ピッフル国
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小僧によると、先ほどの買い物で笙悟と残という2人が率いる集団によってこのドラゴンフライレースに妨害行為をしていないかどうかポリグラフにかけられてきたらしい。
ポリグラフは普通の椅子のように見えるけれど、座った状態で嘘をついているかどうかを見分けることができる機械だそうだ。
始めこの国に来た時に平和ボケしていると思ったが、そうしてボケていられる原因はこの高い科学水準にもよるのだろう。
「残さんは知世ちゃんとは幼馴染だと言っていました」
「ええそうです」
姫の問いかけにすんなりと返事をするダイドウジ。
「笙悟さんはガーディアンだと」
「その通りですわ」
今度は小僧の問いかけに返事する。
考えても見れば、たとえどんなに同じ魂であっても育った環境は違うし、俺だってダイドウジのことは何も知らないに等しい。
敵か味方かの判断すらできない状態だ。
それなのに、俺とはまるで別人を幼馴染と称する彼女に、若干の胸の痛みを感じるのはなぜだろう。
彼女の姿を見ているから惑わされるのだろうか。
だとすれば俺も忍者としてまだまだだ。
だがそれにしても。
「知世ちゃん、なんだか浮かない顔だねぇ」
男も気づいていたらしい。
「いえ、何でもないんですが、少し気になることがあって」
彼女が敵であれ味方であれ、これは俺達への警告と受け取っておこう。
「予選レースに不正があったのは事実なんでしょうか」
「残念ながら。
不正を防げなかったのはわが社、ひいては社長である私の責任。
現在わが社の調査部がレースの出場者および関係者の調査に入っています。
誰があんなことをしたのか突きとめて、必ず捜し出しますわ」
小僧の問いかけに至極真面目な顔をして答えるダイドウジ。
その瞳は責任感に燃え、まるで全力を尽くしているかのように見える。
言ってしまえば見えるだけだ。
もし彼女の魂が知世と同じなのであれば、今の彼女は本気ではない。
彼女の本気はこんなものではないことは、俺が良く知っている。
「知世は今日はそのお話できたの?」
白饅頭が首をかしげている。
きっとダイドウジは、俺達に警告をしている。
十分気をつけるようにと。
ということは、彼女は味方と見ても良いのだろうか。
時折感じる視線とは無関係なのだろうか。
本気でないところは気になりはするが、白黒つけるには情報が少なすぎる。
「いいえ、実は、本選では何をお召しになりますの!?」
ぎゅっと姫の手を握って真剣な表情で尋ねる姿に、傍らの小僧も口を開けて固まっている。
そうだ。
知世はこういう奴なのだ。
魂が同じであるなら、ダイドウジがこうであってもおかしくはないと、思わず苦笑とともにため息をついた。
俺もよく知世に服を作ってもらった。
彼女はその人にとって何が最適かを見極める素質があるのだ。
「超絶可愛いサクラちゃんにぴったりなコスチュームを考えましたのー!
私の作ったコスチュームを着て颯爽と空を駆けるサクラちゃん!
素晴らしいですわ―!」
先ほどのことがまるで嘘かのようにぱぁっと顔を輝かせて語るダイドウジに、少女もついていけていないようだ。
唯一ついていっているらしい白饅頭がちゃっかり自分の分の衣装も頼んでいる。
姫を押し切る形で了承を得たダイドウジは、先日と同じく台風のようにあっという間に去って行った。
どこか疲れた様子の小僧と、なんだかやる気になった姫。
「小狼君、後で練習に付き合ってもらってもいいかな?」
そんな可愛らしいお願に、小僧は少し元気を取り戻したようだ。
おやつの皿やカップを片づけ、機体の整備をしながら、先ほどのダイドウジの姿を思い返す。
彼女は本当にいったい何をしに来たのだろうか、と。
もちろん少姫の服装を気にしていることは嘘ではない。
ただ気になるのは不正の件だ。
彼女がなぜ気になることがあると俺達に洩らしたのか。
なぜ本気の振りをしているのか。
あれほど大切にしたいと思っているであろう姫の身にも、危険が及ぶかもしれないのに。
いくら考えてもダイドウジの考えは読めない。
もう少し情報がほしいところだが、今はそうしている時間もないだろう。
この国の科学に詳しくないところも、情報の集めにくさに拍車をかけている。
どちらにせよ。
「本選では気をつけないとね」
隣で男がぽつりと漏らす。
彼も同じなのかもしれないと思うと、初めのころからの変化がなんだか面白くて笑いたくなってしまうが、俺は無言で肯定を示す。
科学が発達して、ある程度は安全なはずのこの国でも、時折見張られているかのような視線を感じるのはなぜだろうか。
きっとこの視線のことも、青年は薄々気づいているのだろう。
本選の日はあっという間に来てしまった。
不正を働いた犯人については知世ちゃんからも情報は入ってこない。
まだ見つかっていないのだろう。
サクラちゃんが知世ちゃんの作った服に着替えるということで、男性陣は外で待たされている。
もちろん、男性に見える黒様も待ち組だ。
辺りの様子をぼうっと見ている姿は、少しすねているかのようにも見えておかしくなってしまう。
「予選のときより人いっぱいだね」
オレの言葉も聞いていないようだ。
「やっと本選か」
見当違いの返事が帰ってきて、オレはくすりと笑う。
小狼君は何のことやらと首をかしげている。
「お待たせしました」
ようやくドアが開いて知世ちゃんが出てきて、そのあとから恥ずかしそうなサクラちゃんがでてくる。
淡い明るいピンクは桜都国でみた桜色で、サクラちゃんに本当によく似合っていた。
背中から生えた小さな羽根も、ウィニングエッグ号にぴったり。
モコナもおそろいのゴーグルをつけてもらってご機嫌だ。
ぼうっとしちゃっている小狼君の代わりに、オレが笑顔を向ける。
「可愛いねー」
そうすればもっと恥ずかしそうにするサクラちゃん。
それを見てもっと恥ずかしそうにする小狼君。
なんとも微笑ましい。
「警備体制は万全を期していますが、それでも何が起こるかわかりません。
気をつけてくださいね」
知世ちゃんの視線が、オレ達にも向けられる。
黒様の目を見る時間が少し長かった気がするのは気のせいだろうか。
「誰が何を仕出かそうが、勝てばいいんだろう」
そんな知世ちゃんを安心させるためだろうか。
黒様が珍しく知世ちゃんに返事をした。
それがなんだかおかしくて、オレもちょっと便乗してみる。
「だねぇ」
「はい」
そうすれば小狼君も真面目な顔をして返事をした。
そして。
「頑張る!」
笑顔とガッツポーズを見せるサクラちゃん。
この笑顔が見られる間は大丈夫かな、と思う。
「そろそろ出発場所の抽選が始まりますわ」
知世ちゃんの言葉に、オレ達は出場者の集まるステージの方へと向かう。
どうやらくじ引きで出発場所を決めるらしい。
小狼君が15、オレが11、黒たんが9。
あと残るはサクラちゃんだけど、この子は賭けごとにはどうも強いようだから。
「出ました―!!」
必要以上に大きな声のアナウンスが会場に響き渡る。
「No.1です!!」
そのくじを手にしているのは困惑顔のサクラちゃん。
「やっぱり」
よかった、とほっとした顔の小狼君。
目を細めて眺めている黒様。
これでみんなのスタート位置が決定した。
出場者は全員ステージに上るようにアナウンスがある。
知世ちゃんに見送られながら、オレ達はステージに上がった。
たくさんのお客さんの声援を受けるのはなんだか新鮮。
サクラちゃんと小狼君もなかなかない経験にドキドキしているのが伝わってくる。
黒様はいつも通り無表情だけれど、そんなところにピッフル国の女の子たちはクラっときているようだ。
「じゃ、行きますか。
ドラゴンフライレース、本選に」
ここからはみんな別々の係りの人に誘導されるみたい。
黒りんはサクラちゃんと小狼君を少し気にしながらも、指示に従って小さな空飛ぶ乗り物でスタート位置へと運ばれていった。
小狼君もサクラちゃんを気にしているようだ。
こちらは黒たんと違って分かりやすいからサクラちゃんも気づいたようで、笑顔で手を振っている。
それを見て少し安心したのか、小狼君もスタート位置に向かった。
誘導してくれるお姉さんにサクラちゃんとの仲で何か言われたのか、顔を赤くして少し慌てているところが微笑ましい。
「こちらへどうぞ」
「はーい」
そんなみんなの様子を眺めているオレも声をかけられ、ツバメ号に運ばれる。
ツバメ号に乗り込むと、誘導係のお姉さんがオレにコンパスを渡した。
どうやらその針の指す方向に飛んでいったらいいらしい。
3つのバッチを集めてゴールを目指すのがこのドラゴンフライのルールなんだそうだ。
このルールも、コース設定も例年とは違うらしく、知世ちゃんの配慮なのだろうと思う。
ひとり、このことに何か引っかかっている人はいたけれど。
噂の知世ちゃんが空中に浮かびあがった。
ライトの光で見えるようにしている、本当にこの国の技術(知世ちゃんの会社の技術?)はすごいと感心してしまう。
その知世ちゃんの手には円盤が持たれ、そこにカウントダウンが表示されるらしい。
「3」
各機エンジンをふかし始める。
「2」
黒様も後ろからではわからないけれど、きっと勝ち気に口の端を上げ、スタートの合図を待っていることだろう。
「1」
空を飛ぶのは好きだ。
青に溶け込むような感覚が好きだし、風も気持ちいい。
何より、足を地面につけている必要がない、そんな自由なところが好きだ。
とやかく考える必要なんてなくて、ただみんなとレースに参加すればいい、そんなドラゴンフライが好きだ。
だから、オレも。
「0!
3つのバッチをゲットして、目指せ!
栄光のゴールへ!!」