ピッフル国
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あいつらが少しでも自由でいられるように、俺がしてやれること。
少しでもあいつらが安心していられる環境を作ること。
ぐんとアクセルを踏み込めば、ドラゴンフライは先頭に踊り出る。
(負けない)
心優しい頑張り屋の姫。
真面目で真っ直ぐな小僧。
優しいからかうだうだと迷う男。
そして無垢な白饅頭。
彼らが少しでも自由でいられるようにーー
気が急いてしまい、運転が荒くなる。
看板を羽根が掠り、ガガガガっと嫌な音をたてた。
「黒たん号、危ない所でした!」
そんなアナウンスが鬱陶しく聞こえる。
「素晴らしい操縦です、ツバメ号!
一気に先頭グループに躍り出ました!」
ちらりと横を見ると男が笑顔で手を振っている。
「黒たんやっほー!」
「落としてやろうか?」
「きゃー怖い!」
いつにもましてテンションが上がっているようだ。
それに反応してしまう俺も、またそうなのだろう。
そんなことよりも。
ピコーン
軽い音を立てて手袋についたコンパスが光る。
どうやら第一チェックポイントにさしかかったらしい。
「だがどこでバッチをもらうんだ?」
「あ、あれ?
あのキラキラしてるやつ。」
彼の指の先には、球体に区切られた空間の中で小さな丸いキラキラしたものがふわふわ浮いている。
確かに、バッチのようだが。
「どうやって取るんだ?」
「とりあえず行ってみるかー」
この類のことには彼の方が感が働くだろう。
俺はとりあえずついて行ってみる。
ギュンと男がアクセルを踏み込む音に合わせて、俺も加速する。
同じように後ろを追っていくと、球体の空間に近づくと急にそれが光り出した。
そしてそのまま進めば球体が割れて辺りにバッチが飛び散る仕組みだ。
キラキラしたひとつをつかみ、腕章に張り付ける。
彼も慌ててバッチを捕まえていた。
こうなることを予想していたのではなかったのかと疑ってしまう。
初めは大量にあったバッチだが、振り返って確認すれば、俺達が取ったときに落ちてしまったせいで減っているのが目に見えて分かる。
「ってことは、後になるほどバッチがなくなって不利ってことかもー」
コースを進んでいく間も、第一チェックポイントのアナウンスが聞こえてくる。
どうやら他の参加者も順にバッチを手に入れているようだ。
一度バッチを取るのに失敗すると一定時間の強制停止が待っているらしい。
その上、何者かの妨害によってバッチを空中にとどめておく力が消えてしまい、
数個が拾える場所にあるだけになったようだ。
少年はギリギリバッチを手に入れることができたらしいが、もう数が人数分はない。
「サクラちゃん、間に合うかな……」
男の呟きは、聞こえなかったふりをする。
彼女がゴールできる可能性は、運転能力から考えるならばかなり低い。
もとより頼るつもりはなかった。
頑張っていた分、ゴールできることに越したことはないが。
「先頭集団が第二チェックポイントに到着しました!」
アナウンスの声に、俺達も次の課題に取り組まねばならないことを知る。
姫が取れないなら、俺達が取るだけのこと。
ビュン
風を切って俺と男の機体の間を2機のドラゴンフライが飛んでいく。
1機は阪神国で会った浅野の機体だ。
もう1機は小僧と姫が会ったという、ダイドウジの幼馴染のもの。
負けじとアクセルを吹かし、先頭機を追いかける。
「やっぱり負けず嫌いだ―」
そんな楽しそうな男の声は、やはり聞こえないふりだ。
市街地を抜け、俺達は大きな湖の上を飛んでいく。
岸から十分離れたところに、透明の渦を巻く大きなものが見えてくる。
「第二チェックポイントはこのドラゴンチューブです!」
アナウンスの声に、どうやらこれを抜けなければならないことを知る。
しかもどうやらこのチューブ、動くらしい。
「面倒……」
俺とは違って聞こえないふりをしない男が、ぷっと噴き出した。
だがそれさえも愉快に感じる程、気持ちが高揚しているーー俺らしくもない。
とにかく、このチューブを抜けるとバッチが手に入るらしい。
「ほら、いこうよ、黒様」
彼にに促されてチューブに入る。
思いのほか動きも少なく運転はそれほど苦労するわけでもないが、視界が歪んで見えるから煩わしい。
彼も同じことを思ったのか苦笑を洩らしているようだ。
「そんなにスピードは速くないからこれくらいなら」
グシャッ
異様な音に瞬時に振り返れば、男の機体がチューブに押しつぶされている。
その動き方は過激で、明らかに異常が起きていることが分かる。
機体は後退することはできない。
俺の機体を高速で上に飛ばせばチューブは引き伸ばされ、男の機体の周りに余裕が生まれるはずだ。
2人分の体重なら支えられるはずだから、上手く飛び移ればその後はーー高速で回転する俺の思考を遮るように、見開かれた青い目と俺の目が合う。
「前向いて!危ない!!」
俺ははっとして男から目を離し、チューブの出口を目指す。
あと少し……あと、少し……そして何度か青空の下に飛び出す。
尚も激しい水音が続くが爆発音はない。
男の悲鳴は聞こえない。
アナウンサーが驚いた様子で中継を続けている。
「黒たん号は出てきましたが、後続機は……」
耳を澄ます。
「危なかったなぁ」
「ダメだ動かない」
いくつかの気配の中に、男のものも水中から浮かび上がってきた。
「びっくりしたー
このチューブ、ふわふわで助かったよー」
(無事、か)
俺はひとつため息をついてアクセルを吹かして一気にスピードを上げる。
あの状態ではツバメ号は動けないだろう。
(まさかあの状態で俺が心配されるとはーー)
蒼い瞳を思い出す。
あれほど焦っていたのに、俺を見た瞬間はっきりと言った。
援助を求める言葉ではなく、俺が先に進むための言葉を。
自分は勝負の行方など無視して彼を助ける方法ばかり考えていたのに。
(……馬鹿だ)
くしゃりと前髪をかきあげ、スピードを上げる。
第二チェックポイントはどうやらチューブの動きを止め、通り抜ければ良いことになったようだ。
少小僧が通過したことをアナウンスが知らせた。
これならば姫でも通ることは容易いだろう。
湖を抜け、青々と茂る森を飛び越えていく。
その向こうに見えてきたのは。
「はーい!
第三チェックポイントはこの渓谷です!
ここはわがピッフル国が誇る自然迷路!」
アナウンスにうんざりしてしまう。
細かい操縦は嫌いだ。
何も考えず広い空をぐんぐん昇って飛んでいくのが楽しいというのに、何を好き好んでこんな渓谷に入らなければならないんだ。
あの男ならば、こんなところでため息なんてつかないだろうと思っている自分に気づき、頭を振ってアクセルを踏み込んだ。
関係者用の控室にはいると、飲み物をもらうことができた。
ここの飲み物はシュワシュワした不思議なものもいくつかあって、ちょっと気に入っている。
部屋の壁には複数のテレビがあり、その一つには黒様がアップで映し出されている。
ファンもすでに多いようで、女の子たちの視線を集めているのが面白い。
(みんなは黒たんが子持ちだって知らないんだろうな)
そう心の中でボケてみて、笑ってしまう。
どうやら第三チェックポイントは自然迷路らしい。
黒たんは面倒がるだろう。
どんな面倒なことでも、サクラちゃんと小狼君のためなら頑張るのだろうけれど。
どうやら阪神国で会った笙悟さんのイエロータイガー号とほぼ同時に先頭で迷路に入った。
それに運転が荒くなっているのは、何としてでもトップになろうとしているからだろう。
負けず嫌いなのは元からだけれど、どうして今それだけ頑張っているか。
本当に感情を押し殺して闇に舞う忍だったのか、少し疑いたくなってしまうくらい、君は2人を大切にしているのが伝わってくる。
目を閉じればチューブの中で自分の危険さえ忘れてオレを振り返る瞳が思い出される。
あれは勝負さえ捨ててオレを助けるつもりだった。
その直向きな瞳に、高揚感を覚えた。
オレが進むように言わなければ次の瞬間にはオレの機体に飛び移りでもしていただろう。
オレの為にーー
赤い瞳に捕らわれたような気分になる。
壁にもたれ、人から見られないよう俯いてグラスの氷を見つめる。
顔が赤くなっている自覚がある。
彼女はあまりに、真っ直ぐで美しい。
