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「夢の世界も、もちろん時間の流れは違いますよね?」
封真が月読に尋ねた。
「ええ。
ですから、小狼さんが一秒後に帰ってこられるのか、はたまた何年先になるのかも、私達にはわからないことです。
ただ、この桜の木の力と、サクラちゃんの羽根の力で渡ったのですから、両者がここにある時に戻ってこられるとは思うのですが・・・。」
そして桜の木を見上げた。
満開の枝からははらはらと花弁が散る。
「私達にできるのは信じて待つことだけです。」
俺はそっと幹に触れる。
諏訪から引き取られてから馴染みの樹だ。
「・・・どうか。」
ただ、そう言わずには居られなかったし、それ以上は言葉にならなかった。
夢の中で出会う二人のことを思うと、いたたまれなかった。
傍に行きたいと、全ての辛いことから守ってやりたいと願ってしまう。
でもそれは今、俺にはできないこと。
信じ願うことしか、できないのだ。
そんな俺の肩に、ファイが手を乗せた。
「帰ってくるさ。」
いつもとは逆に思える関係がなんだかおかしくて、少しだけ気持ちが明るくなる。
立ち上がり、青年とともに木から飛び降りる。
一同はただ、頷きあった。
「腕の調子はどうかな?」
封真が声をかけた。
正直言えば、痛む。
動かすためにキリキリとした痛みが走るのだ。
傷が治りきっていないせいかもしれない。
「ああ。
悪くない。」
俺は軽く答えた。
たとえ痛みがあると言ったところで、きっと封真には直す技術はない。
それにこの痛みが義手を使う上で仕方のないもので、慣れることが大切なのかもしれない。
そうとなれば、早く刀を新調しなければ。
今ここで何かあっても、満足に戦える身体ではない。
左手が痛む以上、通常よりも動きが鈍るのは確実だ。
せめて技だけでもある程度繰り出せればいいのだが、今持っている刀では大技は何度も使えはしないだろう。
(銀龍があれば・・・。)
あれはたしか、知世に言って母の亡きがらとともに諏訪の地に葬ってもらった。
(墓暴きに行くしかないか。)
ここから諏訪までは馬で駆ければ3日程だったはずだ。
やや遠いがいけぬ距離ではないし、何よりも銀龍がいる。
離れてから一度も諏訪へは帰っていない。
両親が死んだ時、諏訪の人の多くは死に、残りは各地に散ったと聞いた。
今はどうなっているのか、知らない。
自分が治め、護るべき領地を捨てた自分が、領地のために命を落とした親の墓を暴きに行くのだ。
(地の神も許すまい・・・。)
そう思うと、小狼が夢の世界へと言っている間に銀龍をとりに行った方がいいのかもしれない。
「黒様?」
ファイが不安げに名を呼んだ。
「小狼が帰ってくるまでの間に、諏訪に行ってくる。」
月読にそう宣言すれば、彼女は微かに眉をひそめた。
だが言葉を発することはためらっているようだ。
「まさか両親に最期の挨拶に向かうわけではないでしょう?」
天照がその心中を代弁する。
「そのつもりはない。
・・・ただ、両親の墓を見たいと思っただけだ。
一度も墓参りをしない親不孝者だからな。」
月読は小さく頷いた。
「分かりました。
いってらっしゃいな。」
「ああ。」
「オレももちろん行くよ。」
後ろから飛び込んできた声に、俺は振り返る。
金色の目が楽しそうに弧を描いた。
「もう一度見てみたいんだ。」
「見る影もないかもしれないが。」
「それでも構わない。」
不思議だ。
あの蒼の方が好きだった。
諏訪の湖のようで、美しかったから。
でも、今のほうが彼の目は強く見える。
そんな彼の目が、好ましいと思った。
「馬は用意させましょう。
出立は?」
月読が優しく微笑んで、俺を見上げる。
「明日の朝。」
「分かりました。」
ふぁいもどこか嬉しそうに眼を細めている。
俺は神木に背を向けた。
黒様の背中は、何かを覚悟しているように見えた。
最期のあいさつに向かうわけではないと言ったけれど、何を考えているのか少しだけ不安になる。
新しい左腕は生々しく、ご両親に見せるのは忍びないような気がした。
その時だった。
何かが裂ける様な音がして、身動きが取れなくなる。
身体に小狼を夢の世界へと攫って行った黒い力の濁流が絡みついていた。
驚いて振り返ると神木の幹が裂けている。
「夢の中でいったい何が!?」
サクラちゃんの躯が、その流れに攫われていくのが見えた。
「サクラちゃん!」
手を伸ばしたくても、近づきたくても、身動きが全く取れない。
指先を動かすのが精いっぱいだ。
「小狼!」
黒たんの声の方を見れば、小狼君ともう一人の小狼君が羽根を奪い合っている。
一度に両方を助けるのはただでさえ難しいだろうに、今は身動きさえ取れない。
黒りんは目を見開いたまま、顔を蒼くして、必死にもがいていた。
なにもできない
その現実がオレ達を絶望につき落とす。
二人の小狼君が剣を振りかざす。
あれでは刺し違えることになるだろう。
どちらも死んでしまう。
「やめろっ!!!!」
オレと黒たんは同時に叫んでいた。
もう叫ぶことしかできないのだ。
身を呈して守ってやることも、後ろから羽交い絞めにして止めてやることもできない。
悔しくて、悔しくて、身体が震えた。
二つの切っ先が近づくのが、スローモーションのように見えた。
そしてその切っ先が、肉体を貫き、止まった。
その光景に、オレ達は目を見開いて固まる。
胸に2つの剣を受け、悲しそうな顔をしているのは、サクラちゃんだった。
「さくら!」
小狼君が叫んだ。
もう一人の小狼君も、唖然としている。
彼にもやはり、心があるのではないかと思ってしまうような、そんな顔。
「あなたのさくらは私じゃない。
あなたのさくらが待っている。」
サクラちゃんはもう一人の小狼君の方へと倒れこむ。
「逝くなっ!!!!」
黒様の悲鳴のような声が響く。
「サクラちゃん!!!!」
オレも思わず叫ぶ。
彼女は作られたものだ。
それでも、彼女は確かにここにいた。
オレ達を思い、そしてオレ達も彼女を思った。
でもオレ達の声にサクラちゃんの死を止める力なんてありはしなくて、身体は花弁となって散っていく。
小狼君の絶叫が響いた。
新たな気配に振り返ると、カイルがサクラちゃんの躯を抱いて別の世界へと移動しようとしている。
「今度こそ頂いていく。」
いやらしい笑みに言葉も出ない。
「待て!」
小狼君が叫ぶ。
魔力があれば攻撃もできただろう。
しかし今は、そんな力はない。
思わず唇をかむ。
こんなに怒りが溢れるのに、魔力が溢れ出てこない自分が、恨めしく悔しい。
その時だった。
「・・・閃竜・・・」
振り返ると真赤な瞳が怒りに燃えていた。
しかし彼女も身体の拘束が解けるわけではない。
彼女の左手が、同じく左の腰に差した剣を無理に引き抜こうとしていた。
ブチブチっと嫌な音が鳴る。
明らかに義手が壊れている音だ。
血の匂いがする。
甘くオレを誘う香りが。
「やめろっ!」
それでやめる彼女ではない。
義手と肩をつなぐコードがブチブチと外れてあたりに血が飛び散る。
血走った眼をして、オレの声など耳には届いていないのだろう。
「閃竜、飛光撃ッ!!!!!」
抜刀とともに一撃を発する。
刀が砕けた。
竜の形の一撃がその砕けた刀の破片ごとカイルに襲いかかる。
しかし慣れぬ義手と、無理に技を放ったせいだろう。
その一撃はカイルの右腕を食いちぎっただけで終わる。
「邪魔は・・・させん。」
苦々しくも勝ち誇った顔をしたカイルはそう言い残し、サクラちゃんの躯を攫って世界を渡っていった。
濁流は消え失せ、オレ達の拘束も解かれる。
黒様がその場に膝をつき、そのままバタリと音を立てて倒れ伏したので慌てて駆け寄る。
汗を浮かべて左肩を押さえている。
義手が変な方向に曲がっていた。
かなり痛むのだろう。
出血がひどい。
あたりに立ち込める血の香りが、食欲をそそる。
「見せろ、全く。」
封真が駆け寄ってきてその左腕の付け根の部分を押す。
すると義手がごとりと外れた。
床に転がるむき出しのそれは、どこかまがまがしくも見えるのに、オレ達の命をつなぐ重要な道具なのだ。
外れた肩の傷口から鮮血が吹き出し、オレは無意識に唾を飲み込んだ。
「蘇摩!」
知世ちゃんが呼んだと気にはすでに医療班を率いて蘇摩さんが駆け付ける。
意識を失った黒様なんて、何度見ても生きた心地がしない。
封真が月読に尋ねた。
「ええ。
ですから、小狼さんが一秒後に帰ってこられるのか、はたまた何年先になるのかも、私達にはわからないことです。
ただ、この桜の木の力と、サクラちゃんの羽根の力で渡ったのですから、両者がここにある時に戻ってこられるとは思うのですが・・・。」
そして桜の木を見上げた。
満開の枝からははらはらと花弁が散る。
「私達にできるのは信じて待つことだけです。」
俺はそっと幹に触れる。
諏訪から引き取られてから馴染みの樹だ。
「・・・どうか。」
ただ、そう言わずには居られなかったし、それ以上は言葉にならなかった。
夢の中で出会う二人のことを思うと、いたたまれなかった。
傍に行きたいと、全ての辛いことから守ってやりたいと願ってしまう。
でもそれは今、俺にはできないこと。
信じ願うことしか、できないのだ。
そんな俺の肩に、ファイが手を乗せた。
「帰ってくるさ。」
いつもとは逆に思える関係がなんだかおかしくて、少しだけ気持ちが明るくなる。
立ち上がり、青年とともに木から飛び降りる。
一同はただ、頷きあった。
「腕の調子はどうかな?」
封真が声をかけた。
正直言えば、痛む。
動かすためにキリキリとした痛みが走るのだ。
傷が治りきっていないせいかもしれない。
「ああ。
悪くない。」
俺は軽く答えた。
たとえ痛みがあると言ったところで、きっと封真には直す技術はない。
それにこの痛みが義手を使う上で仕方のないもので、慣れることが大切なのかもしれない。
そうとなれば、早く刀を新調しなければ。
今ここで何かあっても、満足に戦える身体ではない。
左手が痛む以上、通常よりも動きが鈍るのは確実だ。
せめて技だけでもある程度繰り出せればいいのだが、今持っている刀では大技は何度も使えはしないだろう。
(銀龍があれば・・・。)
あれはたしか、知世に言って母の亡きがらとともに諏訪の地に葬ってもらった。
(墓暴きに行くしかないか。)
ここから諏訪までは馬で駆ければ3日程だったはずだ。
やや遠いがいけぬ距離ではないし、何よりも銀龍がいる。
離れてから一度も諏訪へは帰っていない。
両親が死んだ時、諏訪の人の多くは死に、残りは各地に散ったと聞いた。
今はどうなっているのか、知らない。
自分が治め、護るべき領地を捨てた自分が、領地のために命を落とした親の墓を暴きに行くのだ。
(地の神も許すまい・・・。)
そう思うと、小狼が夢の世界へと言っている間に銀龍をとりに行った方がいいのかもしれない。
「黒様?」
ファイが不安げに名を呼んだ。
「小狼が帰ってくるまでの間に、諏訪に行ってくる。」
月読にそう宣言すれば、彼女は微かに眉をひそめた。
だが言葉を発することはためらっているようだ。
「まさか両親に最期の挨拶に向かうわけではないでしょう?」
天照がその心中を代弁する。
「そのつもりはない。
・・・ただ、両親の墓を見たいと思っただけだ。
一度も墓参りをしない親不孝者だからな。」
月読は小さく頷いた。
「分かりました。
いってらっしゃいな。」
「ああ。」
「オレももちろん行くよ。」
後ろから飛び込んできた声に、俺は振り返る。
金色の目が楽しそうに弧を描いた。
「もう一度見てみたいんだ。」
「見る影もないかもしれないが。」
「それでも構わない。」
不思議だ。
あの蒼の方が好きだった。
諏訪の湖のようで、美しかったから。
でも、今のほうが彼の目は強く見える。
そんな彼の目が、好ましいと思った。
「馬は用意させましょう。
出立は?」
月読が優しく微笑んで、俺を見上げる。
「明日の朝。」
「分かりました。」
ふぁいもどこか嬉しそうに眼を細めている。
俺は神木に背を向けた。
黒様の背中は、何かを覚悟しているように見えた。
最期のあいさつに向かうわけではないと言ったけれど、何を考えているのか少しだけ不安になる。
新しい左腕は生々しく、ご両親に見せるのは忍びないような気がした。
その時だった。
何かが裂ける様な音がして、身動きが取れなくなる。
身体に小狼を夢の世界へと攫って行った黒い力の濁流が絡みついていた。
驚いて振り返ると神木の幹が裂けている。
「夢の中でいったい何が!?」
サクラちゃんの躯が、その流れに攫われていくのが見えた。
「サクラちゃん!」
手を伸ばしたくても、近づきたくても、身動きが全く取れない。
指先を動かすのが精いっぱいだ。
「小狼!」
黒たんの声の方を見れば、小狼君ともう一人の小狼君が羽根を奪い合っている。
一度に両方を助けるのはただでさえ難しいだろうに、今は身動きさえ取れない。
黒りんは目を見開いたまま、顔を蒼くして、必死にもがいていた。
なにもできない
その現実がオレ達を絶望につき落とす。
二人の小狼君が剣を振りかざす。
あれでは刺し違えることになるだろう。
どちらも死んでしまう。
「やめろっ!!!!」
オレと黒たんは同時に叫んでいた。
もう叫ぶことしかできないのだ。
身を呈して守ってやることも、後ろから羽交い絞めにして止めてやることもできない。
悔しくて、悔しくて、身体が震えた。
二つの切っ先が近づくのが、スローモーションのように見えた。
そしてその切っ先が、肉体を貫き、止まった。
その光景に、オレ達は目を見開いて固まる。
胸に2つの剣を受け、悲しそうな顔をしているのは、サクラちゃんだった。
「さくら!」
小狼君が叫んだ。
もう一人の小狼君も、唖然としている。
彼にもやはり、心があるのではないかと思ってしまうような、そんな顔。
「あなたのさくらは私じゃない。
あなたのさくらが待っている。」
サクラちゃんはもう一人の小狼君の方へと倒れこむ。
「逝くなっ!!!!」
黒様の悲鳴のような声が響く。
「サクラちゃん!!!!」
オレも思わず叫ぶ。
彼女は作られたものだ。
それでも、彼女は確かにここにいた。
オレ達を思い、そしてオレ達も彼女を思った。
でもオレ達の声にサクラちゃんの死を止める力なんてありはしなくて、身体は花弁となって散っていく。
小狼君の絶叫が響いた。
新たな気配に振り返ると、カイルがサクラちゃんの躯を抱いて別の世界へと移動しようとしている。
「今度こそ頂いていく。」
いやらしい笑みに言葉も出ない。
「待て!」
小狼君が叫ぶ。
魔力があれば攻撃もできただろう。
しかし今は、そんな力はない。
思わず唇をかむ。
こんなに怒りが溢れるのに、魔力が溢れ出てこない自分が、恨めしく悔しい。
その時だった。
「・・・閃竜・・・」
振り返ると真赤な瞳が怒りに燃えていた。
しかし彼女も身体の拘束が解けるわけではない。
彼女の左手が、同じく左の腰に差した剣を無理に引き抜こうとしていた。
ブチブチっと嫌な音が鳴る。
明らかに義手が壊れている音だ。
血の匂いがする。
甘くオレを誘う香りが。
「やめろっ!」
それでやめる彼女ではない。
義手と肩をつなぐコードがブチブチと外れてあたりに血が飛び散る。
血走った眼をして、オレの声など耳には届いていないのだろう。
「閃竜、飛光撃ッ!!!!!」
抜刀とともに一撃を発する。
刀が砕けた。
竜の形の一撃がその砕けた刀の破片ごとカイルに襲いかかる。
しかし慣れぬ義手と、無理に技を放ったせいだろう。
その一撃はカイルの右腕を食いちぎっただけで終わる。
「邪魔は・・・させん。」
苦々しくも勝ち誇った顔をしたカイルはそう言い残し、サクラちゃんの躯を攫って世界を渡っていった。
濁流は消え失せ、オレ達の拘束も解かれる。
黒様がその場に膝をつき、そのままバタリと音を立てて倒れ伏したので慌てて駆け寄る。
汗を浮かべて左肩を押さえている。
義手が変な方向に曲がっていた。
かなり痛むのだろう。
出血がひどい。
あたりに立ち込める血の香りが、食欲をそそる。
「見せろ、全く。」
封真が駆け寄ってきてその左腕の付け根の部分を押す。
すると義手がごとりと外れた。
床に転がるむき出しのそれは、どこかまがまがしくも見えるのに、オレ達の命をつなぐ重要な道具なのだ。
外れた肩の傷口から鮮血が吹き出し、オレは無意識に唾を飲み込んだ。
「蘇摩!」
知世ちゃんが呼んだと気にはすでに医療班を率いて蘇摩さんが駆け付ける。
意識を失った黒様なんて、何度見ても生きた心地がしない。