レコルト国
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二日酔の抜けない小狼君とサクラちゃんに公園のベンチで待っていてもらうことにして、
オレと黒様とモコナはこの国のことを調べに、そして洋服を買いに出かけた。
「不思議なパワーがいっぱいだー」
「うん、どこもかしこも不思議パワーだらけだよ!」
魔力を持っている人が沢山いる。
魔力を使ったものが沢山ある。
これだけ自分の生まれ故郷に近い魔術の発達した国に来たのは初めてだ。
面倒事に巻き込まれずに羽根を見つけて他の世界にいけたらいいな、と思う。
黒様は強いし、小狼君もずいぶん強くなったけれど、魔法に対応するには、やっぱり魔法が一番だ。
でもオレは、魔法を使いたくない。
(使いたくない、今だってそうだ。
変わらずに使いたくないはずなのに。)
生きている限り変化はするもので、そしてオレも生きているなんてこと、ずいぶん昔に忘れていた。
今は昨夜のことなんて忘れたふりをしてくれている黒様の優しさに甘えるしか他にいい方法を思いつかない。
(やっぱり変わったのかな、オレ。)
そう思う度、胸が締め付けられる。
「この国の服がほしいが金がない。
今着ている服をどこかに売って金を作りたいが、店を知らないか」
オレの隣で、黒たんがいろいろ聞いてくれているみたいだ。
だからいつも通り安心してぼうっとしていられる。
どうやら今日は親切なお姉さんが道案内をしてくれるみたい。
「変わった服を着てるね。
どこから来たの?」
「小さな国だから知らないと思う」
黒たんに興味深々だけれど、黒たんはそんなに口数が多くはない。
でも、そんなところがいいのかなぁ。
黒様のこの国に関する質問に、一生懸命答える女の子がちょっとだけ不憫になった。
たぶん彼女、黒たんを男だと思っている。
ついた場所はお姉さんの行きつけの古着屋さん。
「助かった」
「いえいえ、お安いご用よ。
何か困ったことがあれば、紙飛行機郵便にこのアドレスを書いて飛ばして。
私に届くからね」
お姉さんは小さな紙切れを黒りんに渡した。
「ありがとう」
端正な顔に浮かんだ淡い微笑みに、お姉さんはほんのり頬を染めて去って行った。
本当に罪作りな男……否、女だと思う。
古着屋に入って、自分たちの服を売ると、案外お金になった。
サクラちゃんと小狼君の服も買って、店を出る。
いつも思うけれど、黒たんはこう見えてもセンスがなかなかいい。
彼女自身は黒尽くめ定番だけれど、サクラちゃんの服なんか、本当にぴったりのものを選ぶ。
「黒りんももう少し可愛げのある服でもいいと思うけど」
会計を済ませる黒様の後ろでつぶやく。
「何か言ったか?」
聞こえているくせに、とぼけた顔で店を出て行ってしまう細い背中を追いかける。
彼女がただ一人の女性として生きる日なんて、いつか来るのだろうか。
(愚問、かな)
それはきっと、オレが自分の運命から解放されるのと同じくらい、可能性が低い気がする。
「話、聞いていたか?」
「うーん……この国では魔法を使うことくらいなら」
「つまり聞いていなかったということだな」
黒りんは呆れたような目でオレを見てくる。
「そんな顔しないでよぅ」
「説明せねばならないこっちの気になれ」
そんなことをいいつつも、丁寧に分かりやすく説明してくれることをオレは知っている。
そしてきっと黒様は、今オレがぼうっとしている理由も分かっている。
だからこうやって気づかないふりしてずっとリードしてくれている。
ある種の信頼だ。
気づかなかった。
いや、気づかないふりをしていただけかもしれない。
オレがもう、後戻りなんて出来ないくらい、変わってしまったことに。
「わぁ!大きい!」
ファイさんと黒鋼さんが服を買うついでにこの国のことをいろいろ聞いてきてくれた。
おれが嬉しい国っていうから、何ことかと思えば。
「小狼君、本が好きだもんね」
にっこり笑ってそう話しかけてくれるファイさん。
「はい」
おれも思わず笑顔になってしまう。
とりあえず手に届くところにある本を手にとって開いてみれば、昔言ったことのある国の古語に似ていた。
これならなんとか読めそうだ。
その数冊隣の本で、ふと目がとまった。
「どうした?」
それに気づいた黒鋼さんは相変わらず鋭いと思う。
「いえ、その本背表紙に何も書いていなくて」
おれが今手にしている本を直している間に、黒鋼さんが視線の先の本を取り出した。
ぱらぱらと中を開いている。
「中も何も書いていない」
そしてそれをおれも確認できるように渡してくれた。
表紙にもなにやら模様が描いてあるだけで、文字はない。
開いてみると、突然に辺りの人の気配が掻き消えた。
耳に響くのは、雨の音。
「な……なんだ?」
周りは松の林。
森の中のようだ。
人影はない。
もちろん、本もない。
「姫!
モコナ!」
呼んでも返事は返ってこない。
「ファイさん!
黒鋼さん!」
いつものみんながいない。
だめだ、落ち着け。
知らないうちに世界を移動したのか?
いや、モコナに変化はなかった。
ではほかに何か変化は?
はっと目を手元の本に落とす。
そしておれは息をのんだ。
「さっきまで何も書かれていなかったのに!」
そこには筆で描いた文字が並んでいた。
この文字と何か関係があるのだろうか。
ぺらりとページをめくってみる。
「とれた!」
「えっ!」
突然聞こえた声に驚いて声を立ててしまい、慌てて口を閉じるも、どうやらおれのことは見えていないし声も聞こえていないようだ。
辺りは先ほどの雨模様とは打って変わって、春ののどかな日差しがさんさんと降り注いでいる。
声の方を見上げれば、艶やかな黒髪を一つに束ねた紅い目の子どもが木の上からどこか危なっかしげに降りてくるところだった。
その姿からは男の子なのか女の子なのか見分けがつかない。
何とか地面にたどり着くと縁側に腰掛ける女性のところにかけていく。
「母上、はい!」
手渡したのは桜色の羽衣。
風で待って木の上に飛んで行ってしまったのだろう。
「危ないからと言ったのに、聞かないんだから」
「このくらいの木、もう登れる!
それにこれは母上の大事なものだ!」
どうやらあの子供の母親らしい。
長い黒髪はやはり艶やかで、穏やかな春を連想する雰囲気を持っている。
女性は立ちあがって子どもの頬に触れた。
「そうね、ありがとう」
ふわりと母親の手から羽衣が離れ、肩にかけられる。
「俺が贈ったものだからな」
肩に手を添える紅い瞳の男性は愛おしそうに母を見つめる。
「父上!」
元気良く子どもが男性に抱きつく。
どうやら両親が大好きなようだ。
母譲りの艶やかな黒髪、父譲りの紅い瞳。
(……誰かに似ている……)
「相変わらず腕白坊主だな、我が娘は」
(女の子なんだ。
……まさか!)
「黒鋼さん!?」
思わず声を出してしまってから頭を振った。
(そんなはずはない。
黒鋼さんがこんな小さい子のはず、ない)
それにあまりに雰囲気が違う。
あれほど表情を表に出さない黒鋼さんと、目の前の明るいはつらつとした子どもが同一人物とは思い難い。
忍びになるとあれほどまでに表情を隠すことができるようになるのだろうか。
「坊主じゃない!」
「坊主と言われて怒るのは坊主の証拠だ」
「違う!」
からかわれても大好きなのだろう。
父親に女の子は抱きあげられてどこかご満悦だ。
「いかがでしたか?
領地のみなさまは」
「元気だった。
今年は米のできが良いそうだ。
もらった握り飯がうまかった」
素振りの端々がどこか黒鋼さんに似ている。
「領地の境に出ていたという魔物も討伐出来たぞ。
日本国の諏訪には貴重な薬草が生える場所があるからな」
抱き上げた子どもに話しかける父親。
「それゆえ他領土に狙われることも……」
そう言ったのは側近だろう。
「日本国には魔物って言う厄介なモノもいるしな」
聞き覚えのある国の名前は、確か黒鋼さんのいた国の名前だ。
ということは黒鋼さんがいた国に移動したのだろうか。
(ではあの黒鋼さんに似た子は……?)
「だがうちの奥方は素晴らしい巫女だ。
おかげで諏訪は守られている。
万が一領土の中に誰かが入ってきたときのためには俺がいる」
「俺もいる!」
勢いよく女の子が父親の腕を飛び出した。
「俺も諏訪を守る!」
「あの木のてっぺんまで登れない癖に大きなことを言ったな」
「登れる!」
「無理だろ」
「登れる!」
そう言うと木の方にまた駆けだした。
「若姫様!」
(まるでやんちゃ盛りの男のようだから若、それに女の子の姫をたして若姫か。
……なるほど)
するすると木を登る姿は、運動神経がよさそうで、将来が楽しみになる。
しかし家臣は楽しんでばかりもいられぬようで、木の下から降りてくるように声をかけている。
両親はその様子を嬉しそうに目を細めて眺める。
「あの子はやはり貴方のように刀で守る方が性分に合っているのでしょう」
「女子である故心配が尽きないが、楽しみでもある。
あれは将来、男を超えるいい剣士になるさ」
「結界術の才がほとんど見られないのが残念です。
少しでも怪我が減るよう、早く強くなってくれればよいですが、強くなれば強い相手に出会うでしょう。
無茶もするでしょう」
「出来るならば、強くならないでいてほしいと思ってしまうが、それはあいつの幸せにつながるのか、俺にも分からない。
ただあいつは、俺達の意思に関係なく強くなっていくだろう。
才能がそうさせる。」
その隣で、奥方様と同年代の女性と年かさの女性がため息をついた。
「奥方様のようにおしとやかで心優しい女性に育てようと我々も手を尽くしたのですが、どうも領主さまの血が濃いようで・・・。」
「俺のせいか?!」
主従で冗談も言いあえるなんて、きっと好かれている領主なのだろうと思う。
「うわぁ!!」
声の方を見れば、若姫様が木からぶら下がっている。
どうやら足を滑らせてなんとかぶら下がった状態のようだ。
「手を離すなよ!
今いくからな!」
「ち、父上ぇっ!」
にぎやかな様子に思わず笑ってしまう。
そのくらい暖かい場所で、おれも玖楼国を懐かしく思い出してしまった。
ページをめくってみる。
すると場面が変わり、領主様に馬の乗り方を教えてもらっているようだ。
そしてやはり、彼らにはおれのことが見えていないようだ。
またページをめくってみると場面が変わる。
今度は若姫様と領主様が向かい合っている。
ひょっとしてこれは・・・。
「本の中の世界なのか!?」
オレと黒様とモコナはこの国のことを調べに、そして洋服を買いに出かけた。
「不思議なパワーがいっぱいだー」
「うん、どこもかしこも不思議パワーだらけだよ!」
魔力を持っている人が沢山いる。
魔力を使ったものが沢山ある。
これだけ自分の生まれ故郷に近い魔術の発達した国に来たのは初めてだ。
面倒事に巻き込まれずに羽根を見つけて他の世界にいけたらいいな、と思う。
黒様は強いし、小狼君もずいぶん強くなったけれど、魔法に対応するには、やっぱり魔法が一番だ。
でもオレは、魔法を使いたくない。
(使いたくない、今だってそうだ。
変わらずに使いたくないはずなのに。)
生きている限り変化はするもので、そしてオレも生きているなんてこと、ずいぶん昔に忘れていた。
今は昨夜のことなんて忘れたふりをしてくれている黒様の優しさに甘えるしか他にいい方法を思いつかない。
(やっぱり変わったのかな、オレ。)
そう思う度、胸が締め付けられる。
「この国の服がほしいが金がない。
今着ている服をどこかに売って金を作りたいが、店を知らないか」
オレの隣で、黒たんがいろいろ聞いてくれているみたいだ。
だからいつも通り安心してぼうっとしていられる。
どうやら今日は親切なお姉さんが道案内をしてくれるみたい。
「変わった服を着てるね。
どこから来たの?」
「小さな国だから知らないと思う」
黒たんに興味深々だけれど、黒たんはそんなに口数が多くはない。
でも、そんなところがいいのかなぁ。
黒様のこの国に関する質問に、一生懸命答える女の子がちょっとだけ不憫になった。
たぶん彼女、黒たんを男だと思っている。
ついた場所はお姉さんの行きつけの古着屋さん。
「助かった」
「いえいえ、お安いご用よ。
何か困ったことがあれば、紙飛行機郵便にこのアドレスを書いて飛ばして。
私に届くからね」
お姉さんは小さな紙切れを黒りんに渡した。
「ありがとう」
端正な顔に浮かんだ淡い微笑みに、お姉さんはほんのり頬を染めて去って行った。
本当に罪作りな男……否、女だと思う。
古着屋に入って、自分たちの服を売ると、案外お金になった。
サクラちゃんと小狼君の服も買って、店を出る。
いつも思うけれど、黒たんはこう見えてもセンスがなかなかいい。
彼女自身は黒尽くめ定番だけれど、サクラちゃんの服なんか、本当にぴったりのものを選ぶ。
「黒りんももう少し可愛げのある服でもいいと思うけど」
会計を済ませる黒様の後ろでつぶやく。
「何か言ったか?」
聞こえているくせに、とぼけた顔で店を出て行ってしまう細い背中を追いかける。
彼女がただ一人の女性として生きる日なんて、いつか来るのだろうか。
(愚問、かな)
それはきっと、オレが自分の運命から解放されるのと同じくらい、可能性が低い気がする。
「話、聞いていたか?」
「うーん……この国では魔法を使うことくらいなら」
「つまり聞いていなかったということだな」
黒りんは呆れたような目でオレを見てくる。
「そんな顔しないでよぅ」
「説明せねばならないこっちの気になれ」
そんなことをいいつつも、丁寧に分かりやすく説明してくれることをオレは知っている。
そしてきっと黒様は、今オレがぼうっとしている理由も分かっている。
だからこうやって気づかないふりしてずっとリードしてくれている。
ある種の信頼だ。
気づかなかった。
いや、気づかないふりをしていただけかもしれない。
オレがもう、後戻りなんて出来ないくらい、変わってしまったことに。
「わぁ!大きい!」
ファイさんと黒鋼さんが服を買うついでにこの国のことをいろいろ聞いてきてくれた。
おれが嬉しい国っていうから、何ことかと思えば。
「小狼君、本が好きだもんね」
にっこり笑ってそう話しかけてくれるファイさん。
「はい」
おれも思わず笑顔になってしまう。
とりあえず手に届くところにある本を手にとって開いてみれば、昔言ったことのある国の古語に似ていた。
これならなんとか読めそうだ。
その数冊隣の本で、ふと目がとまった。
「どうした?」
それに気づいた黒鋼さんは相変わらず鋭いと思う。
「いえ、その本背表紙に何も書いていなくて」
おれが今手にしている本を直している間に、黒鋼さんが視線の先の本を取り出した。
ぱらぱらと中を開いている。
「中も何も書いていない」
そしてそれをおれも確認できるように渡してくれた。
表紙にもなにやら模様が描いてあるだけで、文字はない。
開いてみると、突然に辺りの人の気配が掻き消えた。
耳に響くのは、雨の音。
「な……なんだ?」
周りは松の林。
森の中のようだ。
人影はない。
もちろん、本もない。
「姫!
モコナ!」
呼んでも返事は返ってこない。
「ファイさん!
黒鋼さん!」
いつものみんながいない。
だめだ、落ち着け。
知らないうちに世界を移動したのか?
いや、モコナに変化はなかった。
ではほかに何か変化は?
はっと目を手元の本に落とす。
そしておれは息をのんだ。
「さっきまで何も書かれていなかったのに!」
そこには筆で描いた文字が並んでいた。
この文字と何か関係があるのだろうか。
ぺらりとページをめくってみる。
「とれた!」
「えっ!」
突然聞こえた声に驚いて声を立ててしまい、慌てて口を閉じるも、どうやらおれのことは見えていないし声も聞こえていないようだ。
辺りは先ほどの雨模様とは打って変わって、春ののどかな日差しがさんさんと降り注いでいる。
声の方を見上げれば、艶やかな黒髪を一つに束ねた紅い目の子どもが木の上からどこか危なっかしげに降りてくるところだった。
その姿からは男の子なのか女の子なのか見分けがつかない。
何とか地面にたどり着くと縁側に腰掛ける女性のところにかけていく。
「母上、はい!」
手渡したのは桜色の羽衣。
風で待って木の上に飛んで行ってしまったのだろう。
「危ないからと言ったのに、聞かないんだから」
「このくらいの木、もう登れる!
それにこれは母上の大事なものだ!」
どうやらあの子供の母親らしい。
長い黒髪はやはり艶やかで、穏やかな春を連想する雰囲気を持っている。
女性は立ちあがって子どもの頬に触れた。
「そうね、ありがとう」
ふわりと母親の手から羽衣が離れ、肩にかけられる。
「俺が贈ったものだからな」
肩に手を添える紅い瞳の男性は愛おしそうに母を見つめる。
「父上!」
元気良く子どもが男性に抱きつく。
どうやら両親が大好きなようだ。
母譲りの艶やかな黒髪、父譲りの紅い瞳。
(……誰かに似ている……)
「相変わらず腕白坊主だな、我が娘は」
(女の子なんだ。
……まさか!)
「黒鋼さん!?」
思わず声を出してしまってから頭を振った。
(そんなはずはない。
黒鋼さんがこんな小さい子のはず、ない)
それにあまりに雰囲気が違う。
あれほど表情を表に出さない黒鋼さんと、目の前の明るいはつらつとした子どもが同一人物とは思い難い。
忍びになるとあれほどまでに表情を隠すことができるようになるのだろうか。
「坊主じゃない!」
「坊主と言われて怒るのは坊主の証拠だ」
「違う!」
からかわれても大好きなのだろう。
父親に女の子は抱きあげられてどこかご満悦だ。
「いかがでしたか?
領地のみなさまは」
「元気だった。
今年は米のできが良いそうだ。
もらった握り飯がうまかった」
素振りの端々がどこか黒鋼さんに似ている。
「領地の境に出ていたという魔物も討伐出来たぞ。
日本国の諏訪には貴重な薬草が生える場所があるからな」
抱き上げた子どもに話しかける父親。
「それゆえ他領土に狙われることも……」
そう言ったのは側近だろう。
「日本国には魔物って言う厄介なモノもいるしな」
聞き覚えのある国の名前は、確か黒鋼さんのいた国の名前だ。
ということは黒鋼さんがいた国に移動したのだろうか。
(ではあの黒鋼さんに似た子は……?)
「だがうちの奥方は素晴らしい巫女だ。
おかげで諏訪は守られている。
万が一領土の中に誰かが入ってきたときのためには俺がいる」
「俺もいる!」
勢いよく女の子が父親の腕を飛び出した。
「俺も諏訪を守る!」
「あの木のてっぺんまで登れない癖に大きなことを言ったな」
「登れる!」
「無理だろ」
「登れる!」
そう言うと木の方にまた駆けだした。
「若姫様!」
(まるでやんちゃ盛りの男のようだから若、それに女の子の姫をたして若姫か。
……なるほど)
するすると木を登る姿は、運動神経がよさそうで、将来が楽しみになる。
しかし家臣は楽しんでばかりもいられぬようで、木の下から降りてくるように声をかけている。
両親はその様子を嬉しそうに目を細めて眺める。
「あの子はやはり貴方のように刀で守る方が性分に合っているのでしょう」
「女子である故心配が尽きないが、楽しみでもある。
あれは将来、男を超えるいい剣士になるさ」
「結界術の才がほとんど見られないのが残念です。
少しでも怪我が減るよう、早く強くなってくれればよいですが、強くなれば強い相手に出会うでしょう。
無茶もするでしょう」
「出来るならば、強くならないでいてほしいと思ってしまうが、それはあいつの幸せにつながるのか、俺にも分からない。
ただあいつは、俺達の意思に関係なく強くなっていくだろう。
才能がそうさせる。」
その隣で、奥方様と同年代の女性と年かさの女性がため息をついた。
「奥方様のようにおしとやかで心優しい女性に育てようと我々も手を尽くしたのですが、どうも領主さまの血が濃いようで・・・。」
「俺のせいか?!」
主従で冗談も言いあえるなんて、きっと好かれている領主なのだろうと思う。
「うわぁ!!」
声の方を見れば、若姫様が木からぶら下がっている。
どうやら足を滑らせてなんとかぶら下がった状態のようだ。
「手を離すなよ!
今いくからな!」
「ち、父上ぇっ!」
にぎやかな様子に思わず笑ってしまう。
そのくらい暖かい場所で、おれも玖楼国を懐かしく思い出してしまった。
ページをめくってみる。
すると場面が変わり、領主様に馬の乗り方を教えてもらっているようだ。
そしてやはり、彼らにはおれのことが見えていないようだ。
またページをめくってみると場面が変わる。
今度は若姫様と領主様が向かい合っている。
ひょっとしてこれは・・・。
「本の中の世界なのか!?」
