ピッフル国
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会場に着けば、思いのほか観客が多い。
流石にあれだけ宣伝されていただけあって、大きな大会なのだと実感する。
「出るんだな」
確認するように問いかければ、少女はやる気満々といった様子で
「まだ上手に飛べないけれど頑張ります!」
と言った。
やはり言い出したら聞かないのはどこの姫も同じらしい。
「頑張るのもいいが、傍で見ている奴のことも少しは覚えておいてやれ」
「……え?」
こういうことが分かっていないあたりも一緒か、と思う。
相手のことを強く思う。
同じくらい相手に強く思われていることも、少しは分かっているのだろうが、その認識は現実より軽い。
「エントリーしてきたよー」
人ごみをかきわけながら戻ってきた男と小僧、それからその頭の上の白饅頭。
「なんかね、レースは2回あるみたい」
一緒に近づいてくる気配。
振り返ればたくさんのボディーガードを連れたダイドウジが歩いてきた。
「予選と本選の2回ですわ。
今日の予選を勝ち残った方が本選に進むことができます。
そして本選で優勝した方があの充電電池を手に入れることができる。
というわけで、早速撮らせていただきますわー」
語尾にハートをつける勢いでビデオカメラを回している。
どうやらどこの姫も、テンションが上がると手がつけられないのも同じらしい。
放送がかかり、出場者はスタート地点に来るように告げられた。
「頑張って優勝目指してくださいね」
ギュッと姫の手を握り、ダイドウジ社長は特別席の方に誘導されていった。
「知世ちゃんにあれだけ応援されたら負けるわけにはいかないねー」
男がちらりと俺をみながら姫に声をかける。
「はい!
絶対優勝します」
ぐっと拳を握る様子に、どうか無茶だけはしてくれるなと心の中で呟いた。
「龍王……じゃない」
「なんか見たことあるいっぱいだね」
「ええ」
スタートラインに並ぶと、出場者の顔も自然と見えてくる。
小僧たちも気づいたようだ。
「この世界では別の世界で会った人に妙に会うなぁ」
男は引っかかる言い方をした。
確かに妙だ。
今までこれだけたくさんの他の世界で出会った人が集まった世界には行ったことがない。
たとえ魂が同じでも、関係性は異なってきている。
そう考えると、確かに気持ち悪いくらいの偶然が重なっているようだ。
それが、偶然なのか必然なのか。
あの魔女にいわせれば、この世の中に偶然なんてなくて、必然しか存在しない。
あの言葉は、もしかしたら警告灯だったのかもしれないと最近思う。
とすれば。
(彼女も)
「チェッカーフラグを振るのは、ピッフル国が誇る総合商社『ピッフル・プリンセス社』の若き社長、知世=ダイドウジ嬢!」
アナウンサーの声に、紙吹雪と歓声の中、堂々と現れる。
魂は同じとはいえど、異なった環境で成長すれば、その人柄も変わるものだが、彼女の根本にはいつも、強さがある。
あの穏やかな表面からは想像もつかないほど、このダイドウジにも強い精神があるだろう。
それがどちらに傾くか。
敵に回れば厄介この上ない相手であることはよく知っていた。
チェッカーフラグが振られる。
俺の知らない、俺を知らない知世によって。
「ドラゴンフライレーススタートだ!」
アクセルを踏み、ハンドルを上に引きながら安定させる。
「おっと、いきなり1機リタイアか?」
アナウンスにサイドミラーを確認すれば、案の定姫の機体が傾いている。
「いきなり……」
「あらら」
男も気になっているようで、先頭からは少し離れている。
慌てて小僧が駆け付け、指示をだし、無事にリタイアは免れたようだ。
ダイドウジもカメラを持って姫の方に行った。
しばらくは大丈夫だろう。
機体を上昇させれば男がついてきた。
「サクラちゃん心配してるんだー
やっさしー」
自分も心配していることに気づいているのかいないのか。
心地よい風に頬が緩むのを感じながら、アクセルを踏む。
「これは勝負だろう。
無駄口たたくな」
「それもそうだね」
ヘラリとした表情が、一瞬で変わる。
にやりと上がった口元。
緩く弧を描くことは変わってはいないが、わずかに鋭く細められた蒼い目。
風圧を防ぐための前傾姿勢。
「んじゃ」
軽い挨拶の後、一気にスピードを出す。
「……最初からまじめにやれ」
あんな表情の彼は嫌いじゃない。
真っ直ぐ向き合っている姿は、嫌味がない。
これだからひねくれ者は困る。
前方の方にハイスピードの集団が見える。
アナウンスによれば常連の上位入賞者らしい。
「続いて飛び出してきたのは、
今回初エントリーのツバメ号と黒たん号だ!」
アナウンスに俺は一瞬聞き間違えたかと思う。
ちらりと男の方を見れば笑みを深めていて、間違いないことを確信した。
「……お前がつけたのか?」
「可愛い方がいいかなーって」
「覚えていろよ」
「忘れないよーやだなぁ。
オレに取っ組みあって勝てたことないくせに」
にやにやと笑う男。
どうやら機嫌がいいらしい。
「言ってろ」
俺はスピードを上げる。
前方の集団がどこかふらふらしているのは風が乱れているからだろうか。
男は風に関しては問題がないだろう。
いつも世界の移動でも余裕なのだから、このくらいは感知できる。
俺もそれほど問題はない。
問題は。
「ひゅー、流石小狼君。
いつもみたいに『まだまだ』とかいわないの?」
彼と共に無事に避けられたのをサイドミラーで確認する。
口笛の音が出せないせいで口で言うのは何ともいい難いが。
「サクラちゃんは?」
小僧も気になって振り返っている。
皆の視線を受けていることに気づかぬ本人は、ふっと風を感知して、ふわりとターンを決めて避けていた。
それはサクラの花びらのようで、名は体を示すとはよく言ったものだ。
「初エントリーのウイニングエッグ号見事なターン!」
アナウンサーも絶賛で拍手が起きる。
彼女のもつ不思議な力のおかげかもしれない。
とのればもう心配はいらない。
あとは遠目に見えるゴールを目指すだけだ。
「飛ばせ。
あいつらは特別な力があっても入賞できるとは限らない」
性格から考えれば何をしでかしてもおかしくない2人だ。
こちらが固めておかなければ、2人はまたどこかで悩むこともある。
「はいはい、わかってるよー」
俺と彼と、どちらがアクセルを先に踏み込んだだろう。
先頭集団をすりぬけながら、ゴールを目指す。
「黒たん、運転荒いー」
風に乗って聞こえる声。
「勝てばいいんだ、勝てば」
風に乗って彼にも届いただろうか。
だがたぶんその前に歓声が響いた。
俺と男が1、2位で予選通過だ。
順に先頭集団にいた機体がゴールしていく。
まだ小僧は比較的近くまで来ているが、姫の機体はまだ小さい。
不意に爆発音が聞こえる。
煙が昇った。
それにまぎれて複数の破裂音がする。
辺りも異常事態にざわめきだした。
「おおっとどうした?
調整に問題があったか?」
アナウンスが流れるが、そうとは考え難い。
皆念入りに機体チェックは行っているはず。
不備があれば直にその機体周辺で騒ぎが起きるはず。
だがゴールした機体の持ち主もその素振りはないし、リタイアした機体にもその様子はない。
調整は確かに難しい機体だが、これほど複数の機体に同時にミスがあるとは考え難いし、どこか1台の整備不良の巻き添えを食らったとするにもあまりにリタイア数が多い。
つまり、これは誰かのいたずら。
またはーー否、今はそれどころではない。
小僧が11位で滑り込んできた。
ずいぶん飛びにくそうだ。
「やったー!」
「姫は?」
姫は風を無意識に読んでいたから、それほど心配もいらないかもしれないが、彼女の機体に煙のせいで他の機体が接触するのは危ない。
態勢を一人で立て直すのはまだまだ彼女の力量では難しいだろう。
そうこうしているうちに19位までが決まって行く。
「……サクラちゃん」
男が小さく不安げに呟いた時、2機ゴールに飛び込んできた。
1台は姫だ。
ゴールはほぼ同時。
カメラ判定だ。
「カメラ判定の結果、予選通過はウイニングエッグ号だ!!」
アナウンスに胸をなでおろす。
白饅頭と喜ぶ姿に、小僧もようやく眉間のしわが消えた。
「これで予選は通過か」
機体を離れ、男と小僧の方に近づく。
「うん、4人ともね」
ヘラリと笑う姿。
「後は決勝ですね」
意気込む小僧。
この国は穏やかだ。
平和で温かい。
大統領という国の一番偉い人よりも偉いくらいのダイドウジが、この国にいるからか、彼女の作る会社が、この国にあるからか。
あの日本国にもあふれた笑顔に、この国の民の笑顔は似ている。
流石にあれだけ宣伝されていただけあって、大きな大会なのだと実感する。
「出るんだな」
確認するように問いかければ、少女はやる気満々といった様子で
「まだ上手に飛べないけれど頑張ります!」
と言った。
やはり言い出したら聞かないのはどこの姫も同じらしい。
「頑張るのもいいが、傍で見ている奴のことも少しは覚えておいてやれ」
「……え?」
こういうことが分かっていないあたりも一緒か、と思う。
相手のことを強く思う。
同じくらい相手に強く思われていることも、少しは分かっているのだろうが、その認識は現実より軽い。
「エントリーしてきたよー」
人ごみをかきわけながら戻ってきた男と小僧、それからその頭の上の白饅頭。
「なんかね、レースは2回あるみたい」
一緒に近づいてくる気配。
振り返ればたくさんのボディーガードを連れたダイドウジが歩いてきた。
「予選と本選の2回ですわ。
今日の予選を勝ち残った方が本選に進むことができます。
そして本選で優勝した方があの充電電池を手に入れることができる。
というわけで、早速撮らせていただきますわー」
語尾にハートをつける勢いでビデオカメラを回している。
どうやらどこの姫も、テンションが上がると手がつけられないのも同じらしい。
放送がかかり、出場者はスタート地点に来るように告げられた。
「頑張って優勝目指してくださいね」
ギュッと姫の手を握り、ダイドウジ社長は特別席の方に誘導されていった。
「知世ちゃんにあれだけ応援されたら負けるわけにはいかないねー」
男がちらりと俺をみながら姫に声をかける。
「はい!
絶対優勝します」
ぐっと拳を握る様子に、どうか無茶だけはしてくれるなと心の中で呟いた。
「龍王……じゃない」
「なんか見たことあるいっぱいだね」
「ええ」
スタートラインに並ぶと、出場者の顔も自然と見えてくる。
小僧たちも気づいたようだ。
「この世界では別の世界で会った人に妙に会うなぁ」
男は引っかかる言い方をした。
確かに妙だ。
今までこれだけたくさんの他の世界で出会った人が集まった世界には行ったことがない。
たとえ魂が同じでも、関係性は異なってきている。
そう考えると、確かに気持ち悪いくらいの偶然が重なっているようだ。
それが、偶然なのか必然なのか。
あの魔女にいわせれば、この世の中に偶然なんてなくて、必然しか存在しない。
あの言葉は、もしかしたら警告灯だったのかもしれないと最近思う。
とすれば。
(彼女も)
「チェッカーフラグを振るのは、ピッフル国が誇る総合商社『ピッフル・プリンセス社』の若き社長、知世=ダイドウジ嬢!」
アナウンサーの声に、紙吹雪と歓声の中、堂々と現れる。
魂は同じとはいえど、異なった環境で成長すれば、その人柄も変わるものだが、彼女の根本にはいつも、強さがある。
あの穏やかな表面からは想像もつかないほど、このダイドウジにも強い精神があるだろう。
それがどちらに傾くか。
敵に回れば厄介この上ない相手であることはよく知っていた。
チェッカーフラグが振られる。
俺の知らない、俺を知らない知世によって。
「ドラゴンフライレーススタートだ!」
アクセルを踏み、ハンドルを上に引きながら安定させる。
「おっと、いきなり1機リタイアか?」
アナウンスにサイドミラーを確認すれば、案の定姫の機体が傾いている。
「いきなり……」
「あらら」
男も気になっているようで、先頭からは少し離れている。
慌てて小僧が駆け付け、指示をだし、無事にリタイアは免れたようだ。
ダイドウジもカメラを持って姫の方に行った。
しばらくは大丈夫だろう。
機体を上昇させれば男がついてきた。
「サクラちゃん心配してるんだー
やっさしー」
自分も心配していることに気づいているのかいないのか。
心地よい風に頬が緩むのを感じながら、アクセルを踏む。
「これは勝負だろう。
無駄口たたくな」
「それもそうだね」
ヘラリとした表情が、一瞬で変わる。
にやりと上がった口元。
緩く弧を描くことは変わってはいないが、わずかに鋭く細められた蒼い目。
風圧を防ぐための前傾姿勢。
「んじゃ」
軽い挨拶の後、一気にスピードを出す。
「……最初からまじめにやれ」
あんな表情の彼は嫌いじゃない。
真っ直ぐ向き合っている姿は、嫌味がない。
これだからひねくれ者は困る。
前方の方にハイスピードの集団が見える。
アナウンスによれば常連の上位入賞者らしい。
「続いて飛び出してきたのは、
今回初エントリーのツバメ号と黒たん号だ!」
アナウンスに俺は一瞬聞き間違えたかと思う。
ちらりと男の方を見れば笑みを深めていて、間違いないことを確信した。
「……お前がつけたのか?」
「可愛い方がいいかなーって」
「覚えていろよ」
「忘れないよーやだなぁ。
オレに取っ組みあって勝てたことないくせに」
にやにやと笑う男。
どうやら機嫌がいいらしい。
「言ってろ」
俺はスピードを上げる。
前方の集団がどこかふらふらしているのは風が乱れているからだろうか。
男は風に関しては問題がないだろう。
いつも世界の移動でも余裕なのだから、このくらいは感知できる。
俺もそれほど問題はない。
問題は。
「ひゅー、流石小狼君。
いつもみたいに『まだまだ』とかいわないの?」
彼と共に無事に避けられたのをサイドミラーで確認する。
口笛の音が出せないせいで口で言うのは何ともいい難いが。
「サクラちゃんは?」
小僧も気になって振り返っている。
皆の視線を受けていることに気づかぬ本人は、ふっと風を感知して、ふわりとターンを決めて避けていた。
それはサクラの花びらのようで、名は体を示すとはよく言ったものだ。
「初エントリーのウイニングエッグ号見事なターン!」
アナウンサーも絶賛で拍手が起きる。
彼女のもつ不思議な力のおかげかもしれない。
とのればもう心配はいらない。
あとは遠目に見えるゴールを目指すだけだ。
「飛ばせ。
あいつらは特別な力があっても入賞できるとは限らない」
性格から考えれば何をしでかしてもおかしくない2人だ。
こちらが固めておかなければ、2人はまたどこかで悩むこともある。
「はいはい、わかってるよー」
俺と彼と、どちらがアクセルを先に踏み込んだだろう。
先頭集団をすりぬけながら、ゴールを目指す。
「黒たん、運転荒いー」
風に乗って聞こえる声。
「勝てばいいんだ、勝てば」
風に乗って彼にも届いただろうか。
だがたぶんその前に歓声が響いた。
俺と男が1、2位で予選通過だ。
順に先頭集団にいた機体がゴールしていく。
まだ小僧は比較的近くまで来ているが、姫の機体はまだ小さい。
不意に爆発音が聞こえる。
煙が昇った。
それにまぎれて複数の破裂音がする。
辺りも異常事態にざわめきだした。
「おおっとどうした?
調整に問題があったか?」
アナウンスが流れるが、そうとは考え難い。
皆念入りに機体チェックは行っているはず。
不備があれば直にその機体周辺で騒ぎが起きるはず。
だがゴールした機体の持ち主もその素振りはないし、リタイアした機体にもその様子はない。
調整は確かに難しい機体だが、これほど複数の機体に同時にミスがあるとは考え難いし、どこか1台の整備不良の巻き添えを食らったとするにもあまりにリタイア数が多い。
つまり、これは誰かのいたずら。
またはーー否、今はそれどころではない。
小僧が11位で滑り込んできた。
ずいぶん飛びにくそうだ。
「やったー!」
「姫は?」
姫は風を無意識に読んでいたから、それほど心配もいらないかもしれないが、彼女の機体に煙のせいで他の機体が接触するのは危ない。
態勢を一人で立て直すのはまだまだ彼女の力量では難しいだろう。
そうこうしているうちに19位までが決まって行く。
「……サクラちゃん」
男が小さく不安げに呟いた時、2機ゴールに飛び込んできた。
1台は姫だ。
ゴールはほぼ同時。
カメラ判定だ。
「カメラ判定の結果、予選通過はウイニングエッグ号だ!!」
アナウンスに胸をなでおろす。
白饅頭と喜ぶ姿に、小僧もようやく眉間のしわが消えた。
「これで予選は通過か」
機体を離れ、男と小僧の方に近づく。
「うん、4人ともね」
ヘラリと笑う姿。
「後は決勝ですね」
意気込む小僧。
この国は穏やかだ。
平和で温かい。
大統領という国の一番偉い人よりも偉いくらいのダイドウジが、この国にいるからか、彼女の作る会社が、この国にあるからか。
あの日本国にもあふれた笑顔に、この国の民の笑顔は似ている。