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どこが上だかわからないようなところに投げ出されたからと言って、着地を失敗するなど忍者のすることではない。
静かに片膝をついて着地すると、愛刀銀龍手を構えて辺に鋭い視線を向けた。
自分の周りにしつらえられたかのように、4人の姿がある。
足の下は石を敷き詰めてあるようだが、濡れている。
しとしとと雨が降っているのだ。
目の前には黒髪の美女。
目鼻立ちのくっきりした、スタイルのいい女だ。
日本国の人と変わらない顔つきである。
背後には茶髪の少年が同じく茶髪少女を抱えて蹲っている。
茶色いマントに身を包み、沈痛な面持ちだ。
左には白い男が立っている。
金髪に青眼、白く厚い毛皮の飾りが付いた風変わりな着物を着ており、長身。
手に持つ長い杖は武器だろうか。
「貴方が次元の魔女ですか?」
「誰だ?」
白い男と、声がかぶる。
ちらりと見上げれば、澄んだ青空のような瞳にぶつかる。
見下ろされたその瞳が何となく癪で、立つ。
それでも彼よりも身長は低かった。
「先に名乗りなさいな」
目の前の女にそう言われ、口を開く。
「黒鋼だ」
本当の名など言うものか。
「あなたは?」
「セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライトです」
皇族を思わせる整った挨拶に、やはり癪な奴だと思う。
「ここは相応の対価を払えば願いを叶えてくれるところだと聞きました」
「その通りよ。
貴方達の願いはなに?」
知世は何を思ってここに飛ばしたのだろうか。
疑問はそこだ。
彼女の意図は何だったのか。
考えてもわかるはずなどなく、彼女も俺がその意図を理解していない事を解っている筈だ。
ならば心のままに願うまで。
「元いた所に帰せ」
「元いた所にだけは帰りたくありません」
また、被る。
ちらりとうかがえばやはり馬鹿にしたような目でこちらを見ている。
本当にあの男、気に食わない。
「それはまた難題ね。
貴方達の持つ最も価値のある対価でも払いきれるものではないわ。
けれど、3人一緒に払うならギリギリってとこかしら」
「嘘をつくな。
月読は私を異世界と言うここに飛ばした。
それほどの対価がいるものか」
「ちょっと黒いの。
それはその月読って人がすごい人だっただけで、世界を渡るのは普通すごく大変なんだよ。
分かんないんだから、ちょっと静かに頼むよぉ」
怒りを抑えて拳を握る。
あいつも魔術を使えるのか。
俺はからっきしダメだった。
何度も知世に頼んで教えてもらったが性に合わないらしい。
だからこそ、白い男への負の感情はさらに高まる。
なんでも知ったような、それでいて本心を隠すーーこんな男は苦手だ。
「貴方達の願いは同じなの。
その子の記憶を集めるために、いろんな世界に飛び散った羽根を集めたい。
元の世界に戻りたくないから別の世界に行きたい。
この世界から元いた世界に行きたい。
要は違う次元に行きたいの。
だから、3人一緒なら、一つの願いに3人分の対価ってことでOKしてもいいわ」
次元の魔女はニヤリと笑う。
なぜ俺の方を見ているのか。
否、俺の何よりも大切な銀龍を見ているのか。
「そうね、貴方の対価はその刀」
「なっ!
こ……これだけは駄目だ!」
慌てて取られないように抱きこんで強く握る。
この銀龍は、銀龍だけは手放すことはできない。
「あら、いいわよ。
ただこの世界には、あたし以外に他の世界に人を渡せる者はいないから」
「そんな出鱈目!」
「本当だぞー」
白い男の声に驚いて振返る。
へにゃんとした笑い。
だめだ、気に食わない。
「どうするの?」
勝ち誇ったように手を出す魔女。
今すぐ日本には帰れない。
刀を渡しても、いろんな世界を回らないと帰れない。
しかし武器なしでどうやって我が身を守るというのか。
世界に飛んだところで、満足のいく剣があるとも限らない。
だがここで手を打たねば、日本国へ帰る道は閉ざされる。
寄る辺ない不安を吐き出す様に目を閉じて静かに息を吐き出す。
この事の全ては月読による。
ならば、信ずる彼女のすることならば、何を不安に思う必要があろうか。
不安や迷いは隙を生む。
日本国に帰りたければ、強くあらねばならない。
再び目を開く。
もう迷いはない。
血を払う様に銀龍を軽く振り、鞘に戻す。
別れを告げる様に刀をもう一度強く握ってから、魔女の手に刀を預けた。
「扱いに気をつけろ、女」
彼女の右手に浮かんだ銀龍。
魔女はじっと刀を見つめ、左の手で優しく撫でた。
「良い刀ね」
その一言で、救われた気がした。
「貴方の対価はそのイレズミ」
白い男の顔色が一瞬変わったのが見えた。
銀龍と同じように、やはり彼にとってそれはかけがえのない物なのだろう。
「言ったでしょ、最も価値のある物って」
痛恨の面持ちをしていた彼は、困ったように微笑んだ。
こいつでも、こんな顔をするのかと、そう思わせるような、胡散臭さのない笑みだった。
「仕方ないですねぇ」
背中から浮かび上がったのは、複雑な模様だった。
きっと彼の背中を守っていたのだろう。
綺麗だと、素直に思った。
「貴方もいいの?
私ができるのは異世界に飛ばすことだけ。
この子の記憶のカケラは自分で探さないといけないのよ。
それでも?」
「はい」
この小僧は気にいった。
まっすぐな目も、まっすぐな心意気も。
記憶のカケラとやらを探すのは大変らしいが、彼ならやりきれると思わせる強さがある。
「良い覚悟だわ」
そこにひとりの眼鏡の青年が駆けてくる。
手に持つのは2匹の兎のような動物。
白と黒と一匹ずついる。
「この子はモコナ=モドキ。
モコナは貴方達をいろんな世界に連れて行ってくれる。
でもそこがどんな世界かまではコントロールできないわ。
だからいつ貴方達の願いが叶うかは運次第」
彼女はどうやら白い方を俺達に渡すつもりらしい。
「そっちの黒いのは?」
魔女は少し眉をひそめる。
「こっちは通信用」
白いモコナが魔女の手を離れて宙に浮く。
「世の中にあるのは必然だけよ。
貴方達が出会ったのも、また必然」
魔女は小僧を見つめる。
「小狼、貴方の対価は、関係性。
もしその子の記憶が戻っても、貴方との記憶は戻らない」
その言葉に驚く。
形のないものまで、この魔女は奪うがあると言うのか。
「その子は、貴方にとって何?」
「幼馴染で、今いる国のお姫様で……
俺の……俺の大切な人です」
「そう。
けれどモコナを受け取るなら、例え彼女の記憶が戻っても、その関係には戻れなくなるわ。
戻った彼女の記憶に、貴方はいない」
他人のことに口を出す気はないが、酷いことをいうものだと思った。
今いる大切な人との関係を切るなど。
しかも、今からその人を助ける旅に出るための対価としてである。
少年は顔を伏せていて、何を考えているのか見えない。
でも次に顔をあげた時、本当に辛そうな、でも意志のこもった目を向けていた。
「行きます。
さくらは絶対死なせない!」
少年の腕にいる少女は彼と同じ年頃で、柔らかい印象を受ける少女だった。
自分にとってかけがえの無い知世を思い出させるその歳格好に目を細める。
「覚悟と誠意。
何かをやり遂げるのに必要なものが貴方にはちゃんと備わっているようね」
魔女は彼に優しいと思う。
心を痛めているのかもしれないと思う程だ。
「では、行きなさい」
モコナの背中から羽根が生える。
知世に飛ばされた時のような突風に、また腕で顔をかばう。
身体が宙に浮く。
「っ!」
バランスを崩す。
だめだ、普通に宙にいる時と勝手が違う。
小さな笑い声に突風の中目を凝らせば、あの白い男が楽しげに笑っていた。
ポケットに手など入れて、余裕の表情だ。
慣れている。
この移動方法に慣れているのだ。
ではなぜ、わざわざ魔女の元に来たのか。
「そんな怖い顔しないでよ」
貼り付けられた笑顔を睨みつける。
この旅に出る以上、この男の嘘を暴く必要がありそうだ。
静かに片膝をついて着地すると、愛刀銀龍手を構えて辺に鋭い視線を向けた。
自分の周りにしつらえられたかのように、4人の姿がある。
足の下は石を敷き詰めてあるようだが、濡れている。
しとしとと雨が降っているのだ。
目の前には黒髪の美女。
目鼻立ちのくっきりした、スタイルのいい女だ。
日本国の人と変わらない顔つきである。
背後には茶髪の少年が同じく茶髪少女を抱えて蹲っている。
茶色いマントに身を包み、沈痛な面持ちだ。
左には白い男が立っている。
金髪に青眼、白く厚い毛皮の飾りが付いた風変わりな着物を着ており、長身。
手に持つ長い杖は武器だろうか。
「貴方が次元の魔女ですか?」
「誰だ?」
白い男と、声がかぶる。
ちらりと見上げれば、澄んだ青空のような瞳にぶつかる。
見下ろされたその瞳が何となく癪で、立つ。
それでも彼よりも身長は低かった。
「先に名乗りなさいな」
目の前の女にそう言われ、口を開く。
「黒鋼だ」
本当の名など言うものか。
「あなたは?」
「セレス国の魔術師、ファイ・D・フローライトです」
皇族を思わせる整った挨拶に、やはり癪な奴だと思う。
「ここは相応の対価を払えば願いを叶えてくれるところだと聞きました」
「その通りよ。
貴方達の願いはなに?」
知世は何を思ってここに飛ばしたのだろうか。
疑問はそこだ。
彼女の意図は何だったのか。
考えてもわかるはずなどなく、彼女も俺がその意図を理解していない事を解っている筈だ。
ならば心のままに願うまで。
「元いた所に帰せ」
「元いた所にだけは帰りたくありません」
また、被る。
ちらりとうかがえばやはり馬鹿にしたような目でこちらを見ている。
本当にあの男、気に食わない。
「それはまた難題ね。
貴方達の持つ最も価値のある対価でも払いきれるものではないわ。
けれど、3人一緒に払うならギリギリってとこかしら」
「嘘をつくな。
月読は私を異世界と言うここに飛ばした。
それほどの対価がいるものか」
「ちょっと黒いの。
それはその月読って人がすごい人だっただけで、世界を渡るのは普通すごく大変なんだよ。
分かんないんだから、ちょっと静かに頼むよぉ」
怒りを抑えて拳を握る。
あいつも魔術を使えるのか。
俺はからっきしダメだった。
何度も知世に頼んで教えてもらったが性に合わないらしい。
だからこそ、白い男への負の感情はさらに高まる。
なんでも知ったような、それでいて本心を隠すーーこんな男は苦手だ。
「貴方達の願いは同じなの。
その子の記憶を集めるために、いろんな世界に飛び散った羽根を集めたい。
元の世界に戻りたくないから別の世界に行きたい。
この世界から元いた世界に行きたい。
要は違う次元に行きたいの。
だから、3人一緒なら、一つの願いに3人分の対価ってことでOKしてもいいわ」
次元の魔女はニヤリと笑う。
なぜ俺の方を見ているのか。
否、俺の何よりも大切な銀龍を見ているのか。
「そうね、貴方の対価はその刀」
「なっ!
こ……これだけは駄目だ!」
慌てて取られないように抱きこんで強く握る。
この銀龍は、銀龍だけは手放すことはできない。
「あら、いいわよ。
ただこの世界には、あたし以外に他の世界に人を渡せる者はいないから」
「そんな出鱈目!」
「本当だぞー」
白い男の声に驚いて振返る。
へにゃんとした笑い。
だめだ、気に食わない。
「どうするの?」
勝ち誇ったように手を出す魔女。
今すぐ日本には帰れない。
刀を渡しても、いろんな世界を回らないと帰れない。
しかし武器なしでどうやって我が身を守るというのか。
世界に飛んだところで、満足のいく剣があるとも限らない。
だがここで手を打たねば、日本国へ帰る道は閉ざされる。
寄る辺ない不安を吐き出す様に目を閉じて静かに息を吐き出す。
この事の全ては月読による。
ならば、信ずる彼女のすることならば、何を不安に思う必要があろうか。
不安や迷いは隙を生む。
日本国に帰りたければ、強くあらねばならない。
再び目を開く。
もう迷いはない。
血を払う様に銀龍を軽く振り、鞘に戻す。
別れを告げる様に刀をもう一度強く握ってから、魔女の手に刀を預けた。
「扱いに気をつけろ、女」
彼女の右手に浮かんだ銀龍。
魔女はじっと刀を見つめ、左の手で優しく撫でた。
「良い刀ね」
その一言で、救われた気がした。
「貴方の対価はそのイレズミ」
白い男の顔色が一瞬変わったのが見えた。
銀龍と同じように、やはり彼にとってそれはかけがえのない物なのだろう。
「言ったでしょ、最も価値のある物って」
痛恨の面持ちをしていた彼は、困ったように微笑んだ。
こいつでも、こんな顔をするのかと、そう思わせるような、胡散臭さのない笑みだった。
「仕方ないですねぇ」
背中から浮かび上がったのは、複雑な模様だった。
きっと彼の背中を守っていたのだろう。
綺麗だと、素直に思った。
「貴方もいいの?
私ができるのは異世界に飛ばすことだけ。
この子の記憶のカケラは自分で探さないといけないのよ。
それでも?」
「はい」
この小僧は気にいった。
まっすぐな目も、まっすぐな心意気も。
記憶のカケラとやらを探すのは大変らしいが、彼ならやりきれると思わせる強さがある。
「良い覚悟だわ」
そこにひとりの眼鏡の青年が駆けてくる。
手に持つのは2匹の兎のような動物。
白と黒と一匹ずついる。
「この子はモコナ=モドキ。
モコナは貴方達をいろんな世界に連れて行ってくれる。
でもそこがどんな世界かまではコントロールできないわ。
だからいつ貴方達の願いが叶うかは運次第」
彼女はどうやら白い方を俺達に渡すつもりらしい。
「そっちの黒いのは?」
魔女は少し眉をひそめる。
「こっちは通信用」
白いモコナが魔女の手を離れて宙に浮く。
「世の中にあるのは必然だけよ。
貴方達が出会ったのも、また必然」
魔女は小僧を見つめる。
「小狼、貴方の対価は、関係性。
もしその子の記憶が戻っても、貴方との記憶は戻らない」
その言葉に驚く。
形のないものまで、この魔女は奪うがあると言うのか。
「その子は、貴方にとって何?」
「幼馴染で、今いる国のお姫様で……
俺の……俺の大切な人です」
「そう。
けれどモコナを受け取るなら、例え彼女の記憶が戻っても、その関係には戻れなくなるわ。
戻った彼女の記憶に、貴方はいない」
他人のことに口を出す気はないが、酷いことをいうものだと思った。
今いる大切な人との関係を切るなど。
しかも、今からその人を助ける旅に出るための対価としてである。
少年は顔を伏せていて、何を考えているのか見えない。
でも次に顔をあげた時、本当に辛そうな、でも意志のこもった目を向けていた。
「行きます。
さくらは絶対死なせない!」
少年の腕にいる少女は彼と同じ年頃で、柔らかい印象を受ける少女だった。
自分にとってかけがえの無い知世を思い出させるその歳格好に目を細める。
「覚悟と誠意。
何かをやり遂げるのに必要なものが貴方にはちゃんと備わっているようね」
魔女は彼に優しいと思う。
心を痛めているのかもしれないと思う程だ。
「では、行きなさい」
モコナの背中から羽根が生える。
知世に飛ばされた時のような突風に、また腕で顔をかばう。
身体が宙に浮く。
「っ!」
バランスを崩す。
だめだ、普通に宙にいる時と勝手が違う。
小さな笑い声に突風の中目を凝らせば、あの白い男が楽しげに笑っていた。
ポケットに手など入れて、余裕の表情だ。
慣れている。
この移動方法に慣れているのだ。
ではなぜ、わざわざ魔女の元に来たのか。
「そんな怖い顔しないでよ」
貼り付けられた笑顔を睨みつける。
この旅に出る以上、この男の嘘を暴く必要がありそうだ。
