桜都国
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そろそろ俺と小僧は仕事の時間だ。
呼びに行けば姫と小僧の部屋のドアが開いていた。
ドアに近づくも、聞こえてきた声に、動きを止める。
「私たち、知らない人同士なはずないよね、
だって、小狼君は私の羽根探すために、怪我したり、危険な目にあったり……
こんなに夜遅くまでいろいろがんばってくれていて……
それなのに……ごめんなさい」
彼女は、記憶が戻り始めて、自我がはっきりした。
だからこそ、誰よりも自分を守ってくれる存在を考えたのだろう。
「サクラ姫……」
「わたしと小狼君っていつ会ったの?
もしかして小さいころから知っていて、すごく大切な人なんじゃ……!」
「姫!」
そこで少女の声は途切れ、倒れる音、それを抱きしめる音が聞こえる。
「何のお話していたのかな……
そう、ごめんなさいって言いたくて……」
「対価はそんなに甘くない、か」
後ろでした呟きに振り返る。
月明かりの下で、男はちらりと俺を見た。
青い瞳が月光を受けて透き通り、夜の湖の様だ。
諏訪の湖も夜になるとこんな色をしていたと思い出し、異世界の彼の瞳から故郷を思い出す等随分おかしな話だと思う。
「差し出した対価は戻らない。
小狼君は分かっていたのかもね。
それでも、やると決めたことはやるんでしょう、彼は」
月の光を集めたような髪が、夜風に揺れ、俺に背を向けた。
音を立てずに廊下を進む背中を追う。
お前もそうだろう、と言いかけた口を噤んだ。
彼だけではない、俺もそうだ。
最も大切なものを対価に出た旅。
その願いは皆並みのものではない。
だが彼はこの旅への関わり方が違う。
その根本を探り、全てを利用しようと決めたのは俺だ。
彼の全てを利用し、小僧達を守ろうと、決めたのだ。
俺と彼の寝室に入り、ベットに腰かけた。
「……過去に囚われると今見失ってはならないものを取り逃がしてしまうことがある」
青い目が、すっと俺を見た。
「前を向き、今ここにあるものを守る。
……それだけだ」
青年が何か言おうとしたとき、俺は物音に腰を上げた。
ドアを開けて外を見れば、少年が部屋から出てくるところだった。
暗い表情だ。
苦しげで、不安そうで、苛立ちを募らせた、姫には決して見せない表情。
「どうした?」
「鬼児が、裏の通りにいるんです」
「そうか。
任せろ」
小僧の肩を叩く。
その苦しみが強さに変わるはずだ。
「行ってくる。
先に寝てろ」
後ろに立つ男をちらりと振り返ると、彼は一つ頷いた。
階段を駆け降りる。
小僧の顔色も少し戻った様だ。
運命に巻き込まれる若い命は哀れだが、前を向くしかないのだ。
「遅れをとるなよ」
「はいっ!」
物音に目が覚めた。
きっと小狼君が立てた音だろう。
黒ぴーは音は立てないから。
気づけば部屋の中で影が動いている。
「遅かったね」
「寝てろと言っただろう」
「今目が覚めただけ。
怪我は?」
「小僧が少し」
「そう。
手当てしてあげてくれた?」
「ああ」
黒りんが後ろを向いて服を脱いだ。
晒しが巻かれているのが惜しい。
筋肉が隆々とついている訳ではないが、鍛えられた背中は、無駄がない。
恐らく魔法ではないが彼女の中にある何らかの力を利用して戦っているのだろう。
でなければもっと武人らしい体つきになるはずだ。
左腕がパジャマの袖に飲み込まれ、それから肩が、細腰が隠れ、右腕も布に覆われる。
もう少し見ていたかったのに、と名残惜しく眺める。
赤い瞳が振り返り鋭く睨む。
1番上のボタンを器用に留める指先が妙に艶めかしい。
「なんだ」
「綺麗だなと思って」
呆れた様に視線が流れたので思わず苦笑する。
止まらない指先は、1番下のボタンまで掛け終えた。
「こうしてオレの視線を気にせず着替えてくれるなんて、随分気を許してくれてるんだなと嬉しくて」
「馬鹿も休み休み言え」
「何も馬鹿な話じゃないよ。
事実じゃないか」
その言葉に彼女ははっとしたようで、オレを見た。
彼女のそんな表情を見るのは初めてで、思わず微笑んでしまう。
利口で警戒心の強い彼女が、これ程までに無意識に心を許している。
それが彼女にとっても衝撃だった様だ。
「……気をつける」
「そうだね、オレだって男だから気をつけた方がいいかも?
ほら、力だけじゃ勝てないでしょ?」
微妙に話をはぐらかす。
彼女はふいっと背中を向け、髪を解いた。
緩やかに波打って艶やかな黒髪が背中に広がる。
その背を撫でるような動きまでもが艶めかしい。
今度こそ視線を剥がす。
でなければこれからの旅が辛くなりかねない。
部屋の両端に壁に添うようにおかれたベット。
充分な距離もあるはずなのに、いい歳して欲情している自分が愚かだと思っだ。
聞こえない様に溜息をつく。
「小狼君、大丈夫そう?」
「神経がたっているようだった。
しばらく鬼児を狩って、まだやると言ったが帰らせた」
布団に入る気配と共に返事がした。
「ありがとう」
「ホットミルクか?
あれを作ってやりたくて、牛乳をもらったぞ」
「うん」
その会話を最後に沈黙が舞い降りる。
寝るのだろうか。
オレは彼女に背を向け、壁を向いた。
前を向くと心に決めて進み続ける彼女だが、あれだけの強さを身につけるまでには、それを決意する程の恐ろしい過去があったに違いない。
過去に囚われ過去の為に生きるオレと、過去と決別し今あるものを守ろうとする彼女。
オレ達は同じ時を過ごしているのに、その質はあまりに異なる。
穏やかな夜が更けていく。
まるで嵐の前の静かさの様だった。
呼びに行けば姫と小僧の部屋のドアが開いていた。
ドアに近づくも、聞こえてきた声に、動きを止める。
「私たち、知らない人同士なはずないよね、
だって、小狼君は私の羽根探すために、怪我したり、危険な目にあったり……
こんなに夜遅くまでいろいろがんばってくれていて……
それなのに……ごめんなさい」
彼女は、記憶が戻り始めて、自我がはっきりした。
だからこそ、誰よりも自分を守ってくれる存在を考えたのだろう。
「サクラ姫……」
「わたしと小狼君っていつ会ったの?
もしかして小さいころから知っていて、すごく大切な人なんじゃ……!」
「姫!」
そこで少女の声は途切れ、倒れる音、それを抱きしめる音が聞こえる。
「何のお話していたのかな……
そう、ごめんなさいって言いたくて……」
「対価はそんなに甘くない、か」
後ろでした呟きに振り返る。
月明かりの下で、男はちらりと俺を見た。
青い瞳が月光を受けて透き通り、夜の湖の様だ。
諏訪の湖も夜になるとこんな色をしていたと思い出し、異世界の彼の瞳から故郷を思い出す等随分おかしな話だと思う。
「差し出した対価は戻らない。
小狼君は分かっていたのかもね。
それでも、やると決めたことはやるんでしょう、彼は」
月の光を集めたような髪が、夜風に揺れ、俺に背を向けた。
音を立てずに廊下を進む背中を追う。
お前もそうだろう、と言いかけた口を噤んだ。
彼だけではない、俺もそうだ。
最も大切なものを対価に出た旅。
その願いは皆並みのものではない。
だが彼はこの旅への関わり方が違う。
その根本を探り、全てを利用しようと決めたのは俺だ。
彼の全てを利用し、小僧達を守ろうと、決めたのだ。
俺と彼の寝室に入り、ベットに腰かけた。
「……過去に囚われると今見失ってはならないものを取り逃がしてしまうことがある」
青い目が、すっと俺を見た。
「前を向き、今ここにあるものを守る。
……それだけだ」
青年が何か言おうとしたとき、俺は物音に腰を上げた。
ドアを開けて外を見れば、少年が部屋から出てくるところだった。
暗い表情だ。
苦しげで、不安そうで、苛立ちを募らせた、姫には決して見せない表情。
「どうした?」
「鬼児が、裏の通りにいるんです」
「そうか。
任せろ」
小僧の肩を叩く。
その苦しみが強さに変わるはずだ。
「行ってくる。
先に寝てろ」
後ろに立つ男をちらりと振り返ると、彼は一つ頷いた。
階段を駆け降りる。
小僧の顔色も少し戻った様だ。
運命に巻き込まれる若い命は哀れだが、前を向くしかないのだ。
「遅れをとるなよ」
「はいっ!」
物音に目が覚めた。
きっと小狼君が立てた音だろう。
黒ぴーは音は立てないから。
気づけば部屋の中で影が動いている。
「遅かったね」
「寝てろと言っただろう」
「今目が覚めただけ。
怪我は?」
「小僧が少し」
「そう。
手当てしてあげてくれた?」
「ああ」
黒りんが後ろを向いて服を脱いだ。
晒しが巻かれているのが惜しい。
筋肉が隆々とついている訳ではないが、鍛えられた背中は、無駄がない。
恐らく魔法ではないが彼女の中にある何らかの力を利用して戦っているのだろう。
でなければもっと武人らしい体つきになるはずだ。
左腕がパジャマの袖に飲み込まれ、それから肩が、細腰が隠れ、右腕も布に覆われる。
もう少し見ていたかったのに、と名残惜しく眺める。
赤い瞳が振り返り鋭く睨む。
1番上のボタンを器用に留める指先が妙に艶めかしい。
「なんだ」
「綺麗だなと思って」
呆れた様に視線が流れたので思わず苦笑する。
止まらない指先は、1番下のボタンまで掛け終えた。
「こうしてオレの視線を気にせず着替えてくれるなんて、随分気を許してくれてるんだなと嬉しくて」
「馬鹿も休み休み言え」
「何も馬鹿な話じゃないよ。
事実じゃないか」
その言葉に彼女ははっとしたようで、オレを見た。
彼女のそんな表情を見るのは初めてで、思わず微笑んでしまう。
利口で警戒心の強い彼女が、これ程までに無意識に心を許している。
それが彼女にとっても衝撃だった様だ。
「……気をつける」
「そうだね、オレだって男だから気をつけた方がいいかも?
ほら、力だけじゃ勝てないでしょ?」
微妙に話をはぐらかす。
彼女はふいっと背中を向け、髪を解いた。
緩やかに波打って艶やかな黒髪が背中に広がる。
その背を撫でるような動きまでもが艶めかしい。
今度こそ視線を剥がす。
でなければこれからの旅が辛くなりかねない。
部屋の両端に壁に添うようにおかれたベット。
充分な距離もあるはずなのに、いい歳して欲情している自分が愚かだと思っだ。
聞こえない様に溜息をつく。
「小狼君、大丈夫そう?」
「神経がたっているようだった。
しばらく鬼児を狩って、まだやると言ったが帰らせた」
布団に入る気配と共に返事がした。
「ありがとう」
「ホットミルクか?
あれを作ってやりたくて、牛乳をもらったぞ」
「うん」
その会話を最後に沈黙が舞い降りる。
寝るのだろうか。
オレは彼女に背を向け、壁を向いた。
前を向くと心に決めて進み続ける彼女だが、あれだけの強さを身につけるまでには、それを決意する程の恐ろしい過去があったに違いない。
過去に囚われ過去の為に生きるオレと、過去と決別し今あるものを守ろうとする彼女。
オレ達は同じ時を過ごしているのに、その質はあまりに異なる。
穏やかな夜が更けていく。
まるで嵐の前の静かさの様だった。