玖楼国
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「・・・砂漠の真ん中にあるとは思えない街だね。」
ファイさんの言葉におれは頷く。
豊かで優しいのが玖楼国なのだ。
帰ってきた。
ようやく。
(あの手を、掴むために。)
拳を握りしめて俯くと、その視線の先でリンゴ入りの籠を掲げた男の子が躓いた。
「あっ!」
慌ててその体を支える。
「ありがとうお兄ちゃん!」
どうやらこの子を始めとする人々は、異変を感じていないらしい。
駆けて行った男の子が、店先からおれ達に手を振る。
呼ばれるがままに行くと、その子のお母さんらしき人が笑顔で迎えてくれた。
「さっきはありがとう!」
「本当にありがとうございます。」
もう7年ぶりになるが、やはりこの国の人は温かい。
「どちらにも殺気はない。
だがすぐに消せる。」
おれの耳に届くギリギリの声量で、黒鋼さんが言った。
冷たいその声が、うっかり懐かしさに浸っているおれを現実に引き戻す。
二人はいつでもおれを攻撃から守れるようにか、左右それぞれの背後に立った。
この国の人はそんなことはしない。
そう言いたくても言えるはずがない。
今この瞬間さえ、飛王の策かもしれないのだから。
踏みにじられる思いに、おれは拳を握りしめた。
「その格好、異国の人かい?」
「はい。
今着いたばかりで。」
まるで疑っていないように、ファイさんは穏やかに返す。
「3人ともずいぶん違った服だね。
それぞれ別の国から来たのかい?」
「生まれた国は違うんですが、今は一緒に旅しています。」
「いいねぇ、一人旅もいいがやはり誰かと一緒がいい。」
「・・・そうですね。」
ファイさんがどこかかみしめるようにそう答えた。
たとえ表面上の会話であっても、どこか嬉しく感じてしまう。
おれはようやく握りしめていた拳を解いた。
「ゆっくりとしていくと良い。
祭りも近いしね。」
「宿はもう決めたのかい?」
「いえまだ。」
「だったらうちへ来て!」
「いやでも・・・。」
「ぜひどうぞ。」
ファイさんと黒鋼さんは一つうなずくので、おれはその親子に頷いた。
情報集めにも丁度いいはずだ。
「ではお言葉に甘えて。
よろしくお願いします。」
男の子に家に案内された。
そうこうしているうちに日も暮れ、夕食をごちそうになる。
話を聞くが、特に最近変わったこともなさそうだ。
机の上に明日の朝食用のパーユを置いて、親子は寝室へ行った。
何もなかった。
恐いくらいに、あの頃と変わらない穏やかな時だった。
何かを考えてるのか、じっとパーユを見つめる黒鋼さん。
彼女もきっと思っている。
これほど穏やかな中のどこが、“切り取られた時間”なのかと。
どこに飛王のからくりがあるのかと。
「明日は遺跡へ行こうと思う。
全ての始まりだから。」
おれの言葉にファイさんが頷き立ち上がる。
「・・・早めに休もう。
体力は温存するに越したことはない。」
朝起きて、妙だった。
あの子のお母さんのパーユがなくなっている。
何かあったのかと外に出れば、昨日と何一つ変わらぬ光景だった。
そう。
小狼君が助けた男の子も、その言動も、事の流れも。
あっという間にくれて行った夕日も、夕食の味も。
あまりに何も変わらないのが、あまりに穏やかで優しい街が、不気味だった。
背筋が寒くなった。
このまま自分たちもこの繰り返される時の中に埋もれてしまうのではないかと。
だから、少しだけ昨日と変えてみる。
「じゃあ部屋割は、オレと黒様、小狼君とモコナでいいかな?」
「はい。」
小狼君とモコナは部屋を分けることに慣れている。
オレが吸血鬼で、彼らに吸血行動を見られるのを嫌がっている事を知っているのだ。
本当に、優しい子だと思う。
「じゃあ明日もう一度確認してみよう。」
「そうしましょう。
飛王の策である可能性が高い。」
「じゃあ、今日はおやすみー。」
「おやすみなさい。」
「おやすみー。」
黒たんはひとつ頷くとさっさと部屋に入った。
オレ達もそれぞれ部屋に入る。
「昨日とは違って小狼と部屋を変えた理由は。」
後ろから入ってくる黒たんの問いかけに、オレはコートをかけてから振り返る。
「気づいていると思っていたけど。」
そして紅の瞳を見つめながら歩み寄る。
「気づかれていると分かっていたとおもっていたけど、が、正確かな。」
オレは彼女のマントをはがし、その下の鎧を持ち上げた。
思った通り、義手の付け根が血に染まっている。
痛々しいほどに。
「この身体になって血の匂いには敏感なんだ。
マントも頭のも取らないのは、表情を隠すためかな。
痛みを堪える・・・忍びの君がそうまでするなんて、かなり痛いんだろう?」
黒りんは一言も話さない。
「義手が合わないのか、それか日本国で無理したときに壊れたか。」
「問題ない。」
「昨日より痛いか?」
黒りんは俯いたまま黙っている。
「答えろよ。
それで繰り返している玖楼国の時間の中でオレ達の時間が進んでいるのかが分かる。」
そこまで言ってようやく、黒たんがひとつ頷いた。
思わずため息をついて、そして。
げいん
思いっきり頭を殴ってやった。
「っ!!!」
睨む紅を睨みつける。
「痛いなら最初からそう言え馬鹿。
一緒にいたら隠しきれないことの方が多い。
後で知ったら小狼君もモコナももっと辛い。」
「お前が言うか。」
涙目になっている彼女が、なんだかおかしくて、オレは思わず微笑んでしまった。
「オレだから言うんだよ。」
「なら・・・。」
黒りんがおもむろに鎧を外したから、今度は目を見開いてしまう。
肌蹴た義手の着た肩をオレの前に差しだす。
甘い香りが、一層濃くなった。
「飲め。」
「そう言う話じゃない。」
「どうせ無駄に流れるんだ。」
「馬鹿じゃないのか。
痛むだろう。」
睨んだところで動じる彼女でもない。
「・・・今夜は見極めるんだ。
この、繰り返される世界の一点を。」
血を飲むことにどう見極めることが関連するのか、オレにはわからない。
それでも彼女の紅の瞳がオレに飲めと訴えるから、思わずため息をついた。
オレは痛々しい肩に舌を這わせる。
甘く、喉が潤っていく。
黒たんの顎が肩に乗せられた。
「・・・痛い?」
彼女は答えない。
無言は肯定。
もともと血を飲むこと自体、傷を舐めるのだから痛いに決まっている。
彼女の肌とは全く違う感触に舌が触れ、思わず舌を引っ込めた。
彼女の熱が伝わっているのか、義手も肩に食い込んでいるあたりはほんのりと温かい。
だが、やはり機械(メカ)だ。
「不思議とこの義手にも触覚がちゃんとある。」
何を勘違いしているのか、そんな声が耳の横でした。
オレが義手を舐めて固まったことに気づかれてしまったのが気まずくて、再び肌に口をつけた。
「・・・そういうん」
それは突然だった。
急激な眠気に襲われる。
「じゃ、な・・・」
身体から力が抜ける。
言い終わることはできなかった。
黒りんの身体も傾いでいく。
肌蹴た鎧が、黒様の手の支えを失って落ちそうになる。
ああだめだ、起きていなければならないと分かっているが、身体も思考も、自由が利かない。
なんとか床に落ちるのを防ぎ、頭を打たないように抱え込んでベットの上に倒れるのが精一杯だった。
ガシャン
最期に聞こえたのは、彼女の鎧が床に落ちる音だった。
ファイさんの言葉におれは頷く。
豊かで優しいのが玖楼国なのだ。
帰ってきた。
ようやく。
(あの手を、掴むために。)
拳を握りしめて俯くと、その視線の先でリンゴ入りの籠を掲げた男の子が躓いた。
「あっ!」
慌ててその体を支える。
「ありがとうお兄ちゃん!」
どうやらこの子を始めとする人々は、異変を感じていないらしい。
駆けて行った男の子が、店先からおれ達に手を振る。
呼ばれるがままに行くと、その子のお母さんらしき人が笑顔で迎えてくれた。
「さっきはありがとう!」
「本当にありがとうございます。」
もう7年ぶりになるが、やはりこの国の人は温かい。
「どちらにも殺気はない。
だがすぐに消せる。」
おれの耳に届くギリギリの声量で、黒鋼さんが言った。
冷たいその声が、うっかり懐かしさに浸っているおれを現実に引き戻す。
二人はいつでもおれを攻撃から守れるようにか、左右それぞれの背後に立った。
この国の人はそんなことはしない。
そう言いたくても言えるはずがない。
今この瞬間さえ、飛王の策かもしれないのだから。
踏みにじられる思いに、おれは拳を握りしめた。
「その格好、異国の人かい?」
「はい。
今着いたばかりで。」
まるで疑っていないように、ファイさんは穏やかに返す。
「3人ともずいぶん違った服だね。
それぞれ別の国から来たのかい?」
「生まれた国は違うんですが、今は一緒に旅しています。」
「いいねぇ、一人旅もいいがやはり誰かと一緒がいい。」
「・・・そうですね。」
ファイさんがどこかかみしめるようにそう答えた。
たとえ表面上の会話であっても、どこか嬉しく感じてしまう。
おれはようやく握りしめていた拳を解いた。
「ゆっくりとしていくと良い。
祭りも近いしね。」
「宿はもう決めたのかい?」
「いえまだ。」
「だったらうちへ来て!」
「いやでも・・・。」
「ぜひどうぞ。」
ファイさんと黒鋼さんは一つうなずくので、おれはその親子に頷いた。
情報集めにも丁度いいはずだ。
「ではお言葉に甘えて。
よろしくお願いします。」
男の子に家に案内された。
そうこうしているうちに日も暮れ、夕食をごちそうになる。
話を聞くが、特に最近変わったこともなさそうだ。
机の上に明日の朝食用のパーユを置いて、親子は寝室へ行った。
何もなかった。
恐いくらいに、あの頃と変わらない穏やかな時だった。
何かを考えてるのか、じっとパーユを見つめる黒鋼さん。
彼女もきっと思っている。
これほど穏やかな中のどこが、“切り取られた時間”なのかと。
どこに飛王のからくりがあるのかと。
「明日は遺跡へ行こうと思う。
全ての始まりだから。」
おれの言葉にファイさんが頷き立ち上がる。
「・・・早めに休もう。
体力は温存するに越したことはない。」
朝起きて、妙だった。
あの子のお母さんのパーユがなくなっている。
何かあったのかと外に出れば、昨日と何一つ変わらぬ光景だった。
そう。
小狼君が助けた男の子も、その言動も、事の流れも。
あっという間にくれて行った夕日も、夕食の味も。
あまりに何も変わらないのが、あまりに穏やかで優しい街が、不気味だった。
背筋が寒くなった。
このまま自分たちもこの繰り返される時の中に埋もれてしまうのではないかと。
だから、少しだけ昨日と変えてみる。
「じゃあ部屋割は、オレと黒様、小狼君とモコナでいいかな?」
「はい。」
小狼君とモコナは部屋を分けることに慣れている。
オレが吸血鬼で、彼らに吸血行動を見られるのを嫌がっている事を知っているのだ。
本当に、優しい子だと思う。
「じゃあ明日もう一度確認してみよう。」
「そうしましょう。
飛王の策である可能性が高い。」
「じゃあ、今日はおやすみー。」
「おやすみなさい。」
「おやすみー。」
黒たんはひとつ頷くとさっさと部屋に入った。
オレ達もそれぞれ部屋に入る。
「昨日とは違って小狼と部屋を変えた理由は。」
後ろから入ってくる黒たんの問いかけに、オレはコートをかけてから振り返る。
「気づいていると思っていたけど。」
そして紅の瞳を見つめながら歩み寄る。
「気づかれていると分かっていたとおもっていたけど、が、正確かな。」
オレは彼女のマントをはがし、その下の鎧を持ち上げた。
思った通り、義手の付け根が血に染まっている。
痛々しいほどに。
「この身体になって血の匂いには敏感なんだ。
マントも頭のも取らないのは、表情を隠すためかな。
痛みを堪える・・・忍びの君がそうまでするなんて、かなり痛いんだろう?」
黒りんは一言も話さない。
「義手が合わないのか、それか日本国で無理したときに壊れたか。」
「問題ない。」
「昨日より痛いか?」
黒りんは俯いたまま黙っている。
「答えろよ。
それで繰り返している玖楼国の時間の中でオレ達の時間が進んでいるのかが分かる。」
そこまで言ってようやく、黒たんがひとつ頷いた。
思わずため息をついて、そして。
げいん
思いっきり頭を殴ってやった。
「っ!!!」
睨む紅を睨みつける。
「痛いなら最初からそう言え馬鹿。
一緒にいたら隠しきれないことの方が多い。
後で知ったら小狼君もモコナももっと辛い。」
「お前が言うか。」
涙目になっている彼女が、なんだかおかしくて、オレは思わず微笑んでしまった。
「オレだから言うんだよ。」
「なら・・・。」
黒りんがおもむろに鎧を外したから、今度は目を見開いてしまう。
肌蹴た義手の着た肩をオレの前に差しだす。
甘い香りが、一層濃くなった。
「飲め。」
「そう言う話じゃない。」
「どうせ無駄に流れるんだ。」
「馬鹿じゃないのか。
痛むだろう。」
睨んだところで動じる彼女でもない。
「・・・今夜は見極めるんだ。
この、繰り返される世界の一点を。」
血を飲むことにどう見極めることが関連するのか、オレにはわからない。
それでも彼女の紅の瞳がオレに飲めと訴えるから、思わずため息をついた。
オレは痛々しい肩に舌を這わせる。
甘く、喉が潤っていく。
黒たんの顎が肩に乗せられた。
「・・・痛い?」
彼女は答えない。
無言は肯定。
もともと血を飲むこと自体、傷を舐めるのだから痛いに決まっている。
彼女の肌とは全く違う感触に舌が触れ、思わず舌を引っ込めた。
彼女の熱が伝わっているのか、義手も肩に食い込んでいるあたりはほんのりと温かい。
だが、やはり機械(メカ)だ。
「不思議とこの義手にも触覚がちゃんとある。」
何を勘違いしているのか、そんな声が耳の横でした。
オレが義手を舐めて固まったことに気づかれてしまったのが気まずくて、再び肌に口をつけた。
「・・・そういうん」
それは突然だった。
急激な眠気に襲われる。
「じゃ、な・・・」
身体から力が抜ける。
言い終わることはできなかった。
黒りんの身体も傾いでいく。
肌蹴た鎧が、黒様の手の支えを失って落ちそうになる。
ああだめだ、起きていなければならないと分かっているが、身体も思考も、自由が利かない。
なんとか床に落ちるのを防ぎ、頭を打たないように抱え込んでベットの上に倒れるのが精一杯だった。
ガシャン
最期に聞こえたのは、彼女の鎧が床に落ちる音だった。
