ツァラストラ国
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「サクラの羽根目指して出発進行!」
相変わらず呑気なモコナは、ちゃっかりサクラちゃんに抱っこされている。
目の前にそびえる長い階段。
サクラちゃんが最後までいけるかちょっと心配になってしまう程長い。
黒様が先頭を歩いて、その後ろに小狼君、サクラちゃん、オレと続く。
いつも危ないときは一番前を歩く黒りん。
無意識なんだろう。
その行動が自分の強さへの自身から来るものだというのは分かっている。
でもそれは、最悪自らが盾になってサクラちゃんや小狼君を守ることを意味している。
どんな敵を目の前にしても、どれほど血を流そうとも、彼女は怯むことはないだろう。
美しい黒髪が風になびく。
凛とした背中が、オレたちを守る。
ぴたりと黒様が足を止めた。
「気をつけろ」
そう言って、すらりと刀を抜く。
やはり綺麗だ。
茜色の空、黒い髪、燃えるような、瞳。
鋒に似たその姿が、立ちはだかる。
オレ達を中心に現れたのは、黒い服をまとった男達。
「あれは!」
小狼君が声を上げる。
「知っているのか?」
黒りんの問いかけに一つ頷く。
その表情から、何か酷い目にあわされたのであろう予想がつく。
それも当たり前だ。
だって彼らは、あの人の部下だから。
小狼君も刀を構えた。
派手な音を立てて戦闘が始まる。
サクラちゃんは無事なようだし、この程度の敵なら小狼君も大丈夫だろう。
黒ぴっぴだって余裕そうだ。
「ほら、行くぞ」
ちゃっちゃと片づけて、小狼君達に先を急かしている。
そこでオレはふと気づく。
「でもまだファイさんが……」
不安げなサクラちゃんの声に、黒様が振り返った。
怪訝そうな目つきは、オレがサボってるんじゃないかと疑っているので、思わず小さく笑う。
「大丈夫、先に行ってて。
もうすぐ終わるから」
新しい気配に、終わりは近くはないことに気づく。
予想通り、オレを取り囲むように新しく男達が現れた。
きっとあの人は、サクラちゃんが全ての羽根を取り戻すことを願うことを恐れているんだろう。
そうすれば、彼の計画は台無しになってしまうから。
だから、護衛としてつけたオレをまず引き剥がす。
この状況を突きつければオレが気づくと予測しての行動だろう。
全ては必然ーー魔女さんの言葉が蘇る。
「ファイさん!
今行きます!」
「来なくていいよ」
「え?」
背中を向けていても、その困惑顔が目に浮かぶようだ。
オレ達は、そんなに長い間一緒にいたのだろうか。
そんなに君のこと、よく見ていたのだろうか。
「小狼君にはやらないといけないことがあるでしょ?
まずはそっちを先に片づけなきゃ。
オレのことなら心配ないから」
それからもう一人。
サクラちゃんが全ての羽根を取り戻すと願わないと分かれば、あの人はまた元の旅へとオレ達を戻すはずだ。
下手に抵抗するのは得策ではない。
オレが、彼らに縋ろうものならーー自分の手駒が逃れようと踠くなら、きっと全て壊されてしまう。
彼の掌で踊らされているフリをして、元の鞘に収まることに賭けるしかない。
「ね、黒様!」
背中越しに声を掛ける。
彼女なら間違いなくやり切るはずだ。
「行くぞ」
そっけないほどの黒様の声が耳にこびり着く。
励ましの言葉でも、心配の言葉でもなく、ただ前進する言葉を選ぶ彼女が伝えたかったのはおそらくーー信頼。
夕陽を受けた彼女の刃が、黒い男たちの刃物に反射し、悲しいくらい目に焼きついた。
3人の足音が遠くなっていく。
オレは夕暮れ迫る空を見上げ、口の端を上げた。
「あーあ、せっかくあの人の追ってこない世界にいけるチャンスだったのに。
……残念だな」
小僧が足を止めたのに気づき、俺と姫も立ち止まる。
俯く頭、彼が言いたい事は予想できた。
決意を固めたように顔を上げ、彼は口を開く。
「やっぱりファイさんを」
「止まるな。
立ち止まったやつは、負けだ」
話の途中で遮る。
時間に猶予はない。
更なる追手から逃げなければならないのだ。
敵は不自然なほどあの男を取り囲み、そしてあの男が振り向きもせず敵を引き受けると言った。
ーー珍しい。
何か理由があるに違いないと、直感的に思った。
「お前がさっきの敵に何をされたのか、行きながら詳しく聞かせろ」
小僧は表情を引き締め、一つ頷く。
俺は行先を顎で示し、再び走り出した。