阪神国
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羽根を探しに、黒たんと小狼君と共に町に出る。
うろついていても出てくるものでもないだろうけれど、じっとしているよりましだろう。
「らっしゃい、兄ちゃん達!
りんご買っていかないかい?」
「これがりんごですか?」
「小狼君がいた国では違っていたの?」
「はい、形はこんなですけど、色はもっと黄色かったです」
「へぇ、世界が違うと物も違うんだねぇ。
ほら、黒むーのぶんだよ」
りんごを後ろの仏頂面に投げて寄越す。
「変な名前で呼ぶな」
ちらりと睨まれたけれど、そのくらいがちょうどいいのだ。
彼女はきっと、こんなオレみたいなタイプを嫌いだろうから。
それから道すがら互いの事を話した。
小狼君は神官さんに飛ばされて魔女さんのところに行ったんだそうだ。
「すごいねー。
2人も他の世界に送っちゃうなんて。
そう言えば、黒りんはどうやって魔女さんのところに行ったの?」
りんごを飲み下した黒りんに聞く。
「だからやめろ。
俺はうちの国の姫に無理やり飛ばされたんだ」
「悪いことして叱られた?」
「黙れ」
不機嫌そうな顔から、当たらずとも遠からずと言った対応だったのかもしれない。
ただーー本来の理由はまた別にあるのだが、彼女はきっと知らされてはいないのだろう。
「ファイさんはどうだったんですか?」
「オレ?
自分で行ったよ」
「なら、わざわざおれ達と一緒じゃなくても?」
「ううん、どんなに力を使っても一回世界を渡るのが精一杯なんだ」
黒たんの目が痛い。
疑われても仕方ないけれど、勘が鋭い彼女は厄介だ。
急に町の方が騒がしくなる。
声の方を見ればビルの上に複数人のゴーグルをかけた青年がいるようだ。
そしてそのビルの足もとにも、作業服のようなものをきた青年が複数人。
「今日こそはこの界隈をもらう!」
作業服の方の男が叫ぶ。
道行く人々が、また縄張り争いか、と言いながら迷惑そうに逃げていた。
次の瞬間には青年それぞれが不思議な生き物を操り戦っている。
「あれが巧断か」
隣で黒様が呟いた。
そしてすっと目を細める。
彼女の目の先には、後ろで髪を束ねるゴーグルの青年が、くいっと右手の親指を立てて下に向けた。
彼の周りにエイのような巧断が現れる。
その巧断の発した大量の水により、作業服を着ていた多くの青年と共に、一般人の足場も危険にさらされる。
ひとりの少年が転んだ。
彼と一緒に走っていた少年が助け起こそうとしている。
その上に壊れかけていた看板が落ちてくる。
オレの隣にいた黒りんが咄嗟に駆けだそうとして足を止める。
彼の目の先は、小狼君に向いていた。
黒りんよりも少しだけ遅れて反応し、転んだ少年の前に立つ小狼君。
そしてその彼を看板から守るのは、赤い炎を身にまとった、額にするどい角を持つ大きな犬。
「お前の巧断も特級か」
この参事を引き起こした張本人の青年がいうとおり、強い力を秘めた巧断だった。
「お前は炎を操る、俺は水を操る巧断か。
おもしれぇ。
俺は浅黄笙悟だ。
お前は?」
「……小狼」
「おまえ、気に入った。
次会った時が楽しみだぜ」
浅野らはそう言い残して立ち去った。
賑やかな人達だ。
オレ達が駆け寄っていく間に、小狼君の巧断は小狼君の胸に、転んだ男の子を助けようとしていた男の子は、転んだ子の胸に入っていった。
「あーあの子も巧断なんだ」
オレがぽん、と手を叩いて呟くと、隣で黒たんが
「なんでもありだな。」
と驚いている。
オレ、好きだな、黒様のこういう反応。
「モコナ、さっきめきょってなってたよ!
誰も気づいてくれなかったけど」
そんな黒様の頭に飛び乗るモコナの言葉に、小狼君が食いついた。
「近くにあるのか!?」
「さっきはあったんだけど今はもう感じない」
「だれが持っているか分かったか?」
「分からなかった」
言葉を無くす小狼。
モコナもしょんぼりとしている。
「少し人数も多いが、この辺りに所持者がいることが分かっただろう」
落ち込む2人に話しかける黒りんは、やっぱり優しいなって思う。
そして、近くにやってきたのに話しかけられずにいる少年に目を向け、話を促すように見つめる様子も。
彼はさっき小狼君に助けられた少年だ。
「あの、さっきは本当にありがとうございました!
僕、斎藤正義と言います!
お……お礼を何かさせてください!」
「おれ何もしてないし」
それを慌てて断る小狼君。
でもその頭に飛び乗って。
「お昼御飯が食べたい!
おいしいとこで!!
教えて!」
というモコナ。
嬉しそうに、はい、と返事をする正義君に連れられて、オレたちは不思議なお店に連れてこられた。
正義の話だと、あのゴーグルの集団や作業着の集団は、互いの巧断の強さを競っているらしい。
他にもそんなチームはたくさんあるそうだ。
そのナワバリ争いだったとのこと。
彼にとってあの浅野という青年は特別らしい。
随分憧れている様子だ。
それから巧断には等級があるらしい。
上から特級、1級~4級だそうだ。
「強い巧断は本当に心の強い人にしか憑かないんです。
自分の心で操れないといけないから……。
僕は4級なんだけど……」
この国にはこの国の、文化と事情があるのだろう。
青年が2人近づいてくる。
「ひっくりかえすんで失礼します」
そう言って飲み物やソースを広げる2人を見て、小狼が驚いた顔をする。
「王様と神官様!?」
「……人違いじゃないっすか?」
青年はそういって、俺たちの目の前の鉄板で焼いているお好み焼きを裏返して去って行った。
「知っている人、前の世界で会った人が別の世界で全く違った人生を送っている。
そんなことも、世界が違うとあるんだって、前に本で読んだことがあるよ」
頬杖をつきながら少し遠い眼をして話す青年。
「ならあの二人は少年の国の王と神官と同じということか」
「同じだけど同じじゃない。
命のおおもとは同じだけど、全く別の人生を歩んでいるから」
魂が同じと言う事か。
少年を見てみると、国に残してきた2人を思い出しているのか、表情が暗い。
俺は少年の空いた皿にお好み焼きをよそり分ける。
「あ、ありがとうございます」
彼が旅の間、こんな平和な世界にいる間だけでも、苦しいことを忘れてくれればいい。
食べ終わってお店から出る。
食べたことのない料理だったけど、とってもおいしかったな。
「ありがとう、教えてくれて」
正義君は本当に小狼君に憧れているみたいで、そうお礼を言われると顔をぶんぶんふっていた。
「シャオランっていうのは誰だ!?」
そこに突然現れたのはずいぶん太ったサングラスのモヒカンの男。
「なんか用かなぁ?」
「笙悟が気に入ったとかいったのはお前か?」
「だとしたら?」
黒りんがこっちを見てる。
いや、観察してる。
それとも見張ってる、だろうか。
ああそれとも、見張っているということをオレに伝えているのかもしれない。
いずれにせよ、ずいぶん警戒されているらしい。
ご飯食べてるときはそんなそぶりは微塵もなかったのに、職業人だと感心してしまう。
「小狼は俺です」
「お前、笙悟のチームに入るのか?」
「いいえ」
「じゃあ俺のチームに入れ!」
「入りません」
「新しいチームを作るつもりだな!」
随分自分本位に話を進める男だ。
ところが事情は呆れているどころではなくなってしまった。
そう言って大きなカブトカニのような巧断を呼び出したからだ。
「なら今の内にぶっ潰しておく!」
「わーでっかいねー!」
「ねー!」
モコナとそう話していれば、黒たんはため息をついていた。
尾を振りまわして誰かれ構わず、どこと構わず傷つけるその巧断。
これは、きっと。
「やめろ」
予想通り、黒たんがお怒りになった。
彼女は優しいだけじゃなくて真面目だ。
器用にあの尾を足で止めている。
スレンダーなのにどこか筋肉質で引き締まった体は何をしても様になる。
彼女は本当にスタイルがいい。
「正義君。
あれ知ってる?
あの人強いの?」
「1級の巧断をつけているんです。
本人はああだけど、巧断の動きはすごく速くて、それに」
「くらえ!蟹鍋旋回!」
黒りん目がけて大きく振られた尾を、彼女は華麗にバク転をしながら避ける。
「体の一部を刃物にすることができるんです!」
黒たんの動きを追って鋭い刃が空を切り裂く。
「危ない!」
飛び出そうとする小狼君の肩に手を置いて止める。
「手を出すと怒ると思うよ、黒たんは」
だって、君を守りたいんだから、とまでは言わない。
無口な彼女は知られたくないだろう。
「蟹動落!」
爆発が起き、四方八方に、巧断の体についていたとげが飛び散る。
なんとか受身の体勢を取ったものの、黒りんも大きく吹き飛ばされている。
「黒鋼さん!!」
砂煙と瓦礫で姿が見えず、小狼君が焦ったように名を呼ぶ。
「巧断はどうした!
見せられないようなヤツなのか?」
男の声に奥の方の瓦礫が動く。
「口数の多い……男だな」
傷だらけの黒様が姿を現した。
綺麗な肌が台無しだ。
でも、そんな黒りんが今考えてることが手に取るようにわかる。
刀があればーー
音もなく、しかし存在自体が音を立てるほど、大きなドラゴンが彼女の後ろに現れた。
氷でできているのか、半透明の水色で、線が細く、それでいて鋭い赤い瞳をもったドラゴンは、まるで彼女の化身。
背筋がぞくぞくする。
寒さのせいか、殺気のせいか、それとも。
「お前は夢に出てきた……なるほど」
彼女が手を構えるように出すと、その手に氷が集まり、いつの間にか日本刀に姿を変えていた。
「お前も強さを求める、か」
「ええい!見かけ倒しだろう!
こっちは必殺技だ!
蟹喰砲台!」
男の巧断の表面にある鋭いとげが長く伸び、黒りんの方に突っ込んでいく。
「黒鋼さん!!」
不安なのは一瞬だけ。
「破魔・竜王刃。」
一瞬の静寂ののち、大きな巧断は砕け散った。
苦しそうに倒れる男。
血を払うように刀を振る黒りん。
これが彼女の本来の姿ーー綺麗だ。
「お前……シャオランのチームなんだろ!」
苦しげな息の下、男が黒たんを指差して言う。
彼女はいつも通り凛とした表情で男を見下ろした。
「俺は誰の傘下にも入らぬ。
生涯ただ一人にしか仕えない。
知世姫にしかな」
その時の彼女は美しかった。
思わず、見惚れるほど。
