桜都国
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草薙さんおすすめのドーナッツ屋さんに連れて行ってもらい、みんなの分を買ってから帰路に着く。
「剣を持つのは初めてか?」
「はい」
「そうか、黒鋼に教えてもらうのか?」
「はい」
朝、剣を教えて欲しいと頼んだ時、黒鋼さんはおれに聞いた。
ーそれは生きる為か?ー
ー生きてやると決めたことをするためですー
そう言えば黒鋼さんは微かに目を細めて、一つ頷いてくれたのだ。
黒鋼さんはおれたちの心も命も大切にしてくれる。
「厳しそうな先生だな」
おれは小さく笑って、お礼を言って別れた。
気持ちが高揚していた。
初めて自分の剣を持って興奮しているのかもしれない。
姫のいる店にそのまま帰ることはできなかった。
中央公園のベンチに腰掛ける。
両手で剣を持ち、その重みを感じる。
これで姫をこれまで以上に守ることができる。
羽根を見つけることにも、もっと力を使える。
それが単純に嬉しい。
桜がひらひらと舞い降りる。
きっと黒鋼さんなら、この花弁を切ることさえできるだろう。
おれには到底無理そうだが、試しにやってみようかと剣を抜こうとした時、線が細くもおれよりも大きい手が、それを押さえた。
「この剣は時が来るまで鞘から抜くな」
「黒鋼さん……」
静かな声は、おれのふわふわとした気持ちを地面に引き寄せ、地に足を着けさせてくれた。
振り仰げば、赤い瞳がじっと見下ろしている。
怒っているわけでもなく、それが当然だと言うような視線は、おれをさらに落ち着かせた。
彼女はおれの隣に腰掛けると懐から出した赤い組紐でギュッと鞘と剣を結んだ。
「刃物は誰に対しても公平で冷静で、自他に厳しい。
相手を選ぶことはない。
遣い手が未熟ならその未熟な切っ先のまま、切る必要のないものを斬る。
それがどんなものであっても、だ。
どんなに剣を己のものにしたように感じても、
刃物は俺達自身ではない」
黒鋼さんが、緋炎をおれの手に渡す。
剣というものの重みが、ずんと伝わってきた。
さっきまでの喜びが、重みに変わる。
未熟なおれがさっきあのまま刀を抜いていたらどうなっていただろう。
おれは静かに深く頷いた。
「お前が斬るべきもののみを斬れるようになるまで、それは解くな」
黒鋼さんは、一体どうして斬るべきものだけを斬れるようになったのだろう。
彼女は今腰にさした新しい剣で、一体何を斬っていくのだろう。
高麗国のときのように、大切なものを守るためならば、迷わず自分の体をも斬りつけるのだろう。
腰を上げ歩き始めた黒鋼さんを追いながら、おれは自分の手を見る。
おれも、サクラのためならーー
少し先を行く、長い黒髪に追いつく。
その背中はどこまでも頼もしく、おれたちを安心させてくれる。
だから、おれも、少しでも近づけるように。
「黒鋼さん、よろしくお願いします」
そう言えば、赤い目がちらりとおれを見下ろした。
「俺がお前に剣を教えるのは、お前が生きるためだと言ったからだ。
生きて大切なものを守るためだと言ったからだ。
忘れるな、お前は大切なものと自分の命と、両方守るために剣を持つ」
おれが決めたことなのに、どうして黒鋼さんはこんなにも強い眼をしているんだろう。
でもその眼に睨まれたからこそ。
「はい」
おれの決意はまた固くなるのだ。
帰ってきた小狼君がずぶぬれで傷だらけだから驚いちゃったけど、その後ろから傷一つない黒さまが見えて、鬼児にやられたわけじゃないとわかってほっとした。
「サクラちゃん、傷薬持って行ってあげて」
心配そうな顔をしたサクラちゃんはオレが渡した傷薬をぎゅっと握って、階段を駆け上って行った。
「初日から相当厳しい先生みたいだねぇ」
紅茶を出しながらそう聞けば、黒様はああ、と何でもないように頷いた。
「小僧がそう望んだからな」
彼女の瞳は、何か違うものをみているように見えた。
「確かに、急いだ方がいいかもしれないね。
織葉さん、行ってたでしょー
鬼児は一般市民を傷つけてしまわないように皆異形。
それって、鬼児は意図的に作られたものっていうことだよね。
なのに、最近様子がおかしい。
それに加えて新種の鬼児」
彼女の目が、獲物を見つけた時のようにきらりと光った。
彼女の刀は氷のように冷たい。
でも彼女の瞳は炎のように紅い。
いや、この瞳の色は炎の色じゃない。
オレはいつの間にかそれに気づいた。
彼女の瞳はーー血の赤だ。
冷静に戦いを見つめながら、何が何でも守ろうとする、それこそ血眼になって。
それが彼女自身の心のような気がしてならない。
「黒さま、」
その先の言葉が、喉元まで出かかっているのに音にならない。
彼女はなんだと言わんばかりにオレを見て、それから口籠もるオレを待つのはやめたようで、箱を渡してきた。
勢いに押されて受け取る。
彫刻の施された箱、鉄の取手はヒヤリと冷たく、彼女が手を離すとその重みがずしりと伝わってきた。
「開けてみろ」
鋭い赤い目に促されて、箱のロックを外し、蓋を開ける。
中には美しい装飾の施された銃が一丁入っていた。
「昨日何かあった?」
何度も心の中で繰り返した問いかけは、とても自然に口をついてでた。
「会った」
「新種の鬼児に?」
「いや、鬼児ではない。
人だ、危険な男」
その目は窓の外を見ている。
彼女がオレに武器を渡してくるくらいだからきっと相当な手練れなのだろう。
いつも以上に表情が読めないのは、不安を抱えているからだろうか。
「マントを羽織った隻眼の男だ。
鬼児の刀を持つ。
怪しいものには気をつけろ」
「それ人なの?
鬼児の仲間は鬼児だって言ってたよね」
「鬼児には殺意がない。
あいつには明確な殺意があるし、鬼児を道具にしている」
「ふぅん。
まぁ黒さまがそう言うならそうなんだろうけど……」
黒たんは刀の柄を見下ろしていた。
鋭い瞳、引結ばれた口元ーー彼女は表情を隠していた。
その無表情の向こうに、恐怖や孤独を抱える小さな女の子が見える気がした。
「剣を持つのは初めてか?」
「はい」
「そうか、黒鋼に教えてもらうのか?」
「はい」
朝、剣を教えて欲しいと頼んだ時、黒鋼さんはおれに聞いた。
ーそれは生きる為か?ー
ー生きてやると決めたことをするためですー
そう言えば黒鋼さんは微かに目を細めて、一つ頷いてくれたのだ。
黒鋼さんはおれたちの心も命も大切にしてくれる。
「厳しそうな先生だな」
おれは小さく笑って、お礼を言って別れた。
気持ちが高揚していた。
初めて自分の剣を持って興奮しているのかもしれない。
姫のいる店にそのまま帰ることはできなかった。
中央公園のベンチに腰掛ける。
両手で剣を持ち、その重みを感じる。
これで姫をこれまで以上に守ることができる。
羽根を見つけることにも、もっと力を使える。
それが単純に嬉しい。
桜がひらひらと舞い降りる。
きっと黒鋼さんなら、この花弁を切ることさえできるだろう。
おれには到底無理そうだが、試しにやってみようかと剣を抜こうとした時、線が細くもおれよりも大きい手が、それを押さえた。
「この剣は時が来るまで鞘から抜くな」
「黒鋼さん……」
静かな声は、おれのふわふわとした気持ちを地面に引き寄せ、地に足を着けさせてくれた。
振り仰げば、赤い瞳がじっと見下ろしている。
怒っているわけでもなく、それが当然だと言うような視線は、おれをさらに落ち着かせた。
彼女はおれの隣に腰掛けると懐から出した赤い組紐でギュッと鞘と剣を結んだ。
「刃物は誰に対しても公平で冷静で、自他に厳しい。
相手を選ぶことはない。
遣い手が未熟ならその未熟な切っ先のまま、切る必要のないものを斬る。
それがどんなものであっても、だ。
どんなに剣を己のものにしたように感じても、
刃物は俺達自身ではない」
黒鋼さんが、緋炎をおれの手に渡す。
剣というものの重みが、ずんと伝わってきた。
さっきまでの喜びが、重みに変わる。
未熟なおれがさっきあのまま刀を抜いていたらどうなっていただろう。
おれは静かに深く頷いた。
「お前が斬るべきもののみを斬れるようになるまで、それは解くな」
黒鋼さんは、一体どうして斬るべきものだけを斬れるようになったのだろう。
彼女は今腰にさした新しい剣で、一体何を斬っていくのだろう。
高麗国のときのように、大切なものを守るためならば、迷わず自分の体をも斬りつけるのだろう。
腰を上げ歩き始めた黒鋼さんを追いながら、おれは自分の手を見る。
おれも、サクラのためならーー
少し先を行く、長い黒髪に追いつく。
その背中はどこまでも頼もしく、おれたちを安心させてくれる。
だから、おれも、少しでも近づけるように。
「黒鋼さん、よろしくお願いします」
そう言えば、赤い目がちらりとおれを見下ろした。
「俺がお前に剣を教えるのは、お前が生きるためだと言ったからだ。
生きて大切なものを守るためだと言ったからだ。
忘れるな、お前は大切なものと自分の命と、両方守るために剣を持つ」
おれが決めたことなのに、どうして黒鋼さんはこんなにも強い眼をしているんだろう。
でもその眼に睨まれたからこそ。
「はい」
おれの決意はまた固くなるのだ。
帰ってきた小狼君がずぶぬれで傷だらけだから驚いちゃったけど、その後ろから傷一つない黒さまが見えて、鬼児にやられたわけじゃないとわかってほっとした。
「サクラちゃん、傷薬持って行ってあげて」
心配そうな顔をしたサクラちゃんはオレが渡した傷薬をぎゅっと握って、階段を駆け上って行った。
「初日から相当厳しい先生みたいだねぇ」
紅茶を出しながらそう聞けば、黒様はああ、と何でもないように頷いた。
「小僧がそう望んだからな」
彼女の瞳は、何か違うものをみているように見えた。
「確かに、急いだ方がいいかもしれないね。
織葉さん、行ってたでしょー
鬼児は一般市民を傷つけてしまわないように皆異形。
それって、鬼児は意図的に作られたものっていうことだよね。
なのに、最近様子がおかしい。
それに加えて新種の鬼児」
彼女の目が、獲物を見つけた時のようにきらりと光った。
彼女の刀は氷のように冷たい。
でも彼女の瞳は炎のように紅い。
いや、この瞳の色は炎の色じゃない。
オレはいつの間にかそれに気づいた。
彼女の瞳はーー血の赤だ。
冷静に戦いを見つめながら、何が何でも守ろうとする、それこそ血眼になって。
それが彼女自身の心のような気がしてならない。
「黒さま、」
その先の言葉が、喉元まで出かかっているのに音にならない。
彼女はなんだと言わんばかりにオレを見て、それから口籠もるオレを待つのはやめたようで、箱を渡してきた。
勢いに押されて受け取る。
彫刻の施された箱、鉄の取手はヒヤリと冷たく、彼女が手を離すとその重みがずしりと伝わってきた。
「開けてみろ」
鋭い赤い目に促されて、箱のロックを外し、蓋を開ける。
中には美しい装飾の施された銃が一丁入っていた。
「昨日何かあった?」
何度も心の中で繰り返した問いかけは、とても自然に口をついてでた。
「会った」
「新種の鬼児に?」
「いや、鬼児ではない。
人だ、危険な男」
その目は窓の外を見ている。
彼女がオレに武器を渡してくるくらいだからきっと相当な手練れなのだろう。
いつも以上に表情が読めないのは、不安を抱えているからだろうか。
「マントを羽織った隻眼の男だ。
鬼児の刀を持つ。
怪しいものには気をつけろ」
「それ人なの?
鬼児の仲間は鬼児だって言ってたよね」
「鬼児には殺意がない。
あいつには明確な殺意があるし、鬼児を道具にしている」
「ふぅん。
まぁ黒さまがそう言うならそうなんだろうけど……」
黒たんは刀の柄を見下ろしていた。
鋭い瞳、引結ばれた口元ーー彼女は表情を隠していた。
その無表情の向こうに、恐怖や孤独を抱える小さな女の子が見える気がした。