偶像の国
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
どうしてか移動の時にサクラちゃんと小狼くんとはぐれてしまった。
たまにこうした事故になるのはなんでだろう。
やはりそれは魔女さんの言う通り「必然」なのだろうか。
ちらりと隣を見る。
どこか遠くを見ている黒様。
「何か考え事?」
「いや」
すっと伏せられた紅い瞳。
「桜都国であった、魂が同じ人のこと?」
そう聞けば、黒様が目をあげた。
赤い瞳に周囲の緑がざわめいて美しい。
ゴンッ
目の前で火花が跳んだ。
すごいゲンコツだ。
「いったぁ!」
「黒鋼乱暴!
暴力はんたーい!」
モコナが俺の頭に乗って、殴られた場所を撫でてくれている。
「死ぬ時の恐怖に比べればマシだろう」
マントをひらめかせて黒様は振り返ることなく進んでいく。
熱帯雨林の目に痛いほどの緑の中を進む黒は、目を引いた。
そうでなくても、オレの目は、彼女に吸いつけられていたのかもしれない。
「黒鋼、すごい心配してたよ、ファイのこと」
モコナの静かな声に、オレは一瞬心臓が大きく音をたてた。
「そっか……悪いことしちゃったね」
「だからファイがちゃんと笑ってあげてよ。
それが黒鋼、一番うれしい。
もちろんモコナも!」
「わかったよ、モコナ」
この小さな存在は、どこまでオレの心を知っているのだろうか。
不思議な胸を焦がす程のぬくもりに出会った旅。
まるで中毒性のあるような、神経に刷り込まれるような疼き。
この旅の終止符を打たねばならぬ時、オレはその役目を果たせるのだろうかーーその問いへ答えられないオレは、ただ目を逸らすしかない。
「そう言えば、この魔女さんからのお手紙、なんて書いてあるんだろう?」
ポケットから矢についていた手紙を出して、見てみる。
ホワイトデーは倍返し
遅れたら罰は三倍返し 侑子
全く読めない文字に首を傾げていると黒様が戻ってきて手紙を覗き込む。
黒い髪がふわりと揺れた。
その風の動きさえ見える程で、綺麗だ、とシンプルに思った。
眉がかすかに顰められたところを見ると、どうやら読めたらしい。
「意味がわからない」
どうやら文化の壁とやらは厚いらしい。
不意に黒様が顔をあげた。
動く空気が、オレの髪を揺らす。
そのくらい彼女は近くにいた。
オレに背を向け、一瞬の間をおいて、走りだす。
彼女は何を察知したのだろう。
慌ててその後を追う。
しばらく森を進んでいけば、
「サクラちゃん!!」
網につかまって木から吊るされたサクラちゃんがいた。
どうやらすっかり絡まってしまって抜けられなくなったらしい。
「掴まれ」
黒むーが、サクラちゃんが落ちてけがをしないように優しく抱きしめて、刀で縄を斬ろうとすれば、サクラちゃんがしがみついて黒むーに訴えた。
「小狼君が攫われたんです!」
黒ぴっぴの眉がひそめられる。
「とりあえずじっとしていろ」
そう言ってまずは助け出す。
地面にようやく足をつけられたサクラちゃんによれば、小狼君はどうやら木の実を後頭部に受けて気を失ったらしい。
そして耳としっぽの生えた小さい人たちが連れて行ったという。
とりあえず連れて行かれたという方向に走るしかない。
それにしても、黒たんの眉がずっと顰められる。
「どうしたの?」
何かそんなに気にかかることがあるのだろうか。
「訓練はどうなったんだと思っただけだ。
まだまだ修行が足りない」
その言葉にオレは思わず頬が緩んだ。
「……煙だ」
聞こえた言葉に目を凝らせば、
確かに煙のようなものが見えなくもないような。
目を細めている間に、黒たんがスピードを上げる。
「黒様!?」
慌てるもサクラちゃんを置いていくわけにもいかない。
黒い背中の向こうに、だんだん煙がはっきり見えてくる。
明るいところをみると開けている場所みたいだ。
黒りんが真っ先に飛び出す。
一歩遅れてオレ達も林を抜ける。
目の前には刀に手をかけたまま固まっている黒たん。
辺りを見回せばその理由も何となくわかる。
「あっ大丈夫でしたかー?」
呑気な顔して小さい人たちと食事らしいものをしていた小狼くんが駆けてきた。
深いため息をつくのは黒たん。
自分の懐に入れたものが傷つけられることを嫌う彼女は心配性だ。
その先にオレに自分がいるーー疼きを伴うむず痒さが、オレを常に蝕み続ける。
「小狼君は?」
不安げなサクラちゃんに小狼君は笑いかける。
「平気です。
いろいろ事情もあったみたいですし」
「事情ー?」
わらわらと小さい人たちがオレ達の傍にやってくる。
そんな人たちに殺気を飛ばすのがひとり。
「なんだ」
黒様の目が、怖い。
小狼君とサクラちゃんのこと、怒ってるんだろうか、それともなにか疑うべきが存在するのか。
この森を抜けたさらに奥の樹海に突然魔物が現れ、小さな人たちに森を荒らされたくなければイケニエをささげるように言った。
事情はまとめてしまえばそんなことだった。
圧倒的な力を持ち、突然現れた魔物。
話を聞くほど、姫の羽根のことのような気がしてならない。
一通り話終えると、ファイさんも黒鋼さんも納得したような顔をしている。
「モコナ、羽根の気配は?」
「……うん、感じる」
その言葉に、確信を得る。
「魔物退治と言うわけか」
刀に触れる黒鋼さん。
「黒様、うれしそー」
ファイさんの茶々の通り、どこか楽しげだ。
本職だからだろうか、彼女は魔物退治と聞くと血が騒ぐらしい。
「わたしも行きます」
不意に姫の口から出た言葉に、おれは驚く。
「足手まといにならないように頑張ります。
一緒に行かせてください」
姫はいつも頑張り屋だ。
明るくて、前向きで、自分にできることを探している。
だから、断る理由なんて、どこにもない。
姫に危険が及ぶならおれが全力で守って見せるーーそう言えばきっと黒鋼さんは呆れたように溜息をついて、そう言うことは強くなってから言えと言うだろう。
黒鋼さんに目を向けるとやはり少し呆れた顔をして軽く頷いてくれた。
この人はおれ達の身の安全も勿論考えてくれるが、心のありかも見据えてくれる。
この人についていけば間違いない。
不安げにおれを見上げる姫に、おれは笑顔を向けた。
「はい」
「そうと決まれば出発だね!」
ファイさんの声に、元気に姫が立ち上がる。
続いて黒鋼さんとおれも。
「みんなで行くのだめ!」
「だめ!」
急にかけられた声に、おれたちは小さい人たちを見た。
「みんなで言って帰ってこなかったら、イケニエいなくなる」
「ひとり残って」
きっぱりと言い切る小さい人たち。
誰を置いていくべきなんだろう。
姫は置いてはいけない。
黒鋼さんも魔物退治と言うからには来てもらうべきだ。
ファイさんの切れる頭脳や魔法の知識もいるかもしれない。
言葉が通じなくなると困るから、モコナは必須。
やっぱりみんな仲間だ。
誰一人欠けることなんて……
「じゃあオレ、残るよー」
ひらりと手を振るファイさん。
驚いたのはおれだけじゃなかった。
「でも……!」
不安げに姫がファイさんを見上げる。
それから、
ズッ
おれの耳に微かに届いた音。
その音は黒鋼さんの足元からしていた。
ファイさんの方に近づこうと、無意識に出されかけた足が、黒鋼さんの意志によって引き戻された音だ。
見上げる顔は、普段通り、何の表情も見えない。
「サクラちゃんは行ってきて。
危険な目にあうかもしれないけど、行きたいんでしょ?」
姫にそう言い聞かせる姿を、赤い瞳はずっと見ていた。
「はい!」
元気な姫の返事に、ファイさんが黒鋼さんをみる。
二人は一瞬だけ見つめあった。
先に目をそらしたのは黒鋼さんで、ファイさんに背を向けて歩きだす。
「ここで応援しているよー」
へらりと笑って手を振るファイさん。
それはどこか、黒鋼さんのための言葉のように思えた。
おれと姫はいってきます、と言って、何も言わずに先へと進む黒鋼さんを追いかける。
「さっさと行くぞ」
駆け寄ればかけられた声に、おれと姫とモコナは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「そうですね。
魔物の住む樹海へ」
たまにこうした事故になるのはなんでだろう。
やはりそれは魔女さんの言う通り「必然」なのだろうか。
ちらりと隣を見る。
どこか遠くを見ている黒様。
「何か考え事?」
「いや」
すっと伏せられた紅い瞳。
「桜都国であった、魂が同じ人のこと?」
そう聞けば、黒様が目をあげた。
赤い瞳に周囲の緑がざわめいて美しい。
ゴンッ
目の前で火花が跳んだ。
すごいゲンコツだ。
「いったぁ!」
「黒鋼乱暴!
暴力はんたーい!」
モコナが俺の頭に乗って、殴られた場所を撫でてくれている。
「死ぬ時の恐怖に比べればマシだろう」
マントをひらめかせて黒様は振り返ることなく進んでいく。
熱帯雨林の目に痛いほどの緑の中を進む黒は、目を引いた。
そうでなくても、オレの目は、彼女に吸いつけられていたのかもしれない。
「黒鋼、すごい心配してたよ、ファイのこと」
モコナの静かな声に、オレは一瞬心臓が大きく音をたてた。
「そっか……悪いことしちゃったね」
「だからファイがちゃんと笑ってあげてよ。
それが黒鋼、一番うれしい。
もちろんモコナも!」
「わかったよ、モコナ」
この小さな存在は、どこまでオレの心を知っているのだろうか。
不思議な胸を焦がす程のぬくもりに出会った旅。
まるで中毒性のあるような、神経に刷り込まれるような疼き。
この旅の終止符を打たねばならぬ時、オレはその役目を果たせるのだろうかーーその問いへ答えられないオレは、ただ目を逸らすしかない。
「そう言えば、この魔女さんからのお手紙、なんて書いてあるんだろう?」
ポケットから矢についていた手紙を出して、見てみる。
ホワイトデーは倍返し
遅れたら罰は三倍返し 侑子
全く読めない文字に首を傾げていると黒様が戻ってきて手紙を覗き込む。
黒い髪がふわりと揺れた。
その風の動きさえ見える程で、綺麗だ、とシンプルに思った。
眉がかすかに顰められたところを見ると、どうやら読めたらしい。
「意味がわからない」
どうやら文化の壁とやらは厚いらしい。
不意に黒様が顔をあげた。
動く空気が、オレの髪を揺らす。
そのくらい彼女は近くにいた。
オレに背を向け、一瞬の間をおいて、走りだす。
彼女は何を察知したのだろう。
慌ててその後を追う。
しばらく森を進んでいけば、
「サクラちゃん!!」
網につかまって木から吊るされたサクラちゃんがいた。
どうやらすっかり絡まってしまって抜けられなくなったらしい。
「掴まれ」
黒むーが、サクラちゃんが落ちてけがをしないように優しく抱きしめて、刀で縄を斬ろうとすれば、サクラちゃんがしがみついて黒むーに訴えた。
「小狼君が攫われたんです!」
黒ぴっぴの眉がひそめられる。
「とりあえずじっとしていろ」
そう言ってまずは助け出す。
地面にようやく足をつけられたサクラちゃんによれば、小狼君はどうやら木の実を後頭部に受けて気を失ったらしい。
そして耳としっぽの生えた小さい人たちが連れて行ったという。
とりあえず連れて行かれたという方向に走るしかない。
それにしても、黒たんの眉がずっと顰められる。
「どうしたの?」
何かそんなに気にかかることがあるのだろうか。
「訓練はどうなったんだと思っただけだ。
まだまだ修行が足りない」
その言葉にオレは思わず頬が緩んだ。
「……煙だ」
聞こえた言葉に目を凝らせば、
確かに煙のようなものが見えなくもないような。
目を細めている間に、黒たんがスピードを上げる。
「黒様!?」
慌てるもサクラちゃんを置いていくわけにもいかない。
黒い背中の向こうに、だんだん煙がはっきり見えてくる。
明るいところをみると開けている場所みたいだ。
黒りんが真っ先に飛び出す。
一歩遅れてオレ達も林を抜ける。
目の前には刀に手をかけたまま固まっている黒たん。
辺りを見回せばその理由も何となくわかる。
「あっ大丈夫でしたかー?」
呑気な顔して小さい人たちと食事らしいものをしていた小狼くんが駆けてきた。
深いため息をつくのは黒たん。
自分の懐に入れたものが傷つけられることを嫌う彼女は心配性だ。
その先にオレに自分がいるーー疼きを伴うむず痒さが、オレを常に蝕み続ける。
「小狼君は?」
不安げなサクラちゃんに小狼君は笑いかける。
「平気です。
いろいろ事情もあったみたいですし」
「事情ー?」
わらわらと小さい人たちがオレ達の傍にやってくる。
そんな人たちに殺気を飛ばすのがひとり。
「なんだ」
黒様の目が、怖い。
小狼君とサクラちゃんのこと、怒ってるんだろうか、それともなにか疑うべきが存在するのか。
この森を抜けたさらに奥の樹海に突然魔物が現れ、小さな人たちに森を荒らされたくなければイケニエをささげるように言った。
事情はまとめてしまえばそんなことだった。
圧倒的な力を持ち、突然現れた魔物。
話を聞くほど、姫の羽根のことのような気がしてならない。
一通り話終えると、ファイさんも黒鋼さんも納得したような顔をしている。
「モコナ、羽根の気配は?」
「……うん、感じる」
その言葉に、確信を得る。
「魔物退治と言うわけか」
刀に触れる黒鋼さん。
「黒様、うれしそー」
ファイさんの茶々の通り、どこか楽しげだ。
本職だからだろうか、彼女は魔物退治と聞くと血が騒ぐらしい。
「わたしも行きます」
不意に姫の口から出た言葉に、おれは驚く。
「足手まといにならないように頑張ります。
一緒に行かせてください」
姫はいつも頑張り屋だ。
明るくて、前向きで、自分にできることを探している。
だから、断る理由なんて、どこにもない。
姫に危険が及ぶならおれが全力で守って見せるーーそう言えばきっと黒鋼さんは呆れたように溜息をついて、そう言うことは強くなってから言えと言うだろう。
黒鋼さんに目を向けるとやはり少し呆れた顔をして軽く頷いてくれた。
この人はおれ達の身の安全も勿論考えてくれるが、心のありかも見据えてくれる。
この人についていけば間違いない。
不安げにおれを見上げる姫に、おれは笑顔を向けた。
「はい」
「そうと決まれば出発だね!」
ファイさんの声に、元気に姫が立ち上がる。
続いて黒鋼さんとおれも。
「みんなで行くのだめ!」
「だめ!」
急にかけられた声に、おれたちは小さい人たちを見た。
「みんなで言って帰ってこなかったら、イケニエいなくなる」
「ひとり残って」
きっぱりと言い切る小さい人たち。
誰を置いていくべきなんだろう。
姫は置いてはいけない。
黒鋼さんも魔物退治と言うからには来てもらうべきだ。
ファイさんの切れる頭脳や魔法の知識もいるかもしれない。
言葉が通じなくなると困るから、モコナは必須。
やっぱりみんな仲間だ。
誰一人欠けることなんて……
「じゃあオレ、残るよー」
ひらりと手を振るファイさん。
驚いたのはおれだけじゃなかった。
「でも……!」
不安げに姫がファイさんを見上げる。
それから、
ズッ
おれの耳に微かに届いた音。
その音は黒鋼さんの足元からしていた。
ファイさんの方に近づこうと、無意識に出されかけた足が、黒鋼さんの意志によって引き戻された音だ。
見上げる顔は、普段通り、何の表情も見えない。
「サクラちゃんは行ってきて。
危険な目にあうかもしれないけど、行きたいんでしょ?」
姫にそう言い聞かせる姿を、赤い瞳はずっと見ていた。
「はい!」
元気な姫の返事に、ファイさんが黒鋼さんをみる。
二人は一瞬だけ見つめあった。
先に目をそらしたのは黒鋼さんで、ファイさんに背を向けて歩きだす。
「ここで応援しているよー」
へらりと笑って手を振るファイさん。
それはどこか、黒鋼さんのための言葉のように思えた。
おれと姫はいってきます、と言って、何も言わずに先へと進む黒鋼さんを追いかける。
「さっさと行くぞ」
駆け寄ればかけられた声に、おれと姫とモコナは思わず顔を見合わせて微笑んだ。
「そうですね。
魔物の住む樹海へ」