないように気をつけながら、祷場の外の廊下にまでやってきた。
「巫女様、いかがいたしましょう……」
困った侍女の言葉に、巫女様も眉をひそめながら考えている。
そうこうしている間にも雨はどんどん降っている。
巫女様である奥方様が祈りを中断しているからなおさらかもしれない。
「……困りましたね」
若姫様がきゅっと拳を握りしめたのを、おれとファイ君は横目で見た。
そして、ファイ君がその理由を尋ねる間もなく、若姫様は祷場の奥方様の前に飛び出した。
「母上!」
若姫様の声が雨音を遮って祷場に響く。
「俺が西の街道に行く!」
その言葉に周りの侍女たちが驚いた顔をした。
「……若姫。
貴方はまだ領主ではありません」
難しい顔をして、奥方様は静かに言った。
「だが、領主の子だ!」
「……ですが、」
「俺は、領主の子だ、巫女の子だ。
この、諏訪を守る2人の子だ。
地の神様だって、きっと俺が本当に領主の子だって分かったら、お怒りになられた理由を教えてくださるはずだ」
強い意志を持った赤い目が、奥方様を見上げる。
その瞳は、見間違うはずがない。
(……黒鋼さんだ)
いったいどうしてこれほど性格が変わり、矛盾があるような状況なのかは分からない。
ただ、この紅い瞳が黒鋼さんと全く同じものであるということだけは分かる。
「……分かりました」
奥方様の言葉に、侍女たちがざわめく。
「ですがこの雨です、何があるか……」
「この子は私たちの子、領土を治めてゆく身です。
これしきのことで命を落とすようであれば、若姫の気概が足りないのでしょう」
奥方様はそうはっきりと言うと、若姫様の方に向き直った。
「直に身体を清め、正装に身を包みなさい。
それからもう一度ここに来なさい。
地の神への祈祷を教えましょう」
「はい!」
若姫様は部屋から駆けだした。
侍女たちもそれぞれ支度に走る。
清めの間で水をかぶり、手早く身体を清めると、白い衣に黒い衣を重ねた服を着る。
髪を高く結い、赤い玉がいくつもついた髪飾りで止める。
そして身体の割にはまだ少し長い、同じく赤い玉飾りのついた剣を腰にさし、準備は整ったようだ。
おれは昔、サクラ姫が正装をしたときの姿を思い出す。
(みんな、正装をすると大人の顔になる)
若姫様は領主の正装を着ているせいか中性的に見え、そこがどこか神秘的にすら思える。
祷場につくとおれと若姫様は目を見開いた。
「ふぁい、おまえ……!」
そこには長い杖を片手に、白い衣に身を包むファイ君がいた。
「彼が若姫の従者を務めてくれると申し出てくれました」
ファイ君は杖を握り、若姫様にひとつ頷いて見せた。
「でも、この雨だ。
お前がわざわざ危ない目に会う必要はない!」
驚いたように声を上げる若姫様。
蒼い瞳は緩く弧を描いた。
「オレも守ってくれるって言った、若姫様が大好きな諏訪だから。
それにオレ、これでもセレスでは最高位の魔術師なんだ。
力になれると思うよ」
その言葉に、ずっと力んでいた若姫様の力がほっと抜けたように見えた。
そしていつも通りにぱっと笑って見せた。
「ありがとう、ふぁい!」
奥方様は静かに頷くと、2人に祈祷の手順を手早く説明した。
真剣な面持ちで奥方様を見つめる赤と蒼。
その様子はどこか今は遠くにいる2人を思い起こさせる。
「それでは、私はここで祈祷を行いますから、気をつけていってらっしゃい」
「はい!」
奥方様の言葉に2人は声を合わせて返事をすると、祷場から駆けだした。
玄関から外に出ると、すでに2頭の馬が用意されていた。
2人はひらりと馬にまたがる。
「若姫様、ファイさん、お気をつけて!!」
「どうかご無事で!」
侍女たちや、西の村から助けを求めにやってきた村人が、雨に負けじと叫ぶ。
「ああ!
心配はいらぬ!」
若姫様は笑顔を向け、そして馬を蹴った。
ファイ君もその後を追う。
雷鳴と激しい雨音の中、2人は西へと駆けだした。
奥方様が祈りを再開されたためか、雨足は少し弱まってきたようだ。
ファイ君が魔法で雨避けをしてくれているようで、2人の乗る馬の周りだけ薄い膜でおおわれている。
そのせいか馬の足も思ったよりも速い。
(ファイさんはいつから魔法を使わないことにしているんだろう……)
優しくもどこか謎めいた青年を思い出す。
どのくらい雨の中を走ったのだろうか。
「ここだ!」
若姫様の声と共に、馬が止まる。
切り立った崖のふもとに洞窟の入口があった。
注連縄のようなものが上の方に施されている。
少し先の方では街道が土砂で埋まっているのが見える。
その上の方を見れば、確かに今にも崩れて落ちてきそうな大きな岩が見えた。
あれが崩れ始めれば、周りの土砂と共に街道を挟んで見える村に襲いかかることは目に見えている。
2人は顔を見合わせて頷きあうと、馬を下りてその洞窟に近づいた。
その時、小石が降って来るのが目にとまった。
「危ない!!」
思わずおれが叫ぶが聞こえるはずもない。
洞窟に一歩近づくと、大きな音がしてそれに気づいた二人が上を見上げると、大きな石が今にも落ちようとしているのが見えた。
2人は慌てて一歩下がる。
「地の神様がお怒りだ……。
空気が重くて、びりびりしてる」
若姫様は何かを感じているかのように、苦い顔をした。
「中の祠まで向かうのは無理だ。
……ふぁい、ここで地の神様にお願いをしよう」
ファイ君もその言葉に頷き、使っていた魔法を止めた。
2人の上に雨が降り注ぐ。
若姫様はその場で腰にさした剣を抜いた。
辺りに風が起き、若姫様の足元に何やら魔法陣が浮かび上がる。
長い髪と玉飾りが踊り、赤い玉がほのかに光出した。
その光はおれにも見覚えがあった。
(奥方様の力だ……)
きっと今、奥方様があの祷場で呼応するように祈祷をされているのだろう。
若姫様は刀を目の高さにまで上げ、じっと濡れる刃を見つめた。
そして。
(えっ!)
ためらうことなく左の手のひらを傷つけた。
その傷はどこか、見覚えがある。
(高麗国で春香の家を守った術の傷と同じだ!)
「諏訪の地を治めし亀神よ。
我は領主黒鋼の子、若姫なり!」
まるでそれに返事をするかのように、ごうっと洞窟から強い風が吹き出した。
吹き飛ばされそうになりながらも若姫様は目を細めるだけで閉じることなく、その暗い洞窟の奥をじっと見つめていた。
そして正面を見つめたまま、鋭く叫んだ。
「ふぁい、名乗れ!
亀神様はお前は誰かと聞いておられる!」
その言葉にファイ君は驚いたようんで、それでもしっかりと杖を握りしめ、口を開いた。
「諏訪の地を治めし亀神よ。
我は異国の地、セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライト!」
その言葉に、おれは彼がファイさんなのだと確信する。
長いからと言って1度しか聞いたことのない名前だが、間違いなく同じ名前であった。
また洞窟からごう、と風が吹いてきた。
「ふぁいは俺の従者を申し出てくれたまで。
亀神よ、貴方の逆鱗に触れた理由を教え給え!」
再びごうっと激しい風が洞窟から吹き出す。
どうやらこれが亀神からの言葉を伝えてくるらしい。
その内容はおれには分からないけれど。
「国外から渡ってきた怪しげな薬……?」
若姫様はぽつりとつぶやく。
「あいわかった!
すぐに西の村で土を汚す薬を使うのをやめさせると誓う!
そして領土の民の不徳は我父の、そして我の不徳なり!
ここに深く謝罪致す!
我血によりその不徳を、」
言葉の途中なのに、ごう、とまた強い風が吹いてきた。
「わぁ!」
「若姫様!」
そのあまりの強さに若姫様の身体が吹き飛ばされる。
小さな体をファイ君がなんとか受け止めたが、そのまま後ろに倒れてしまう。
おどろいて顔を上げる泥だらけの2人の目に、洞窟の入り口から出た大きな亀の首が飛び込んできた。
その驚くべき姿に、おれも目を見開く。
(これが……)
「亀神……」
「ひどい雨だ……」
若姫様は障子の外を眺めながら不安そうにつぶやいた。
外は滝のような雨が降っている。
「大丈夫かなぁ、父上」
「今日は南の領土を見にゆかれたのだっけ」
「うん」
ファイ君も部屋の中からどこか不安げに外を見ている。
「母上が領土の水を司る神様に祈りをささげてくれているから、大きな災害はとくにはないと思うけれど……」
こんなに幼いのに、そんなことを心配しているなんて。
(やはり若姫様は領主の子だ)
小さい背中が頼もしく見える。
不意に家の中が騒がしくなった。
若姫様とファイ君ははっと顔を上げ、玄関の方を見る。
「西の街道の傍の崖が崩れかけているんです!
このままいくと、街道付近の村が危ないんです!」
どうやら西の村の民が危機を感じて助けを求めに来たらしい。
「巫女様に取り次ぎましょう」
侍女たちがバタバタと動く。
廊下に出ると、侍女たちの言葉が耳に入ってくる。
「今月の祈祷もきちんと行われたはず。
一体どうして地の神がお怒りになられたのでしょう」
「理由はともかく、祈祷が必要ではないですか?」
「ですが地の神様への祈祷には巫女様の祈りと領主様の血が必要なはずです」
「領主様は今南の領土におられるのですから、連絡をつけようにもこの雨です、丸1日はかかります」
「ですがこのままだと村が……どうすれば……」
若姫様とファイ君は邪魔にならないように気をつけながら、祷場の外の廊下にまでやってきた。
「巫女様、いかがいたしましょう……」
困った侍女の言葉に、巫女様も眉をひそめながら考えている。
そうこうしている間にも雨はどんどん降っている。
巫女様である奥方様が祈りを中断しているからなおさらかもしれない。
「……困りましたね」
若姫様がきゅっと拳を握りしめたのを、おれとファイ君は横目で見た。
そして、ファイ君がその理由を尋ねる間もなく、若姫様は祷場の奥方様の前に飛び出した。
「母上!」
若姫様の声が雨音を遮って祷場に響く。
「俺が西の街道に行く!」
その言葉に周りの侍女たちが驚いた顔をした。
「……若姫。
貴方はまだ領主ではありません」
難しい顔をして、奥方様は静かに言った。
「だが、領主の子だ!」
「……ですが、」
「俺は、領主の子だ、巫女の子だ。
この、諏訪を守る2人の子だ。
地の神様だって、きっと俺が本当に領主の子だって分かったら、お怒りになられた理由を教えてくださるはずだ」
強い意志を持った赤い目が、奥方様を見上げる。
その瞳は、見間違うはずがない。
(……黒鋼さんだ)
いったいどうしてこれほど性格が変わり、矛盾があるような状況なのかは分からない。
ただ、この紅い瞳が黒鋼さんと全く同じものであるということだけは分かる。
「……分かりました」
奥方様の言葉に、侍女たちがざわめく。
「ですがこの雨です、何があるか……」
「この子は私たちの子、領土を治めてゆく身です。
これしきのことで命を落とすようであれば、若姫の気概が足りないのでしょう」
奥方様はそうはっきりと言うと、若姫様の方に向き直った。
「直に身体を清め、正装に身を包みなさい。
それからもう一度ここに来なさい。
地の神への祈祷を教えましょう」
「はい!」
若姫様は部屋から駆けだした。
侍女たちもそれぞれ支度に走る。
清めの間で水をかぶり、手早く身体を清めると、白い衣に黒い衣を重ねた服を着る。
髪を高く結い、赤い玉がいくつもついた髪飾りで止める。
そして身体の割にはまだ少し長い、同じく赤い玉飾りのついた剣を腰にさし、準備は整ったようだ。
おれは昔、サクラ姫が正装をしたときの姿を思い出す。
(みんな、正装をすると大人の顔になる)
若姫様は領主の正装を着ているせいか中性的に見え、そこがどこか神秘的にすら思える。
祷場につくとおれと若姫様は目を見開いた。
「ふぁい、おまえ……!」
そこには長い杖を片手に、白い衣に身を包むファイ君がいた。
「彼が若姫の従者を務めてくれると申し出てくれました」
ファイ君は杖を握り、若姫様にひとつ頷いて見せた。
「でも、この雨だ。
お前がわざわざ危ない目に会う必要はない!」
驚いたように声を上げる若姫様。
蒼い瞳は緩く弧を描いた。
「オレも守ってくれるって言った、若姫様が大好きな諏訪だから。
それにオレ、これでもセレスでは最高位の魔術師なんだ。
力になれると思うよ」
その言葉に、ずっと力んでいた若姫様の力がほっと抜けたように見えた。
そしていつも通りにぱっと笑って見せた。
「ありがとう、ふぁい!」
奥方様は静かに頷くと、2人に祈祷の手順を手早く説明した。
真剣な面持ちで奥方様を見つめる赤と蒼。
その様子はどこか今は遠くにいる2人を思い起こさせる。
「それでは、私はここで祈祷を行いますから、気をつけていってらっしゃい」
「はい!」
奥方様の言葉に2人は声を合わせて返事をすると、祷場から駆けだした。
玄関から外に出ると、すでに2頭の馬が用意されていた。
2人はひらりと馬にまたがる。
「若姫様、ファイさん、お気をつけて!!」
「どうかご無事で!」
侍女たちや、西の村から助けを求めにやってきた村人が、雨に負けじと叫ぶ。
「ああ!
心配はいらぬ!」
若姫様は笑顔を向け、そして馬を蹴った。
ファイ君もその後を追う。
雷鳴と激しい雨音の中、2人は西へと駆けだした。
奥方様が祈りを再開されたためか、雨足は少し弱まってきたようだ。
ファイ君が魔法で雨避けをしてくれているようで、2人の乗る馬の周りだけ薄い膜でおおわれている。
そのせいか馬の足も思ったよりも速い。
(ファイさんはいつから魔法を使わないことにしているんだろう……)
優しくもどこか謎めいた青年を思い出す。
どのくらい雨の中を走ったのだろうか。
「ここだ!」
若姫様の声と共に、馬が止まる。
切り立った崖のふもとに洞窟の入口があった。
注連縄のようなものが上の方に施されている。
少し先の方では街道が土砂で埋まっているのが見える。
その上の方を見れば、確かに今にも崩れて落ちてきそうな大きな岩が見えた。
あれが崩れ始めれば、周りの土砂と共に街道を挟んで見える村に襲いかかることは目に見えている。
2人は顔を見合わせて頷きあうと、馬を下りてその洞窟に近づいた。
その時、小石が降って来るのが目にとまった。
「危ない!!」
思わずおれが叫ぶが聞こえるはずもない。
洞窟に一歩近づくと、大きな音がしてそれに気づいた二人が上を見上げると、大きな石が今にも落ちようとしているのが見えた。
2人は慌てて一歩下がる。
「地の神様がお怒りだ……。
空気が重くて、びりびりしてる」
若姫様は何かを感じているかのように、苦い顔をした。
「中の祠まで向かうのは無理だ。
……ふぁい、ここで地の神様にお願いをしよう」
ファイ君もその言葉に頷き、使っていた魔法を止めた。
2人の上に雨が降り注ぐ。
若姫様はその場で腰にさした剣を抜いた。
辺りに風が起き、若姫様の足元に何やら魔法陣が浮かび上がる。
長い髪と玉飾りが踊り、赤い玉がほのかに光出した。
その光はおれにも見覚えがあった。
(奥方様の力だ……)
きっと今、奥方様があの祷場で呼応するように祈祷をされているのだろう。
若姫様は刀を目の高さにまで上げ、じっと濡れる刃を見つめた。
そして。
(えっ!)
ためらうことなく左の手のひらを傷つけた。
その傷はどこか、見覚えがある。
(高麗国で春香の家を守った術の傷と同じだ!)
「諏訪の地を治めし亀神よ。
我は領主黒鋼の子、若姫なり!」
まるでそれに返事をするかのように、ごうっと洞窟から強い風が吹き出した。
吹き飛ばされそうになりながらも若姫様は目を細めるだけで閉じることなく、その暗い洞窟の奥をじっと見つめていた。
そして正面を見つめたまま、鋭く叫んだ。
「ふぁい、名乗れ!
亀神様はお前は誰かと聞いておられる!」
その言葉にファイ君は驚いたようんで、それでもしっかりと杖を握りしめ、口を開いた。
「諏訪の地を治めし亀神よ。
我は異国の地、セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライト!」
その言葉に、おれは彼がファイさんなのだと確信する。
長いからと言って1度しか聞いたことのない名前だが、間違いなく同じ名前であった。
また洞窟からごう、と風が吹いてきた。
「ふぁいは俺の従者を申し出てくれたまで。
亀神よ、貴方の逆鱗に触れた理由を教え給え!」
再びごうっと激しい風が洞窟から吹き出す。
どうやらこれが亀神からの言葉を伝えてくるらしい。
その内容はおれには分からないけれど。
「国外から渡ってきた怪しげな薬……?」
若姫様はぽつりとつぶやく。
「あいわかった!
すぐに西の村で土を汚す薬を使うのをやめさせると誓う!
そして領土の民の不徳は我父の、そして我の不徳なり!
ここに深く謝罪致す!
我血によりその不徳を、」
言葉の途中なのに、ごう、とまた強い風が吹いてきた。
「わぁ!」
「若姫様!」
そのあまりの強さに若姫様の身体が吹き飛ばされる。
小さな体をファイ君がなんとか受け止めたが、そのまま後ろに倒れてしまう。
おどろいて顔を上げる泥だらけの2人の目に、洞窟の入り口から出た大きな亀の首が飛び込んできた。
その驚くべき姿に、おれも目を見開く。
(これが……)
「亀神……」
