ツァラストラ国
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小僧が旅に出る原因となった件を聞けば聞くほど怪しい。
ー全ては必然ー
魔女の声が蘇る。
この旅の真相を知るものがいる。
あの魔女と、それからおそらくーー最後に見た夕日を写す金髪がちらつく。
不意に感じた気配に、立ち止まり刀に手を掛ける。
案の定、辺りに黒い服を着た男達が現れた。
刀を振り回すのは昔から好きだったし得意だった。
自分の刀の右に出るものは日本国にはいなくなった。
全力さえ尽くせば大切なものを失うことはない。
そして大切なものにもっと愛されたいとか、一緒にいたいとか、そういう面倒な気持ちも起こさないとーーそう信じていた。
「黒鋼さん!
これは囮です!」
不意に小僧が叫ぶ。
彼の視線の先にあるのは、扉。
しかも閉まりかけている。
俺は口角を上げた。
まるで仕組まれていたようだ。
次に引き離されたのは、俺だった。
夕陽に照らされた小僧の顔が、一瞬龍王と被る。
湧き上がる不安を飲み込む。
目の前に突きつけられると戸惑うが、彼は沙羅ノ国でも1人で姫を守り抜いた。
彼には力がある。
覚悟が足りないのは、小僧だけではなかったのだと自嘲する。
息を短く吸い込む。
「行け!」
俺の鋭い声に、一瞬の間を開けてから、小僧は姫の手を取って駆けだす。
その間も、黒い男の数は増えるばかりだ。
「黒鋼さん!早く!!」
剣をふるう間に、耳に届いた声。
小僧の、助けを求めるかのような声だ。
己の弱さに怯える声。
小僧はまだ弱い。
弱さを知るものは、強くなる素質がある。
大丈夫、大丈夫だ。
「黒鋼さん!」
求める声に背を向ける。
心配はいらない。
(守り抜け、小僧)
「またな」
重々しい扉が閉まる音がして、おれと姫の息遣い以外、何も聞こえなくなった。
ショックで体が動かない。
「黒鋼さん……」
いつも温かく助けてくれていたファイさんがいなくなって、いつも陰日向と守ってくれていた黒鋼さんがいなくなって、今、おれを守ってくれるものは何もない。
姫を守れるのは、おれ1人。
「小狼、君……?」
旅に出たころは、一人ででも、なんとしてでも、姫を守ろうと思っていた。
今だってそれは変わりない。
ただ、自分がどれほど二人に頼っていたのか、思い知らされた。
どれほど大切にされていたか、どれほどのぬくもりの中にいたのか、甘やかされてきたのか。
一人で立てと言い渡されるには、怯えてしまうほどーーだから黒鋼さんは紗羅ノ国で他人のふりをして、今もこうして突き放すのかもしれない。
「小狼君……」
自分がなんとかしなければならないと分かっていても怖い。
「絶対、大丈夫だよ!」
不意にかけられた声にはっと振り返ると、サクラ姫が拳を作って笑っている。
彼女の腕の中でモコナも嬉しそうに笑う。
おれしか守る人がいない、こんなときにも。
「大丈夫、ファイさんも、黒鋼さんも、絶対大丈夫。
だって、二人ともとっても強いもん。
だから、私も二人が背中を押してくれた分、ちゃんと羽根を取り戻せるように頑張るね」
(おれは馬鹿だな)
おれはその笑顔に答えるように微笑んで、刀を握る。
どうしてひとりで姫を守ることばかり考えていたんだろう。
姫は確かに刀は握れない。
力も弱い。
でも、姫はこうしておれを守ってくれる。
闇からいつも、救い出してくれる。
「はい」
だからおれは、立ち向かえるんだ。
おれたちは、神の像の前に立つ。
澄んだ空気は外とは全く違う。
やはり神が実在するのだろうか。
不意に感じた気配に、おれは振り返った。
1人の白い兵士が刀を構えていた。
ここまであれだけの敵がいたのにそんなに簡単に願いを捧げられる訳はない。
今、この時を逃してはいけない。
姫は、今立ち止まるべきではないのだ。
(邪魔するものがいるなら、おれは……)
おれは姫に背を向け、刀を抜く。
「姫は祈りをささげてください」
姫が何を願うか、だいたい見当はついている。
もしかしたら聡いファイさんたちは、出発の時点で気づいていたのかもしれない。
だから、あんなことを聞いたのかもしれない。
-本当に羽根のためだけ?-
違う。
羽根のためだけなんかじゃない。
おれが何よりも大切にしたいものは。
「どこかで誰かが泣いているのに、私だけが幸せになんてなれない。
小狼君、私の願いは……」
「わかっています。
姫の願いを、ささげてください」
おれが、何よりも守りたいもの。
実はそれは羽根だけでは手には入らないもの。
簡単なようで難しくて、難しいようで簡単に手に入るもの。
「姫には指一本触れさせない!」
姫に襲い掛かろうとする兵士の刀を受け止めると腕が痺れた。
相手は意識のない操らた骸のようで、不思議なことにさっきまでの黒い男達とは雰囲気が異なっている。
激しい剣戟をいなす中、姫が眩い光を放つ。
モコナが反応したーー羽根の力だ。
「これがサクラちゃんの願いかー」
ファイさんがくすりと笑う。
「はい」
温かい声が嬉しい。
「人が好すぎる」
相変わらずあまり感情のない声で黒鋼さんが呟く。
「はい」
その表に出ない優しさが嬉しい。
こんなことを言いつつも、きっと二人ともわかっていてくれたんじゃないかな、と思う。
「姫はそういう人ですから」
小狼君が微笑んでくれて、胸が温かくなる。
私の願うことを、きっとみんなわかっていた。
だって、私たちはもういろんな国を回って、一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒にお腹をすかせて、一緒に寒いねって笑って、一緒に戦って、一緒に笑って……。
こんな素敵な仲間なんだもの。
例えば一時離ればなれになってしまっても大丈夫。
「黒ぽんも人が好いの!
行け、とか言っちゃって、ちょっとカッコよかったの!」
「黙れ」
モコちゃんに揶揄われた黒鋼さんが睨む。
「わー、黒様照れてる!」
「お前も黙れ」
今度はファイさんに揶揄われた。
記憶がなくて初めての仲間だからと言われればそれもそうかもしれないけれど、それを差し引いたとしてもこの旅の仲間は格別。
「行きましょう、姫」
「はい」
また会えると信じている。
私が探しだすよ、絶対。
だって私はみんなが、こんなに大好きなんだもん!
ー全ては必然ー
魔女の声が蘇る。
この旅の真相を知るものがいる。
あの魔女と、それからおそらくーー最後に見た夕日を写す金髪がちらつく。
不意に感じた気配に、立ち止まり刀に手を掛ける。
案の定、辺りに黒い服を着た男達が現れた。
刀を振り回すのは昔から好きだったし得意だった。
自分の刀の右に出るものは日本国にはいなくなった。
全力さえ尽くせば大切なものを失うことはない。
そして大切なものにもっと愛されたいとか、一緒にいたいとか、そういう面倒な気持ちも起こさないとーーそう信じていた。
「黒鋼さん!
これは囮です!」
不意に小僧が叫ぶ。
彼の視線の先にあるのは、扉。
しかも閉まりかけている。
俺は口角を上げた。
まるで仕組まれていたようだ。
次に引き離されたのは、俺だった。
夕陽に照らされた小僧の顔が、一瞬龍王と被る。
湧き上がる不安を飲み込む。
目の前に突きつけられると戸惑うが、彼は沙羅ノ国でも1人で姫を守り抜いた。
彼には力がある。
覚悟が足りないのは、小僧だけではなかったのだと自嘲する。
息を短く吸い込む。
「行け!」
俺の鋭い声に、一瞬の間を開けてから、小僧は姫の手を取って駆けだす。
その間も、黒い男の数は増えるばかりだ。
「黒鋼さん!早く!!」
剣をふるう間に、耳に届いた声。
小僧の、助けを求めるかのような声だ。
己の弱さに怯える声。
小僧はまだ弱い。
弱さを知るものは、強くなる素質がある。
大丈夫、大丈夫だ。
「黒鋼さん!」
求める声に背を向ける。
心配はいらない。
(守り抜け、小僧)
「またな」
重々しい扉が閉まる音がして、おれと姫の息遣い以外、何も聞こえなくなった。
ショックで体が動かない。
「黒鋼さん……」
いつも温かく助けてくれていたファイさんがいなくなって、いつも陰日向と守ってくれていた黒鋼さんがいなくなって、今、おれを守ってくれるものは何もない。
姫を守れるのは、おれ1人。
「小狼、君……?」
旅に出たころは、一人ででも、なんとしてでも、姫を守ろうと思っていた。
今だってそれは変わりない。
ただ、自分がどれほど二人に頼っていたのか、思い知らされた。
どれほど大切にされていたか、どれほどのぬくもりの中にいたのか、甘やかされてきたのか。
一人で立てと言い渡されるには、怯えてしまうほどーーだから黒鋼さんは紗羅ノ国で他人のふりをして、今もこうして突き放すのかもしれない。
「小狼君……」
自分がなんとかしなければならないと分かっていても怖い。
「絶対、大丈夫だよ!」
不意にかけられた声にはっと振り返ると、サクラ姫が拳を作って笑っている。
彼女の腕の中でモコナも嬉しそうに笑う。
おれしか守る人がいない、こんなときにも。
「大丈夫、ファイさんも、黒鋼さんも、絶対大丈夫。
だって、二人ともとっても強いもん。
だから、私も二人が背中を押してくれた分、ちゃんと羽根を取り戻せるように頑張るね」
(おれは馬鹿だな)
おれはその笑顔に答えるように微笑んで、刀を握る。
どうしてひとりで姫を守ることばかり考えていたんだろう。
姫は確かに刀は握れない。
力も弱い。
でも、姫はこうしておれを守ってくれる。
闇からいつも、救い出してくれる。
「はい」
だからおれは、立ち向かえるんだ。
おれたちは、神の像の前に立つ。
澄んだ空気は外とは全く違う。
やはり神が実在するのだろうか。
不意に感じた気配に、おれは振り返った。
1人の白い兵士が刀を構えていた。
ここまであれだけの敵がいたのにそんなに簡単に願いを捧げられる訳はない。
今、この時を逃してはいけない。
姫は、今立ち止まるべきではないのだ。
(邪魔するものがいるなら、おれは……)
おれは姫に背を向け、刀を抜く。
「姫は祈りをささげてください」
姫が何を願うか、だいたい見当はついている。
もしかしたら聡いファイさんたちは、出発の時点で気づいていたのかもしれない。
だから、あんなことを聞いたのかもしれない。
-本当に羽根のためだけ?-
違う。
羽根のためだけなんかじゃない。
おれが何よりも大切にしたいものは。
「どこかで誰かが泣いているのに、私だけが幸せになんてなれない。
小狼君、私の願いは……」
「わかっています。
姫の願いを、ささげてください」
おれが、何よりも守りたいもの。
実はそれは羽根だけでは手には入らないもの。
簡単なようで難しくて、難しいようで簡単に手に入るもの。
「姫には指一本触れさせない!」
姫に襲い掛かろうとする兵士の刀を受け止めると腕が痺れた。
相手は意識のない操らた骸のようで、不思議なことにさっきまでの黒い男達とは雰囲気が異なっている。
激しい剣戟をいなす中、姫が眩い光を放つ。
モコナが反応したーー羽根の力だ。
「これがサクラちゃんの願いかー」
ファイさんがくすりと笑う。
「はい」
温かい声が嬉しい。
「人が好すぎる」
相変わらずあまり感情のない声で黒鋼さんが呟く。
「はい」
その表に出ない優しさが嬉しい。
こんなことを言いつつも、きっと二人ともわかっていてくれたんじゃないかな、と思う。
「姫はそういう人ですから」
小狼君が微笑んでくれて、胸が温かくなる。
私の願うことを、きっとみんなわかっていた。
だって、私たちはもういろんな国を回って、一緒にご飯を食べて、一緒に遊んで、一緒にお腹をすかせて、一緒に寒いねって笑って、一緒に戦って、一緒に笑って……。
こんな素敵な仲間なんだもの。
例えば一時離ればなれになってしまっても大丈夫。
「黒ぽんも人が好いの!
行け、とか言っちゃって、ちょっとカッコよかったの!」
「黙れ」
モコちゃんに揶揄われた黒鋼さんが睨む。
「わー、黒様照れてる!」
「お前も黙れ」
今度はファイさんに揶揄われた。
記憶がなくて初めての仲間だからと言われればそれもそうかもしれないけれど、それを差し引いたとしてもこの旅の仲間は格別。
「行きましょう、姫」
「はい」
また会えると信じている。
私が探しだすよ、絶対。
だって私はみんなが、こんなに大好きなんだもん!