語られなかった世界
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小狼君たちを見つける少し前のこと。
「羽根がこの国の文化の源となった。
魚が水を得たように、世界は躍動した。
しかしこの羽は紙の愛娘より与えられし羽根。
いずれ必ず、帰すべき時が来る。
そのときが来るまで、守ることが我々の責務である」
古文書の文章を黒むーは静かに音読した。
どうやら彼女のいた国の文字に近いらしい。
羽根のありかについては館内の展示物には明記されていなかった。
というのもーー
「で、また羽根を巡る戦争が起きて、行方知れず?」
「その様だ」
この国は羽根をいずれ返す物として認識していた時代もあった。
それでもなお国内の認識のズレにより羽根を巡る戦争が起き、その渦中で羽根は姿を消す。
まるで羽根に意志でもあるかのようだ。
最後に羽根が姿を現したのは2000年前の大戦の時。
現代研究では、最早それは古代信仰の一つとして扱われている。
だが、本当に誰もがそう思っているだろうか。
文化財をこれだけ状態を保って保管できる巨大な博物館を持つ国の力は強大。
兵器の展示もあったが、その攻撃力も防御力も相当なものであった。
万が一羽根の奪い合いにでもなればこちらは不利になるのは明白。
ふっと吐息のような笑い声に黒様を見ると、微かに目を細めてこちらを見ていた。
「案ずるな。
この石板が展示されているということは、羽根の存在が御伽噺や伝説の類と信じられているか、皆等しく返す気があるかだ。
おそらく前者だろう。
最後に羽根が姿を現したのは2000年も前の事だ」
彼女の言う事は最もだ。
だが彼女にしては珍しくもう一つの可能性に気づいていないーー否、気づかないはずがない。意図して伏せているというのだろうか。
些細を尋ねようとしたが、黒りんはすでに係の人に声をかけていた。
どこかで見覚えがあると思えば、阪神国のプリメーラちゃんだ。
「あの羽根の話に詳しい者は」
「私の方で一度承らせていただきます。
どの様なご質問でしょうか」
「まるで意志があるかのような動きをするのが不思議だ。
必ず戦では姿を眩まし、またそのうち姿を現すのだから」
「力の象徴として信仰の対象でしたから、敵国の支配を受ければ破壊されるのは必至。
おそらく敬虔な信者らによってその神体とされた羽根本体は隠されたのでしょう」
「それにしても羽根という対象が毎度用いられるというのは興味深い」
「羽根への信仰は建国神話時代から続きますから、こう言っては何ですが、我々の潜在意識の奥に自然と潜んでいるのだと思います。
この国の人にとっては、羽根は汚れなき神の愛娘様よりお借りした力、畏れの対象なのです」
「本当に偶像なのか?
俺の祖国では羽根は実在し、神の愛娘も実在するが」
黒様の低い囁き声のような声。
ほんの一瞬、意識していなければ気づかないほどの間ができてから、プリメーラちゃんは綺麗に笑った。
彼女は羽根について別の何かを知っているに違いない。
「そのようなお話は初めてです。
是非詳しくお話を伺いたいものです。
差し支えなければ、この後お時間はございますか」
「ああ。
どうせ今日はここを1日観光する予定だったから構わない。
おい、お前は好きに見学していていい。
また終わったら探すから」
彼女が伏せたもう一つの可能性、それは罠だ。
その渦中に1人で飛び込むつもりでいるらしい。
オレを見てさらりとそう告げる姿に、なんとなく腹が立った。
「……やだなぁオレも連れてってよ、黒たん。
オレの方が詳しい事だってあるでしょ?」
そう言って笑顔を貼り付ければ、黒様は嫌そうに眉を顰めた。
「そうなんですね、では是非ともお願いします」
歩き始めたプリメーラちゃん。
その後ろを行く黒様。
この博物館に入ってからずっと向けられている視線に、彼女が気づかないはずがない。
おそらく強大な力を持つこの国相手に羽根を奪取するつもりならば、敵の懐に飛び込むしかないと考えたのだろう。
小狼君とサクラちゃん、そしてモコナがいないのを良いことに、危険な賭けに飛びついたに違いなく、オレだけならば適当に撒くつもりだったのだろう。
思わずため息が出た。
真っ直ぐ伸びた背中は、あいも変わらず凛々しく、いつもとなんら変わらない。
途中から背後に1人ついてきているのがわかった。
ちらりと振り返ると、阪神国で見た浅黄笙悟君だった。
どうやらこの国でもプリメーラちゃんと関係があるらしい。
関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開けると白い床、白い壁、白い天井の長い廊下に出た。
「どうぞ、奥の研究室でお話を伺いたいと思います」
「ああ」
躊躇う事なく進む背中。
騙されているふりをしているなんて、噯 にも出さない。
だが死を覚悟しているわけでは当然ない。
凛とした背中は生き残る覚悟と自信しか感じられないのだ。
それはどこか小狼君に似ている。
どうしてここまで彼女は真っ直ぐ生きられるのだろう。
どうしてこれほど強くてあれるのだろう。
全てはきっと、知世姫のためーー
彼女の帰りを待つその存在を思うと、なぜか胸が苦しくなった。
「羽根がこの国の文化の源となった。
魚が水を得たように、世界は躍動した。
しかしこの羽は紙の愛娘より与えられし羽根。
いずれ必ず、帰すべき時が来る。
そのときが来るまで、守ることが我々の責務である」
古文書の文章を黒むーは静かに音読した。
どうやら彼女のいた国の文字に近いらしい。
羽根のありかについては館内の展示物には明記されていなかった。
というのもーー
「で、また羽根を巡る戦争が起きて、行方知れず?」
「その様だ」
この国は羽根をいずれ返す物として認識していた時代もあった。
それでもなお国内の認識のズレにより羽根を巡る戦争が起き、その渦中で羽根は姿を消す。
まるで羽根に意志でもあるかのようだ。
最後に羽根が姿を現したのは2000年前の大戦の時。
現代研究では、最早それは古代信仰の一つとして扱われている。
だが、本当に誰もがそう思っているだろうか。
文化財をこれだけ状態を保って保管できる巨大な博物館を持つ国の力は強大。
兵器の展示もあったが、その攻撃力も防御力も相当なものであった。
万が一羽根の奪い合いにでもなればこちらは不利になるのは明白。
ふっと吐息のような笑い声に黒様を見ると、微かに目を細めてこちらを見ていた。
「案ずるな。
この石板が展示されているということは、羽根の存在が御伽噺や伝説の類と信じられているか、皆等しく返す気があるかだ。
おそらく前者だろう。
最後に羽根が姿を現したのは2000年も前の事だ」
彼女の言う事は最もだ。
だが彼女にしては珍しくもう一つの可能性に気づいていないーー否、気づかないはずがない。意図して伏せているというのだろうか。
些細を尋ねようとしたが、黒りんはすでに係の人に声をかけていた。
どこかで見覚えがあると思えば、阪神国のプリメーラちゃんだ。
「あの羽根の話に詳しい者は」
「私の方で一度承らせていただきます。
どの様なご質問でしょうか」
「まるで意志があるかのような動きをするのが不思議だ。
必ず戦では姿を眩まし、またそのうち姿を現すのだから」
「力の象徴として信仰の対象でしたから、敵国の支配を受ければ破壊されるのは必至。
おそらく敬虔な信者らによってその神体とされた羽根本体は隠されたのでしょう」
「それにしても羽根という対象が毎度用いられるというのは興味深い」
「羽根への信仰は建国神話時代から続きますから、こう言っては何ですが、我々の潜在意識の奥に自然と潜んでいるのだと思います。
この国の人にとっては、羽根は汚れなき神の愛娘様よりお借りした力、畏れの対象なのです」
「本当に偶像なのか?
俺の祖国では羽根は実在し、神の愛娘も実在するが」
黒様の低い囁き声のような声。
ほんの一瞬、意識していなければ気づかないほどの間ができてから、プリメーラちゃんは綺麗に笑った。
彼女は羽根について別の何かを知っているに違いない。
「そのようなお話は初めてです。
是非詳しくお話を伺いたいものです。
差し支えなければ、この後お時間はございますか」
「ああ。
どうせ今日はここを1日観光する予定だったから構わない。
おい、お前は好きに見学していていい。
また終わったら探すから」
彼女が伏せたもう一つの可能性、それは罠だ。
その渦中に1人で飛び込むつもりでいるらしい。
オレを見てさらりとそう告げる姿に、なんとなく腹が立った。
「……やだなぁオレも連れてってよ、黒たん。
オレの方が詳しい事だってあるでしょ?」
そう言って笑顔を貼り付ければ、黒様は嫌そうに眉を顰めた。
「そうなんですね、では是非ともお願いします」
歩き始めたプリメーラちゃん。
その後ろを行く黒様。
この博物館に入ってからずっと向けられている視線に、彼女が気づかないはずがない。
おそらく強大な力を持つこの国相手に羽根を奪取するつもりならば、敵の懐に飛び込むしかないと考えたのだろう。
小狼君とサクラちゃん、そしてモコナがいないのを良いことに、危険な賭けに飛びついたに違いなく、オレだけならば適当に撒くつもりだったのだろう。
思わずため息が出た。
真っ直ぐ伸びた背中は、あいも変わらず凛々しく、いつもとなんら変わらない。
途中から背後に1人ついてきているのがわかった。
ちらりと振り返ると、阪神国で見た浅黄笙悟君だった。
どうやらこの国でもプリメーラちゃんと関係があるらしい。
関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を開けると白い床、白い壁、白い天井の長い廊下に出た。
「どうぞ、奥の研究室でお話を伺いたいと思います」
「ああ」
躊躇う事なく進む背中。
騙されているふりをしているなんて、
だが死を覚悟しているわけでは当然ない。
凛とした背中は生き残る覚悟と自信しか感じられないのだ。
それはどこか小狼君に似ている。
どうしてここまで彼女は真っ直ぐ生きられるのだろう。
どうしてこれほど強くてあれるのだろう。
全てはきっと、知世姫のためーー
彼女の帰りを待つその存在を思うと、なぜか胸が苦しくなった。