ピッフル国
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小狼君はしっかりさんで、年の割にずいぶんと大人びていると思う。
だからかな。
今日もまた、眉間がギュウッてなっている。
「修羅ノ国のこと、引っかかっているのかな」
今日寝坊したのも、夜遅くまで考え事をしていたからかもしれないね。
「……ええ。
たとえいい結果になったとしても、おれたちが時間の流れに干渉してしまったことに変わりはありませんから」
暗い表情。
彼はいつも、少し考えすぎる傾向があるような気がする。
「そこにあった未来を変えることが許されるのか、か」
「こんなことを続けていたら、歴史はどうなってしまうのでしょうか」
なんだか彼はとてつもなく大きな問いに直面しているような気がする。
もちろんオレ達がしていることはそう言うことなのだけれど、もし、オレ達ごときでそんなことができてしまうのであれば、もっと力の強い魔法使いたちはいったい何をしているんだろう。
例えば、あの不思議なお店の魔女さん。
例えば、オレに声をかけたあの男。
彼らは何をしている可能性があるのだろう?
オレ達もそうして、未来を変えられている側なのかもしれない。
多くの不幸も、生まれ持った罪も、全て。
そう思えば思うほど、時間というものは、歴史というものは、とても手には負えないもので。
(ああ駄目だ)
近くにある茶色い頭に片手を乗せた。
陽の光を集めたそれは、温かく、細いけれど、サクラちゃんのものよりも一回り硬い。
「それは小狼君が考えてもどうしようもないことなんじゃないかな」
真っ直ぐな瞳の少年はきょとんとした顔を見せる。
「ちょっと横に置いておくのはどう?
頑張ってできることなら頑張ればいいけれど、こればかりは手に負えない。
できないことはできないと認めることも大事だよ」
そう言えばちょっと落ち着いたみたい。
「今小狼君が考えないといけないことは?」
そう問いかければ。
「レースに勝つことです」
笑顔が返ってきた。
何でかな、オレまで笑顔になちゃう。
不意に耳に届いた車の音。
(お、これは)
「黒りゅんとサクラちゃん、帰ってきたのかな?」
音のする方に顔を向けていると、なんだか音が多い気がする。
「あれ……?」
「ええぇっ!」
小狼君が驚くのも道理。
たくさんの車に囲まれた、大きな車が登場したのだ。
びっくりしていると車から黒るんとサクラちゃんが降りてきた。
慌てて走ってきたサクラちゃんに事情を聞いて、とりあえず飲み物を準備する。
なんだかすごい人を連れてきちゃったみたいだ。
何気ない風を装っている黒様に思わず笑みが溢れる。
サクラちゃんが髪の長い女の子に「知世ちゃん」、と声をかけているから間違い無いだろう。
黒りんの大切なお姫様と同じ魂を持つ人に違いない。
オレとモコナ、それから小狼君がアイスティを一通り配り終えたところで、来訪者の中で一人だけ姿の違う女の子が立ち上がった。
「改めてご挨拶を。
わたくし、『ピッフル・プリンセス社』の社長、知世=ダイドウジと申します。
後ろのみなさまはボディーガードの方たちです」
相当大きい会社なんだろう。
こんな女の子一人に10人以上のボディーガードがつくなんて。
サクラちゃんと変わらぬ年恰好に見えるけれど、かなり経営の面ではやり手と見える。
それにしても。
(黒たんが面白すぎる……)
知世ちゃんを意識しすぎている。
ボディーガードさんにしたら、わからないだろう。
もちろん知世ちゃんにも。
分かるのはオレと、案外良く気がつくサクラちゃんくらいだろう。
気にしていない風を装うとすればするほど、どこか不自然なのだ。
例えば、コップの結露を妙に気にして見てみたり、知世ちゃんの方を見ないようにしていたり、ボディーガードさんたちの気配を伺ったり。
忍びとして名を馳せた彼女は、おそらくポーカーフェイスのプロだ。
彼女のそれを見破れるのは、ただ彼女の上部だけを見ているからではない。
彼女と旅をしてきたからこそ、理解しているのだ。
どんなに魂が同じだとわかっていてもそわそわしてしまうほど、きっと知世姫が大切だったんだろう。
そう思うと、オレとは違うんだと言うことを再認識する。
この旅に出るとき、国に帰りたいと願った彼女と、国にだけは帰りたくないと願ったオレ。
そもそも根本が違うのだ。
(愛国心も忠誠心も、ないわけじゃないと思うんだけど)
どうしてかそれが報われないとでも言えばいいのか。
黒様と目が合った。
笑いかければ怪訝そうに眉を顰められた。
彼女は俺が気づいて面白がっていることに気付いたのだろう。
言葉さえ通じない世界を旅したオレ達は、言葉以外で互いの事をある程度分かり合える程になっていた。
そこまで思考を進めて、嫌になる。
オレはどうやらもう、彼女から逃れられないらしい。
結局、台風のように現れた知世ちゃんは、やはり台風のように慌ただしく去って行った。
大きい会社の社長さんだ、暇ではないのだろう。
夕食後、サクラちゃんはドラゴンフライの練習をすると外に出て行った。
もちろん先生は小狼君。
窓から見える2人はなんとも微笑ましい。
そしてそれをこっそり眺めている黒たんも。
「微笑ましいねぇ」
彼女の手に酒のボトルを渡す。
このお酒、オレンジって言う果物を絞ってから飲むんだけど、なかなかおいしいんだよね。
「そう言えば今日の黒たんも微笑ましかったー」
ちらりとオレを見上げる紅い目。
「知世ちゃん」
オレの言葉に、微かに眉が寄る。
「黒たんの国のお姫様にそっくりだったんでしょー
意識していて面白かったよー黒りん」
「……言ってろ」
黒むーはくいっと瓶を傾けてお酒を飲む。
本当に黒むーは面白い。
「でも結構会うもんだねぇ。
姿は同じでも同じじゃない人に。
日本国の姫もあんな感じだったの?」
だからついつい話しかけちゃうんだ。
それにもっといじれるポイントも探したくなっちゃう。
「お前は会っていないようだな」
不意にオレの耳にだけ届くような小声で、黒りんが言った。
「逃げ続けなきゃならない理由と」
紅い目が、あの血のように紅い目が、オレを見ている。
どこかに残してきた惨劇の後にこびりついた、あの赤色。
「同じ顔でも同じ奴とは限らないけどな」
返事をしないオレを気遣ってか(一見しただけではとてもそうは見えないけれど)、つけたされた言葉。
俺は紅い目から目をそらして、口を開いた。
「……わかるよ。
ただ同じ顔なのか、それともあの人なのか。
オレにはわかる」
だからだ。
だから、次に会うことがないように、逃げたい。
その理由なんて、黒りんは知らなくていい。
君は、オレのこの赤に触れなくていい。
「君に知世姫かわかるようにー」
へらりと笑って見せたら、黒りんはどこか胡散臭げにオレを見た。
でも、オレがそれ以上話を続けたくないことが分かったのだろう。
またお酒をあおって外に意識を向けてくれた。
(こういう小さな優しさが、逆に首を絞められている気になるんだけど)
でもそうしてもらうことをひそかに望んでしまっているあたり、オレも救われない。
ツァラストラ国で黒様たちから引き離された俺は、飛王の手下達と対峙していた。
とは言え彼らはオレを引き止めるようにとしか指示されていなかったのだろう。
オレはまだ利用価値があるらしい。
黒たんもオレの後に引き剥がされてしまったのだと言っていた。
おそらく彼女を相手に回すのは骨だと判断したのだろう。
そして結果、サクラちゃんが全ての羽根を取り戻すことを願うことはなく、オレ達はまた再会を許された。
いつか、全ての羽根が揃った時、オレ達は命だけでも救われるのだろうか。
その時まで、黒りんを殺さずに済むだろうか。
「また馬鹿なこと考えてるな」
ぽつりと聞こえた声に反射的に顔を上げる。
赤い瞳が、オレを見つめる。
1度目があうと離せなくなる、その彼女の身体にもオレの身体にも流れる真っ赤な瞳。
「……俺が守る。
今までもそうだったろ」
「確かに黒様は強いけどさ……」
「俺より強い奴を知った口ぶりだな。
だとすれば」
失言だったと気づいた時には、酒瓶を煽り、濡れた薄い唇が勝ち気に弧を描いた。
「日本国にはもう俺よりも強い者はいなかった。
……楽しみだ」
その優しさにオレは、胸が締め付けられる。
全ては彼女の方が一枚上手だ。
彼女の何倍も生きているはずのオレなのに、彼女の前では大差ない年齢に思えてしまう。
もしあの人が彼女より強いとして、それでも彼女は立ち向かうだろう。
では、オレが相手になるならどうだろう。
いつの日か彼女を殺さねばならない時、彼女は今のように楽しげに笑ってくれるだろうかーーそして、何を守るのだろう。
オレは、下手に笑うのが精一杯だった。
だからかな。
今日もまた、眉間がギュウッてなっている。
「修羅ノ国のこと、引っかかっているのかな」
今日寝坊したのも、夜遅くまで考え事をしていたからかもしれないね。
「……ええ。
たとえいい結果になったとしても、おれたちが時間の流れに干渉してしまったことに変わりはありませんから」
暗い表情。
彼はいつも、少し考えすぎる傾向があるような気がする。
「そこにあった未来を変えることが許されるのか、か」
「こんなことを続けていたら、歴史はどうなってしまうのでしょうか」
なんだか彼はとてつもなく大きな問いに直面しているような気がする。
もちろんオレ達がしていることはそう言うことなのだけれど、もし、オレ達ごときでそんなことができてしまうのであれば、もっと力の強い魔法使いたちはいったい何をしているんだろう。
例えば、あの不思議なお店の魔女さん。
例えば、オレに声をかけたあの男。
彼らは何をしている可能性があるのだろう?
オレ達もそうして、未来を変えられている側なのかもしれない。
多くの不幸も、生まれ持った罪も、全て。
そう思えば思うほど、時間というものは、歴史というものは、とても手には負えないもので。
(ああ駄目だ)
近くにある茶色い頭に片手を乗せた。
陽の光を集めたそれは、温かく、細いけれど、サクラちゃんのものよりも一回り硬い。
「それは小狼君が考えてもどうしようもないことなんじゃないかな」
真っ直ぐな瞳の少年はきょとんとした顔を見せる。
「ちょっと横に置いておくのはどう?
頑張ってできることなら頑張ればいいけれど、こればかりは手に負えない。
できないことはできないと認めることも大事だよ」
そう言えばちょっと落ち着いたみたい。
「今小狼君が考えないといけないことは?」
そう問いかければ。
「レースに勝つことです」
笑顔が返ってきた。
何でかな、オレまで笑顔になちゃう。
不意に耳に届いた車の音。
(お、これは)
「黒りゅんとサクラちゃん、帰ってきたのかな?」
音のする方に顔を向けていると、なんだか音が多い気がする。
「あれ……?」
「ええぇっ!」
小狼君が驚くのも道理。
たくさんの車に囲まれた、大きな車が登場したのだ。
びっくりしていると車から黒るんとサクラちゃんが降りてきた。
慌てて走ってきたサクラちゃんに事情を聞いて、とりあえず飲み物を準備する。
なんだかすごい人を連れてきちゃったみたいだ。
何気ない風を装っている黒様に思わず笑みが溢れる。
サクラちゃんが髪の長い女の子に「知世ちゃん」、と声をかけているから間違い無いだろう。
黒りんの大切なお姫様と同じ魂を持つ人に違いない。
オレとモコナ、それから小狼君がアイスティを一通り配り終えたところで、来訪者の中で一人だけ姿の違う女の子が立ち上がった。
「改めてご挨拶を。
わたくし、『ピッフル・プリンセス社』の社長、知世=ダイドウジと申します。
後ろのみなさまはボディーガードの方たちです」
相当大きい会社なんだろう。
こんな女の子一人に10人以上のボディーガードがつくなんて。
サクラちゃんと変わらぬ年恰好に見えるけれど、かなり経営の面ではやり手と見える。
それにしても。
(黒たんが面白すぎる……)
知世ちゃんを意識しすぎている。
ボディーガードさんにしたら、わからないだろう。
もちろん知世ちゃんにも。
分かるのはオレと、案外良く気がつくサクラちゃんくらいだろう。
気にしていない風を装うとすればするほど、どこか不自然なのだ。
例えば、コップの結露を妙に気にして見てみたり、知世ちゃんの方を見ないようにしていたり、ボディーガードさんたちの気配を伺ったり。
忍びとして名を馳せた彼女は、おそらくポーカーフェイスのプロだ。
彼女のそれを見破れるのは、ただ彼女の上部だけを見ているからではない。
彼女と旅をしてきたからこそ、理解しているのだ。
どんなに魂が同じだとわかっていてもそわそわしてしまうほど、きっと知世姫が大切だったんだろう。
そう思うと、オレとは違うんだと言うことを再認識する。
この旅に出るとき、国に帰りたいと願った彼女と、国にだけは帰りたくないと願ったオレ。
そもそも根本が違うのだ。
(愛国心も忠誠心も、ないわけじゃないと思うんだけど)
どうしてかそれが報われないとでも言えばいいのか。
黒様と目が合った。
笑いかければ怪訝そうに眉を顰められた。
彼女は俺が気づいて面白がっていることに気付いたのだろう。
言葉さえ通じない世界を旅したオレ達は、言葉以外で互いの事をある程度分かり合える程になっていた。
そこまで思考を進めて、嫌になる。
オレはどうやらもう、彼女から逃れられないらしい。
結局、台風のように現れた知世ちゃんは、やはり台風のように慌ただしく去って行った。
大きい会社の社長さんだ、暇ではないのだろう。
夕食後、サクラちゃんはドラゴンフライの練習をすると外に出て行った。
もちろん先生は小狼君。
窓から見える2人はなんとも微笑ましい。
そしてそれをこっそり眺めている黒たんも。
「微笑ましいねぇ」
彼女の手に酒のボトルを渡す。
このお酒、オレンジって言う果物を絞ってから飲むんだけど、なかなかおいしいんだよね。
「そう言えば今日の黒たんも微笑ましかったー」
ちらりとオレを見上げる紅い目。
「知世ちゃん」
オレの言葉に、微かに眉が寄る。
「黒たんの国のお姫様にそっくりだったんでしょー
意識していて面白かったよー黒りん」
「……言ってろ」
黒むーはくいっと瓶を傾けてお酒を飲む。
本当に黒むーは面白い。
「でも結構会うもんだねぇ。
姿は同じでも同じじゃない人に。
日本国の姫もあんな感じだったの?」
だからついつい話しかけちゃうんだ。
それにもっといじれるポイントも探したくなっちゃう。
「お前は会っていないようだな」
不意にオレの耳にだけ届くような小声で、黒りんが言った。
「逃げ続けなきゃならない理由と」
紅い目が、あの血のように紅い目が、オレを見ている。
どこかに残してきた惨劇の後にこびりついた、あの赤色。
「同じ顔でも同じ奴とは限らないけどな」
返事をしないオレを気遣ってか(一見しただけではとてもそうは見えないけれど)、つけたされた言葉。
俺は紅い目から目をそらして、口を開いた。
「……わかるよ。
ただ同じ顔なのか、それともあの人なのか。
オレにはわかる」
だからだ。
だから、次に会うことがないように、逃げたい。
その理由なんて、黒りんは知らなくていい。
君は、オレのこの赤に触れなくていい。
「君に知世姫かわかるようにー」
へらりと笑って見せたら、黒りんはどこか胡散臭げにオレを見た。
でも、オレがそれ以上話を続けたくないことが分かったのだろう。
またお酒をあおって外に意識を向けてくれた。
(こういう小さな優しさが、逆に首を絞められている気になるんだけど)
でもそうしてもらうことをひそかに望んでしまっているあたり、オレも救われない。
ツァラストラ国で黒様たちから引き離された俺は、飛王の手下達と対峙していた。
とは言え彼らはオレを引き止めるようにとしか指示されていなかったのだろう。
オレはまだ利用価値があるらしい。
黒たんもオレの後に引き剥がされてしまったのだと言っていた。
おそらく彼女を相手に回すのは骨だと判断したのだろう。
そして結果、サクラちゃんが全ての羽根を取り戻すことを願うことはなく、オレ達はまた再会を許された。
いつか、全ての羽根が揃った時、オレ達は命だけでも救われるのだろうか。
その時まで、黒りんを殺さずに済むだろうか。
「また馬鹿なこと考えてるな」
ぽつりと聞こえた声に反射的に顔を上げる。
赤い瞳が、オレを見つめる。
1度目があうと離せなくなる、その彼女の身体にもオレの身体にも流れる真っ赤な瞳。
「……俺が守る。
今までもそうだったろ」
「確かに黒様は強いけどさ……」
「俺より強い奴を知った口ぶりだな。
だとすれば」
失言だったと気づいた時には、酒瓶を煽り、濡れた薄い唇が勝ち気に弧を描いた。
「日本国にはもう俺よりも強い者はいなかった。
……楽しみだ」
その優しさにオレは、胸が締め付けられる。
全ては彼女の方が一枚上手だ。
彼女の何倍も生きているはずのオレなのに、彼女の前では大差ない年齢に思えてしまう。
もしあの人が彼女より強いとして、それでも彼女は立ち向かうだろう。
では、オレが相手になるならどうだろう。
いつの日か彼女を殺さねばならない時、彼女は今のように楽しげに笑ってくれるだろうかーーそして、何を守るのだろう。
オレは、下手に笑うのが精一杯だった。
