ピッフル国
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招待されたパーティーは、大きなバルーンと呼ばれる飛行船で行われた。
この国の文明とダイドウジの財力には驚くばかりだ。
その上酒も料理もなかなかうまい。
視線は自然とダイドウジを追い、それを引き剥がすことを繰り返していた。
「声かけたら?」
そんな声をかけてきた男をチラリと見れば、しなやかな指先でグラスを回していた。
思わず小さな溜息をつく。
こういう時、観察力のある奴は面倒だ。
「トモヨヒメ、だっけ?」
おまけに記憶力もある奴は。
「あいつが赤の他人であることに変わりはない。
お前も言っていただろう」
思わず眉を顰める。
紗羅ノ国で彼が同じ魂の人に会った時、顔色さえ変えないと言ったのは彼だ。
それ程、国に残したその人に思いが深いのだろう。
残念ながら俺は忍びのくせに隠しきれない。
彼女の魂に忠誠を誓ったのだ、同じ魂に惹かれぬはずがないと開き直っているくらいに。
「でも、あんまり見ていられないからさ」
男はおかしそうにくすりと笑うから視線を逸らす。
その先には偶然こちらを見ているダイドウジがいた。
彼女は事もなげに笑顔を張り付ける。
その一瞬は俺に疑惑を抱かせるには充分だったーー彼女が何か隠していると。
しばらくしてダイドウジと手を組んで妨害を行った妹山らに話しかけられた。
もう一派の犯人は見つかったかと問うたが、今だ分からぬままらしい。
ふと嫌な予感がして、俺は立ち上がった。
「耳がキーンてする」
男の肩の上で白饅頭が言った。
ガラスがビリビリと鳴っている。
(まずい、何かが)
「伏せろ!!」
俺の叫び声に小僧が姫を、男が白饅頭をかばう。
窓の外だろうか、突然爆発が起き、細かく砕けたガラスが降り注ぎ、辺りは煙に覆われた。
割れた窓から強風が吹きこむ。
ボディーガード達の間から、ダイドウジの無事な姿も見えた。
徐々に晴れてくる煙。
騒がしい中で不意に姫の声が聞こえた。
「割れちゃう!」
彼女の腕にある羽根を守る球体の装置にひびが入った。
この爆破の犯人と、あの最後の間欠泉の犯人は同一人物だ。
そして、犯人が狙うものはひとつ。
ガラスが踏まれて割れる音に反応し、俺は咄嗟に飛び出す。
ダイドウジがレーザー片手に敵の前に躍り出たのだ。
彼女を庇うように間に入る。
ガードマン達も驚くほど、彼女の動きは素早かった。
まるでこうなることを予想していたかのようだ。
「引っ込んでいろ!」
どこの姫も、じゃじゃ馬ばかりか。
全くもって世話が焼ける。
姫なのだから、姫らしく大人しくしていればいいものをと思うけれど、
そうでないから好きだし守りたいと思うのだ。
姫というものを捨ててでも、大切なものを守ろうとする優しい知世だから。
だから俺は、強くなろうと思った。
そんな知世を守れるほどに、強くなろうと思った。
たとえどの世界の知世でも、やはり魂が同じなのだ。
(本人でもないのに、守ろうとしてしまう等、俺の方がまだまだだ)
落ちてくるシャンデリアを咄嗟に左手で受ければ、激痛が走り、くだけたガラスが飛び散る。
ひびが入っていることをうっかりしていた。
まだ痛みが響くが気にしている場合ではない。
ガードマン達がダイドウジを連れて行く。
白饅頭から蒼氷を取り出す時間もない。
「羽根をサクラちゃんの中に!」
ダイドウジの声に振り向けば、羽根を守る装置が勝手に砕け、羽根が外に出てしまう。
その羽根が吸い寄せられる先にいる男。
腹黒そうな笑みをたたえ、羽根を呼びよせている男に、見覚えがあった。
シャンデリアの金属部分を持ち、大きく勢いをつけて彼に投げ、そしてそれを追って走り出す。
粉塵の中に見えるあの顔。
見間違いでなければ、あの雪の街で出会った、医者ーーカイルだ。
濁流の中、互いを見失った、あの男。
足元にあった酒瓶が視界に入り、蹴り上げる。
シャンデリアは上手く奴の足に絡まったらしく、転びかけたところに酒瓶が肩にぶつかる。
頭に当てれば気を失わせることくらいできただろうに惜しいことをした。
もう少しで届きそうで手を伸ばすも、天井が崩れ、行く手が阻まれる。
粉じんの先に、淡い光を放つ羽根がカイルの手にあるのが見えた。
目に血が垂れてきて、視界を遮られる。
カイルは俺を見た。
してやったりと言った笑みを浮かべる。
「クソッ!!」
このままでは、羽根が危ない。
不意に風の音がして、カイルの顔色が変わる。
彼の手にあった羽根が、みるみる姫の方に吸い寄せられていっている。
見れば白饅頭が大きな口を開けていた。
「モコナの秘密技超吸引力(中)!」
ビシっと決めているのは今だけ突っ込まないでおいてやる。
「早く羽根をサクラちゃんの中に!」
ダイドウジの言葉に驚くも、小僧はその言葉に従い、無事に羽根は美しい光を放ち姫に還った。
「まったく、ジェイド国の時と言い、お前たちは余計なことをしてくれる」
カイルの冷えた目が俺を捕える。
「ジェイド国……じゃあなたはカイル先生!?」
小僧の驚いた声に、カイルは嬉しそうに口の端を上げた。
「お前たちだけが次元を渡れるわけじゃない。
異なる世界には同じ顔をした別の人間がいる。
けれど本当に別人かは分からない」
(こいつとはまた会うことになる)
嫌な予感が告げていた。
(だから、その前に)
「おい!」
手を差し出せば、白饅頭は蒼氷を口から出した。
同時にダイドウジが声を上げた。
「ガードチーム!」
呼ばれた警備の者たちがレーザーを撃つ。
(今だ、今殺らねば!)
蒼氷をつかむと鞘から引き抜きながら走る。
カイルはにやりと笑うと窓から飛び降りた。
俺もかまわず窓枠に飛び乗る。
眼下に破片と俺の血がパラパラと散った。
「いけません!」
その言葉に無意識下で一瞬動きを止められた俺をガードチームが取り押さえる。
「っ離せ!」
遥か下方の街の中に消えてゆくカイル。
(俺が今殺らねば!!)
この高さから落ちたら無事では済まないが、血結界の力を使ってこの地の精霊と契約を交わせば命は助かると踏んだ。
「やめなさい、黒鋼!」
響いた叱咤に俺は再び動きを止める。
その隙にカイルは時空の割れ目に消えていってしまった。
振り返ればそこに、怒った顔の知世が、
(違う、あれはダイドウジだ)
ほっとした顔になって、すみません、と言った。
「思わず。
失礼いたしました」
そう言ってホホホと笑う姿に、窓枠から降りて頭を振った。
「お前は」
「社長!」
俺の言葉にかぶせるように慌てた様子のボディーガード達がダイドウジの傍に集まってくる。
愛される人なのだ、ここでも、彼女は。
自分のそばにいてくれた知世ではない。
赤の他人の、ダイドウジなのだ。
「私は大丈夫です。
みなさんにお怪我がないか確認を。
バルーンを安全な場所におろして、我が社が責任を持ってお送りしてください」
「は!」
敬礼を返すボディーガードたち。
その間をダイドウジはこちらに向かって早足で歩み寄ると、俺の前で止まって厳しい顔をした。
「それから、すぐに救護担当者を呼んで、こちらの方の治療を」
その言葉を皮切りに、体中を痛みが襲う。
見ると腕の切り傷も開いているようだ。
服が赤く染まり、血も滴っている。
思わず小さく息を詰め、誤魔化すように目に入ろうとする血を拭おうと手を挙げる。
「触っちゃだめだよ!」
白饅頭の声に驚いて手を止める。
「ガラスの破片が奥に入り込んだら大変だからね。
全く、困るねぇ」
よしよしとその頭を撫でる男は歩み寄り注意深く傷に触れないように血だけを拭った。
息のかかる距離に目を閉じる。
「……そんなに深くはないみたい」
囁くような声に目を薄く開ける。
至近距離に美しい青い瞳があった。
なんだか怒っているらしいので小さく頷く。
不安そうな顔をしていた小僧もその姿にほっとした顔になった。
その姿になんだか力が抜けてしまう。
男に変わったと言った。
小僧も、姫も変わった。
でも、一番変わったのはきっと、俺達の関係だ。
喜びや楽しさだけではない、恐怖や悲しみを共有した俺達はきっと、いつの間にかかけがえのないものを手に入れた。
「レースは終わったし、もう本当のことを教えてもらってもいいかな?
知世ちゃん。」
穏やかな青年の瞳に、ダイドウジもどこかほっとしたように微笑んだ。
「はい。」
