ジェイド国
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「サクラちゃーん、おはよう」
一晩黒りんとお話してたのかな、返事がないのは眠っているからだろうか。
いや、黒むーが起きないはずがない。
「あけるよー」
開けて思わず息をのんだ。
窓が開けられたまま、雪が降りこんでいる。
ベットには誰の姿もない。
壁に掛けられていたコートもない。
息をのんだのは隣にいた小狼君も同じだった。
「余所者たちをだせ!」
下から響いてくる大きな声は、初めにオレたちに銃を向けた青年の声だ。
「子どもがまた消えた!7人もだ!」
階段をかけ上がってきた彼は、銃を再びオレ達に突き付ける。
「あと二人はどこに行った?
あの用心棒とお前の妹は!?」
青年のどなり声の後、一瞬の間が空いた。
「部屋にいないんです」
静かな返事を返したのは小狼君。
「なんですって!
まさかサクラさんと黒鋼さんまで……」
「あいつらが子どもを攫っていったんじゃないのか!?
金の髪の姫を見たとか言って!!」
銃を本格的に構えたのと、その言葉にさすがにカチンと来たのだろう。
小狼君が銃を蹴り上げた。
うまくオレの手に落ちてきたその銃。
「武器を先に向けたんだから、死んでも文句、ないよね?」
その照準を銃の持ち主に合わせると、顔を青くした。
とんだ濡れ衣でもう少し冷静に判断してもらいたいところだけれど、彼がオレ達を疑いたくなってしまう気持ちも分からなくもない。
「必ず探し出して見せます。
俺の大事な人も、子どもも」
握りしめた手に、まだ子どもなのになかなか男らしいな、なんて思ってしまう。
状況から考えると、黒たんとサクラちゃんは一緒にいる可能性は高いだろう。
それならば比較的安全だ。
だが全ては可能性の話。
サクラちゃんも本調子ではないし、黒たんだって人間なのだから無傷とは限らない。
2人を見つけるのになるべく急ぐに越したことはないだろう。
雪が降るような寒さは、命取りだと身に染みている。
ふと意識が浮上する。
「黒鋼さん!!」
あわてて起きて走り出すも何かに足をとらわれ転んでしまう。
「……鎖?」
足に付けられた鎖はベットの足につなげられていた。
あたりを見回すが黒鋼さんの姿は見えない。
意識の残る最後の時を思い返すと、手についたぬるりとした感触を思い出した。
はっとして手を見る。
拭きとられた跡はあるものの、手についているそれは。
「血……」
眠りに落ちる寸前に聞こえた銃声。
私を庇う、黒い影。
血。
それが示すものは紛れもない。
「怪我……」
胸が締め付けられるような気がした。
いつも温かく守ってくれるその人は、自分が傷つくことを厭わない。
痛いとも苦しいとも言わないで、じっと耐えている。
きっと今までもそうして生きてきたんだろう。
黒鋼さんの大切な人は、そんな彼女の姿をどう思ってきたんだろう。
痛いなら痛いと言ってくれた方が、私ならずっと嬉しいのに、と姿の見えない人を思う。
あのカイル先生が、私を生かしてここに運んできた理由は分からないけど、気を失って重くなってもいる黒鋼さんをここまで運んできているかもわからない。
もしかしたら雪の中に放置されているのかも知れない。
そう思うといてもたってもいられなくなった。
良く見たらベットはずいぶん古い。
「急がなきゃ!」
小狼君達も、私達がいないことに気づいて探し始めてくれているかもしれない。
でも、黒鋼さんの危機を知るのは、今は私一人だ。
何とかして助けに行かなければ。
そして言うんだ。
私達のために、我慢なんてしないでってー-
「やっぱりお城が怪しいよね」
「そうだね」
姫も黒鋼さんもいなくなったからか、モコナの元気がない。
やはり雪で足跡は消えてしまっていて、何も見当たらなかった。
「みなさーん」
町の方からカイル先生がかけてきた。
「カイル先生」
「先生!」
見張りという名目でついてきていた町の青年は、元気よく手を振った。
「近くまで問診できたもので。
何か手掛かりはありましたか?」
「いいえ、それがなにも」
そういえば先生は見るからに肩を落とした。
「それは残念です。
でも、これ以上子どもがいなくなってしまうのは何としてでも防がなければいけません。
私も今日の問診は終わりましたから、一緒に探させてください」
「でも先生は」
「でもお忙しいんじゃ」
断ろうとする俺と青年の言葉を、
「本当ですか、よろしくお願いしますー」
とファイさんが遮った。
「もう少し、お城の方まで探してみようかと思っていたんです」
「なるほど、そうですね。
丁寧に探せば、また何か見つかるかもしれませんし」
カイル先生と話しながら歩いていくファイさん。
昨日まで、少し嫌煙していたのに。
「ファイも、黒鋼が心配なんだね」
こそっとおれの襟の中でモコナがつぶやく。
「モコナ108の秘密技のひとつなの」
そう言って、てへっと笑って見せる。
「ああ見えてファイ、心配性なんだよ。
だから、何とかして解決の糸口を探してる」
青年には聞こえないようにこそこそと教えてくれた。
いつもどおりに見えていたのに、ファイさんもやっぱり心配だったんだと、その事実だけでも少し心配が和らいだ。
「モコナはすごいね」
「ほんと?
ほめてほめてー!」
そんなことを話をしていればファイさんが何かを見つけたようだ。
二人が道から少しな離れた木の影に走っていく。
そこには不自然な形に雪が積もっていた。
おれも慌てて駆け寄る。
雪を払うファイさんが息をのんだ。
「……これ」
「あの男の着てた服と子どもの靴……じゃないか!?」
カイル先生が屈みこんで服を広げてみる。
「転んで服の上から木の枝が刺さったんでしょう。
ほら、ここ」
カイル先生の指さすところに、近くに落ちていた鋭い木の枝がちょうど入るような穴がある。
その穴のあたりは黒い服だから分かりにくいが、確かに赤黒く染まっていて、木の枝も見間違うことなく血で汚れていた。
「連れてこられた子供が嫌がって暴れて、それで怪我をして、証拠を消すためにここに埋めたんじゃないか!?」
「じゃあ子どもと彼はどこに?」
「きっと城へ行ったんだ!」
青年の言葉に、皆は冷たくそびえる城を見た。
「やっぱり犯人はお前たちだったんだな!!」
青年が銃をファイさんに向けようとすれば、ファイさんはおどろくほど機敏な動きでその銃口を取り押さえた。
前から思っていたけれど、この人は相当強いと思う。
それをあまり知られたくないようだけれど。
「犯人だとして、オレたちがなんでここにいるの?
一緒に証拠を探すと思う?」
いつもの柔らかい話口調からは想像がつかないような、冷たい声。
青年は、言葉に詰まった。
「黒りんが犯人なら……
オレたちにも、この街のみなさんに迷惑をかけた償いをしないといけない。
それに、オレの妹も探し出さなければ……」
そう呟いてはいるものの、ファイさんの瞳は、まったく別のことを考えているのはわかった。
「今夜に賭けませんか。
あの男ならこのくらいの怪我であれば、今夜もう一度現れるでしょう。
何の目的かは知りませんが……
町を回って、子どものいる家を中心に見張りましょう」
「そうだな!そうしよう!!
そして絶対に捕まえてやるんだ!!」
張り切る青年。
「そうですね!
やっと解決の糸口が見えてきました。
旅のみなさんにはなんというか……」
痛ましげにおれ達を見るカイル先生。
「あたりまえだろう!
こいつらが呼んだ災いみたいなもんだからな!
しかし、お前たちもついてないよな、あんな用心棒やとっちまうなんてさ!
次は気をつけろよ!」
「早く妹さん、見つかるといいですね」
ちらりとファイさんを見れば、髪に隠れて表情が見えない。
でも、見えないくらい、俯いて、黒鋼さんの服をじっと見ていた。
「ええ。
早く、助けたいです」
顔をあげてヘラリとわらったファイさん。
その顔は、もういつもの顔だった。
「その服、こちらでお預かりしておきましょう。
処理も困るものでしょうから」
「ありがとうございます」
カイル先生にその服を渡すファイさんの手は、微かに震えているように見えた。
寒さからか、それともー-
呼び鈴は鳴らしたものの、出てきてくれるかは正直分からないと思っていた。
文字通り門前払いになってもおかしくない。
ところが家主はあっさりと玄関の扉を開けた。
「お前たちは、正面から来たか」
会って早々、そんなことを言われては首をかしげてしまう。
「黒鋼といったか、あ奴は窓から入ってきたからな。
けしからん奴だ」
そう続けて眉をひそめるグロサムさん。
それが満更でも無さそうに見えたのは気のせいだろうか。
「黒鋼さんは確かに多少行儀は良くないかもしれませんが、子どもを攫ったりはしていません!」
いきなり突っかかった小狼君にグロサムさんは小さく微笑んで、中に入るよう勧めた。
「落ち着け、焦れば見えるものも見えなくなるだろう」
静かなその声に、何かを思い出したのか、小狼君はうつむく。
「……すみません」
オレ達は客間に通され、お茶と茶菓子を出される。
どうやらグロサムさんは、オレ達を疑っていないらしい。
「本を読んで何か気付いたか」
真剣な眼差しに、先日の黒様を思い出した。
小狼君にひょっこり本を渡した時だ。
ーこの本は?ー
ーグロサムとかいう男から借りてきたー
ーグロサムさんから!?ー
あの時はオレでもさすがに驚いた。
だってあれだけオレ達のことを嫌っているグロサムさんと話ができるだけでもすごいのに、本を借りてきてしまうなんて。
ー本当に子どもたちを心配している。
ただそれだけの不器用な男だー
小さく笑みを浮かべてそう呟く黒りんの、細く整った指先が本をペラペラとめくる。
そして小狼君の耳元に口を寄せ、小さく呟かれた言葉はオレにも届いていた。
ーここ、数ページ……カイルの本にはなかっただろう?ー
その燃えるように赤い瞳は真剣そのもので、ひどく美しかった。
「……ええ、あのお城には地下水路があったんですね。
そのことが書かれたページが破られていました。
カイル先生にお借りした本には」
「そうか」
グロサムさんは深く椅子にもたれ、目を閉じた。
「今夜、お城のそばに来てはいただけませんか。
犯人を、現場で抑えようと思うので、証人になっていただきたいんです」
「かまわん」
それから一つ、彼はため息をついた。
「あの青年も、確か行方知れずなのだったな」
「……ええ」
彼は窓の外を見た。
黒りんが入ってきたであろう、窓の外を。
「早く見つけてやらねば……」
オレは思わずため息をついた。
胸の内にもやもやとした不安が溜まっていて、無意識にそれを出そうとしてしまったんだろう。
「さっき城のそばで見つけたあの服……」
呟いてから、ハッと息をのんだ。
本当はこのことは黙っているつもりだったのだ。
小狼君もモコナも、そしてグロサムさんもオレを見ている。
「あの服がどうかしたんですか?」
小狼君の言葉に、また一つため息をついてから口を開いた。
「ごめん、黙ってるつもりだったんだけどさ。
きっと黒さまなら大丈夫だし、心配掛けたくないって、思うだろうから」
「知りたいよ、教えて、ファイ」
モコナの声に背中を押される。
「……うん。
あれは間違いなく黒様の服だった。
でも、あの服はいろいろ細工が施されていたんだ」
オレの言葉に、二人は目を見開く。
「まず、血の流れている場所に違和感があったんだ。
木の枝が刺さったという腹部から血が出たにしては、範囲が上部にかけて広かった」
「まさか」
「それから、左胸の後ろ辺りに、焦げ跡のある円形の破れをつくろった跡があった。
血がついていたせいもあって、わかりにくくなっていたけど、でも、あれは確かに繕った後だったよ」
「……銃弾の跡というのか」
グラサムさんの言葉に、空気は一気に深刻なものになり、慌ててオレは手を振った。
「ごめん、でも、黒むーなら、きっと大丈夫だよ。
こういうの、本業だもん」
その上この程度の事でどうにかなるようであれば、あの人がこの旅の仲間に選ぶはずはない。
おそらくどんな状況であれ、サクラちゃんを守れるくらいの実力はあるはずだ。
だから、大丈夫に違いないのだ。
「心配だから、話したかったんだろう?」
そういったのは意外にもグロサムさんだった。
「心配で、自分の中では消化しきれなかった。
違うか?」
何で返すべきか、戸惑ってしまった。
今この場では肯定すべきだと分かっている。
この旅で、小狼くんの前で演じるファイであるためには、肯定するべきなのだ。
立場の違いを悟らせるべきではない。
なのに、オレの心は肯定を拒んだ。
例え演技であったとしても、肯定をしてしまうことが怖いのだ。
本来であればするべきではない、するはずもない、真の意味での用心棒である黒鋼の心配などーー
「いいんだ、それで」
オレの戸惑いを見て、彼は渋い顔のまま言った。
「あの青年なら、大丈夫だ。
少々礼儀はなっとらんが、命は大切にしておる」
その言葉が妙に染みた。
貼り付けた笑顔が歪だと、分かっているのに上手く笑えなかった。
