紗羅ノ国
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部屋に一組の服と鎧が届けられ、オレは首をかしげた。
「鎧」
黒りんがそれを見て言葉を聞かれたと思ったのか、教えてくれる。
「ヨロい?」
「鎧」
「よろい」
概ね正しい発音ができたところで、オレは意志の疎通を図る。
「なぜ?」
なぜ、という言葉は便利だと思う。
理由を聞きたいときに言えば、いいのだから。
この言葉を早くに教えてくれた黒ぷーには感謝だ。
「戦、行く」
そう言えば、昨夜彼女が絵を書いた時に言っていたことを思い出す。
だが、鎧は一組しかないように見える。
まさかと思って、オレは自分を指さす。
そうすれば黒りんは首を振って、自身を指さした。
「黒鋼、戦、行く」
一人で行くということなのだろうか。
「なぜ?」
そして自分を指さして見せる。
なぜオレは連れて行ってくれないのか、と言いたい。
そうすれば黒ぷーは微かに眉を寄せる。
「黒鋼、行、頼。
ファイ、行、不頼」
“頼”のときに両手を合わせて頭を下げていることから、頼む、お願いすると言った意味の言葉だと分かった。
(そして二度目の頼むしぐさの後に首を振っているから……
黒りんを連れていってとは頼んだけど、オレのことは頼んでいないってところかな)
「ファイ、戦、行く」
昨日の夜叉とのことがなんだか癪だった。
本領発揮の戦の話ではあるけど、別行動することを勝手に決めるられたこともなんだか嫌だった。
黒様は困ったと言う顔をしながら、後ろを向いて着替え始めた。
オレは思わず鎧の下に着ると思われる着物を取る。
手の届く範囲に着物が見つからず、黒様はオレを振り返った。
大きくはだけた胸元から晒しで巻かれているが、体のラインがくっきりと見える。
なだらかな肩から押し込められた胸、隠れたくびれーー紛れもない女の彼女は、その姿を恥じらうことなく堂々とオレを睨む。
それは一見彼女がオレを信頼しているともとれるが、逆に信頼していないからこそその姿でも堂々としていることを示しているとも取れるし、更には男として見られることはないという事実を突きつけている。
「 御前不望戦 ?」
戦、という言葉はわかったがいまいち他は分からない。
どうせ、戦に行くことを反対するようなことを言っているのだろう。
「ファイ、戦、行く」
なぜかは分からないが、戦に行かなければならないと思った。直感が行けという。
こういう時は、行かないと後悔する。
「返」
「Я ненавижу」
とりあえず、嫌だと反抗する。
言葉が通じないのは本当に不便だ。
通じるならば説得することもできただろう。
この嫌な予感のことも。
不意に黒ぽっぽが何かを感じたのか唇に指をあてた。
しばらくするとオレにも人の気配が感じられた。
部屋の前でそれは止まる。
どうやら黒様に何かを話しているようだ。
「直行」
黒様は着物に手を伸ばし、オレの手から奪ってしまった。
考えてみれば、彼女の実力は折り紙付きで、オレの心配など大したことではないかもしれない。
さっさと来ていた着物を脱いで服を着、鎧を着ていくその手際の良さに見惚れる。
彼女が本来の文化に戻るからだろうか。
着物を着る姿というのは、美しい。
彼女は振り返り振り返り、一つため息をついた。
俯き加減のオレの頬に手を当て、上を向かせてから髪を掻きあげる。
「大丈夫」
安心させようと何か言っていることは分かったが、意味までは分からないのがもどかしい。
「大丈夫。
吾慣也 」
彼女はそれだけ言い残すと、蒼氷を腰に差して部屋から出て行ってしまった。
その背中は、部屋の中に独り取り残されたオレにはあまりに凛として、誰の助けも要らない強いものに見えて、それがひどく、惨めに思えた。
「すまない」
事前にある程度話をしておくということで早めに夜叉の部屋を訪れるはずが、青年の思わぬ反抗にあってしまった。
戦と言うこともあり、行きたがらないと踏んでいたが、何か思うことでもあったのだろうか。
本当に何か思うのであれば、ああ見えて頑固な節もあるから、無理矢理でもついてきただろう。
そうでないところを見ると、そこまで重要であったとも思えない。
それにできるなら、青年はあまり戦には連れて行きたくなかった。
「大丈夫だ。
戦についてだが、単純に大将を落としたものが勝ち。
つまり敵は私を、我等は阿修羅を討つ。
それだけのために我々は古より戦ってきた」
夜叉はおかしな咳をし、俺はその咳にひとつ心当たる節がある。
「大丈夫か」
背中をさすってやれば、それは落ち着いた。
「……ああ」
どこか暗い表情。
触れた背中は熱を帯びていた。
「まだ、まだだ」
王と言うのはどの国でも大きく重いものを背負っている。
天照もそうだった。
強気な顔の下に、彼女は様々な苦悩を抱えている。
それでも、その苦悩を国民に見せることはない。
それが王だ。
だからきっと、夜叉も戦う。
屍になろうと戦うだろう。
「見ればわかると思うが、私たちには自分の身以外を守れるほど余裕のある者はいない」
兵に苦しているのだろうことは分かった。
「俺は人に守られたいと思っているほど、甘くない。
心配は無用だ」
俺の言葉に、夜叉は淡く微笑んだ。
「頼もしいな。
ありがとう、もう大丈夫だ」
その言葉に夜叉から離れる。
部屋の戸が叩かれた。
「お時間にございます」
かけられた声に、俺達は頷く。
「相分かった」
部屋を出ようとする俺の肩に夜叉の手が乗る。
「ここはお前の国ではない。
お前は、自分の命だけを守れ」
戦が、この国を苦しめていることは分かった。
それでもその戦を勝手に投げだせないだけの歴史があることも、それだけの命の重さのある戦いであることも、分かった。
そして、夜叉の思いも。
「俺は、自分の剣の赴くままに動く」
夜叉が俺の後ろで小さく笑った。
「気まぐれな剣に期待しよう」
俺達は部屋を出、兵の集まる城門へ向かう。
一体の竜を与えられ、またがる。
これを馬として扱うらしい。
兵の数はそれほど多いというわけではなさそうだ。
もとより月の城はそれほど広くないのかもしれない。
空に浮かんでいるそれは、距離感がつかめないせいで大きさもよくは分からない。
「お前、新入りか?」
かけられた声に振り返る。
中年の男が俺を見ていた。
「ああ」
説明が面倒になり、肯定しておく。
「そうか。
草薙様も空太様も病になられた今、俺達は何としてでも生きて、夜叉様をお守りせねばならない」
彼の手が、俺の肩にどん、と乗る。
「励めよ」
「分かった」
俺の返事に満足したのか、男は笑顔を見せる。
「出陣だ。
皆、構えよ!」
夜叉の声が響き、兵等が各々の得物を構える。
一瞬世界が揺らいだ。
そして次の瞬間には、目の前の景色も、辺りの様子も一変している。
「驚いたか。
だが驚く暇はないぞ、阿修羅族は強い。
気を確かにもて」
隣で先ほどの男が声をかけてくれる。
俺は頷くと今一度刀を握り直した。
陣が動き始める。
なるほど、辺りの様子を見ていると、夜叉族の方が押され気味であることは分かった。
いつの間にか隣にいた男はおらず、俺も陣の真ん中に立っていた。
雄たけびとともに襲いかかってくる阿修羅族の男の刀を受け流す。
その刀の重さから、彼らは確かに強いが一般兵に変わらないことを理解する。
(大将である夜叉の力はどのくらいだろうか?
阿修羅という相手の大将の力は?)
辺りを見回し、馬をかけさせる。
不意に耳に入った“阿修羅王!!”という歓声の方へと駆け出せば、ただの剣戟ではない閃光が見え、轟音が耳に届く。
(あれを発するのが阿修羅王か)
先ほどの中年が言っていた草薙や空太という武人たちはあのくらいの技を出すことができたのだろうか。
今度は夜叉の姿を探す。
すると右手の方から先ほどのものよりも低く腹に響く轟音が鳴る。
音の方を見れば黒い旗。
どうやらあれが夜叉の攻撃らしい。
(一見互角、か)
俺は夜叉の元へと駆ける。
もしあの程度の技が出せる兵が阿修羅族には複数いるのに、夜叉族にはいないのであれば、敵の刃は間違いなく夜叉に集中する。
それを一般兵がどれほど遮ることができよう。
彼も戦闘に長けており、かなりの力を持っていることは遠くから見ていてもわかったが、だからと言って最強であるわけではない。
(それに夜叉は自分の体調に関しては部下に一言も言っていないだろう)
ほんの1日過ごしただけだが、彼の王としての威厳は伝わってきた。
そして、王としての覚悟も。
「天魔・空竜閃!」
竜の形をした閃光が、夜叉の方に走る。
「倶摩羅様!」
阿修羅族の誰かが叫び、夜叉を討ち取ろうと背後から大きな飛武器を投げようとした男が飛びのく。
それで逃げられるほど、俺の技は甘くはない。
「なに!?」
避けた男を追うように剣戟が曲がる。
そして男を飲み込んだ。
感触から言えば、残念ながら急所は外しているだろう。
次の瞬間背中に感じた殺気に振り返り、刀を受け止める。
「新入りか。
それにしては戦いなれているな」
戦場に聞き慣れない女の声。
刀を振り、間合いを取る。
にこり、と笑った女は美しい。
男が気にかけていた“阿修羅”とは彼女のことなのだろうか。
真偽はわからないが、気に掛けずにはいられないほど、強く美しい女だと思う。
「倶摩羅は私の右腕だ。
それを一撃であれほどまでにするとは。
いい兵を拾ったな、夜叉」
阿修羅の視線を追えば、夜叉も仄かに笑みを浮かべている。
そして刀から血を払う。
「黒鋼、ここからは手だし無用」
静かな言葉に、俺は引きさがり場所を開ける。
「いざ」
「来い」
二人の王の刃が交わった。
「鎧」
黒りんがそれを見て言葉を聞かれたと思ったのか、教えてくれる。
「ヨロい?」
「鎧」
「よろい」
概ね正しい発音ができたところで、オレは意志の疎通を図る。
「なぜ?」
なぜ、という言葉は便利だと思う。
理由を聞きたいときに言えば、いいのだから。
この言葉を早くに教えてくれた黒ぷーには感謝だ。
「戦、行く」
そう言えば、昨夜彼女が絵を書いた時に言っていたことを思い出す。
だが、鎧は一組しかないように見える。
まさかと思って、オレは自分を指さす。
そうすれば黒りんは首を振って、自身を指さした。
「黒鋼、戦、行く」
一人で行くということなのだろうか。
「なぜ?」
そして自分を指さして見せる。
なぜオレは連れて行ってくれないのか、と言いたい。
そうすれば黒ぷーは微かに眉を寄せる。
「黒鋼、行、頼。
ファイ、行、不頼」
“頼”のときに両手を合わせて頭を下げていることから、頼む、お願いすると言った意味の言葉だと分かった。
(そして二度目の頼むしぐさの後に首を振っているから……
黒りんを連れていってとは頼んだけど、オレのことは頼んでいないってところかな)
「ファイ、戦、行く」
昨日の夜叉とのことがなんだか癪だった。
本領発揮の戦の話ではあるけど、別行動することを勝手に決めるられたこともなんだか嫌だった。
黒様は困ったと言う顔をしながら、後ろを向いて着替え始めた。
オレは思わず鎧の下に着ると思われる着物を取る。
手の届く範囲に着物が見つからず、黒様はオレを振り返った。
大きくはだけた胸元から晒しで巻かれているが、体のラインがくっきりと見える。
なだらかな肩から押し込められた胸、隠れたくびれーー紛れもない女の彼女は、その姿を恥じらうことなく堂々とオレを睨む。
それは一見彼女がオレを信頼しているともとれるが、逆に信頼していないからこそその姿でも堂々としていることを示しているとも取れるし、更には男として見られることはないという事実を突きつけている。
「
戦、という言葉はわかったがいまいち他は分からない。
どうせ、戦に行くことを反対するようなことを言っているのだろう。
「ファイ、戦、行く」
なぜかは分からないが、戦に行かなければならないと思った。直感が行けという。
こういう時は、行かないと後悔する。
「返」
「Я ненавижу」
とりあえず、嫌だと反抗する。
言葉が通じないのは本当に不便だ。
通じるならば説得することもできただろう。
この嫌な予感のことも。
不意に黒ぽっぽが何かを感じたのか唇に指をあてた。
しばらくするとオレにも人の気配が感じられた。
部屋の前でそれは止まる。
どうやら黒様に何かを話しているようだ。
「直行」
黒様は着物に手を伸ばし、オレの手から奪ってしまった。
考えてみれば、彼女の実力は折り紙付きで、オレの心配など大したことではないかもしれない。
さっさと来ていた着物を脱いで服を着、鎧を着ていくその手際の良さに見惚れる。
彼女が本来の文化に戻るからだろうか。
着物を着る姿というのは、美しい。
彼女は振り返り振り返り、一つため息をついた。
俯き加減のオレの頬に手を当て、上を向かせてから髪を掻きあげる。
「大丈夫」
安心させようと何か言っていることは分かったが、意味までは分からないのがもどかしい。
「大丈夫。
彼女はそれだけ言い残すと、蒼氷を腰に差して部屋から出て行ってしまった。
その背中は、部屋の中に独り取り残されたオレにはあまりに凛として、誰の助けも要らない強いものに見えて、それがひどく、惨めに思えた。
「すまない」
事前にある程度話をしておくということで早めに夜叉の部屋を訪れるはずが、青年の思わぬ反抗にあってしまった。
戦と言うこともあり、行きたがらないと踏んでいたが、何か思うことでもあったのだろうか。
本当に何か思うのであれば、ああ見えて頑固な節もあるから、無理矢理でもついてきただろう。
そうでないところを見ると、そこまで重要であったとも思えない。
それにできるなら、青年はあまり戦には連れて行きたくなかった。
「大丈夫だ。
戦についてだが、単純に大将を落としたものが勝ち。
つまり敵は私を、我等は阿修羅を討つ。
それだけのために我々は古より戦ってきた」
夜叉はおかしな咳をし、俺はその咳にひとつ心当たる節がある。
「大丈夫か」
背中をさすってやれば、それは落ち着いた。
「……ああ」
どこか暗い表情。
触れた背中は熱を帯びていた。
「まだ、まだだ」
王と言うのはどの国でも大きく重いものを背負っている。
天照もそうだった。
強気な顔の下に、彼女は様々な苦悩を抱えている。
それでも、その苦悩を国民に見せることはない。
それが王だ。
だからきっと、夜叉も戦う。
屍になろうと戦うだろう。
「見ればわかると思うが、私たちには自分の身以外を守れるほど余裕のある者はいない」
兵に苦しているのだろうことは分かった。
「俺は人に守られたいと思っているほど、甘くない。
心配は無用だ」
俺の言葉に、夜叉は淡く微笑んだ。
「頼もしいな。
ありがとう、もう大丈夫だ」
その言葉に夜叉から離れる。
部屋の戸が叩かれた。
「お時間にございます」
かけられた声に、俺達は頷く。
「相分かった」
部屋を出ようとする俺の肩に夜叉の手が乗る。
「ここはお前の国ではない。
お前は、自分の命だけを守れ」
戦が、この国を苦しめていることは分かった。
それでもその戦を勝手に投げだせないだけの歴史があることも、それだけの命の重さのある戦いであることも、分かった。
そして、夜叉の思いも。
「俺は、自分の剣の赴くままに動く」
夜叉が俺の後ろで小さく笑った。
「気まぐれな剣に期待しよう」
俺達は部屋を出、兵の集まる城門へ向かう。
一体の竜を与えられ、またがる。
これを馬として扱うらしい。
兵の数はそれほど多いというわけではなさそうだ。
もとより月の城はそれほど広くないのかもしれない。
空に浮かんでいるそれは、距離感がつかめないせいで大きさもよくは分からない。
「お前、新入りか?」
かけられた声に振り返る。
中年の男が俺を見ていた。
「ああ」
説明が面倒になり、肯定しておく。
「そうか。
草薙様も空太様も病になられた今、俺達は何としてでも生きて、夜叉様をお守りせねばならない」
彼の手が、俺の肩にどん、と乗る。
「励めよ」
「分かった」
俺の返事に満足したのか、男は笑顔を見せる。
「出陣だ。
皆、構えよ!」
夜叉の声が響き、兵等が各々の得物を構える。
一瞬世界が揺らいだ。
そして次の瞬間には、目の前の景色も、辺りの様子も一変している。
「驚いたか。
だが驚く暇はないぞ、阿修羅族は強い。
気を確かにもて」
隣で先ほどの男が声をかけてくれる。
俺は頷くと今一度刀を握り直した。
陣が動き始める。
なるほど、辺りの様子を見ていると、夜叉族の方が押され気味であることは分かった。
いつの間にか隣にいた男はおらず、俺も陣の真ん中に立っていた。
雄たけびとともに襲いかかってくる阿修羅族の男の刀を受け流す。
その刀の重さから、彼らは確かに強いが一般兵に変わらないことを理解する。
(大将である夜叉の力はどのくらいだろうか?
阿修羅という相手の大将の力は?)
辺りを見回し、馬をかけさせる。
不意に耳に入った“阿修羅王!!”という歓声の方へと駆け出せば、ただの剣戟ではない閃光が見え、轟音が耳に届く。
(あれを発するのが阿修羅王か)
先ほどの中年が言っていた草薙や空太という武人たちはあのくらいの技を出すことができたのだろうか。
今度は夜叉の姿を探す。
すると右手の方から先ほどのものよりも低く腹に響く轟音が鳴る。
音の方を見れば黒い旗。
どうやらあれが夜叉の攻撃らしい。
(一見互角、か)
俺は夜叉の元へと駆ける。
もしあの程度の技が出せる兵が阿修羅族には複数いるのに、夜叉族にはいないのであれば、敵の刃は間違いなく夜叉に集中する。
それを一般兵がどれほど遮ることができよう。
彼も戦闘に長けており、かなりの力を持っていることは遠くから見ていてもわかったが、だからと言って最強であるわけではない。
(それに夜叉は自分の体調に関しては部下に一言も言っていないだろう)
ほんの1日過ごしただけだが、彼の王としての威厳は伝わってきた。
そして、王としての覚悟も。
「天魔・空竜閃!」
竜の形をした閃光が、夜叉の方に走る。
「倶摩羅様!」
阿修羅族の誰かが叫び、夜叉を討ち取ろうと背後から大きな飛武器を投げようとした男が飛びのく。
それで逃げられるほど、俺の技は甘くはない。
「なに!?」
避けた男を追うように剣戟が曲がる。
そして男を飲み込んだ。
感触から言えば、残念ながら急所は外しているだろう。
次の瞬間背中に感じた殺気に振り返り、刀を受け止める。
「新入りか。
それにしては戦いなれているな」
戦場に聞き慣れない女の声。
刀を振り、間合いを取る。
にこり、と笑った女は美しい。
男が気にかけていた“阿修羅”とは彼女のことなのだろうか。
真偽はわからないが、気に掛けずにはいられないほど、強く美しい女だと思う。
「倶摩羅は私の右腕だ。
それを一撃であれほどまでにするとは。
いい兵を拾ったな、夜叉」
阿修羅の視線を追えば、夜叉も仄かに笑みを浮かべている。
そして刀から血を払う。
「黒鋼、ここからは手だし無用」
静かな言葉に、俺は引きさがり場所を開ける。
「いざ」
「来い」
二人の王の刃が交わった。
