ジェイド国
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控えめなノックの後ドアが開いて、サクラちゃんとモコナが入ってきた。
「黒鋼さん、まだ目を覚ましませんか」
「うん、熱もあるし……
ご飯かな?」
「はい。でも、無理そうですね」
しゅん、とサクラちゃんの眉尻が下がった。
モコナの耳も寂しそうに垂れている。
「大丈夫、寝たらまたすぐに元気になるよ。
黒たん鍛え方が違うから」
そう励ますものの、2人は不安気だ。
状態から見て外傷はないが、熱が高い。
冷え過ぎた事によって風邪をひいたか、無理が祟ったか。
医者のいなくなったこの村で、今、彼女を診られるのは最も歳と経験を重ねたオレで、そのオレは医療の知識に長けたわけではない。
もちろん治癒魔法は使えないし、使わない。
だから状況と状態からの推測と、祈るしかないのだ。
元々身体の鍛え方の違う彼女のことだから、温めて休養さえすれば元に戻るに違いない、と。
「黒鋼さん、みんなの為に無理するから……」
サクラちゃんの呟きが胸にチクリと刺さる。
彼女とオレの大きな違いだ。
双子の兄さえ殺したオレは、最後にはみんなを殺すだろう。
おそらくその瞬間、黒様はオレに刃を向ける。
その刃を折り、そしてオレは、彼女を殺すに違いない。
否、殺さねばならない。
オレの魔力を以ってすれば、それは可能なはずだ。
みんなを守る者と、殺す者ーーオレ達は対局の存在。
この旅が無事に目的を達成するまで、オレ1人ではあまりにアンバランスだ。
だから彼女が、彼女がいなければーー
「……、ファイさん」
名前を呼ばれ、はっと顔を上げた。
不安そうに覗き込む、サクラちゃんとモコナの顔に慌てて笑顔を貼り付ける。
「ん?なに?」
「ファイさんも、無理しないでください」
その言葉に思わず目を見開いた。
さくらちゃんが人の気持ちに敏感なのは分かっていた。
だがまさかオレのことまで見透かされているとは思いもよらなかった。
「……ありがとう、サクラちゃんは優しいんだね」
サクラちゃんは首を振る。
「私だけじゃないです。
小狼くんも、モコちゃんも、それから黒鋼さんも思っています」
温かすぎるその言葉が、その笑顔が、胸を焼くようだ。
雪国生まれの凍えたオレには、あまりに温かすぎる。
「みんな、ファイさんのことが大切なんですよ」
その温もりはオレを焦がし、その胸の痛みに耐えるのに必死だった。
「目、覚めた?」
ぼんやりとした視界で金髪が揺れた。
「あ……ああ」
ゆっくり体を起こす。
ズキンと頭痛が走り、頭に手をやる。
身体がだるい。鉛の様だ。
風邪でも引いたのだろうか、こんなことは随分と久しぶりだ。
「まだ無理しない方がいいよ」
「姫と小僧は?」
「大丈夫、二人とも目を覚ましたよ。
黒りんが今回も最後」
その言葉にふんと鼻で笑う。
「それは悪かったな」
「まったくだよ。
おかげでオレが着替えさせる羽目になったんだからねー」
その言葉にばっと男を見、急に動いたことによる頭痛に頭をかかえる。
「なっ……なぜそうなるっ!」
「だってサクラちゃんは気を失ってるし、
小狼君にはちょーっと刺激強いでしょ?
後はオレしかいないじゃない?」
思わず舌打ちをする。
「なーんて、う・そ。
ちゃんと町の人にお願いして、
この人女性なんです、って言って、着替えさせてもらったから。
ちなみに小狼君にはちゃんと秘密にしてあるから大丈夫。
部屋も分けたし」
そこまで聞いて、はっと自分の服を見る。
「っ!!
なんだこれはっ!!」
自分のまとっているひらひらとした着物にめまいを起こす。
「ネグリジェっていうんだって。
よく似合ってるよー」
ふふふん
とかきもち悪い笑い方をしながら、ニヤニヤ笑いながら男がベッドに俺の身体を押し倒す。
「さ、もうひと眠りしようねー」
「これ以上寝ていたら身体が腐る!」
慌てて飛び起きると、男は呆れたように笑った。
「そんなこと言うと力ずくで寝かせるけど、いいかな?」
「お前にできればな」
「あれ、今までオレに勝てたことないくせに?
いいのー?そんなこと言って」
「ふざけるな。
なまった身体慣らすのにちょうどいい」
気付けば頭痛はどこかに行ってしまっていた。
久しぶりに始まった取っ組み合いは、隣の部屋で寝ていた姫がその物音に驚いて部屋に駆け込み、
「いい加減にしてください!」
と怒鳴るまで続いた。
「眠れないの?」
かけられた声に俺は振り返った。
部屋の窓から出た屋根を伝うと、庭の木に移ることができる。
俺はそこが気に入っていた。
男と白饅頭が寝たのを確認してから、音を立てない様外に出たはずだった。
それからしばらく経つから、起こしてしまった訳ではないだろうが。
「どうした?」
「何となく目が覚めたの」
小さな呟きに、おいで、と手を伸ばす。
温もりがその上に乗ったので、引き寄せてコートの中に入れた。
「風邪ひどくなるよ、黒鋼」
「……好きなんだ、雪」
日本国でもよく降った。
汚れた何もかも覆い隠してしまう、銀世界が好きだった。
「あいつのいた国は、ずっと冬だったらしいな」
それはそれで、飽きてしまうだろう。
春があって、夏があって、秋があるからこそ、それぞれの美しさがあるからこそ、冬は美しいのだ。
「そうだね。
ファイの服、とってもあったかそうだもんね」
この子は、温かい。
その温かさは姫に似ている。
「お前は、あの男のこと、何か知っているのか?」
白饅頭は少し考えてから口を開いた。
「ファイ、いつも笑っているけど、どこか寂しい」
何か彼の旅への関わり方に不信を抱いて聞いたが、白饅頭からは純粋にあの男を思う言葉が返ってきて言葉を失う。
それからこんな子らに出会えたことを、あの男が幸せだと思えたら事態は変わってくるだろうと思った。
「ああ。
笑っていても、いつも違うことを考えている。
楽しくないのに、笑うんだ、あいつは」
小さな頭をなでると、むふふ、と嬉しそうに笑った。
「あいつに言ってやってくれないか。
お前が心から笑ったり、楽しんでも、誰も責めないと」
白饅頭はその言葉を思い出したようで、ぱっと俺の顔を見上げた。
「喜ぶ人はいても?」
甘えたようなしぐさがかわいらしくて、俺はその頭を撫でた。
「そうだ」
「黒鋼が言えばいいのに」
俺はくすりと笑った。
「お前は温かいから。
あいつの心も溶けるかもしれない」
否、温かすぎる姫や白饅頭の熱は、あの男の心を焦がすだろう。
荒療治だが、それが吉と出るか凶と出るか。
白饅頭はどこか不服そうな顔で俺を見上げた。
「黒鋼もあったかいよ?
どこか寂しいけど、
誰よりも、みんなを守ってくれる」
俺はもう一度、小さな頭をなでる。
「……中に入るか」
「うん」
立ち上がる。
雪はいつの間にかやんでいた。
「俺が言ったことは秘密にしろよ」
「仕方ないなー。
じゃあ、モコナと黒鋼だけの、二人の秘密だね!」
温かい、温かい子だ。
「そうだな」
「えぇっ!」
サクラちゃんの悲鳴にも似た声に、黒たんは驚いてのか慌てその口をふさいだ。
「な、なんだ?」
小声で尋ねて、口から手を話す。
「ネグリジェかわいかったのに!」
ぷんぷんと怒って、でも小声でそう訴えるサクラちゃんに、黒様はめまいがするのか米神を押さえている。
その様子が何ともほほえましくておかしい。
「あのひらひらは動きにくくてかなわない。」
「でもとぉっても似合っていたの!
なのにまた……
もちろんその服もかっこいいんですけれど!!」
ぷぅっとほほを膨らませて、サクラちゃんは素直でかわいい。
黒むーもそのくらいかわいくなればいいのにと毒づきたくなる。
ちなみにもうみんな、旅に出た時の服装に戻っているのだから、黒様の服装も当たり前と言えば当たり前だ。
「いいんですか、ファイさんっ!」
急に話を振られ、オレは目を瞬かせる。
「お……オレ?」
「そうですよ!
あんなにかわいい黒鋼さん、もう見れないかもですよ!」
ぐいぐいと迫ってくるサクラちゃん。
その向こうで睨んでくる黒たん。
「ん、もういいの。
オレ、あのかわいい姿を一晩見あきるほど見て、目に焼き付けたから!」
「きゃっ!ファイったら!」
黒りんの頭に飛び乗ったモコナが頬を染める。
もちろん、黒むーの声真似で。
「おい白饅頭!」
そんなモコナをひっ捕まえようとして怒鳴る黒むーの頬がほんのり赤い。
なぁんだ、かわいいとこあるんだ、黒様にも。
「どうしたんですか?!」
驚いたように駆け込んでくる小狼君。
「ああ、そろそろ次の国に行こうか、って話していたところ」
「おれのほうも準備終わりました。
サクラ姫がエメロード姫に聞いた、300年前の本当の話、書けたんです」
「ありがとう!」
「器用なものだな、いろんな国の言葉が使えるのは」
「いえ、そんな」
ベットの上に借りた歴史書とお礼の手紙、そして正しい史実を記した数枚にわたる手紙を添える。
「んじゃ、そろそろいきますかー」
そういえば、モコナが移動魔法を使い始める。
オレ達はモコナの口に吸い込まれた。
「次はどんな国でしょうね」
「さっきの国、大変だったけど楽しかったもんね。
小狼君はどんな国に行きたい?」
「そうですね、おれは……」
穏やかな会話。
二人が旅を楽しみ始めているのが分かる。
「黒様は?」
「ん?」
「次、どんな国がいい?
やっぱり日本?」
そう聞けば彼女はふっとほほ笑んだ。
「そう……だな。
でも、日本でなくても、かまわない」
オレにとって、その言葉は、なんだかどんな答えよりも彼女らしく、そして、温かかった。
