語られなかった世界
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不意に目の端に映った姿に、ほっとする。
「あ、いた?」
目で居場所を教えれば、よかった、と男も安心したようだ。
「羽根の方の目星も付いたしね」
二人のそばに行こうとする俺の腕を、男はとった。
くいっと俺の身体を引き戻す強さに、細い手であっても男のそれなのかと思う。
「ちょっと待って」
少し真剣な表情に、俺は首をかしげる。
「最近小狼君、何か考え込んでると思わない?」
それは俺も気になっていたことだ。
「ちょっと様子見て見ていようよ。
サクラちゃんになら、何か話すかもしれないし」
なるほどと頷く。
二人が座った場所から少し離れて俺達も腰を下ろす。
手には同じく「ちゅろす」とかいう食べ物を持った。
ちなみにこれがなかなかおいしい。
じっと耳を澄まして二人の会話を聞く。
『黒鋼さんは……本当に素敵な人だし、優しくて、あったかくて……』
「だって、良かったね」
青年のへにゃりとした笑顔が癪だが悪い気はしない。
『小狼君が憧れるのも……わかるよ』
話の内容の是非は置いておいて、
どこか内容と話の雰囲気がかみ合っていない気がする。
姫はどこか沈んでいるようだ。
『……ファイさんも、本当に素敵な人だし、優しくしてくれるし』
「良かったな」
そういって青年を見れば、眉尻を下げて、へへへ、と笑った。
『同じ人、好きになっちゃって辛いかもしれないけど……』
その言葉から、少年と少女の間の微妙な空気の理由が分かり、俺は頭を抱えた。
「ねぇ黒様、これさ……」
2,3の誤解がすれ違いを生んで、ややこしくなっている。
「ああ、わかっている」
『私、小狼君をいつでも応援しているから!』
『ち……違います!
おれは黒鋼さんが好きな……ええっと、そういう意味で好きなわけではありません!』
頭を抱えていても解決しない。
顔をあげれば、青年が困ったような顔をして、でもくつくつ笑いをこらえていた。
「なんだ?」
「ああ、あのね」
笑いを何とか納めて、彼は二人を見た。
風が彼の金髪を靡かせる。
光に透けるそれは、眩しい。
本当に、優しい眼をすると思う。
「なんだか、いろいろ微笑ましいくって」
その"いろいろ"に、俺も含められている気がして、それには答えず立ち上がった。
「はいはいストーップ!」
急に横から聞こえた声に、おれと姫は驚いた。
「ファイさん!
黒鋼さん!」
「もー二人とも迷子になっちゃうからモコナ達心配したんだよー」
「ごめんごめん」
へにゃんと笑うファイさんと、いつも通り無表情の黒鋼さん。
でも、少しだけほっとした顔をしているような気がする。
それが少し、嬉しい。
「小狼君、サクラちゃん」
まさか今の話を聞かれていたのかと思って、おれと姫は冷や汗をかいた。
「ごめん、盗み聞きしちゃった」
「もう、ファイも黒鋼もひとが悪いのー!」
ぴょんとその頭に跳び乗るモコナ。
そんな感じの雰囲気じゃない!という心の叫びが届くはずもない。
姫も同じように焦っている。
「あの……これはそのっ!」
説明しようとするのに言葉が出てこないようだ。
おれも慌てて説明しようとするも。
「だから、あの!」
同じように言葉が出てこない。
「はいはいストップ!」
ぴしっとファイさんがおれ達の前に手を出した。
「いろいろ誤解してるみたいだねぇ」
その言葉に反応できないおれ達に、黒鋼さんがため息をついた。
俺の隣に黒鋼さん、姫の隣にはファイさんが座り、大人二人に挟まれる形になった。
「まずその1」
ファイさんが指を立てる。
「これはさっき小狼君が言っていたけど、小狼君が好きな人は黒りんじゃない」
よね、というファイさんに首をぶんぶんと縦に振る。
「ほんとに?」
「本当です!だっておれは」
「その2」
俺の言葉を遮るように、ファイさんが2本の指を立てた。
「小狼君は、黒みーのことを男の人だと思っている」
姫は目を瞬かせている。
そしておれも。
「……どういうことですか?」
「黒たん?」
ファイさんが黒鋼さんの方を見て促している。
対して黒鋼さんはというと。
「なんというか……悪い。
騙すような形になってしまった」
気まずそうに少し俯き加減で話し始めた黒鋼さん。
「俺は……男ではない」
「……えっ……女性なんですか?」
青天の霹靂とはまさにこの事だ。
これほど腕っ節の強い人が女性だなんて、誰が思うだろう。
だが言ってからずいぶんと失礼なことを言ってしまったことに気づき、慌てて謝ると、気づかれている方が困るから、と言われた。
確かにそうなのかもしれないが、気まずいものは気まずい。
姫が誤解していた理由がやっとわかった。
姫は知っていたんだろう。
黒鋼さんが女性だということを。
「小狼君、知らなかったの?」
同時に姫の中でも誤解が解けたようだ。
昔からなんでもよく気づいていたから、ごく自然に、当たり前のように、男装を受け入れていたのだろう。
「だって……
春香達の国でファイさんが男の人っていったから……」
そういえばファイさんはへにゃんと笑った。
「ごめんねぇ。
だって黒むー隠したがってたからさー」
「悪かった」
ついにぷいっとそっぽを向いてしまった黒鋼さん。
「さーこれで誤解は全部とけたかな?」
立ちあがってうーん、と伸びをするファイさん。
「はい!」
その隣でぴょんと立ち上がる姫の元気な返事とほっとした顔に、やっぱり悩んでいたのか、と思った。
「馬鹿か。
その3!」
立ちあがりながら少し眉をひそめて言う黒鋼さん。
おれ達4人は皆、仁王立ちする黒鋼さんに注目する。
女の人だと知っても、やはり何をしてもどんな表情でも、様になる人だと思う。
「俺とこいつにはお前たちが考えているような関係はない」
「えーっ」
「うそーっ」
ファイさん、モコナが残念そうな声をあげて睨まれた。
「事実だ」
きっぱりと言い切る。
すがすがしいほどだ。
「それはざんねーん」
「ねーん」
「いーよ、オレ諦めないもん」
「ファイ、私を捕まえて―!」
ふざけ続けるモコナが黒鋼さんに飛びついて声真似をした。
「お前ら……」
黒鋼さんの表情は変わっていない。
まったく、変わっていないのだ。
そのはずなのに、黒鋼さんの周りの空気だけ、温度が数度下がっている気がする。
「あ……あの、その……!」
おれはあわてて仲裁に入るも、黒鋼さんはおれに見向きもしない。
いったいどうしたら沈静化されるのか。
急にした笑い声に隣を驚いてみる。
するとごめんなさい、と笑いながら謝る姫の姿。
その笑い声に、黒鋼さんも毒を抜かれたようだ。
ひとしきり落ち着いてから、姫はにっこりと微笑んだ。
「私、みなさんのこと、大好きです」
予想外の言葉におれとファイさんはきょとんとしてしまう。
でも、それも一瞬のこと。
「オレもだよー」
「おれもです」
「モコナも!」
大好き。
そんな言葉がさらっと出てしまう姫が。
そして姫のために一緒に旅をしてくれる3人が、
大好きだ。
「黒りんもだよね?」
ファイさんの言葉に、黒鋼さんはふっと笑みを浮かべた。
「勝手に言ってろ」
本当に不器用な、優しい人だと思う。
だから、おれたちはみんな、黒鋼さんが好きなんだ。
「そういえば、羽根のありかが分かった」
黒鋼さんの突然の言葉に、俺と姫は驚く。
くいっと顎をしゃくってついてくるように示す黒様の後を、ファイさん、姫、おれと追いかけた。
「あ、いた?」
目で居場所を教えれば、よかった、と男も安心したようだ。
「羽根の方の目星も付いたしね」
二人のそばに行こうとする俺の腕を、男はとった。
くいっと俺の身体を引き戻す強さに、細い手であっても男のそれなのかと思う。
「ちょっと待って」
少し真剣な表情に、俺は首をかしげる。
「最近小狼君、何か考え込んでると思わない?」
それは俺も気になっていたことだ。
「ちょっと様子見て見ていようよ。
サクラちゃんになら、何か話すかもしれないし」
なるほどと頷く。
二人が座った場所から少し離れて俺達も腰を下ろす。
手には同じく「ちゅろす」とかいう食べ物を持った。
ちなみにこれがなかなかおいしい。
じっと耳を澄まして二人の会話を聞く。
『黒鋼さんは……本当に素敵な人だし、優しくて、あったかくて……』
「だって、良かったね」
青年のへにゃりとした笑顔が癪だが悪い気はしない。
『小狼君が憧れるのも……わかるよ』
話の内容の是非は置いておいて、
どこか内容と話の雰囲気がかみ合っていない気がする。
姫はどこか沈んでいるようだ。
『……ファイさんも、本当に素敵な人だし、優しくしてくれるし』
「良かったな」
そういって青年を見れば、眉尻を下げて、へへへ、と笑った。
『同じ人、好きになっちゃって辛いかもしれないけど……』
その言葉から、少年と少女の間の微妙な空気の理由が分かり、俺は頭を抱えた。
「ねぇ黒様、これさ……」
2,3の誤解がすれ違いを生んで、ややこしくなっている。
「ああ、わかっている」
『私、小狼君をいつでも応援しているから!』
『ち……違います!
おれは黒鋼さんが好きな……ええっと、そういう意味で好きなわけではありません!』
頭を抱えていても解決しない。
顔をあげれば、青年が困ったような顔をして、でもくつくつ笑いをこらえていた。
「なんだ?」
「ああ、あのね」
笑いを何とか納めて、彼は二人を見た。
風が彼の金髪を靡かせる。
光に透けるそれは、眩しい。
本当に、優しい眼をすると思う。
「なんだか、いろいろ微笑ましいくって」
その"いろいろ"に、俺も含められている気がして、それには答えず立ち上がった。
「はいはいストーップ!」
急に横から聞こえた声に、おれと姫は驚いた。
「ファイさん!
黒鋼さん!」
「もー二人とも迷子になっちゃうからモコナ達心配したんだよー」
「ごめんごめん」
へにゃんと笑うファイさんと、いつも通り無表情の黒鋼さん。
でも、少しだけほっとした顔をしているような気がする。
それが少し、嬉しい。
「小狼君、サクラちゃん」
まさか今の話を聞かれていたのかと思って、おれと姫は冷や汗をかいた。
「ごめん、盗み聞きしちゃった」
「もう、ファイも黒鋼もひとが悪いのー!」
ぴょんとその頭に跳び乗るモコナ。
そんな感じの雰囲気じゃない!という心の叫びが届くはずもない。
姫も同じように焦っている。
「あの……これはそのっ!」
説明しようとするのに言葉が出てこないようだ。
おれも慌てて説明しようとするも。
「だから、あの!」
同じように言葉が出てこない。
「はいはいストップ!」
ぴしっとファイさんがおれ達の前に手を出した。
「いろいろ誤解してるみたいだねぇ」
その言葉に反応できないおれ達に、黒鋼さんがため息をついた。
俺の隣に黒鋼さん、姫の隣にはファイさんが座り、大人二人に挟まれる形になった。
「まずその1」
ファイさんが指を立てる。
「これはさっき小狼君が言っていたけど、小狼君が好きな人は黒りんじゃない」
よね、というファイさんに首をぶんぶんと縦に振る。
「ほんとに?」
「本当です!だっておれは」
「その2」
俺の言葉を遮るように、ファイさんが2本の指を立てた。
「小狼君は、黒みーのことを男の人だと思っている」
姫は目を瞬かせている。
そしておれも。
「……どういうことですか?」
「黒たん?」
ファイさんが黒鋼さんの方を見て促している。
対して黒鋼さんはというと。
「なんというか……悪い。
騙すような形になってしまった」
気まずそうに少し俯き加減で話し始めた黒鋼さん。
「俺は……男ではない」
「……えっ……女性なんですか?」
青天の霹靂とはまさにこの事だ。
これほど腕っ節の強い人が女性だなんて、誰が思うだろう。
だが言ってからずいぶんと失礼なことを言ってしまったことに気づき、慌てて謝ると、気づかれている方が困るから、と言われた。
確かにそうなのかもしれないが、気まずいものは気まずい。
姫が誤解していた理由がやっとわかった。
姫は知っていたんだろう。
黒鋼さんが女性だということを。
「小狼君、知らなかったの?」
同時に姫の中でも誤解が解けたようだ。
昔からなんでもよく気づいていたから、ごく自然に、当たり前のように、男装を受け入れていたのだろう。
「だって……
春香達の国でファイさんが男の人っていったから……」
そういえばファイさんはへにゃんと笑った。
「ごめんねぇ。
だって黒むー隠したがってたからさー」
「悪かった」
ついにぷいっとそっぽを向いてしまった黒鋼さん。
「さーこれで誤解は全部とけたかな?」
立ちあがってうーん、と伸びをするファイさん。
「はい!」
その隣でぴょんと立ち上がる姫の元気な返事とほっとした顔に、やっぱり悩んでいたのか、と思った。
「馬鹿か。
その3!」
立ちあがりながら少し眉をひそめて言う黒鋼さん。
おれ達4人は皆、仁王立ちする黒鋼さんに注目する。
女の人だと知っても、やはり何をしてもどんな表情でも、様になる人だと思う。
「俺とこいつにはお前たちが考えているような関係はない」
「えーっ」
「うそーっ」
ファイさん、モコナが残念そうな声をあげて睨まれた。
「事実だ」
きっぱりと言い切る。
すがすがしいほどだ。
「それはざんねーん」
「ねーん」
「いーよ、オレ諦めないもん」
「ファイ、私を捕まえて―!」
ふざけ続けるモコナが黒鋼さんに飛びついて声真似をした。
「お前ら……」
黒鋼さんの表情は変わっていない。
まったく、変わっていないのだ。
そのはずなのに、黒鋼さんの周りの空気だけ、温度が数度下がっている気がする。
「あ……あの、その……!」
おれはあわてて仲裁に入るも、黒鋼さんはおれに見向きもしない。
いったいどうしたら沈静化されるのか。
急にした笑い声に隣を驚いてみる。
するとごめんなさい、と笑いながら謝る姫の姿。
その笑い声に、黒鋼さんも毒を抜かれたようだ。
ひとしきり落ち着いてから、姫はにっこりと微笑んだ。
「私、みなさんのこと、大好きです」
予想外の言葉におれとファイさんはきょとんとしてしまう。
でも、それも一瞬のこと。
「オレもだよー」
「おれもです」
「モコナも!」
大好き。
そんな言葉がさらっと出てしまう姫が。
そして姫のために一緒に旅をしてくれる3人が、
大好きだ。
「黒りんもだよね?」
ファイさんの言葉に、黒鋼さんはふっと笑みを浮かべた。
「勝手に言ってろ」
本当に不器用な、優しい人だと思う。
だから、おれたちはみんな、黒鋼さんが好きなんだ。
「そういえば、羽根のありかが分かった」
黒鋼さんの突然の言葉に、俺と姫は驚く。
くいっと顎をしゃくってついてくるように示す黒様の後を、ファイさん、姫、おれと追いかけた。