番外編ーりこうなおきさきの国ー
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ほかほかの食事に、話に花が咲く。
マリアさんは本当に賢い人だ。
おれ達の過ごしてきた世界のことは知らないはずなのに、簡単な説明で多くを理解してくれる。
記憶力も相当良さそうだ。
このマリアさんが王様は賢いと褒めるのだから、彼は相当なのだろう。
「さっきの話は策はあるのか。」
黙々と食べていた黒鋼さんが話の途切れたタイミングで尋ねた。
「羊のことね。」
マリアさんが頷く。
「私は、羊の毛を刈って売れば良いと思うの。
そうすればお金と羊、両方持って帰ることができるわ。」
きらりと瞳を光らせてそう笑うマリアさんは、本当にやり手だ。
こんな人が味方につけば王様も百人力だろう。
「流石だマリア!
すぐに行ってくる!!」
大臣として首の皮がつながったというところだろうか、ローゼさんは慌てて家を飛び出していった。
「気をつけてね!」
マリアさんの声が追いかける。
仲の良い親子だ、本当に。
思わず父さんを思い出してしまう。
「マリアさんも出仕したらいいのに。
きっと気難しい王様とも上手くいくと思います。」
姫の言葉に、マリアさんは困った顔で首を横に振った。
「女性は侍女や給仕係としてしか出仕できないもの。
王様と話なんて、たいしてできないわ。」
そういう彼女の顔はどこか、切なげだった。
「行く方法が見つかったら、本当に行くつもりか。」
喉が渇いてキッチンの方に行こうとしたら、不意に声がして足を止めた。
「もちろん。」
キッチンで黒たんとマリアさんが話している。
きっと話は夕方のことだろう。
夕方にローゼさんは難しい顔をして帰ってきたのだ。
ー王様にお前が羊の件を考えたのだともうしあげたら、お前に会いたいとおっしゃった。
ただ・・・ー
王様はまた難題をふっかけたのだ。
「馬に乗らずに、歩かずに来いっていうのは、ロバに乗ればいいと思うの。
ほら、歩かないけど足は地面につくでしょ?
あとは服を着るけど裸っていうところね。
これは考え中。」
「お前が国王を慕っているのは分かる。
・・・だが人は変わる。」
彼女の言うことは正しい。
王様の過去を考えても、人が変わっていてもおかしくない。
親い人の死は、人を変え得るものだ。
「変わるかもしれないわ、でも根っこのところなんて、なかなか変わらないものよ。
王様は昔、言ってくれたの。
『お前は賢いな、女にしておくのが惜しい。
そうだ、私の妻になれ。
そして国の為に尽くす私を支えてくれ。』」
「その言葉も・・・忘れているかもしれない。」
噛みしめるように呟かれた言葉は、妙に重く聞こえた。
「いいわ、だって私、王様にこう返したのよ。
『もちろんよ、約束ね。』
って。
私も誓ったのよ、王様に。
彼を支えると。
だからその約束を忘れていたら、ひっぱたいて思い出させてやるわ。
それが王様を支えるって言うことなのよ。」
ふっと、黒ぽっぽは笑った。
「勇ましいな。」
「惚れても無駄よ、私一途なの。」
黒様はああ、と相槌をうつ。
「悪いな、俺もなんだ。」
「あら、そうなの?
じゃあ貴方も、もし忘れられていたらひっぱたくことね。
きっと思い出すわ。」
マリアさんの楽しげな笑い声がする。
王様はきっとこの楽しい笑い声を聞けば出すに違いない。
幼い日の、楽しい思い出を。
「でも貴方は私と違って我慢しがちね。
きっと忘れられていても、傍でじっと想い人を守っているんでしょう。」
黒たんは何も答えなかった。
無言は肯定なのだろうか。
「それが貴方のスタンスなのかもしれないけれど、伝わらないことも多いわ。」
「それでも俺は構わない。」
低い、囁くような声で彼女は言った。
「これは、俺が、決めた事だから。
俺が守ると、そう決めたから。」
喉が渇いたことなどすっかり忘れて、立ち尽くす。
彼女は、オレがここにいることに、きっと気付いている。
「『誰もが他人のことを思いやれるわけじゃない。
もちろん、結果も大切かもしれないけれど、人に思ってもらえるだけで救われる人もいる。』
・・・そう言っていた奴がいた。」
彼女の続けられた言葉に、オレは目を見開く。
その奴とは正に、オレのことだったからだ。
「俺はあいつを、あいつの言葉を信じる。」
自分が気紛れに発した言葉が、これ程までに重い意味を伴って返されるとは、思ってもみなかった。
「素敵ね。
やはり旅をする人の話は好きよ。
きっとその人も、いつの日か救われると思うわ。」
