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一番重症なのは、いつも黒鋼さんだと思う。
今もまた、こうして布団に伏している。
おれたちの中で一番強くて、一番戦っていて、一番傷を負う。
見ていて、痛い。
心が、痛い。
でもきっとまた、この人は同じように血を流す。
ファイさんがこんなに辛そうな顔をしていても、それでおれたちが守れるならと、また腕一本くらい捨ててしまうだろう。
黒鋼さんは強い。
一番守らなければならないもののために、即決できる。
迷いのない紅い瞳は、彼女の過酷な生い立ち故だろう。
「・・・すまない。」
「黒鋼!」
不意に声が聞こえて黒鋼さんの顔を見ると、モコナに頬ずりされながら紅い瞳はおれを見ていた。
慌てて頭を振る。
紅い瞳は、天井を見上げる。
真っ直ぐと。
「・・・姫を、助けるぞ。」
この人は生粋の忍びだ。
影となって大切なものを守り、平安へと導く。
自分がどれほど傷つこうとも。
「はい。」
おれも、少しでも近付きたい。
大切な人を、守り続けられるように。
「白饅頭、魔女とつないでくれ。」
「わかった!」
モコナを介して次元の魔女さんの元へとつながる。
黒鋼さんはファイさんに助けられながら身体を起こした。
「願いがあります。
サクラの居場所を教えてください。」
4人の視線が、魔女さんに集中する。
「どっちのさくらかしら。」
魔女さんが試すようにおれを見つめる。
「どちらもです。
さくらは絶対死なせない。」
「教えたとして他の二人はどうするの。」
魔女さんの視線をたどり、おれは二人を振り返る。
「行く。」
「行きます。」
この二人は優しい。
この二人は強い。
魔力を失い、瞳の色が変わろうと、腕を失おうと、旅を始めた時から変わらない。
否、あの時よりもずっと心強い。
「対価はもうもらっているわ。
記憶という対価を。
小狼、あなたに誰よりも近い人に。」
その言葉に目を見開く。
「飛王がいるのは玖楼国よ。
切り取られた時間の中の、ね。
渡る時は1週間後の満月の夜。」
魔女さんの決意に満ちた声が、響く。
この人もまた、その時を待ち続けていたのだ。
おれのように。
否、おれよりも、ずっとずっと、長く、孤独に。
「この時を、決して逃さないで。」
強い言葉に、おれたちもしっかりと頷いた。
「・・・こいつと話したいことがある。」
黒様がそう言うから、小狼君はモコナを抱き上げた。
「無理はしないでくれ。」
かれはそうぽつりといって、部屋から出ていった。
どちらに対しての言葉だったのだろうか。
黒鋼は枕元に置いていた短刀を右手で拾い、柄を咥え、右手に持った鞘から抜いた。
鞘を掛け布団の上に落とし、その右手の手首に刃を当てようとするから、その手を取る。
「・・・なんだ?」
くぐもった声がオレに尋ねる。
真赤な瞳が、見上げてくる。
「オレに、飲ませるためか?」
「ああ。」
「いらない。」
「昼間血を見て、喉が余計に渇いているだろう。」
彼女が言うことは事実だ。
間違いない。
嫌な身体だ。
口はいらないといっているのに、彼女の脈を指先が感じているだけでごくりと喉が鳴る。
「お前を吸血鬼にすることに決めたのは俺だ。
・・・気にするな。」
どこか心配そうに見上げてくる瞳に、思わず笑う。
どれほどまでに、お人好しなのだろうかと。
自分が気を失うほど体調を崩したのを見て血を欲する仲間に、目が覚めてすぐに血を与えようとするんなんて。
「馬鹿だ、君は。」
「なんとでも言え。」
そして柔らかく笑う。
その笑顔が妙に心に沁みて、彼女が何かを隠しているような気がしてならなかった。
オレは彼女の口から短刀をはずした。
「もし君がいいというなら・・・。」
「ああ。」
そっと耳に唇を寄せる。
「・・・首筋の血がいい。
・・・美味いんだ。」
「好きにしろ。」
オレは彼女の背中に回り、そっと彼女の襟をはだけさせる。
蝋燭のオレンジに照らされた肌は、やはり艶めかしい。
ごくりと唾を飲み込む。
この、薄い肌の下に欲してやまない血があるのだ。
彼女は諏訪に行くのだろう。
きっと一人で。
だからオレに血を与えようとしている。
ならばその策に乗った振りをするのも悪くはない。
傷に響かない程度に細い体を抱きしめる。
肌をぺろりと舐めると、腕の中で身体がはね、思わず笑みがこぼれる。
そっとその肌に歯を立てると、濃厚な香りと味が広がった。
愛おしく震える身体を優しく撫で、オレは血を啜る。
彼女を喰らう。
「・・・美味い。」
そう囁けば、彼女は震える頭を小さく振った。
「その体で行くつもり?」
分かっていた。
彼がそこにいることは。
俺は愛馬走雲(そううん)の背中に飛び乗る。
片手はどうも調子が狂う。
左手はまだ痛むから布にくるんで背中に背負った。
非常時だけつけるつもりだ。
刀はこの前借りたのと同レベルだが武器庫から物色してきた。
日本国内で魔物に会うことは滅多にないから問題はないだろう。
月読の結界が類稀な強さを持つのだ。
「知世ちゃんには?」
「断っただろう。」
「それって、君が昨日倒れる前の話でしょ?」
だが彼女は是と言った。
許可は下りている。
「オレも行くよ。」
「お前はここで待て。」
「お断りだね。
薬も持ってきてない癖に。」
彼の言うとおり薬なんて持ってきていない。
後は放っておけば治るだろうからだ。
「薬と、あと包帯も持ってきたよ。
君の部屋にあったやつだけど。」
どこから見つけてきたのか、弓を持つ彼は、手近な白馬を引いてきた。
雪崩(なだれ)と呼ばれるその馬は、走雲に次いで足が速い。
国で最も早い2匹を連れて行っては叱られそうだが、まあいいだろう。
今日本国は平和だ。
歴代最強の、天照と月読が治めるからこそ。
「小狼と白饅頭が心配するぞ。」
「君からそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ。」
月光の中、青年は淡く微笑む。
金の髪がふわりと揺れ、金の瞳が現れる。
「手紙置いてきた。」
「読めないだろ。」
彼の国の文字を見たことはあるが、全く読めなかった。
少年もお手上げだったはずだ。
「夜叉王のところで君が教えてくれた文字で書いた。
間違っているところもあるだろうけど、まぁ大丈夫でしょ。」
それに、と彼は笑う。
「片手の君より、オレの方が強いよ、きっと。」
馬の腹を蹴る。
隣のファイも、進みだす。
「小狼君やモコナも行きたがっていたよね、諏訪。」
「・・・ああ。
だが今あいつらに必要なのは安全な場所と休息だ。」
「そうだね。」
「本当ならば、お前もな。」
「本当ならば、君がね。」
思わず顔を合わせて微笑みあう。
「急ぐぞ。
馬で片道3日かかる。」
馬を走らせる。
「何それ、わりとギリギリ!」
後ろから驚いた声が追いかけてくる。
遠いあの日と同じだ。
俺だけの花畑に、連れていこうと、馬に乗って共に駆けた。
白鷺城の門を出る。
門番も知り合いだから、すぐに開けてくれた。
「・・・行ってくる。」
美しい城を振り返り、それだけ言うと、馬を駆けた。
