玖楼国
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「あーファイったら狼さんになってる!」
「モコナ?
何言って・・・」
会話に目が覚めたオレは一気に事を理解した。
背後からは無垢な瞳。
ちなみに小狼君は真赤になって固まっている。
正面からはオレを責める紅の瞳。
ズボンは履いたままだが、彼女の上半身には晒が巻かれているだけ。
バチリとあった紅の視線は鋭い。
「あーいやー、ね。
これは事故って言うか。」
あはは、という渇いたオレの笑いが響いた。
黒さまから目をそらしたオレの視線は、真っ白なシーツに向かう。
そこでオレは傾いた日差しに目を細めた。
「早くどけ。」
黒りんもそれに気づいたのだろう。
時間はそう長くはない。
「今日で終わらせる。」
鎧を身にまとう黒様の言葉に、オレ達は頷いた。
どことなく人通りが減ったような気がする。
黒鋼さんとファイさんと街へ出れば、やはり男の子がおれの前でつまずく。
始めの日から続くやり取り。
でもその中で消えている人がいる。
嫌な予感がした。
「ゆっくりとしていくと良い。
祭りも近いしね。」
そう言う男性に、おれは問いかける。
「なんの祭りですか。」
昨日まではなかったやり取りだ。
「玖楼国のお姫様、さくら姫の誕生日を祝うお祭りだよ!」
少年が男性よりも早く、嬉しそうにそう言い、おれたちは目を見開く。
「今は遺跡にいるんだって!」
潔斎のためだろう。
おれが巻き戻すと決めた時だ。
間違いない。
おれが後ろにいる二人にそのことを伝えようとした時だった。
目の前で、男の子のお母さんが急に溶けて消えた。
だが周りの人はそれに騒ぐ様子はない。
黒鋼さんとファイさんがおれを守る様に体勢を変えた。
街の人々がどんどん溶けてゆく。
「こいつら生きてるな。」
黒鋼さんの冷たいほどに冷静な声がおれに届く。
「少なくとも幻の類じゃないよ。
オレ達がここにきて、同じ時間を繰り返していた人たちの時間の流れを変えちゃったんだ。」
僅かに焦っているファイさん。
「ってことはモコナ達がここにいて何かするたびにこの人たちはこうなっちゃうってこと!?」
泣きそうなモコナ。
おれたちの目の前で街の人々が消えていく。
閉じられた時間を、おれたちが変えてしまった。
あるべき世界の秩序をおれが壊してしまったのだ。
そして壊された人たちは。
「遺跡へ行こう。
そこにさくらもいるはずだ。」
絞り出すような声に3人が頷く気配がある。
街に背を向け、おれたちは進む。
全てはおれが望んだことから始まった。
全てはあの遺跡から。
全ては、全ては、全ては・・・おれの。
「お前に罪があるなら、俺も同罪。」
不意に降ってきた声におれは隣を見上げる。
紅の瞳は真っ直ぐ前を向いていた。
「オレもね。」
隣で金色の瞳がおれを優しく見下ろす。
「モコナも。」
ぽふ、と飛びついてくれるモコナ。
選んだならば、進み続けるしかない。
「やらなきゃならないことがあるなら、前だけ見てろ。」
そう言われてはっとする。
阪神国でも黒鋼さんが言っていた言葉だ。
この人は、いつも背中を押してくれる。
おれは遺跡を見つめる。
これから、やらなきゃならないことを、やり遂げるために。
「後ろは任せなよ。」
もうひとつ、温かな声にまた確かな一歩を踏み出す。
「・・・ありがとう。」
おれはもう、あの時のように独りではない。
独りでさくらを助けるためにもがくばかりではないのだ。
遺跡への道は遠く長かった。
ようやく辿り着き、小狼君が扉に触れると不思議と自然と開く。
どうやら歓迎されているらしい。
そしてそこで小狼くんは全てを話した。
辛く苦しい彼の7年。
オレ達の知らない、彼の過去を。
「お前が過去を話すのは、これからの戦いに必要だからか。」
黒りんが静かに問いかけた。
「それもある。
おれは二人の過去を知っている。
・・・おれも話したいと思った。
一緒に旅をしてきた人たちに。
知った後、二人が何を思い、選んだとしても。
おれの願いが歪みを生み、その歪みによって様々な物が道筋を変えた。
貴方も双子として生まれなかったかもしれないし、
貴方の両親もあんなふうに無くなることはなかったかもしれない。」
悲愴な小狼君の顔が、オレ達をかわるがわる見上げた。
辛かったろう。
ずっと、オレ達の過去を見て。
己を責めてきたのだろう。
「自分の願いを叶えるために、おれは禁忌を犯した。
だから選んでくれ、これからのことを。」
表を伏せる彼に、黒たんが歩み寄る。
「人は何度も繰り返す時の中ででも、異なった人生を歩み、そして願う。」
小狼君は顔を上げた。
「お前は知らないんだったな。
今回の旅は、お前が望んで繰り返されたものかもしれないが、それ以上にお前達は旅を繰り返している。
少なくともお前が今回繰返しを願ったのは、2回目の旅だ。」
「どういうことですか!?」
驚くのも当然だろう。
「お前がここまで選ばなかった、そして選べなかった旅も存在したということだ。」
「どうしてそれを黒鋼さんが・・・。」
「俺は本来はお前達とともに旅をしないはずだった。
・・・この世に生まれさえしなかった。
もう一人の俺の望みのための対価として、彼の代わりに諏訪に生まれたんだ。」
「ではそのもう一人の黒鋼さんはどこに・・・・まさか。」
黒りんが頷いた。
「インフィニティにいた男の俺だ。
だが俺だけじゃない。
閉じられ、繰り返される時間の中に、様々な過去があり、様々な未来がある。
消える命があり、生まれる命がある。
・・・それだけの話だ。」
彼女の瞳は、真っ直ぐに前を向いていた。
オレ達の目の前には今、呪いによって殺されようとしているさくらちゃんの姿がある。
きっと、インフィニティにいた黒様が、たどりつけなかった選択の時に、オレ達はいるのだ。
「ここまで来た。
全てはもう過ぎ去ったこと。
どうすることもできない。
ただ、この繰り返される旅に、終止符を。」
カチャリ
黒たんが銀龍を握る。
「確かに君は禁を犯した。
けれどそのために起こった全ての事が君のせいではないし、それを自分だけで背負おうとするのは、ある意味傲慢だよ。
これは自戒を込めてね。」
だからオレも小狼君に笑いかける。
「もしお前と同じことが起こったら、俺も選ぶ。
守れるものなら、守りたい。」
「オレもね。
辛いことを話してくれてありがとう。
だから・・・」
げいん
オレ言葉の途中でいい音を立てて拳が振り下ろされ、小狼くんが頭を押さえて驚いた顔をした。
オレは思わず吹き出してしまう。
なんだか全てを忘れて驚いた小狼君の顔が、懐かしくて。
「お父さんからはゲンコツ。
オレからは。」
ふわっと頬を両手で包む。
「これね。」
「モコナは小狼がだいすき!」
モコナは小狼君に抱きついた。
大丈夫だ、もう、君は独りじゃない。
黒りんも独りじゃない。
モコナも、そして、オレも。
「・・・ありがとう。」
今日の小狼君は、お礼を言ってばかりだ。
だからだろうか、オレ達は覚悟を決められる。
「あと少しでおれが時間を巻き戻すことを決めたのと同じ時間になる。」
響く足音に振り返ると、そこには写し身の小狼くんがいた。
黒りんとオレが小狼を守る様に立つ。
「モコナ、少し離れてて。」
もう写し身の小狼の後ろから、飛王が空間を切り取って現れた瞬間だった。
爆風を伴う黒様の一撃が、飛王に襲いかかる。
水を霧のように舞わせる剣劇は美しい。
それはバリアを張っていたはずの飛王の手を切り裂いた。
なかなかの威力だ。
「ずいぶんと活きがいいことだ。
まだ時間はある。
お前が節理を壊した、その決断の時まで。」
その言葉に、オレ達は誰も反応しない。
分かりきったことなのだ。
そしてオレ達は、やり遂げると決めた。
「小狼君、オレ達は君のためならどんなことでもするつもりだ。
・・・君のやり遂げたいことは?」
後ろの小狼君に問いかける。
「さくらは死なせない。」
真っ直ぐな言葉に、オレと黒たんは頷いてみせる。
「お前は自分と蹴りをつけろ。
俺はお前に、生きるための剣を教えてきた。
生きてやると決めたことをやるための。
・・・忘れるな。」
「はい!」
小狼君が駆けだす。
「さてお出まし願おうか弱虫さん。」
もともと小狼君を隔離することが目的なのか、彼がオレ達から離れると、周りにたくさんの裂け目が現れ、何度か見たことのある黒づくめの敵があらわれる。
黒鋼は一撃でそれを蹴散らした。
そして舌打ちをする。
「・・・幻の類ではないな?」
彼女の殺気が飛王に向けられた。
「集めた魂で作ったただのできそこないだ。
好きなだけ遊べ。」
どれほどの魂を弄べば気が済むのか。
あるいはどれほどの心を踏みにじれば。
今は亡きファイの、母の、父の、そしてアシュラ王の、心を。
「・・・それ以上話すな。」
怒り任せに敵を倒そうとすれば、あたりに爆風が吹き荒れた。
技を放った銀龍が、カチャリと音を立てる。
「終わらせる。」
静かな黒りんが、オレに冷静にする。
「・・・ああ。」
再び構えを取った時だった。
背後で起こった強力な魔法に、驚いて振り返る。
覚えのある魔力は、オレの身体にあったもの。
つまりは写し身の小狼くんの魔力がケタ違いなのだ。
完全に写し身小狼の力が本物を上回っている。
あっという間に仰向けに倒れた小狼の上に、写し身が片足を乗せた。
「待てッ!!!」
駆けだすオレの行く手を、多くの敵達が阻む。
切っても切っても、二人のもとへとたどり着けない。
そして写し身の切っ先が、小狼君の胸を貫く。
「どけぇぇぇ!!!」
黒様が敵をなぎ倒しながら駆け寄ろうとするも、写し身の手がオレ達に向けられる。
「危ない!!」
魔力のないオレにはもう黒たんを守ってあげることもできなくて、二人とも無様に吹き飛ばされた。
くらくらする頭をもたげて黒りんを探す。
濃厚な血の香りに振り返れば、彼女は左肩を抑えてうずくまっている。
義手が壊れ、左肩からは出血がひどい。
写し身は小狼くんを引きずって飛王のもとへと向かう。
「しっかりしろ!」
黒たんを助け起こす。
「銀龍を・・・。」
顔をゆがめながらも得物を求める声に、近くに落ちていた銀龍を彼女に持たせる。
「・・・痛むか?」
思わず問いかけるオレに、黒たんは小さく笑って見せた。
「馬鹿か。
痛かろうが関係ない。
・・・変えてみせる。」
こんな時なのに、黒様の瞳があまりに綺麗だから、不思議とついこの間まで自分ものだった瞳の蒼色が恋しくなった。
「モコナ?
何言って・・・」
会話に目が覚めたオレは一気に事を理解した。
背後からは無垢な瞳。
ちなみに小狼君は真赤になって固まっている。
正面からはオレを責める紅の瞳。
ズボンは履いたままだが、彼女の上半身には晒が巻かれているだけ。
バチリとあった紅の視線は鋭い。
「あーいやー、ね。
これは事故って言うか。」
あはは、という渇いたオレの笑いが響いた。
黒さまから目をそらしたオレの視線は、真っ白なシーツに向かう。
そこでオレは傾いた日差しに目を細めた。
「早くどけ。」
黒りんもそれに気づいたのだろう。
時間はそう長くはない。
「今日で終わらせる。」
鎧を身にまとう黒様の言葉に、オレ達は頷いた。
どことなく人通りが減ったような気がする。
黒鋼さんとファイさんと街へ出れば、やはり男の子がおれの前でつまずく。
始めの日から続くやり取り。
でもその中で消えている人がいる。
嫌な予感がした。
「ゆっくりとしていくと良い。
祭りも近いしね。」
そう言う男性に、おれは問いかける。
「なんの祭りですか。」
昨日まではなかったやり取りだ。
「玖楼国のお姫様、さくら姫の誕生日を祝うお祭りだよ!」
少年が男性よりも早く、嬉しそうにそう言い、おれたちは目を見開く。
「今は遺跡にいるんだって!」
潔斎のためだろう。
おれが巻き戻すと決めた時だ。
間違いない。
おれが後ろにいる二人にそのことを伝えようとした時だった。
目の前で、男の子のお母さんが急に溶けて消えた。
だが周りの人はそれに騒ぐ様子はない。
黒鋼さんとファイさんがおれを守る様に体勢を変えた。
街の人々がどんどん溶けてゆく。
「こいつら生きてるな。」
黒鋼さんの冷たいほどに冷静な声がおれに届く。
「少なくとも幻の類じゃないよ。
オレ達がここにきて、同じ時間を繰り返していた人たちの時間の流れを変えちゃったんだ。」
僅かに焦っているファイさん。
「ってことはモコナ達がここにいて何かするたびにこの人たちはこうなっちゃうってこと!?」
泣きそうなモコナ。
おれたちの目の前で街の人々が消えていく。
閉じられた時間を、おれたちが変えてしまった。
あるべき世界の秩序をおれが壊してしまったのだ。
そして壊された人たちは。
「遺跡へ行こう。
そこにさくらもいるはずだ。」
絞り出すような声に3人が頷く気配がある。
街に背を向け、おれたちは進む。
全てはおれが望んだことから始まった。
全てはあの遺跡から。
全ては、全ては、全ては・・・おれの。
「お前に罪があるなら、俺も同罪。」
不意に降ってきた声におれは隣を見上げる。
紅の瞳は真っ直ぐ前を向いていた。
「オレもね。」
隣で金色の瞳がおれを優しく見下ろす。
「モコナも。」
ぽふ、と飛びついてくれるモコナ。
選んだならば、進み続けるしかない。
「やらなきゃならないことがあるなら、前だけ見てろ。」
そう言われてはっとする。
阪神国でも黒鋼さんが言っていた言葉だ。
この人は、いつも背中を押してくれる。
おれは遺跡を見つめる。
これから、やらなきゃならないことを、やり遂げるために。
「後ろは任せなよ。」
もうひとつ、温かな声にまた確かな一歩を踏み出す。
「・・・ありがとう。」
おれはもう、あの時のように独りではない。
独りでさくらを助けるためにもがくばかりではないのだ。
遺跡への道は遠く長かった。
ようやく辿り着き、小狼君が扉に触れると不思議と自然と開く。
どうやら歓迎されているらしい。
そしてそこで小狼くんは全てを話した。
辛く苦しい彼の7年。
オレ達の知らない、彼の過去を。
「お前が過去を話すのは、これからの戦いに必要だからか。」
黒りんが静かに問いかけた。
「それもある。
おれは二人の過去を知っている。
・・・おれも話したいと思った。
一緒に旅をしてきた人たちに。
知った後、二人が何を思い、選んだとしても。
おれの願いが歪みを生み、その歪みによって様々な物が道筋を変えた。
貴方も双子として生まれなかったかもしれないし、
貴方の両親もあんなふうに無くなることはなかったかもしれない。」
悲愴な小狼君の顔が、オレ達をかわるがわる見上げた。
辛かったろう。
ずっと、オレ達の過去を見て。
己を責めてきたのだろう。
「自分の願いを叶えるために、おれは禁忌を犯した。
だから選んでくれ、これからのことを。」
表を伏せる彼に、黒たんが歩み寄る。
「人は何度も繰り返す時の中ででも、異なった人生を歩み、そして願う。」
小狼君は顔を上げた。
「お前は知らないんだったな。
今回の旅は、お前が望んで繰り返されたものかもしれないが、それ以上にお前達は旅を繰り返している。
少なくともお前が今回繰返しを願ったのは、2回目の旅だ。」
「どういうことですか!?」
驚くのも当然だろう。
「お前がここまで選ばなかった、そして選べなかった旅も存在したということだ。」
「どうしてそれを黒鋼さんが・・・。」
「俺は本来はお前達とともに旅をしないはずだった。
・・・この世に生まれさえしなかった。
もう一人の俺の望みのための対価として、彼の代わりに諏訪に生まれたんだ。」
「ではそのもう一人の黒鋼さんはどこに・・・・まさか。」
黒りんが頷いた。
「インフィニティにいた男の俺だ。
だが俺だけじゃない。
閉じられ、繰り返される時間の中に、様々な過去があり、様々な未来がある。
消える命があり、生まれる命がある。
・・・それだけの話だ。」
彼女の瞳は、真っ直ぐに前を向いていた。
オレ達の目の前には今、呪いによって殺されようとしているさくらちゃんの姿がある。
きっと、インフィニティにいた黒様が、たどりつけなかった選択の時に、オレ達はいるのだ。
「ここまで来た。
全てはもう過ぎ去ったこと。
どうすることもできない。
ただ、この繰り返される旅に、終止符を。」
カチャリ
黒たんが銀龍を握る。
「確かに君は禁を犯した。
けれどそのために起こった全ての事が君のせいではないし、それを自分だけで背負おうとするのは、ある意味傲慢だよ。
これは自戒を込めてね。」
だからオレも小狼君に笑いかける。
「もしお前と同じことが起こったら、俺も選ぶ。
守れるものなら、守りたい。」
「オレもね。
辛いことを話してくれてありがとう。
だから・・・」
げいん
オレ言葉の途中でいい音を立てて拳が振り下ろされ、小狼くんが頭を押さえて驚いた顔をした。
オレは思わず吹き出してしまう。
なんだか全てを忘れて驚いた小狼君の顔が、懐かしくて。
「お父さんからはゲンコツ。
オレからは。」
ふわっと頬を両手で包む。
「これね。」
「モコナは小狼がだいすき!」
モコナは小狼君に抱きついた。
大丈夫だ、もう、君は独りじゃない。
黒りんも独りじゃない。
モコナも、そして、オレも。
「・・・ありがとう。」
今日の小狼君は、お礼を言ってばかりだ。
だからだろうか、オレ達は覚悟を決められる。
「あと少しでおれが時間を巻き戻すことを決めたのと同じ時間になる。」
響く足音に振り返ると、そこには写し身の小狼くんがいた。
黒りんとオレが小狼を守る様に立つ。
「モコナ、少し離れてて。」
もう写し身の小狼の後ろから、飛王が空間を切り取って現れた瞬間だった。
爆風を伴う黒様の一撃が、飛王に襲いかかる。
水を霧のように舞わせる剣劇は美しい。
それはバリアを張っていたはずの飛王の手を切り裂いた。
なかなかの威力だ。
「ずいぶんと活きがいいことだ。
まだ時間はある。
お前が節理を壊した、その決断の時まで。」
その言葉に、オレ達は誰も反応しない。
分かりきったことなのだ。
そしてオレ達は、やり遂げると決めた。
「小狼君、オレ達は君のためならどんなことでもするつもりだ。
・・・君のやり遂げたいことは?」
後ろの小狼君に問いかける。
「さくらは死なせない。」
真っ直ぐな言葉に、オレと黒たんは頷いてみせる。
「お前は自分と蹴りをつけろ。
俺はお前に、生きるための剣を教えてきた。
生きてやると決めたことをやるための。
・・・忘れるな。」
「はい!」
小狼君が駆けだす。
「さてお出まし願おうか弱虫さん。」
もともと小狼君を隔離することが目的なのか、彼がオレ達から離れると、周りにたくさんの裂け目が現れ、何度か見たことのある黒づくめの敵があらわれる。
黒鋼は一撃でそれを蹴散らした。
そして舌打ちをする。
「・・・幻の類ではないな?」
彼女の殺気が飛王に向けられた。
「集めた魂で作ったただのできそこないだ。
好きなだけ遊べ。」
どれほどの魂を弄べば気が済むのか。
あるいはどれほどの心を踏みにじれば。
今は亡きファイの、母の、父の、そしてアシュラ王の、心を。
「・・・それ以上話すな。」
怒り任せに敵を倒そうとすれば、あたりに爆風が吹き荒れた。
技を放った銀龍が、カチャリと音を立てる。
「終わらせる。」
静かな黒りんが、オレに冷静にする。
「・・・ああ。」
再び構えを取った時だった。
背後で起こった強力な魔法に、驚いて振り返る。
覚えのある魔力は、オレの身体にあったもの。
つまりは写し身の小狼くんの魔力がケタ違いなのだ。
完全に写し身小狼の力が本物を上回っている。
あっという間に仰向けに倒れた小狼の上に、写し身が片足を乗せた。
「待てッ!!!」
駆けだすオレの行く手を、多くの敵達が阻む。
切っても切っても、二人のもとへとたどり着けない。
そして写し身の切っ先が、小狼君の胸を貫く。
「どけぇぇぇ!!!」
黒様が敵をなぎ倒しながら駆け寄ろうとするも、写し身の手がオレ達に向けられる。
「危ない!!」
魔力のないオレにはもう黒たんを守ってあげることもできなくて、二人とも無様に吹き飛ばされた。
くらくらする頭をもたげて黒りんを探す。
濃厚な血の香りに振り返れば、彼女は左肩を抑えてうずくまっている。
義手が壊れ、左肩からは出血がひどい。
写し身は小狼くんを引きずって飛王のもとへと向かう。
「しっかりしろ!」
黒たんを助け起こす。
「銀龍を・・・。」
顔をゆがめながらも得物を求める声に、近くに落ちていた銀龍を彼女に持たせる。
「・・・痛むか?」
思わず問いかけるオレに、黒たんは小さく笑って見せた。
「馬鹿か。
痛かろうが関係ない。
・・・変えてみせる。」
こんな時なのに、黒様の瞳があまりに綺麗だから、不思議とついこの間まで自分ものだった瞳の蒼色が恋しくなった。