玖楼国
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たくさんの力の渦があたりに巻き上がっている。
二人のさくらちゃんの力、二人の小狼君の力、飛王の力、そして制御しきれなかった黒りんのものも。
オレの作った防護壁にも絶え間なくその力がぶつかってきている。
威力はかなり強い。
騒音の中で、不思議と透き通った声が響く。
「世界を壊させたりしない。」
小狼君とさくらちゃんが誓うように叫んだのだ。
そして砕けた世界達が再び構築されていく。
強大な力に思わず目を見張る。
「世界を戻そうとしている。」
オレの言葉に黒様とモコナも驚いたようにあたりを見回す。
「飛王が壊そうとした理とともに。」
「できるのか?」
「あの二人の力は凄い!
・・・でも・・・。」
遠くからでも二人に疲労の色が浮かんでいるのが分かる。
尋常じゃない魔法なのだから、当たり前だ。
耐えられるとは到底思い難い。
そして、耐えられたとしても、それを許さぬ輩がいる。
「我が願いの成就、邪魔はさせん!!」
飛王の雷撃が小狼君を襲おうと駆ける。
オレは迷いなく防護壁を彼の前に作る。
その防護壁はオレの両手で囲った空間で制御する強力なタイプ。
自分達を守る防護壁と2重で詠唱を重ねるのは困難な上、かなりの魔力を使う。
今の状況ではかなり厳しいのは明白だ。
それでも。
(持ってくれ!!!)
強大な雷撃に腕がビリビリとしびれる。
腕の中の空間にひびが入った。
「くッ!!!」
魔力を注ぎ込むも耐えきれず、腕の中で爆発が起きる。
強い衝撃が胸を襲った。
むせ込むオレの視界の端で、ぼろぼろになった赤黒い塊が落ちていく。
黒たんの義手だ。
あれがオレの心臓を守ったのだろう。
本来であれば心臓がつぶれていてもおかしくない衝撃のはずだったから。
血の香りが濃い。
むせ込むオレを腕が引き寄せた。
いつもならばそのまま抱えていられるだろうに、その腕は現れたサクラちゃんの魔法陣の上にオレを下ろし、そのオレの身体に重なる様に倒れこんできた。
「ファイ!
黒鋼!」
オレの背中の方からするのはモコナの声。
「黒りん!」
身体を起こさせると、顔が蒼い。
ゆっくりと瞼が持ち上がった。
「・・・無事か。」
こんな痛々しい姿になっても、はっきりとしたその声に、オレは思わず泣きそうになった。
「誰かさんのおかげでね。」
不意にあたりの激震が止まった。
どうやら飛王が時を止めたらしい。
周りの世界の再構築も止まっている。
この間になんとかオレ達は立ちあがった。
「銀龍を貸せ。」
「はい。」
モコナがオレの肩の上で持っていた刀を、黒りんの右手が掴む。
銀龍の紅い瞳と、黒様の瞳が重なって見える。
遠い昔に見た彼女の父親の姿が、重なって見える。
彼女にとって、飛王は両親の仇であり、諏訪の仇。
殺意が瞳に浮かんでいる。
一瞬の隙をも見逃さぬ、強き忍びの瞳が。
「・・・次元の魔女がいない。」
飛王の虚ろな声が響いた。
そして狂ったように叫びだす。
「魔女は蘇らねばならんのだ!!
それがクロウを超える唯一の証!
次元を越え、刻を越え、遺跡で貯えさせた力!
無駄にはせん!!」
現れたのは筒だった。
それは、もうひとりのサクラちゃんと小狼君が閉じ込められていたもので。
「必ず、必ず蘇らせる!
もう一度、時間を巻き戻す!おまえの自由を対価にな!
そして、姫の力で魔女が存在する次元を探し出す!
在る筈だ!どこかに、魔女が消えない道筋が!
それが成るまで、おまえと姫は我が手の中で生きろ!
但し、お互い触れ合えず、声も届かないままに!
安心しろ!用が済めば殺してやる!!」
筒の中に捕らわれ行く小狼君とさくらちゃん。
黒たんが駆けだした。
「援護を!」
背中越しに掛けられた声。
黒様が技を放つ。
「分かってる!」
すぐにスピアを唱える。
黒りんが放った一撃を更に強力にする呪文だ。
だがそれは筒に到達する前に防護壁によって抹消されてしまう。
「邪魔をするな!!!」
次の一瞬、飛王から巨大な光線が発される。
その攻撃を真正面から受けてしまい、全身に激痛が走った。
それでもまた、オレ達は立ち上がる。
「・・・心配するな。」
黒りんの瞳は、筒に向けられていた。
あの中にいる4人が、自分たちの事が見えているのが分かっているんだろう。
彼らが心配していることが、分かっているんだろう。
「必ず、助けるから・・・。」
這ってでも近づこうとするような、そんな必死な紅の瞳。
オレも前を向き、スピアを唱える。
強い風を起こして飛王までの道を開けた。
「今だ!!」
「破魔、竜王陣!!!」
飛王が攻撃するよりも早く、黒りんの銀龍が竜の形の一撃を放つ。
それが見事にオレの作った道を通り、飛王へと喰らいついた。
筒が飛王の手から離れる。
オレは電撃を放って筒を飛王の手から庇う。
彼はまだ生きて、筒を奪おうとしている。
オレは続けざまにスピアを唱え、黒りんの全身に防護呪文のスピアを這わせ、ありったけの魔力を注ぎ込んだ。
スピアが這う自分の手を驚くように見る黒りん。
体中にオレの魔法の蒼と、金色のスピアが這っている。
この術は、オレも使うのは初めてだ。
相手の事を良く知り、心を許した上で、相性が合わなければ使うことはできない。
あれほど慕っていたアシュラ王にでさえ、この魔法を使うことはできなかった。
一瞬だけ、黒様と目が合う。
オレの蒼い魔法に護られているはずなのに、その瞳は不思議と燃えるような紅に見えた。
彼女の瞳が前を向く。
オレが電撃で護るサクラちゃんと小狼君が入った筒しか見えていない飛王との間を、黒りんが一瞬で詰める。
大きく飛ぶ。
飛王が彼女に気づき、標的を変え、光線を放つ。
オレは更に防御呪文を強化する。
黒りんが大きく銀龍を振り下ろした。
一瞬だけ見えた彼女の背中が、飛王を殺したことを物語っていた。
一瞬しか見えなかったのは、彼を殺すと同時に筒が砕け、力の濁流が溢れて遺跡が再構築され、それに彼女が埋もれてしまったからだ。
世界が再構築されているが見える。
オレはその世界の欠片の中を必死にかいくぐって、細い手を握って引き寄せた。
世界の中に埋もれていく彼女を、引き出したのだ。
セレスで己ごと世界を閉じようとしていたオレを、彼女が救い出してくれたときのように。
小狼君が呪いに殺されようとしているサクラちゃんの手を取った時のように。
細い背中を抱きしめる。
虫のような息が、耳を掠める。
必死に言葉を紡ごうと、息を吸い込んでいる。
オレはどうすることもできなくて、その背を抱きしめる。
彼女の声が、ようやく紡がれた。
「ユゥイ、が・・・・」