紗羅ノ国
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世界の移動中も姫を抱えるおれの肩を抱くファイさん。
たとえ言葉が通じないほど離れていても、この人たちは心配いらないと言うことが今回のことで分かった気がする。
むしろ心配して探していたおれの方が試されていたなんて、笑えてしまう話だ。
この人たちと一緒にいると、いつも気づかないところで助けられている。
甘えてはいけないとわかってはいるけれど、それでも、そんな安心感がたまらない。
(おれもまだまだ子供ということか)
それは腕の中にいる姫も同じなのかもしれない。
視線の先が明るくなっていく。
(あれは遊花区……?)
気づいた時には落下していて、何か柔らかいものの中に落ちたようだ。
「ここは……?」
見覚えのある人はいるのに、見覚えのない場所だ。
「紗羅ノ国?」
ファイさんが呑気に言葉をつなげる。
ということは、離ればなれになっていた間も、同じ紗羅ノ国に落ちていたのだろうか。
「戻ってきたの?」
姫も移動の衝撃で目が覚めたのか辺りを見回している。
「あら、お客さんね」
不意にかけられた声の方を見れば、鈴蘭一座の面々だ。
「どこから来たの?」
確かに会ったことのある人たちなのに、おれたちを知らないようだ。
だがファイさんが辺りの景色を見て紗羅ノ国と分かったと言うことは、元の場所に戻ってきたということ。
混乱の中、辺りを見回せば、あれほどいがみ合っていたはずの遊花区の女性と陣社の男性が仲良く歩く姿が多い。
「あ、あの、陣社の人たちと遊花区の人たちって……」
「おう、見ての通りだ」
近くにいた男女が会話に加わってきた。
「あたしたちこの近くの遊花区っていうところを根城に興行をしているんだけど、困ったことがあるといつも陣社の人たちに助けてもらっているのよ」
「それにしても運がいい。
今日は何と言っても結婚式だからな!」
わぁっと辺りに歓声が上がる。
「まさか」
不意に黒鋼さんが呟いた。
聞きとれないほど微かな声だが、聡い彼女のことだ、何か重要なことに気づいたのだろう。
尋ねようと振り返る途中、目に映った新郎新婦の姿におれは目を見開いた。
「鈴蘭さん!」
姫がきゃっと口を押さえる。
「蒼石さんだー」
ファイさんも呑気に笑っている。
「丁度いい、今日はめでたい日だからうちの神様も御開帳だよ!
みていってよ!」
先ほどの男女に手をひかれ連れて行かれた先にあった像は。
(阿修羅王、夜叉王……!)
「できた時からずっと一緒で、離しちゃいけないって言われているんだ」
ー離さず一緒に葬ってさしあげてくださいー
自分の言った一言を思い出して、胸が変に騒ぎだした。
「ねぇねぇこれ」
モコナが不意に声をあげ、そっちを向いて、おれはまた驚く。
「神器だよ。
昔からこの陣社に祭られているんだ」
そこにあったのは、おれと姫が紗羅ノ国にいた時につけてもらった髪飾りで、確か修羅ノ国に行ったときに外し、そのまま置いてきてしまったものだ。
これがひとつの仮説の、決定的な証拠となる。
その仮説とは。
「もしかして、修羅ノ国は紗羅ノ国のずっと昔の姿だったんじゃないでしょうか」
黙り込む黒鋼さんは何を考えているのか分からない。
「時間だけを移動したってことか」
ファイさんは同意してくれる様子が見える。
「でもどうしてこんなに様子が違うんでしょうか。
前は遊花区の人と陣社の人はあんなに仲が悪かったのに」
姫の一言を考える。
ー離さず一緒に葬ってさしあげてくださいー
「ひょっとして……」
続きを言うのを恐れてためらう。
でも、ファイさんは淡々と言葉をつづけた。
「未来が変わったか」
おれは息を飲んだ。
そうだ。
そう言うことになるのだ。
不意に強い風が起こり、驚いてモコナを見ると、口を開けて何かを吸いこもうとしている。
そしてその何かは。
「阿修羅王と夜叉王の剣!?」
ごっくん。
相も変わらずいい音を立てて飲み込んでしまった。
「モコナ108の秘密技のひとつ、超吸引力なのv」
「いつもやっているのに、秘密をつけるな」
冷静な黒鋼さんの突っ込みも、相変わらずだ。
「守り神の中身をすいこんで……」
「いいのかな……」
そわそわしているおれと姫。
「まずいんじゃないかなー?」
こちらも呑気さはいつもと変わらない。
不意に辺りでまた歓声が上がって、火憐太夫が高い梯子の上から花びらのように炎を降らせる。
「きれい!」
目を輝かせる姫に、難しいことそっちのけでひとりでに微笑んでしまう。
「移動、みたいだね」
モコナが羽を出している。
ファイさんが黒鋼さんの腕をつかみ、おれの肩をつかむ。
「小狼君はサクラちゃんを。
離れちゃわないようにね」
その言葉に姫を振り返って、手を差し出す。
少しだけ照れたように姫がそれを握りかえす。
とても素敵な結婚式を見せてもらったと思う。
目の端に最後に新郎新婦の姿を映す。
「どうぞお幸せに」
過去を変えるーー頭を過らなかったわけではない。
前に男が、世界毎に時間の流れが異なる話はしていた。
つまり未来を垣間見ることも、過去を変えることも不可能ではないーー過去の惨事を防ぐことも、然りだと思うと自然と今は亡き諏訪を思った。
だがそれを覆すつもりはない。
知世との出会い、小僧たちとの出会い、数知らぬ出会いがあの惨劇の後に待っていた。
その両者は天秤にかけられるものではないし、かけるべきではない。
だが、もしかしたら、誰かは過去と未来を天秤にかけているかもしれない。
次元の魔女が4人をまとめて旅に出した本当の理由、それは単に俺たちの目的のためだけではないのは明白だ。
飛び散った羽根は、本当に自然摂理によって飛び散ったのだろうかーー誰かが、飛び散らせ、そしてこの旅を仕組んだ可能性は?過去を塗り替える為に異次元を渡らせている可能性は?
「どうしたの、眉間に皺なんか寄せて」
ひょっこり耳元で声がした。
チラリと視線を流すと、予想通り間近に彼の顔があった。
多くを知る可能性のある彼はまだ、俺の手に落ちたとは言えない。
