語られなかった世界
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
サクラちゃんたちを連れてさっき出てきた関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の前に行くと、プリメーラちゃんと浅黄笙悟君が待っていた。
「こちらの方ですか、黒鋼様」
「プ……プリメーラさん!?」
驚く小狼君に、プリメーラちゃんは首をかしげる。
「あ?知り合いか?」
首をかしげるプリメーラの後ろから現れたのは浅黄笙悟。
「だめだよ、お客さんなのにそんな言葉遣い!」
慌てて彼に注意をするも、
笙悟君の方は聞いていないようだ。
「もうっ」
ぷんぷんと怒るプリメーラ。
どうやらこの世界の二人も、仲がいいらしい。
さっきと比べて随分と砕けている様だが、それが罠なのか、黒たんを信頼してのことなのかは区別がつけにくいところだ。
「取り込んでいるところすまないが、彼女がさっき話した娘だ」
黒様の言葉に、プリメーラちゃんは少し緊張した面持ちになって、サクラちゃんを見、それから頷いた。
「かしこまりました。
こちらへどうぞ」
俺達は二人の後を追って、博物館の奥に入っていく。
さっきも通った白い廊下を、みんなで進む。
不思議だ、2人とモコナが増えるだけで、ひどく長く見えた廊下がそれほど長くは思わない。
「羽根と神の愛娘の展示は見ただろう」
「はい。
姫の羽根の可能性が高いとは思っていました」
黒様は一つ頷く。
「でもどうして驚かないんですか?
こんな夢みたいな話なのに」
小狼君の言葉に笙悟君が答える。
「伝承が残っている。
いつか文明が発達してその羽がいらなくなったら、神の愛娘がまた受け取りにに現れるだろう、と。
おとぎ話となっているくらいで、羽根の存在すら誰も信じてはいなかった。
だが3年前、この遺跡研究の第一人者の俺の親父が、羽を見つけたんだ。
きっと神の愛娘に返すときが来たんだろうと考えて、他に知られないために、こいつの親がやってる博物館の地下に隠しておいたってわけだ。
強大な力は、過去に何度も争いを生んできたからな」
たくさんの扉が並ぶ廊下をひたすら進んでいく。
どのくらいの部屋を通り過ぎただろうか。
笙悟君が一つの扉の前で立ち止まり、指先を扉につけた。
すると扉が自動で開く。
「親父」
そう声をかけながら入っていく背中を確認して、プリメーラちゃんがどうぞ、と勧めてくれる。
奥から物音がし、笙悟君のお父さんが姿を現した。
無機質な真っ白い部屋で、何やら一つだけ機械らしきものが置かれている。
「そちらのお嬢さんかい」
「ああそうだ」
黒りんが低い声で答える。
「こんにちは、神の愛娘様」
「愛娘さまだなんて……そんな」
困惑顔のサクラちゃん。
「お前さんたちのことは、悪いがこの博物館に入ったときから観察させてもらっていた。
君たちがこの国の人ではないこと、この世界の人間でないことは入場ゲートにある管理システムですぐに分かったからな。
だが可能性は2つある」
彼は目を細め、羽根とオレ達の間に立った。
「ひとつめは、本当にこの羽根を受け取りに来た神の愛娘。
そしてもうひとつは、この羽根の力を知り、探しに来た他の世界の住人。
だから悪いが、武器は全てここにおいて、そして神の愛娘であるお嬢さんひとりで、羽根を取りに行ってもらう」
「危険なんですか?」
小狼君が問いかけた。
おじさんは機械の方へ行き、何やらしばらく操作をした。
すると無機質で何もないように見えていた正面の白い壁の中央が割れ、木製の箱が現れた。
「あの木の箱の中に羽根が入っている。
しかしあの箱には開けるための取っ手も、鍵穴も、蓋の開け口も何もない。
あれを壊さずに開けることができたなら、本当の神の愛娘であるはずだ。
あの箱は羽根の波動と同じ力に反応するように作られているからな。
ただ、本当の神の愛娘でなければ、箱に触れただけで、レーザーで焼け死ぬ。
一瞬だ、苦しむ暇もない。」
どうする?
浅黄さんは方眉をあげてオレ達に問う。
答えはもちろん決まっている。
小狼君とサクラちゃんが顔を見合わせた。
頷き合う2人、そして一歩踏み出そうとするサクラちゃんを片手で制したのは、黒様だ。
「さっきも言ったが、別の可能性を忘れているようだな」
鋭い視線と殺気。
「お前達が神の愛娘を殺して羽根を奪う可能性は」
誰もが息を呑んだ。
「あと悪意がないとしても、構造に不具合のある可能性は。
羽根の持ち主はこの世に1人。
生身の人間で実験したことはなかろう」
黒たんは静かにプリメーラちゃんの後ろに立ち、袖口からナイフを出した。
それを彼女の首に突きつける。
「プリメーラ!」
「てめぇ何しやがる!」
「動くな。
姫に何かあればこの娘の命はないと思え。
それでも同じことが言えるか」
冷え込む空気、射殺さんばかりの視線、鋭い声。
笙悟君は表情を険しくした。
その肩を叩くのは厳しい表情をした彼の父だ。
「君がいうことは最もだ。
リスクを君達だけが追うには大きな賭けだな。
だが彼女は」
「大丈夫よ、おじさん」
プリメーラちゃんが決意のこもった瞳ではっきりとそう言った。
「おじさんの作るシステムに不具合なんてないって、私は信じてる。
それから……」
プリメーラちゃんは少しだけ振り返って黒りんを見上げた。
「貴方のことも」
黒りんは口の端を上げた。
「上等だ」
そしてもう1人、覚悟を決めた子がいた。
「私も、信じています」
一歩踏み出すサクラちゃんの言葉に小狼君が頷いた。