紗羅ノ国
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戦では相手を窺っている時間はそう長くはとれない。
そろそろ限界だろう。
「舐めているのか。」
わざと首元の服を素早く切り裂く。
小僧は斬られた時にはそれに気づいていないようだったが、避けてからひらりと落ちた布に焦りを覚えたようだ。
「斬り返してこい。
次は真っ二つになるぞ」
小僧は歯をかみしめ、刀を握る。
次の一撃はきちんと刃で受け止めた。
しっかり受け止め、はじき返してくる。
いい剣遣いだが、ここ最近鍛錬を怠ったことがわかる。
数度受け止め、大きく上に飛び上がる。
そして空中で大きな炎を繰り出し、ぶつけて来た。
俺は蒼氷でそれを受け止める。
短期間の修行の割にそれなりの物を出せるようにはなったのは認めよう。
だがそれはまだ付け焼き刃に過ぎない。
「甘い」
刀を再び構え、振る。
「天魔・空龍閃!」
龍の形をした剣戟が、小僧を追いかける。
直線攻撃だと思った小僧は、その軌道からずれると安心したのかスピードを緩めた。
俺はその隙を狙って意識を集中させ刀を操る。
剣戟が軌道を変え、再び追いかけた。
驚く小僧に目を細め、俺はもう一度刀を握り、急所をはずして一撃を落とす。
土煙の中、確かに息をしている小僧のもとに歩み寄った。
「これだから餓鬼は」
俺は刀を振り上げた。
止めを刺されようとしているのに、小僧はどうしたのか動けないでいる。
(まだまだだな)
俺はひとつの殺気に身体を翻し、男の龍に飛び乗る。
丁度俺がいた辺りに激しい雷光が走った。
この攻撃は間違いない。
「配下を助けるなんて、らしくないな。
阿修羅王」
俺の言葉に彼女はにこっと笑って見せた。
そして再び刀を振る。
また轟音を立てて刀から光が飛び散った。
俺はその光を切り裂いて飛び出す。
それは一瞬だ。
俺の刀が阿修羅の首筋に光る。
この戯れは、実は初めてではないし、彼女を殺す気はない。
「やはり見事だな」
弧を描く瞳をじっと見つめる。
何事かと表情を引き締めた阿修羅王の瞳が俺を射抜く。
彼女も列記とした王だ。
強い、どうかすると引き込まれてしまいそうな瞳。
「阿修羅王、くれぐれも」
そこまで言って、自分に向けられた殺気に振り返る。
大きな飛行物体を両手で刀を持ち直して弾き、そのまま飛び下がった。
そこにいるのはいつまでたっても俺に闘志を燃やす倶摩羅だ。
「おのれ!」
再び武器を振り上げるも、それが投げられることはなかった。
彼の肩に刺さった弓の軌道をたどって振り返る。
「俺の獲物だと言ったはずだ」
そこにいた男は穏やかに笑みを見せただけだった。
再びゴウっという爆音が鳴り、閃光が走る。
「俺の獲物だと言っているんだが、夜叉王」
聞く耳を持たない涼しげな顔が現れた。
彼はここのところ、阿修羅王と刀すら交えていない。
それは夜叉の意思なのか、阿修羅の迷いを気遣うからなのか。
月の光の中、2人は一瞬だけ見つめあった。
ゆらり、世界が揺らぐ。
俺は目の前に座りこむ小僧に目を向けた。
彼はまだまだ弱い。
まだまだ、だ。
「次は俺を止めを刺すつもりで来い」
琥珀の瞳が見上げる。
まだどこか落ち着きを取り戻していないように見えるが、次は何とかなるだろう。
あの人達は黒鋼さんとファイさんではないのだろうか。
何度もあの黒鋼さんの刃を思い出してみる。
あの切れの良さ、あの重い斬撃、あの挑戦的な瞳……
黒鋼さんそのものなのに、その瞳は黒。
(魂が同じ人……なのか?
だとしたら、おれたちと旅をしていた黒鋼さんとファイさんはどこに?)
モコナはおれたちと一緒にいる。
言葉が通じない可能性も高い。
今日この修羅ノ国の街に降りて2人がいないか聞いて回ったけれど、見たという情報は少しも得ることができなかった。
おれたちは戦場に落ちてもなんとか言葉は通じたし、親切な阿修羅王のおかげでこうして無事でいるけれど、あの2人はどうなっているのだろうか。
そもそも同時に同じ場所から移動して逢えなかったのに、同時に移動することなかったら……
ズキン
また右目がうずいた。
今までなかっただけに、こんなときにと煩わしく思う。
「小狼?」
モコナがぴょんと肩に飛び乗る。
「どうしたの?」
おれはそっと月明かりに照らされる姫の髪を撫でた。
「何でもない」
モコナはちょっと首をかしげた。
「黒鋼とファイのこと、心配?」
この子は本当にすごいな、と感心してしまう。
こんなに小さいのに、とても周りの人の感情に敏感で、素直で、優しい。
だから、
「……うん」
おれはこんな小さい子に、心を許して、眉尻を下げてしまうのだ。
「ファイはふわふわしてるけど、ちゃんと黒鋼が無茶しないか見張ってくれるし、
黒鋼も仏頂面しているけど、ちゃんとファイのこと心配しているから、
2人が一緒なら大丈夫だよ。
もしはぐれてしまっていても、きっとあの2人ならまたお互いを見つけられているよ」
「モコナ……」
おれは、独りじゃない。
物理的に、モコナもサクラも戦うことはできないかもしれないけれど、でも、2人ともおれと一緒に戦ってくれているんだ。
そう思うとどこか肩の荷が下りたような気がした。
「小狼、そろそろ時間だ」
部屋のドアの向こうで阿修羅王が声をかけた。
「今行きます」
肩にのったモコナを姫の枕元に下ろす。
「サクラを頼んだよ」
小声でモコナにそう言えば、小さな胸をぽんと叩いて、
「任せとけ!」
と頼もしい返事が返ってきた。
緋炎を腰にさし、部屋から出る。
痛む右目を抑えてみるも、痛みは変わらない。
諦めて龍にまたがり、隊に入り込んだ。
遠目に阿修羅王を見つけ、近づくと、相手も気づいたのか微笑みを向けた。
しかしその表情が不意に怪訝そうなものに変わる。
「どうした、小狼?」
右目が痛むせいだろうか、表情が歪んでいるのかもしれない。
「いいえ、何も」
咄嗟にそう返すも、阿修羅王はおれを見たままだ。
「そうやって飲み込むばかりでは見ている誰かが悲しむだけだ。
秘めるだけでは何も変わらん」
その言葉はどこか、自分に言い聞かせているようでもあって。
「……王?」
阿修羅王は馬の向きを変え、戦闘に備えた。
「決着をつけよう」
その言葉は強く聞こえるのに、なぜだかひどく寂しいものに聞こえた。
世界が揺らぐ。
殺気が渦巻く場所に、放り出される。
否、渦巻いているだけでない、自分に向けられる、背筋が冷えるような殺気が、そこにはある。
「待たせたな、小僧」
その言葉が耳に届くのと、反射的に刀を受け止めるのと、どちらが早かっただろうか。
ギリギリと緋炎が鳴く。
止めている刃と、首元に突き付けられた殺気。
(殺られるっ!)
心臓が掴まれるほどの恐怖に、おれは目を見開いた。
その瞬間、腕に力がこもり、刀を押し返し始める。
(なんだ……?)
そして、あの黒鋼さんの刀を振り切ってはじき返した。
(手が、勝手に動いた?)
不意に辺りがざわめき、自分の手から視線をはずす。
肉が切り裂かれる音がして、そちらの方を向けば、阿修羅王が刀を振るっていた。
その背中はいつになく決意に満ちている。
「王!」
倶摩羅さんが追いかけようとするのに、
「来るなと言っている」
その細い背中から発される力はどこからわいてくるのかと思わずにはいられない。
大の男の倶摩羅さんがびくっと震えて歩みをとめた。
阿修羅王は馬の背から飛ぶ。
その行く先には。
「夜叉王……」
夜叉は阿修羅がこちらにやってくるのを認め、俺にひとつ頷いて見せた。
俺はそれに目礼で答えると、夜叉の周りに群がろうとする阿修羅族を斬り伏せる。
風のように、阿修羅は夜叉に寄りそっていく。
その瞳は哀しい決意に満ちている。
俺はその背中を見送り、目を閉じた。
(さらば、夜叉王、阿修羅王)
「夜叉王、決着をつけよう。
私は己の願を叶える。」
静かな、肉体を突き抜けたとは思えない軽い音が、風に乗って耳に届いた。
そろそろ限界だろう。
「舐めているのか。」
わざと首元の服を素早く切り裂く。
小僧は斬られた時にはそれに気づいていないようだったが、避けてからひらりと落ちた布に焦りを覚えたようだ。
「斬り返してこい。
次は真っ二つになるぞ」
小僧は歯をかみしめ、刀を握る。
次の一撃はきちんと刃で受け止めた。
しっかり受け止め、はじき返してくる。
いい剣遣いだが、ここ最近鍛錬を怠ったことがわかる。
数度受け止め、大きく上に飛び上がる。
そして空中で大きな炎を繰り出し、ぶつけて来た。
俺は蒼氷でそれを受け止める。
短期間の修行の割にそれなりの物を出せるようにはなったのは認めよう。
だがそれはまだ付け焼き刃に過ぎない。
「甘い」
刀を再び構え、振る。
「天魔・空龍閃!」
龍の形をした剣戟が、小僧を追いかける。
直線攻撃だと思った小僧は、その軌道からずれると安心したのかスピードを緩めた。
俺はその隙を狙って意識を集中させ刀を操る。
剣戟が軌道を変え、再び追いかけた。
驚く小僧に目を細め、俺はもう一度刀を握り、急所をはずして一撃を落とす。
土煙の中、確かに息をしている小僧のもとに歩み寄った。
「これだから餓鬼は」
俺は刀を振り上げた。
止めを刺されようとしているのに、小僧はどうしたのか動けないでいる。
(まだまだだな)
俺はひとつの殺気に身体を翻し、男の龍に飛び乗る。
丁度俺がいた辺りに激しい雷光が走った。
この攻撃は間違いない。
「配下を助けるなんて、らしくないな。
阿修羅王」
俺の言葉に彼女はにこっと笑って見せた。
そして再び刀を振る。
また轟音を立てて刀から光が飛び散った。
俺はその光を切り裂いて飛び出す。
それは一瞬だ。
俺の刀が阿修羅の首筋に光る。
この戯れは、実は初めてではないし、彼女を殺す気はない。
「やはり見事だな」
弧を描く瞳をじっと見つめる。
何事かと表情を引き締めた阿修羅王の瞳が俺を射抜く。
彼女も列記とした王だ。
強い、どうかすると引き込まれてしまいそうな瞳。
「阿修羅王、くれぐれも」
そこまで言って、自分に向けられた殺気に振り返る。
大きな飛行物体を両手で刀を持ち直して弾き、そのまま飛び下がった。
そこにいるのはいつまでたっても俺に闘志を燃やす倶摩羅だ。
「おのれ!」
再び武器を振り上げるも、それが投げられることはなかった。
彼の肩に刺さった弓の軌道をたどって振り返る。
「俺の獲物だと言ったはずだ」
そこにいた男は穏やかに笑みを見せただけだった。
再びゴウっという爆音が鳴り、閃光が走る。
「俺の獲物だと言っているんだが、夜叉王」
聞く耳を持たない涼しげな顔が現れた。
彼はここのところ、阿修羅王と刀すら交えていない。
それは夜叉の意思なのか、阿修羅の迷いを気遣うからなのか。
月の光の中、2人は一瞬だけ見つめあった。
ゆらり、世界が揺らぐ。
俺は目の前に座りこむ小僧に目を向けた。
彼はまだまだ弱い。
まだまだ、だ。
「次は俺を止めを刺すつもりで来い」
琥珀の瞳が見上げる。
まだどこか落ち着きを取り戻していないように見えるが、次は何とかなるだろう。
あの人達は黒鋼さんとファイさんではないのだろうか。
何度もあの黒鋼さんの刃を思い出してみる。
あの切れの良さ、あの重い斬撃、あの挑戦的な瞳……
黒鋼さんそのものなのに、その瞳は黒。
(魂が同じ人……なのか?
だとしたら、おれたちと旅をしていた黒鋼さんとファイさんはどこに?)
モコナはおれたちと一緒にいる。
言葉が通じない可能性も高い。
今日この修羅ノ国の街に降りて2人がいないか聞いて回ったけれど、見たという情報は少しも得ることができなかった。
おれたちは戦場に落ちてもなんとか言葉は通じたし、親切な阿修羅王のおかげでこうして無事でいるけれど、あの2人はどうなっているのだろうか。
そもそも同時に同じ場所から移動して逢えなかったのに、同時に移動することなかったら……
ズキン
また右目がうずいた。
今までなかっただけに、こんなときにと煩わしく思う。
「小狼?」
モコナがぴょんと肩に飛び乗る。
「どうしたの?」
おれはそっと月明かりに照らされる姫の髪を撫でた。
「何でもない」
モコナはちょっと首をかしげた。
「黒鋼とファイのこと、心配?」
この子は本当にすごいな、と感心してしまう。
こんなに小さいのに、とても周りの人の感情に敏感で、素直で、優しい。
だから、
「……うん」
おれはこんな小さい子に、心を許して、眉尻を下げてしまうのだ。
「ファイはふわふわしてるけど、ちゃんと黒鋼が無茶しないか見張ってくれるし、
黒鋼も仏頂面しているけど、ちゃんとファイのこと心配しているから、
2人が一緒なら大丈夫だよ。
もしはぐれてしまっていても、きっとあの2人ならまたお互いを見つけられているよ」
「モコナ……」
おれは、独りじゃない。
物理的に、モコナもサクラも戦うことはできないかもしれないけれど、でも、2人ともおれと一緒に戦ってくれているんだ。
そう思うとどこか肩の荷が下りたような気がした。
「小狼、そろそろ時間だ」
部屋のドアの向こうで阿修羅王が声をかけた。
「今行きます」
肩にのったモコナを姫の枕元に下ろす。
「サクラを頼んだよ」
小声でモコナにそう言えば、小さな胸をぽんと叩いて、
「任せとけ!」
と頼もしい返事が返ってきた。
緋炎を腰にさし、部屋から出る。
痛む右目を抑えてみるも、痛みは変わらない。
諦めて龍にまたがり、隊に入り込んだ。
遠目に阿修羅王を見つけ、近づくと、相手も気づいたのか微笑みを向けた。
しかしその表情が不意に怪訝そうなものに変わる。
「どうした、小狼?」
右目が痛むせいだろうか、表情が歪んでいるのかもしれない。
「いいえ、何も」
咄嗟にそう返すも、阿修羅王はおれを見たままだ。
「そうやって飲み込むばかりでは見ている誰かが悲しむだけだ。
秘めるだけでは何も変わらん」
その言葉はどこか、自分に言い聞かせているようでもあって。
「……王?」
阿修羅王は馬の向きを変え、戦闘に備えた。
「決着をつけよう」
その言葉は強く聞こえるのに、なぜだかひどく寂しいものに聞こえた。
世界が揺らぐ。
殺気が渦巻く場所に、放り出される。
否、渦巻いているだけでない、自分に向けられる、背筋が冷えるような殺気が、そこにはある。
「待たせたな、小僧」
その言葉が耳に届くのと、反射的に刀を受け止めるのと、どちらが早かっただろうか。
ギリギリと緋炎が鳴く。
止めている刃と、首元に突き付けられた殺気。
(殺られるっ!)
心臓が掴まれるほどの恐怖に、おれは目を見開いた。
その瞬間、腕に力がこもり、刀を押し返し始める。
(なんだ……?)
そして、あの黒鋼さんの刀を振り切ってはじき返した。
(手が、勝手に動いた?)
不意に辺りがざわめき、自分の手から視線をはずす。
肉が切り裂かれる音がして、そちらの方を向けば、阿修羅王が刀を振るっていた。
その背中はいつになく決意に満ちている。
「王!」
倶摩羅さんが追いかけようとするのに、
「来るなと言っている」
その細い背中から発される力はどこからわいてくるのかと思わずにはいられない。
大の男の倶摩羅さんがびくっと震えて歩みをとめた。
阿修羅王は馬の背から飛ぶ。
その行く先には。
「夜叉王……」
夜叉は阿修羅がこちらにやってくるのを認め、俺にひとつ頷いて見せた。
俺はそれに目礼で答えると、夜叉の周りに群がろうとする阿修羅族を斬り伏せる。
風のように、阿修羅は夜叉に寄りそっていく。
その瞳は哀しい決意に満ちている。
俺はその背中を見送り、目を閉じた。
(さらば、夜叉王、阿修羅王)
「夜叉王、決着をつけよう。
私は己の願を叶える。」
静かな、肉体を突き抜けたとは思えない軽い音が、風に乗って耳に届いた。
