玖楼国
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「おっはよー」
「おう。」
「おはよー」
「おはようございます。」
「おはよう。」
朝の挨拶は、旅の間も毎日していた。
いつも通りの朝のはずで、黒鋼さんも朝食に参加できるようになって、みんなで楽しくご飯を食べているはずで。
なのに、何かが違っている気がする。
そう、今日もだ。
ファイさんと黒鋼さんの会話が少ない。
ファイさんは姫やおれにばかり話しかける。
黒鋼さんに対してはまるで空気みたいだ。
黒鋼さんの方もそれを気にするようでもなく、まただからと言って気を害している様子もない。
「御馳走様。」
そう小さく言うと席を立って、さっさとどこかに行ってしまった。
なんだか妙な沈黙が舞い降りて、おれたちは顔を見合わせた。
「こっちももらっていい?
サクランボ、だっけ?」
ファイさんがデザートの乗った皿に手を伸ばす。
「本当に、玖楼国の食べ物はおいしいねぇ。」
「ファイさん。」
姫が呼んだ。
ファイさんは柔らかい笑顔を張り付けて、言った。
「なに?」
「いいんですか?
何も聞かなくて。」
「聞くことなんてないよー。」
ヘタの先についた赤い実を眺めながら、ファイさんはのんびりと答える。
黒鋼さんのいた日本国でも、これはサクランボというそうだ。
「嘘です。」
桜姫の真剣な瞳から逃げるように、ファイさんはサクランボをパクリと食べた。
「嘘でもいいの。
・・・嘘をつかないといけないときもあるんだから。」
ころん、と種を出すと、ファイさんは伸びをした。
「さーて、旅支度しないとね。
出発明日だし。」
「ファイさん。」
今度は俺が呼んだ。
「もー、どうしたの、二人とも。」
やっぱり笑顔を張り付けて、笑った。
おれはそれにつられることはない。
「おれの取れなかった手を掴むために、あなた達は背中を押してくれた。
何故貴方は目の前の手を取らない?」
「それがオレ達の幸せだから、かな。」
俯くファイさんの顔は、どこか寂しげで。
「ファイさん、昔と変わらないじゃないですか。」
姫の言葉に、ファイさんが顔を上げた。
「時に任せて、誰かに任せて。
・・・ファイさんはもう自由なんですよ?
せっかく一緒にいられる時間があるのに。」
おれ達にとって、失った二人の存在は大きいし、二人の過ごしたかった時間を思うと苦しい。
だからこそ、青いおれたちだと分かっていても、言ってしまうのだ。
「黒鋼さんだって・・・きっと待ってます。」
ファイさんは小さく笑った。
困ったように、笑った。
「・・・ごめんね。」
そして席を立った。
「大人って、不便だね。」
姫が溜息をついた。
「優しいことも、不幸だ。」
おれは頷く。
「きっとどこかで、また会えるし、ともに生きる世界もあると思うんだけど・・・。」
「おれもそう信じている。」
爽やかな風がカーテンを揺らす。
窓の向こうに、もう二人の大人の姿は見えなかった。
背中から急に抱きつかれても驚いたりはしない。
どれだけこいつが気配を消しても、そんなの消しているうちには入らないから。
「ねぇ、咲。」
珍しく低い声が、耳に吹き込まれる。
どっちが地声だと尋ねたくなるような、落ち着いた声だ。
「真名を気軽に呼ぶなと言っただろう・・・ユゥイ。」
残った右手をユゥイの右手に重ねようとして、やめる。
「それから極端すぎる。
・・・どちらかにしてくれ。」
相手は押し黙った。
抱く腕の力が強くなる。
「君は冷静だね。
20年そこそこしか生きていないとはとてもじゃないけど考えられないよ。」
「お前の方こそ、300年生きているとは考えられないな。」
「それはどうも。」
ユゥイの手が、俺の右腕をなぞり、手を掴んだ。
「この手を何故取らないのか、聞かれたよ。」
誰にとは言われなくても分かっている。
「若いなぁって思った。
そんなふうに思えるのは、純真で素敵だって。
・・・300年生きていても、そう思ったんだ。」
俺は次に発される言葉を、じっと目を閉じて待つ。
「・・・一緒に旅に出よう。
同じだけ生きる方法を、探しに行こう。
オレは君と、生きていきたいんだ。
ようやく生きたいと思えたんだ。」
その言葉に俺は目を開ける。
そして肩に乗る頭にそっと頭をこすりつけた。
「その方法が見つからなかったらどうする?」
「小狼君ならこう言うだろうね。
『必ず見つける。』」
その言葉に、俺は思わず笑った。
ユゥイは俺を抱きしめていた腕を解いて、正面から向かい合うように回り込んだ。
「旅には出るつもりだった。
お前が来るとは思わなかった・・・というわけでもない。
正直ついてくるだろうなと思った。」
「え、そうなの?」
目を瞬かせるからおかしい。
「ただ、お前の帰る場所として、この国があってほしいと願っていた。」
雪に閉ざされた世界だという、セレスとは違った、温かなこの国に。
「言ったはずだ。
約束はひとつでなくていいと。
日本にも帰る。
旅も続ける。
それだけの話だ。
だから・・・その、あれだ。」
俺はなんだか恥ずかしくなって、蒼い瞳から目をそらして、早口で言う。
「お前とともに生きる方法を探すのも、またひとつ約束が増えただけにすぎない。」
ゆっくりと蒼い目が見開かれた。
何度見ても、その瞳は美しいと思う。
今は無き諏訪の、湖の色と同じだ。
美しくて、大好きな、蒼。
自分の紅い瞳とはまるで反対に思えるほど、高く深い美。
「それだけだ。」
身体がぬくもりに包まれる。
抱きしめられたのだ。
彼は震えていた。
泣いていた。
300年生きてきたとは思い難い。
本当に。
初めて出会ったとき、何もかもが対極だと感じた。
色も、性格も、生い立ちも、何もかも。
でも、そんな彼だから、俺はともにいたいのだろう。
「今度は、オレが君を守るから。」
泣きながら言われても、全く説得力は無いが、彼の魔力ならば俺は容易く守られてしまうことだろう。
思わず笑ってしまう。
ずいぶんと楽しいことだ。
だから俺は、彼の耳元に唇を寄せた。
あの、飛王を殺した時に言い損ねてしまった言葉を、紡ぐために。
「ユゥイが・・・・」
fin
「おう。」
「おはよー」
「おはようございます。」
「おはよう。」
朝の挨拶は、旅の間も毎日していた。
いつも通りの朝のはずで、黒鋼さんも朝食に参加できるようになって、みんなで楽しくご飯を食べているはずで。
なのに、何かが違っている気がする。
そう、今日もだ。
ファイさんと黒鋼さんの会話が少ない。
ファイさんは姫やおれにばかり話しかける。
黒鋼さんに対してはまるで空気みたいだ。
黒鋼さんの方もそれを気にするようでもなく、まただからと言って気を害している様子もない。
「御馳走様。」
そう小さく言うと席を立って、さっさとどこかに行ってしまった。
なんだか妙な沈黙が舞い降りて、おれたちは顔を見合わせた。
「こっちももらっていい?
サクランボ、だっけ?」
ファイさんがデザートの乗った皿に手を伸ばす。
「本当に、玖楼国の食べ物はおいしいねぇ。」
「ファイさん。」
姫が呼んだ。
ファイさんは柔らかい笑顔を張り付けて、言った。
「なに?」
「いいんですか?
何も聞かなくて。」
「聞くことなんてないよー。」
ヘタの先についた赤い実を眺めながら、ファイさんはのんびりと答える。
黒鋼さんのいた日本国でも、これはサクランボというそうだ。
「嘘です。」
桜姫の真剣な瞳から逃げるように、ファイさんはサクランボをパクリと食べた。
「嘘でもいいの。
・・・嘘をつかないといけないときもあるんだから。」
ころん、と種を出すと、ファイさんは伸びをした。
「さーて、旅支度しないとね。
出発明日だし。」
「ファイさん。」
今度は俺が呼んだ。
「もー、どうしたの、二人とも。」
やっぱり笑顔を張り付けて、笑った。
おれはそれにつられることはない。
「おれの取れなかった手を掴むために、あなた達は背中を押してくれた。
何故貴方は目の前の手を取らない?」
「それがオレ達の幸せだから、かな。」
俯くファイさんの顔は、どこか寂しげで。
「ファイさん、昔と変わらないじゃないですか。」
姫の言葉に、ファイさんが顔を上げた。
「時に任せて、誰かに任せて。
・・・ファイさんはもう自由なんですよ?
せっかく一緒にいられる時間があるのに。」
おれ達にとって、失った二人の存在は大きいし、二人の過ごしたかった時間を思うと苦しい。
だからこそ、青いおれたちだと分かっていても、言ってしまうのだ。
「黒鋼さんだって・・・きっと待ってます。」
ファイさんは小さく笑った。
困ったように、笑った。
「・・・ごめんね。」
そして席を立った。
「大人って、不便だね。」
姫が溜息をついた。
「優しいことも、不幸だ。」
おれは頷く。
「きっとどこかで、また会えるし、ともに生きる世界もあると思うんだけど・・・。」
「おれもそう信じている。」
爽やかな風がカーテンを揺らす。
窓の向こうに、もう二人の大人の姿は見えなかった。
背中から急に抱きつかれても驚いたりはしない。
どれだけこいつが気配を消しても、そんなの消しているうちには入らないから。
「ねぇ、咲。」
珍しく低い声が、耳に吹き込まれる。
どっちが地声だと尋ねたくなるような、落ち着いた声だ。
「真名を気軽に呼ぶなと言っただろう・・・ユゥイ。」
残った右手をユゥイの右手に重ねようとして、やめる。
「それから極端すぎる。
・・・どちらかにしてくれ。」
相手は押し黙った。
抱く腕の力が強くなる。
「君は冷静だね。
20年そこそこしか生きていないとはとてもじゃないけど考えられないよ。」
「お前の方こそ、300年生きているとは考えられないな。」
「それはどうも。」
ユゥイの手が、俺の右腕をなぞり、手を掴んだ。
「この手を何故取らないのか、聞かれたよ。」
誰にとは言われなくても分かっている。
「若いなぁって思った。
そんなふうに思えるのは、純真で素敵だって。
・・・300年生きていても、そう思ったんだ。」
俺は次に発される言葉を、じっと目を閉じて待つ。
「・・・一緒に旅に出よう。
同じだけ生きる方法を、探しに行こう。
オレは君と、生きていきたいんだ。
ようやく生きたいと思えたんだ。」
その言葉に俺は目を開ける。
そして肩に乗る頭にそっと頭をこすりつけた。
「その方法が見つからなかったらどうする?」
「小狼君ならこう言うだろうね。
『必ず見つける。』」
その言葉に、俺は思わず笑った。
ユゥイは俺を抱きしめていた腕を解いて、正面から向かい合うように回り込んだ。
「旅には出るつもりだった。
お前が来るとは思わなかった・・・というわけでもない。
正直ついてくるだろうなと思った。」
「え、そうなの?」
目を瞬かせるからおかしい。
「ただ、お前の帰る場所として、この国があってほしいと願っていた。」
雪に閉ざされた世界だという、セレスとは違った、温かなこの国に。
「言ったはずだ。
約束はひとつでなくていいと。
日本にも帰る。
旅も続ける。
それだけの話だ。
だから・・・その、あれだ。」
俺はなんだか恥ずかしくなって、蒼い瞳から目をそらして、早口で言う。
「お前とともに生きる方法を探すのも、またひとつ約束が増えただけにすぎない。」
ゆっくりと蒼い目が見開かれた。
何度見ても、その瞳は美しいと思う。
今は無き諏訪の、湖の色と同じだ。
美しくて、大好きな、蒼。
自分の紅い瞳とはまるで反対に思えるほど、高く深い美。
「それだけだ。」
身体がぬくもりに包まれる。
抱きしめられたのだ。
彼は震えていた。
泣いていた。
300年生きてきたとは思い難い。
本当に。
初めて出会ったとき、何もかもが対極だと感じた。
色も、性格も、生い立ちも、何もかも。
でも、そんな彼だから、俺はともにいたいのだろう。
「今度は、オレが君を守るから。」
泣きながら言われても、全く説得力は無いが、彼の魔力ならば俺は容易く守られてしまうことだろう。
思わず笑ってしまう。
ずいぶんと楽しいことだ。
だから俺は、彼の耳元に唇を寄せた。
あの、飛王を殺した時に言い損ねてしまった言葉を、紡ぐために。
「ユゥイが・・・・」
fin
