ピッフル国
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黒たんは購入したソファに深く座り込んだ。
流石に疲れたのだろう。
「お疲れ様ー」
彼女の前にアイスティーを出す。
「助かる……」
ストローの先をちゅっと咥えて吸う口先は、どこか子どものようで可愛らしい。
吸い寄せられた目を引き剥がして紅茶を片付ける。
新しいピッフル国について、家と家具をそろえようやくひと段落ついた。
この国にはしっかり1カ月くらいは滞在することになりそうなのだ。
オレと黒るんの修羅ノ国での報奨金が換金できて何よりだ。
半年分でも働いて貯めたお金は大きい。
特にこの国では何かとお金がかかりそうだが、
これでしばらくは寝る場所もばっちり確保できている。
「それにしてもまさか姫の羽根が賞品になっているとは、びっくりですね」
「確かに。
この国ではずいぶん価値があるみたいだもんね」
サクラちゃんの羽根が、ドラゴンフライレースという空を飛ぶ乗り物の大会の優勝賞品になっていることはこの国にきてすぐに気づいた。
探す手間は省けたけど、勝たないと手に入らない。
勝負事は強い人間が集まったこの旅の仲間なら何とかなるのだろうか。
わりと負けず嫌いな黒様が、最終的には何とかしてくれるだろう。
「午後からは部品を買いに行きましょうか?」
「モコナも行く!」
サクラちゃんも行きたそうに目を輝かせている。
今回の大会に出ることは小狼君からもお許しが出たようで、張り切っている。
「じゃあみんなで行こうか」
黒たんも素っ気なく、そして柔らかくひとつ頷いた。
これで決まりだ。
車という箱は、いくつかのボタンやハンドルで動かせるらしい。
お店で少し教えてもらうと、黒たんはすぐに乗りこなせてしまった。
流石器用だ。
4人乗りの車を購入して、いざ、ドラゴンフライレースの部品を買いに出陣。
黒たんの運転で、オレが助手席、サクラちゃんと小狼君とモコナが後部座席に乗りこむ。
「すごーい!」
「びゅんびゅーんって、早いし楽ちんだね」
すっかりテンションが上がっているサクラちゃんとモコナ。
それに動じることなく運転を続ける黒りん。
でもちょっと嬉しそう。
「黒りん、運転上手だねぇ」
「難しい乗り物じゃない。
馬よりもよほど楽だ」
「おれにもできるでしょうか?」
黒ぽっぽの運転に興味津津の小狼君。
彼はわりと器用だからすぐにできるようになりそう。
「帰りに運転してみるか?」
「はい!」
「私もできますか!?」
会話にいきなり飛び込んできたサクラちゃん。
目は輝いているけれど、どうだろう。
「……庭で練習してからにしたらどうだ」
「……その方がいいと思います」
小狼君にも言われ、納得した様子だ。
そうこうしているうちにパーツ店に到着する。
仕組みのこと、エンジンのこと、ボディによる特性、云々……
勉強しなければいけないことはたくさんあるらしい。
お店の人の説明の途中からこんがらがってしまったサクラちゃんとモコナは、小狼君にいわれていろんなドラゴンフライが展示されているところを見にいったみたい。
黒たんと小狼君は機械にずいぶん興味があるらしい。
普段はあまり表情が変わらない黒りんだが、今日はなんだか楽しそうだ。
「その本、借りていいか?」
一通り話を聞いたが、まだまだ悩んでしまうらしい。
「カタログですか?
どうぞ、良かったらこっちのも、先ほどのお嬢さんに」
気を利かせた店員が、分厚い部品カタログだけでなく、女の子向けの可愛いパーツの特集が組まれた雑誌もくれた。
サクラちゃんもこれを見たら喜びそうだ。
「ありがとうございます。
また決めたら来ます」
「お待ちしています!」
小狼君がサクラちゃんを迎えに行く。
その間、黒たんはぱらぱらと雑誌を開いた。
「お父さん、子どもにはどれを買ってあげるの?」
その手元を覗き込んで尋ねれば。
「……やめろ気持ち悪い」
一蹴されてしまった。
個人的にはいいネタだと思うんだけれど。
サクラちゃんを連れてきた小狼君が今度は運転席。
黒たんが助手席、おれとサクラちゃんとモコナが後部座席だ。
「ドラゴンフライと基本は一緒らしい。
だからここで操作を覚えてしまえばいい」
黒りんの説明を真剣に聞く小狼君。
それを後ろから真剣に覗くサクラちゃん。
もちろん、一応オレも話は聞いているが、3人の様子がなんだかとっても微笑ましい。
先は黒たんをお父さん呼ばわりしたけれど、お父さんと呼ぶには見た目が若すぎるのが欠点だ。
兄弟という方がよほどしっくりくる。
精神年齢的には十分いけそうなんだけれど。
一通りの説明が終わって、ようやく出発。
「夕ご飯のおかず買わないといけないね。
どこかお店あるかな?」
「来るときに見ました!」
「じゃあ道わかる?」
「はい!」
「止まれ!
右から歩行者!!」
「うわっすみません!」
「初めはゆっくり、確認しながら進め」
「小狼ふぁいと!」
「ありがとうモコナ」
「おい、近くまできたら言ってくれるか?」
「はい!」
何だろう、この家族な感じ。
オレは顔がにやけるのが止められない。
「ファイ楽しそう!」
モコナの言葉に、ヘラっと笑って見せる。
「だって黒りん、お父さんみたい」
「わーほんとだ、お父さんみたいだ!」
「……言ってろ」
ほわほわした国だ。
修羅ノ国が荒れていたから余計にそう思うのだろうか。
桜都国のときも感じたこのずっと続いてほしいくらいの穏やかさが、この国にもある。
少なくとも1カ月は約束されている、暖かい時間。
「ありました!左のお店です!」
「はい!」
その間だけでも、面倒なことは忘れていたいと思う。
難しいところもたくさんあるけれど、黒鋼さんや小狼君にファイさん、それからときどきモコちゃんの手伝いもあって、ドラゴンフライは形になってきた。
「ここの国のお店は分かりやすいですね」
車から降りて黒鋼さんに話しかける。
「まあな」
七分袖のブラウスに黒に近いデニムを合わせた黒鋼さんは、本当にスタイリッシュでかっこいい。
道行く女の人が振り返ってこそこそ何か言っているのを、本人は気づいていないだろうけれど、一緒にお買い物をする私はなんだか鼻が高い。
「すみません、飛翔パーツBNQ3が欲しいんです」
「はいよ」
お店の人にお願いして探してもらっている間、お店を見回す。
いくつか国を見てきたけれど、今いるピッフル国が一番文明が発達しているように見える。
「支払いはこれでお願いします」
黒鋼さんたちが修羅ノ国でもらった報奨金を換金して、カードで使えるようにしてもらった。
黒鋼さんとファイさんが、危ないところでずっと戦いながら、お金まで貯めていてくれたなんて驚きだ。
「お金、本当にありがとうございます」
「金はどこの国でも必要だからな」
今のことだけでいっぱいいっぱいにならずに、先を見通せる辺り、大人だなぁと思うし、これから先の旅のことまで考えていてくれることが嬉しい。
「毎度ありがとうございます」
お店の人がパーツを渡してくれた。
「ありがとうございます」
「準備は進んでいますか?」
初めに来た時にも対応してくれた初老の男性が黒鋼さんに話しかけている。
どうやらこの人は店長さんだったらしい。
「ああ。
もう今日中には完成する」
黒鋼さんもずいぶん親しくなった様子で、お店にきては良く話をしていた。
「お兄さん?が出場されるんですか、楽しみですね」
アルバイトらしいお兄さんが私にも話しかけてきてくれた。
黒鋼さんをお兄さんといいながら確認するように私を見ている。
説明することもややこしいからお兄さんということでいいかな、というか、お兄さんだと嬉しいくらいだ。
「こいつも出場する」
横で聞いていた黒鋼さんがぽつりと言ったのを聞いて、アルバイトのお兄さんはびっくりしたようだ。
「あのレースは危ないですよ!
ドラゴンフライはハイブリットで、電気も使っているけれどほとんどは風力で動いてる!
天候によっては墜落することもあるんですよ!
特に今回は優勝賞品のおかげで粗っぽいことになりそうだってニュースでも言っていたし!」
「なんかすごい充電電池らしいね。
あれがあれば半永久的にマシンが動くらしい。
噂じゃこの町全部の電力がまかなえるくらいだとか」
店長さんの言葉に、そんな力が羽根にはあるのかと驚いてしまう。
記憶の羽根のはずだけれど、なぜだか強い力があるみたいで、どこの国でも厄介なものになってしまっているようだ。
少しくらいどこかで役に立ってくれていると気が楽になるのだけれど。
「行くぞ」
そう言えばまだ食料品も買い出しを頼まれていたんだっけ。
「はい!」
「兎に角、危ないです!」
アルバイトのお兄さんはずいぶん心配してくれているようだ。
あまり私たちくらいの年代の出場がないことも関係しているだろう。
「心配してくださってありがとうございます」
精一杯のお礼の気持ちを伝えて、急いで黒鋼さんの背中を追いかけた。
「で、本当にレースに出るのか?」
車に乗りながら、黒鋼さんが問いかける。
「はい」
「危ないと言っていたぞ」
車は滑らかに走り出した。
ハンドル片手に正面を見ながら髪をかきあげる黒鋼さんは、本当にかっこいい。
心配はしてくれるけれど、黒鋼さんはいつも私の意見を尊重してくれる。
「私にできることがあるなら頑張りたいです」
「言い出したら聞かないのはどこの姫も一緒なのか」
「え?」
何か黒鋼さんの心の内が垣間見えた気がして、聞き返したけれど、車を運転したきり黒鋼さんは答えてくれなかった。
どんなお姫様だったんだろう、と思う。
黒鋼さんがこんなに大切にしたい人だから、きっと優しい人だったんだろうな、と。
丁度角を曲がろうとした時だった。
「きゃっ!」
急ブレーキのせいでガクンと衝撃が来た。
正面の車もキキキと音を立てて止まった。
危ない、ぶつかるところだったみたい。
「申し訳ありません、急いでいて」
相手の車を運転していた女の人が降りてきて、そう謝ってくれた。
黒鋼さんもそれに応対しようと車から降りる。
向こうの車の助手席から、私と同じくらいの年齢の女の子が頭を出した。
可愛い、お嬢様見たいな子だと思う。
それに優しそう。
(黒鋼さんも、きっとこんなお姫様に仕えて……)
「知世姫!?」
駆けだした黒鋼さんに驚いて私も車を降りる。
そうすると後ろの方から、運転していた女の人によく似た格好の人がたくさん出てきて、黒鋼さんの前に立ちはだかった。
「……素人ではないな」
黒いサングラスに黒のスーツをびしっと着こなした女の人たちに、黒鋼さんは次の行動を考えているようだ。
「お待ちなさい」
そこに声がかかる。
どうやらそれは女の子の声で、彼女は車を降りると、黒鋼さんの横を通り抜け、なぜか私の方に満面の笑みで駆け寄ってきた。
「見つけましたわ!」
そして私の手を握りしめ、語尾にハートがつく勢いでこういったのだ。
「ヒロインはあなたですわ」
流石に疲れたのだろう。
「お疲れ様ー」
彼女の前にアイスティーを出す。
「助かる……」
ストローの先をちゅっと咥えて吸う口先は、どこか子どものようで可愛らしい。
吸い寄せられた目を引き剥がして紅茶を片付ける。
新しいピッフル国について、家と家具をそろえようやくひと段落ついた。
この国にはしっかり1カ月くらいは滞在することになりそうなのだ。
オレと黒るんの修羅ノ国での報奨金が換金できて何よりだ。
半年分でも働いて貯めたお金は大きい。
特にこの国では何かとお金がかかりそうだが、
これでしばらくは寝る場所もばっちり確保できている。
「それにしてもまさか姫の羽根が賞品になっているとは、びっくりですね」
「確かに。
この国ではずいぶん価値があるみたいだもんね」
サクラちゃんの羽根が、ドラゴンフライレースという空を飛ぶ乗り物の大会の優勝賞品になっていることはこの国にきてすぐに気づいた。
探す手間は省けたけど、勝たないと手に入らない。
勝負事は強い人間が集まったこの旅の仲間なら何とかなるのだろうか。
わりと負けず嫌いな黒様が、最終的には何とかしてくれるだろう。
「午後からは部品を買いに行きましょうか?」
「モコナも行く!」
サクラちゃんも行きたそうに目を輝かせている。
今回の大会に出ることは小狼君からもお許しが出たようで、張り切っている。
「じゃあみんなで行こうか」
黒たんも素っ気なく、そして柔らかくひとつ頷いた。
これで決まりだ。
車という箱は、いくつかのボタンやハンドルで動かせるらしい。
お店で少し教えてもらうと、黒たんはすぐに乗りこなせてしまった。
流石器用だ。
4人乗りの車を購入して、いざ、ドラゴンフライレースの部品を買いに出陣。
黒たんの運転で、オレが助手席、サクラちゃんと小狼君とモコナが後部座席に乗りこむ。
「すごーい!」
「びゅんびゅーんって、早いし楽ちんだね」
すっかりテンションが上がっているサクラちゃんとモコナ。
それに動じることなく運転を続ける黒りん。
でもちょっと嬉しそう。
「黒りん、運転上手だねぇ」
「難しい乗り物じゃない。
馬よりもよほど楽だ」
「おれにもできるでしょうか?」
黒ぽっぽの運転に興味津津の小狼君。
彼はわりと器用だからすぐにできるようになりそう。
「帰りに運転してみるか?」
「はい!」
「私もできますか!?」
会話にいきなり飛び込んできたサクラちゃん。
目は輝いているけれど、どうだろう。
「……庭で練習してからにしたらどうだ」
「……その方がいいと思います」
小狼君にも言われ、納得した様子だ。
そうこうしているうちにパーツ店に到着する。
仕組みのこと、エンジンのこと、ボディによる特性、云々……
勉強しなければいけないことはたくさんあるらしい。
お店の人の説明の途中からこんがらがってしまったサクラちゃんとモコナは、小狼君にいわれていろんなドラゴンフライが展示されているところを見にいったみたい。
黒たんと小狼君は機械にずいぶん興味があるらしい。
普段はあまり表情が変わらない黒りんだが、今日はなんだか楽しそうだ。
「その本、借りていいか?」
一通り話を聞いたが、まだまだ悩んでしまうらしい。
「カタログですか?
どうぞ、良かったらこっちのも、先ほどのお嬢さんに」
気を利かせた店員が、分厚い部品カタログだけでなく、女の子向けの可愛いパーツの特集が組まれた雑誌もくれた。
サクラちゃんもこれを見たら喜びそうだ。
「ありがとうございます。
また決めたら来ます」
「お待ちしています!」
小狼君がサクラちゃんを迎えに行く。
その間、黒たんはぱらぱらと雑誌を開いた。
「お父さん、子どもにはどれを買ってあげるの?」
その手元を覗き込んで尋ねれば。
「……やめろ気持ち悪い」
一蹴されてしまった。
個人的にはいいネタだと思うんだけれど。
サクラちゃんを連れてきた小狼君が今度は運転席。
黒たんが助手席、おれとサクラちゃんとモコナが後部座席だ。
「ドラゴンフライと基本は一緒らしい。
だからここで操作を覚えてしまえばいい」
黒りんの説明を真剣に聞く小狼君。
それを後ろから真剣に覗くサクラちゃん。
もちろん、一応オレも話は聞いているが、3人の様子がなんだかとっても微笑ましい。
先は黒たんをお父さん呼ばわりしたけれど、お父さんと呼ぶには見た目が若すぎるのが欠点だ。
兄弟という方がよほどしっくりくる。
精神年齢的には十分いけそうなんだけれど。
一通りの説明が終わって、ようやく出発。
「夕ご飯のおかず買わないといけないね。
どこかお店あるかな?」
「来るときに見ました!」
「じゃあ道わかる?」
「はい!」
「止まれ!
右から歩行者!!」
「うわっすみません!」
「初めはゆっくり、確認しながら進め」
「小狼ふぁいと!」
「ありがとうモコナ」
「おい、近くまできたら言ってくれるか?」
「はい!」
何だろう、この家族な感じ。
オレは顔がにやけるのが止められない。
「ファイ楽しそう!」
モコナの言葉に、ヘラっと笑って見せる。
「だって黒りん、お父さんみたい」
「わーほんとだ、お父さんみたいだ!」
「……言ってろ」
ほわほわした国だ。
修羅ノ国が荒れていたから余計にそう思うのだろうか。
桜都国のときも感じたこのずっと続いてほしいくらいの穏やかさが、この国にもある。
少なくとも1カ月は約束されている、暖かい時間。
「ありました!左のお店です!」
「はい!」
その間だけでも、面倒なことは忘れていたいと思う。
難しいところもたくさんあるけれど、黒鋼さんや小狼君にファイさん、それからときどきモコちゃんの手伝いもあって、ドラゴンフライは形になってきた。
「ここの国のお店は分かりやすいですね」
車から降りて黒鋼さんに話しかける。
「まあな」
七分袖のブラウスに黒に近いデニムを合わせた黒鋼さんは、本当にスタイリッシュでかっこいい。
道行く女の人が振り返ってこそこそ何か言っているのを、本人は気づいていないだろうけれど、一緒にお買い物をする私はなんだか鼻が高い。
「すみません、飛翔パーツBNQ3が欲しいんです」
「はいよ」
お店の人にお願いして探してもらっている間、お店を見回す。
いくつか国を見てきたけれど、今いるピッフル国が一番文明が発達しているように見える。
「支払いはこれでお願いします」
黒鋼さんたちが修羅ノ国でもらった報奨金を換金して、カードで使えるようにしてもらった。
黒鋼さんとファイさんが、危ないところでずっと戦いながら、お金まで貯めていてくれたなんて驚きだ。
「お金、本当にありがとうございます」
「金はどこの国でも必要だからな」
今のことだけでいっぱいいっぱいにならずに、先を見通せる辺り、大人だなぁと思うし、これから先の旅のことまで考えていてくれることが嬉しい。
「毎度ありがとうございます」
お店の人がパーツを渡してくれた。
「ありがとうございます」
「準備は進んでいますか?」
初めに来た時にも対応してくれた初老の男性が黒鋼さんに話しかけている。
どうやらこの人は店長さんだったらしい。
「ああ。
もう今日中には完成する」
黒鋼さんもずいぶん親しくなった様子で、お店にきては良く話をしていた。
「お兄さん?が出場されるんですか、楽しみですね」
アルバイトらしいお兄さんが私にも話しかけてきてくれた。
黒鋼さんをお兄さんといいながら確認するように私を見ている。
説明することもややこしいからお兄さんということでいいかな、というか、お兄さんだと嬉しいくらいだ。
「こいつも出場する」
横で聞いていた黒鋼さんがぽつりと言ったのを聞いて、アルバイトのお兄さんはびっくりしたようだ。
「あのレースは危ないですよ!
ドラゴンフライはハイブリットで、電気も使っているけれどほとんどは風力で動いてる!
天候によっては墜落することもあるんですよ!
特に今回は優勝賞品のおかげで粗っぽいことになりそうだってニュースでも言っていたし!」
「なんかすごい充電電池らしいね。
あれがあれば半永久的にマシンが動くらしい。
噂じゃこの町全部の電力がまかなえるくらいだとか」
店長さんの言葉に、そんな力が羽根にはあるのかと驚いてしまう。
記憶の羽根のはずだけれど、なぜだか強い力があるみたいで、どこの国でも厄介なものになってしまっているようだ。
少しくらいどこかで役に立ってくれていると気が楽になるのだけれど。
「行くぞ」
そう言えばまだ食料品も買い出しを頼まれていたんだっけ。
「はい!」
「兎に角、危ないです!」
アルバイトのお兄さんはずいぶん心配してくれているようだ。
あまり私たちくらいの年代の出場がないことも関係しているだろう。
「心配してくださってありがとうございます」
精一杯のお礼の気持ちを伝えて、急いで黒鋼さんの背中を追いかけた。
「で、本当にレースに出るのか?」
車に乗りながら、黒鋼さんが問いかける。
「はい」
「危ないと言っていたぞ」
車は滑らかに走り出した。
ハンドル片手に正面を見ながら髪をかきあげる黒鋼さんは、本当にかっこいい。
心配はしてくれるけれど、黒鋼さんはいつも私の意見を尊重してくれる。
「私にできることがあるなら頑張りたいです」
「言い出したら聞かないのはどこの姫も一緒なのか」
「え?」
何か黒鋼さんの心の内が垣間見えた気がして、聞き返したけれど、車を運転したきり黒鋼さんは答えてくれなかった。
どんなお姫様だったんだろう、と思う。
黒鋼さんがこんなに大切にしたい人だから、きっと優しい人だったんだろうな、と。
丁度角を曲がろうとした時だった。
「きゃっ!」
急ブレーキのせいでガクンと衝撃が来た。
正面の車もキキキと音を立てて止まった。
危ない、ぶつかるところだったみたい。
「申し訳ありません、急いでいて」
相手の車を運転していた女の人が降りてきて、そう謝ってくれた。
黒鋼さんもそれに応対しようと車から降りる。
向こうの車の助手席から、私と同じくらいの年齢の女の子が頭を出した。
可愛い、お嬢様見たいな子だと思う。
それに優しそう。
(黒鋼さんも、きっとこんなお姫様に仕えて……)
「知世姫!?」
駆けだした黒鋼さんに驚いて私も車を降りる。
そうすると後ろの方から、運転していた女の人によく似た格好の人がたくさん出てきて、黒鋼さんの前に立ちはだかった。
「……素人ではないな」
黒いサングラスに黒のスーツをびしっと着こなした女の人たちに、黒鋼さんは次の行動を考えているようだ。
「お待ちなさい」
そこに声がかかる。
どうやらそれは女の子の声で、彼女は車を降りると、黒鋼さんの横を通り抜け、なぜか私の方に満面の笑みで駆け寄ってきた。
「見つけましたわ!」
そして私の手を握りしめ、語尾にハートがつく勢いでこういったのだ。
「ヒロインはあなたですわ」
