番外編ーりこうなおきさきの国ー
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「気をつけてな。」
「ええ。
お父様も体に気を付けて。
ちゃんとご飯食べてね。」
「分かっている。
お前もどうか、無事で頼む。」
「あら、いつも私を利口だと褒めてくれたのはお父様よ。
大丈夫。
次に会うのはお城よ、きっと。」
人目につかぬ深夜、お父様に別れを告げてロバに乗る。
黒鋼さんが護衛を買って出てくれたのはありがたかった。
さすがにこんな格好で一人でお城まで行くのは心細い。
(本当は女の人だけれど、男の為りをしている人がこんなタイミングでうちに来てくれるなんて、やはり神様は私に王様のもとへ行けと行っているんだわ。)
黒鋼さんが貸してくれた黒いマントはなんの素材でできているのか見当もつかないけれど、とても暖かい。
彼女がいてくれなければ、網を体に巻いて行くなんて勇気は出なかったかもしれない。
「寒くはないか。」
「大丈夫よ、このマント暖かいわね。」
「俺の主が呪をかけているからな。」
「呪?」
「着たものを守るようにと。」
「優しいのね。」
「ああ。」
きっと、私の言った『優しい』を、彼女の主人の事だと思ったのだろう。
本当は彼女のことを言ったのだけれど、訂正しなくてもいいかな、と思った。
主人を褒められた彼女は微かに目尻を下げていて、とても嬉しそうだから。
彼女は本当に優しいと思う。
こんな会って数日の私のために、彼女を守るためのマントを貸してくれる。
旅を急ぐはずなのに、今夜の護衛を申し出てくれる。
そしてきっと、傍らにいる誰よりも大切な人を、守り続けている。
「私達って、似た者同士だと思わない?」
この数日思っていたことを口にする。
「奇遇だな、俺も思っていた。」
その返事にくすりと笑う。
端から見たら似ても似つかないと思う。
でも、私達は根っこのところがとても良く似ている。
「貴方がこのままずっと一緒にいてくれたら、百人力なのに。」
「お前一人で、王様には充分百人力だろう。」
「お上手ね。」
誰よりも大切な人を守るために戦うの、私も。
私は頭を使って。
彼女は剣を使って。
「貴女の大切な人もきっと、貴女が傍にいてくれたら百人力ね。」
「お上手、だな。」
黒鋼さんが俯きながら口早に返した。
お城の門が見えてきた。
灯りがともされているのは、私が来ることを伝えていたからだろう。
「もういいわ。」
マントを脱いで黒鋼さんに返す。
「夜だ危ない。
門前まで行こう。」
「・・・ありがとう。」
マントをふわりと羽織りながらそう言う彼女は本当に優しい。
傷ついても傷ついても、きっと立ち上がって、大切な人を守るんだろう。
「止まれ。」
門番の声にしたがい、ロバを止める。
ここからが戦いだ、私の。
「大臣ローゼの娘、マリアをお連れした。」
黒鋼さんの堂々とした声が響く。
「ほう。」
甲冑の中から、青い目が私を見つめた。
心の底まで見通すような、そんな鋭く澄んだ瞳だ。
私はこの目を知っていると、思った。
彼は始めてあった日も同じように見たのだ。
(やっぱり変わってなんかいないわ。)
「どうやら噂に違わず利口なようだな。」
「お褒めに預り光栄ですわ。」
彼はきっと恐れていたのだろう。
私が武器を隠し持ってやってくることを。
その昔、彼の兄が隠されたナイフで殺されたように。
だから裸で服を着ろだなんて無理難題を出したのだ。
「入城を許可する。」
「ありがとうございます。」
私はようやくロバから降りる。
門番は近くにおいていたマントを渡した。
「ありがとうございます、王様。」
小声でそういえば、彼は少し驚いた顔をしたあと、私をまたじっと見たので、私は笑顔を返す。
彼は様々な辛いことを経験しただろう。
だから様々な無理難題を課して家臣を試す。
彼は実に賢い。
彼が王になってから戦争は一度も起きていないし、暮らしも楽になった。
だが王としての務めを果たしていく為に、彼がひとつ忘れていることがある。
それはきっと、あの幼い日の約束と共に、城の中庭の池に落としてしまったのだろうと、私は思う。
(だから一緒に探さなければ。)
私はロバの手綱を持つ黒鋼さんを振り返る。
「本当にありがとう。
貴女と貴女の大切な人に、幸多からんことを。」
「ありがとう。
貴女も。」
短くそう言うと私達に背中を向けて、ロバの歩みに合わせてゆったりと歩き始める。
月の光が、その強い背中を照らす。
たとえ独りでも歩き続ける意志を感じさせる背中だ。
「城へ。」
「はい。」
だから私も、もし彼女が振り返ったら同じように思ってくれるよう、背筋を伸ばして王様に続く。
私の戦いは、ここから始まるのだ。
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