阪神国
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羽根の波動を感じたり感じなかったりする、と言う事は。
「誰かの巧断の中に取り込まれているのではないだろうか」
食事をしながらそう言えば、男が少し驚いた顔をした。
「あ、黒りんもそう思う?
オレも今ちょうど思ったんだよねー」
にっこり笑いかけられても、全く嬉しくない。
むしろ同じ思考だとすれば悲しいくらいである。
「明日は巧断探しかなー」
そうなるだろうが、大抵の人は巧断を出して歩いていなかった気がする。
どうやって探し出すかが問題だ。
「それにしても、黒鋼さんって、強いんですね」
少年が思い出したように言った。
「服装とか見ていて、戦うんだろうなとは思っていたんですが、あんなに強いなんて驚きました」
「お前も強いだろう」
そう言えば、まだまだです、と首を振る。
「一体どんなお仕事をしていたんですか?」
「俺は忍者だ」
少年は聞いたことがないのか首をかしげている。
「忍ぶ者と書いて、忍者。
陰として生き、苦しみに耐え忍び、闇の仕事を一手に引き受けることで、
国を明るい方へと導く」
彼らには、出来ればなって欲しくない職業だ。
暗く冷たく、苦しい仕事だから。
でもそれで大切な人を守れるのならと、俺は迷わず選んだ。
何より、俺にとって天職であったから、全く問題はない。
この男の考えていることが分からない。
「ほら、黒りん」
食事が終わって部屋に入ると、彼はいつ借りたのか救急箱を持ってきた。
「何のつもりだ」
「だめだって。
ほら、ちゃんと治療しないと、痕残っちゃうでしょ?」
「このくらい問題ない」
男は俺の布団の前に座っている。
ちなみに俺は布団の上に座っている。
「大丈夫、オレこういうの慣れているからさ。
痛くしないよ?」
「いいと言っているだろう」
「オレが嫌なんだって」
無理に手をつかんでくるから払おうとすればそのままもみ合いになる。
この男、なかなか頑固だ。
しかし一体どうしてここまでするのか、まったくわからない。
とか考え事をしていたせいか、結局はまた俺が下にされてしまう。
「……君さ、嫌じゃないわけ?」
俺を見下ろして、青年が問う。
珍しく真顔だ。
「何がだ」
「……男と二人で相部屋なんてさ。
不安じゃないの?」
カチンとくる。
ばれていたことも、女であることを見下されていることも、少しためらった後に僅かながらでも心配しているかのように切り出されたことも。
日本国には、俺よりも強い奴はいない。
男にだって、負けない自信はある。
「気遣い無用」
片手を振りほどき、隠し持っていたナイフを青年の首筋にあてる。
「退いていただこうか」
男と女の力の差など、知れている。
技を使えば、そんなもの。
しかしいつ俺が女だと気付いたのかーー今までこれほど短期間でばれたことはないのだ、原因を突き止めて今後改めねばならない。
反省は後回しだと青年を睨みつければ、ナイフを持った俺の手をつかんでそのまま屈みこんでくる。
予想外の行動に、しかも殺気を放っているわけでもないから、殺すのも躊躇われる。
「なっ何を!?」
首筋に顔をうずめられ、生暖かい何かが鎖骨辺りを這う。
「……っおい!」
思わず上ずる声。
チリリとした痛み。
傷をなめたのだろう。
思わず目を堅く閉じる。
自分の心臓の音が、聞いたことないほど大きい。
「消毒」
耳元で囁かれた声が低く掠れていて、普段の飄々した様子とどちらが素なのか尋ねたくなる。
驚きで反抗をやめた俺に、彼は手早く消毒をし、手当をしていく。
静かな空気だ。
どちらも話さないが、嫌ではない。
蒲団の上に無気力に投げ出された手足に、青年は手当てをしていく。
「なぜこんなことを?」
青い目がちらりと俺を見た。
怪訝そうな、瞳。
「じゃあ聞くけど、なんでこんなことされて黙ってるの?
いつも随分警戒してるのに」
いけすかない奴だ。
「聞いているのは俺だ」
「我儘」
睨めば青い瞳も睨んでくる。
「いったよね、オレ。
自分の命にかかわらない範囲で手伝うって」
「これは手伝いには入らない」
「入る。
黒りんの怪我を見ると小狼君が心配するから」
「お前は何がしたいんだ?」
「そんなのどうだっていいだろ?」
「ああそうか」
俺は彼に背中を向けた。
彼のことなど、知ったことではない。
礼をいえない自分にイラついているなんて、そんなことはない。
あるわけない。
昨日のことがあったからか、どうかはわからないが、オレと小狼君、嵐さんから頼まれた買い物をする黒たんの2手に分かれることになった。
信用されているのか、嫌われているのか。
「うわぁ!」
壁を通って正義君の巧断が現れ、小狼君が声をあげる。
「こんにちはー!」
道の向こうからオレ達を見つけた正義君がかけてきた。
昨日聞いたが、彼の巧断は一度合った人を見つける能力があるらしい。
小狼君と楽しげに話す姿、なんだか穏やかで笑えてしまう。
なぜオレは彼女とあんなふうにできないのだろう。
「やっぱ嫌われてるのかなぁ」
どうしようもないのかなぁ、なんて空を見上げる。
今日もいい天気だ。
キィィィィィィ!
「わぁ!」
「きゃ!」
背後から聞こえた甲高い声に驚き振り返れば、その瞬間強い風が吹く。
また振り返れば、鳥のような巧断に正義君とモコナが攫われていってしまった。
咄嗟のことで対応できなかったことが悔やまれる。
こんな時、黒りんなら二人を守れたのかもしれない。
小狼君がさっきの巧断が落としていった封筒を広いあげ、開ける。
俺にはなんと書いてあるのか読めないが、小狼君なら読めるだろう。
「~~~~!」
「えっ?」
「~~~~!」
彼は確かに読めている様子だ。
ただオレ達の言葉が通じなくなっているらしかった。
「ごめん、何言ってるか分かんないや」
そう言って苦笑すれば、彼も気づいたようだ。
しかし、さっきまで通じていたのにどういう仕掛けなのだろうか。
考えて一つの事に思い至る。
「「モコナ!」」
これが共通語で良かった、と思う。
とりあえず、モコナが翻訳機ということになるのだろう。
そこでふと、別行動をしている黒りんが不便に見舞われていないだろうかと気になった。
なぜだか言葉が通じなくなってしまった。
文字は共通点が多いから、紙に書くことで必要な会話は行っている。
原因は不明だが、とりあえず阪神城の近くの店で最後だ。
目立つ天守めがけて歩いていくと、辺りの様子がおかしい。
「この手紙を書いたのは誰ですかー?」
小狼の声が微かにして、急にあたりの言葉の意味が分かるようになった。
慌てて声の方へと駆けだす。
「小僧!」
姿を見つけ、呼びかければ振り返る。
「黒鋼さん!」
「どうしたんだ?」
「実は正義君とモコナがあの人攫われてしまったんです」
彼の指の先には阪神城があり、その天守閣には髪を2つのお団子にした、
気の強そうな女が欄干にもたれている。
その上、鯱鉾の尾から正義とモコナがつるされている。
「……待っていろ」
女を傷つける趣味はないが、子供を人質に取るなど許すべきことではない。
駆けだそうとする俺の肩に手がかけられた。
振り返れば青年がへにゃんと笑みを浮かべている。
「オレ、上まで行けそう」
「それは……」
「そう、オレの巧断を使ってね。」
彼が少し離れて目を閉じると、ふわりと風が彼の金色の髪をくすぐる。
彼の背後に現れたのは、大きな金色の鳥。
青い眼の、美しい鳥。
それはまるで青年のようだった。
巧断の力で宙を軽々と舞っていく姿。
「あたしの巧断の攻撃を受けてみなさーい!」
プリメーラという名のさっき女の巧断は、マイクの形をしている。
青年はと言えば、言葉が文字のブロックの爆弾と化して飛んでくるという、なんとも変わった女の攻撃を、紙一重で避けている。
涼やかな目元が微かに鋭さを増している。
そんな顔立ちは、美しいと思う。
あんななりをしているが、やはり戦い慣れているのだろう。
思うにプリメーラの巧断も特級だ。
その攻撃をあれだけ避けている。
かなりの手練れと見て間違いない。
「こうなったらチェンジよ!」
不意にプリメーラがそう叫び、彼女の持っていたマイクが、スタンドマイクに変化した。
「もう逃げられないわよ!」
一際大きなブロックが青年に襲い掛かる。
青年はまた紙一重で避けた。
「いえい!」
にっこりとプリメーラが笑い、マイクを振りまわすと、それに伴ってブロックも進行方向を変える。
「ファイさん!!」
少年が叫ぶ。
激しい爆発音とともに、青年が木に落ちるのが見え、思わず一歩足を動かす。
「大丈夫―!」
ひらひらと葉の間から振られる手に、思わずため息をついてその場に留まった。
「モコナがめきょってなってないみたいだから、彼女じゃないね」
攻撃を仕掛けず、木の上にいるファイに、プリメーラは首をかしげる。
「もう降参?
じゃあ次の相手はシャオランね!」
「ごめん、小狼君は大切な用があるんだ。
だからオレで済ませたいなー」
「それなら!」
プリメーラは再びマイクを構える。
「勝たなきゃだめね!!」
今までで一番大きなブロックの塊が青年に向かって飛んでくる。
そして彼はそのブロックを足場に駆けあがり、
「可愛い女の子に怪我させたくないから、やめない?」
彼女を押し倒してそう微笑みかける。
ああいうところ、嫌いだ。
みるみる内にプリメーラの顔がゆがむ。
「く……くやしーっ!」
運悪くマイクに入ってしまったその声はブロックに変わり、阪神城の天守閣の屋根に激突。
派手な爆発を引き起こし、城を破壊した。
そのせいで正義とモコナを鯱鉾とつないでいた縄が切れ、宙へと放り出される。
「モコナ!正義!」
巧断を呼び出し、竜の背に乗せることでなんとか2人を助ける。
そこにひとりの気配が現れた。
それも強い力を持つ。
「なにやってんだよ」
浅野笙悟だ。
モコナが誰かの巧断の中に羽があると気付いたから、小狼君はあのリーダーと戦うことになった。
小狼君は、すごく強い。心が。
「ひゅーかっこいい!」
「素直が取り柄の馬鹿ではないようだな」
俺の横で静かな瞳で、きっと小狼君の戦いを分析しているんだろう。
口は悪いけど、彼女は根は本当に優しい。
「うん、ただの遺跡発掘が趣味な男の子じゃないんだね。
まだ子供だけど、色々あったのかもね。
彼にも」
その時、初めて彼女はオレに目を向けた。
「お前は……」
何かを言いかけるから、オレも彼女を見る。
「ん?」
「お前はなんという国からきたのだ?」
いったい何がしたいのか、わからないが、答えても支障はないだろう。
「セレスだよ」
そう、彼の眠る、セレス。
「雪国か?」
的を射た返答に、ドキッとする。
「えっ知ってるの?」
「いや、お前の服装を見てな」
淡い微笑みに、なぜかどきりと胸が音を立てる。
あの服を見れば誰だって推察できるだろうと安堵する。
「そう?
さすが忍者だね」
目の前では炎と水が踊る。
その反動で起きた風に、彼女の髪も踊る。
あんなに長いんだ。
黒い紐で縛るだけでなく、何か髪飾りをつけたり、アップにしたりすればいい。
セレスでは女性は髪をよく飾ったけれど、彼女の母国はそうではなかったのだろうか。
無意識に手を伸ばしかけた時、ドォォォンと大きな音が鳴った。
崩れかけていた天守閣がついに崩壊を始めたらしい。
真下にいるのはプリメーラと正義。
ここからでは、間に合わない。
彼女の眉がひそめられたのが一瞬見えた。
次の瞬間には彼女はオレの隣にはいない。
間に合わなくても走る。
それが彼女、だと思う。
どうやら間に合わなくとも、城を超えるほど巨大化した正義の巧断が二人を守ったようだ。
ただ羽を取り込んだそれは、制御がきかず、ただただ暴走を続ける。
口から光線を吐き、破壊を続けている。
「とまれー!!」
声の限りその巧断の上で叫ぶ正義。
黒様は距離をとるためか、小狼君のそばに駆け寄る。
オレもその隣に立とうと飛ぶ。
「……どうする」
「さくらの羽を取り戻します」
聞こえてくる、二人の会話。
「あれと戦うのか。
死ぬかもしれないぞ」
オレは黒たんの隣に降り立った。
「死にません。
まだやらないといけないことがあるのに、死んだりしません」
強い眼。
本当に、強い。
「気をつけろよ」
にやりと笑う黒様。
「ここは黒様が何とかしておくから大丈夫ー」
オレもそういえば、彼女はうっとおしげな眼を向けた。
「行ってきます」
でも、小狼君の表情が少しだけ柔らかくなった。
ここが、彼の返ってくる場所になればいいなんて、オレは何を思っているんだろう。
「誰かの巧断の中に取り込まれているのではないだろうか」
食事をしながらそう言えば、男が少し驚いた顔をした。
「あ、黒りんもそう思う?
オレも今ちょうど思ったんだよねー」
にっこり笑いかけられても、全く嬉しくない。
むしろ同じ思考だとすれば悲しいくらいである。
「明日は巧断探しかなー」
そうなるだろうが、大抵の人は巧断を出して歩いていなかった気がする。
どうやって探し出すかが問題だ。
「それにしても、黒鋼さんって、強いんですね」
少年が思い出したように言った。
「服装とか見ていて、戦うんだろうなとは思っていたんですが、あんなに強いなんて驚きました」
「お前も強いだろう」
そう言えば、まだまだです、と首を振る。
「一体どんなお仕事をしていたんですか?」
「俺は忍者だ」
少年は聞いたことがないのか首をかしげている。
「忍ぶ者と書いて、忍者。
陰として生き、苦しみに耐え忍び、闇の仕事を一手に引き受けることで、
国を明るい方へと導く」
彼らには、出来ればなって欲しくない職業だ。
暗く冷たく、苦しい仕事だから。
でもそれで大切な人を守れるのならと、俺は迷わず選んだ。
何より、俺にとって天職であったから、全く問題はない。
この男の考えていることが分からない。
「ほら、黒りん」
食事が終わって部屋に入ると、彼はいつ借りたのか救急箱を持ってきた。
「何のつもりだ」
「だめだって。
ほら、ちゃんと治療しないと、痕残っちゃうでしょ?」
「このくらい問題ない」
男は俺の布団の前に座っている。
ちなみに俺は布団の上に座っている。
「大丈夫、オレこういうの慣れているからさ。
痛くしないよ?」
「いいと言っているだろう」
「オレが嫌なんだって」
無理に手をつかんでくるから払おうとすればそのままもみ合いになる。
この男、なかなか頑固だ。
しかし一体どうしてここまでするのか、まったくわからない。
とか考え事をしていたせいか、結局はまた俺が下にされてしまう。
「……君さ、嫌じゃないわけ?」
俺を見下ろして、青年が問う。
珍しく真顔だ。
「何がだ」
「……男と二人で相部屋なんてさ。
不安じゃないの?」
カチンとくる。
ばれていたことも、女であることを見下されていることも、少しためらった後に僅かながらでも心配しているかのように切り出されたことも。
日本国には、俺よりも強い奴はいない。
男にだって、負けない自信はある。
「気遣い無用」
片手を振りほどき、隠し持っていたナイフを青年の首筋にあてる。
「退いていただこうか」
男と女の力の差など、知れている。
技を使えば、そんなもの。
しかしいつ俺が女だと気付いたのかーー今までこれほど短期間でばれたことはないのだ、原因を突き止めて今後改めねばならない。
反省は後回しだと青年を睨みつければ、ナイフを持った俺の手をつかんでそのまま屈みこんでくる。
予想外の行動に、しかも殺気を放っているわけでもないから、殺すのも躊躇われる。
「なっ何を!?」
首筋に顔をうずめられ、生暖かい何かが鎖骨辺りを這う。
「……っおい!」
思わず上ずる声。
チリリとした痛み。
傷をなめたのだろう。
思わず目を堅く閉じる。
自分の心臓の音が、聞いたことないほど大きい。
「消毒」
耳元で囁かれた声が低く掠れていて、普段の飄々した様子とどちらが素なのか尋ねたくなる。
驚きで反抗をやめた俺に、彼は手早く消毒をし、手当をしていく。
静かな空気だ。
どちらも話さないが、嫌ではない。
蒲団の上に無気力に投げ出された手足に、青年は手当てをしていく。
「なぜこんなことを?」
青い目がちらりと俺を見た。
怪訝そうな、瞳。
「じゃあ聞くけど、なんでこんなことされて黙ってるの?
いつも随分警戒してるのに」
いけすかない奴だ。
「聞いているのは俺だ」
「我儘」
睨めば青い瞳も睨んでくる。
「いったよね、オレ。
自分の命にかかわらない範囲で手伝うって」
「これは手伝いには入らない」
「入る。
黒りんの怪我を見ると小狼君が心配するから」
「お前は何がしたいんだ?」
「そんなのどうだっていいだろ?」
「ああそうか」
俺は彼に背中を向けた。
彼のことなど、知ったことではない。
礼をいえない自分にイラついているなんて、そんなことはない。
あるわけない。
昨日のことがあったからか、どうかはわからないが、オレと小狼君、嵐さんから頼まれた買い物をする黒たんの2手に分かれることになった。
信用されているのか、嫌われているのか。
「うわぁ!」
壁を通って正義君の巧断が現れ、小狼君が声をあげる。
「こんにちはー!」
道の向こうからオレ達を見つけた正義君がかけてきた。
昨日聞いたが、彼の巧断は一度合った人を見つける能力があるらしい。
小狼君と楽しげに話す姿、なんだか穏やかで笑えてしまう。
なぜオレは彼女とあんなふうにできないのだろう。
「やっぱ嫌われてるのかなぁ」
どうしようもないのかなぁ、なんて空を見上げる。
今日もいい天気だ。
キィィィィィィ!
「わぁ!」
「きゃ!」
背後から聞こえた甲高い声に驚き振り返れば、その瞬間強い風が吹く。
また振り返れば、鳥のような巧断に正義君とモコナが攫われていってしまった。
咄嗟のことで対応できなかったことが悔やまれる。
こんな時、黒りんなら二人を守れたのかもしれない。
小狼君がさっきの巧断が落としていった封筒を広いあげ、開ける。
俺にはなんと書いてあるのか読めないが、小狼君なら読めるだろう。
「~~~~!」
「えっ?」
「~~~~!」
彼は確かに読めている様子だ。
ただオレ達の言葉が通じなくなっているらしかった。
「ごめん、何言ってるか分かんないや」
そう言って苦笑すれば、彼も気づいたようだ。
しかし、さっきまで通じていたのにどういう仕掛けなのだろうか。
考えて一つの事に思い至る。
「「モコナ!」」
これが共通語で良かった、と思う。
とりあえず、モコナが翻訳機ということになるのだろう。
そこでふと、別行動をしている黒りんが不便に見舞われていないだろうかと気になった。
なぜだか言葉が通じなくなってしまった。
文字は共通点が多いから、紙に書くことで必要な会話は行っている。
原因は不明だが、とりあえず阪神城の近くの店で最後だ。
目立つ天守めがけて歩いていくと、辺りの様子がおかしい。
「この手紙を書いたのは誰ですかー?」
小狼の声が微かにして、急にあたりの言葉の意味が分かるようになった。
慌てて声の方へと駆けだす。
「小僧!」
姿を見つけ、呼びかければ振り返る。
「黒鋼さん!」
「どうしたんだ?」
「実は正義君とモコナがあの人攫われてしまったんです」
彼の指の先には阪神城があり、その天守閣には髪を2つのお団子にした、
気の強そうな女が欄干にもたれている。
その上、鯱鉾の尾から正義とモコナがつるされている。
「……待っていろ」
女を傷つける趣味はないが、子供を人質に取るなど許すべきことではない。
駆けだそうとする俺の肩に手がかけられた。
振り返れば青年がへにゃんと笑みを浮かべている。
「オレ、上まで行けそう」
「それは……」
「そう、オレの巧断を使ってね。」
彼が少し離れて目を閉じると、ふわりと風が彼の金色の髪をくすぐる。
彼の背後に現れたのは、大きな金色の鳥。
青い眼の、美しい鳥。
それはまるで青年のようだった。
巧断の力で宙を軽々と舞っていく姿。
「あたしの巧断の攻撃を受けてみなさーい!」
プリメーラという名のさっき女の巧断は、マイクの形をしている。
青年はと言えば、言葉が文字のブロックの爆弾と化して飛んでくるという、なんとも変わった女の攻撃を、紙一重で避けている。
涼やかな目元が微かに鋭さを増している。
そんな顔立ちは、美しいと思う。
あんななりをしているが、やはり戦い慣れているのだろう。
思うにプリメーラの巧断も特級だ。
その攻撃をあれだけ避けている。
かなりの手練れと見て間違いない。
「こうなったらチェンジよ!」
不意にプリメーラがそう叫び、彼女の持っていたマイクが、スタンドマイクに変化した。
「もう逃げられないわよ!」
一際大きなブロックが青年に襲い掛かる。
青年はまた紙一重で避けた。
「いえい!」
にっこりとプリメーラが笑い、マイクを振りまわすと、それに伴ってブロックも進行方向を変える。
「ファイさん!!」
少年が叫ぶ。
激しい爆発音とともに、青年が木に落ちるのが見え、思わず一歩足を動かす。
「大丈夫―!」
ひらひらと葉の間から振られる手に、思わずため息をついてその場に留まった。
「モコナがめきょってなってないみたいだから、彼女じゃないね」
攻撃を仕掛けず、木の上にいるファイに、プリメーラは首をかしげる。
「もう降参?
じゃあ次の相手はシャオランね!」
「ごめん、小狼君は大切な用があるんだ。
だからオレで済ませたいなー」
「それなら!」
プリメーラは再びマイクを構える。
「勝たなきゃだめね!!」
今までで一番大きなブロックの塊が青年に向かって飛んでくる。
そして彼はそのブロックを足場に駆けあがり、
「可愛い女の子に怪我させたくないから、やめない?」
彼女を押し倒してそう微笑みかける。
ああいうところ、嫌いだ。
みるみる内にプリメーラの顔がゆがむ。
「く……くやしーっ!」
運悪くマイクに入ってしまったその声はブロックに変わり、阪神城の天守閣の屋根に激突。
派手な爆発を引き起こし、城を破壊した。
そのせいで正義とモコナを鯱鉾とつないでいた縄が切れ、宙へと放り出される。
「モコナ!正義!」
巧断を呼び出し、竜の背に乗せることでなんとか2人を助ける。
そこにひとりの気配が現れた。
それも強い力を持つ。
「なにやってんだよ」
浅野笙悟だ。
モコナが誰かの巧断の中に羽があると気付いたから、小狼君はあのリーダーと戦うことになった。
小狼君は、すごく強い。心が。
「ひゅーかっこいい!」
「素直が取り柄の馬鹿ではないようだな」
俺の横で静かな瞳で、きっと小狼君の戦いを分析しているんだろう。
口は悪いけど、彼女は根は本当に優しい。
「うん、ただの遺跡発掘が趣味な男の子じゃないんだね。
まだ子供だけど、色々あったのかもね。
彼にも」
その時、初めて彼女はオレに目を向けた。
「お前は……」
何かを言いかけるから、オレも彼女を見る。
「ん?」
「お前はなんという国からきたのだ?」
いったい何がしたいのか、わからないが、答えても支障はないだろう。
「セレスだよ」
そう、彼の眠る、セレス。
「雪国か?」
的を射た返答に、ドキッとする。
「えっ知ってるの?」
「いや、お前の服装を見てな」
淡い微笑みに、なぜかどきりと胸が音を立てる。
あの服を見れば誰だって推察できるだろうと安堵する。
「そう?
さすが忍者だね」
目の前では炎と水が踊る。
その反動で起きた風に、彼女の髪も踊る。
あんなに長いんだ。
黒い紐で縛るだけでなく、何か髪飾りをつけたり、アップにしたりすればいい。
セレスでは女性は髪をよく飾ったけれど、彼女の母国はそうではなかったのだろうか。
無意識に手を伸ばしかけた時、ドォォォンと大きな音が鳴った。
崩れかけていた天守閣がついに崩壊を始めたらしい。
真下にいるのはプリメーラと正義。
ここからでは、間に合わない。
彼女の眉がひそめられたのが一瞬見えた。
次の瞬間には彼女はオレの隣にはいない。
間に合わなくても走る。
それが彼女、だと思う。
どうやら間に合わなくとも、城を超えるほど巨大化した正義の巧断が二人を守ったようだ。
ただ羽を取り込んだそれは、制御がきかず、ただただ暴走を続ける。
口から光線を吐き、破壊を続けている。
「とまれー!!」
声の限りその巧断の上で叫ぶ正義。
黒様は距離をとるためか、小狼君のそばに駆け寄る。
オレもその隣に立とうと飛ぶ。
「……どうする」
「さくらの羽を取り戻します」
聞こえてくる、二人の会話。
「あれと戦うのか。
死ぬかもしれないぞ」
オレは黒たんの隣に降り立った。
「死にません。
まだやらないといけないことがあるのに、死んだりしません」
強い眼。
本当に、強い。
「気をつけろよ」
にやりと笑う黒様。
「ここは黒様が何とかしておくから大丈夫ー」
オレもそういえば、彼女はうっとおしげな眼を向けた。
「行ってきます」
でも、小狼君の表情が少しだけ柔らかくなった。
ここが、彼の返ってくる場所になればいいなんて、オレは何を思っているんだろう。
