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ぼうっと眼が覚めた。
木の天井が目に入った。
どことなく懐かしさを感じる。
そこではっと現状を思い出した。
「ここは?!
あいつらっ……」
左腕がなく、起き上がれずにバランスを崩した。
傷の処置はしてあるらしいが、彼らは無事なのだろうか。
姫もひどい傷だったはずだ。
小狼や、ふぁいも。
「ここは日本国。
貴方と一緒に旅をしてきた方たちもこの白鷺城にいます」
かけられた声に目を見開く。
声の方を見れば、この旅の間に何度か見た、姿があった。
「知世……姫……」
「おかえりなさい、黒鋼」
親友が、優しく笑う。
ずっとずっと見たかった微笑み。
俺は思わずそれにつられて笑った。
なんとか知世の助けを借りて体を起こす。
「また怪我をさせました」
無くなった左手を、知世はそっと撫でた。
彼女が教えなければ、確かにこの腕は失わなかっただろう。
だが、その代わりにかけがえのないものを失うところだった。
自分よりも小さな手をそっと掴む。
「腕の一本で命が助かるなら、安いものだ。
……感謝する」
知世は小さく首を振った。
「こうなることも夢で見て、呪などかけたのか」
俺の手の中で、小さな手に力がこもった。
「ファイさんには申し訳ないですが、そうならなければいいと思っていました」
「馬鹿言え。
お前らしくない」
本当はそんなところもあるのが知世だと知っている。
彼女も人なのだ。
でも、俺の心配などしなくていいのだ。
「何を。
貴方は女の子なのです。
少しでも怪我はない方がいい。
私の守(呪)でも守り切れず、内臓と血の大半は失うなんて……」
苦しげな知世の頬に、右手を添える。
「月読」
我に返ったように目を見開いた。
「お前はいつもそうだ。
守られるべき者が、俺の心配などしなくていい。
傷ついてもお前のもとに帰ってくる。
必ず生きて帰る。
だからお前は、笑っていてくれ。
いつものように」
知世は泣きそうな顔で笑った。
「それも……辛いことなのですよ」
それが誰かによく似ていると思う。
「……母上もそう言っていた」
そういうと彼女は驚いた顔をした。
「貴方が過去の話をするなんて」
「過去なんて関係ないのは変わらない。
だが……大切なことを思い出せば、強くなれると思った」
知世は優しく笑った。
「真の強さは分かりましたか」
「さぁな。
しかし強さは減ったようだ。
一人殺した」
右手を見る。
この手も傷ついたらしく、包帯が巻かれている。
握ればアシュラ王を殺した感触が蘇る。
旅先で何度も戦ったのに、人を殺したのはあれが初めてだった。
「俺は強さがほしかった。
大事な物を、もう誰にも奪われないように。
だが力があることが災いを呼ぶこともある。
そして力だけでは……守れないものも」
俺は守ることができたものもあった。
そして守れなかったものもあった。
悔しい思いもしたし、血を吐くような苦しみも味わった。
でもそのなかで、守られたこともあった。
優しい仲間によって。
「真の強さ、分かってくださったようですね」
知世がそっと左手の傷を撫でた。
優しい手だ。
民のための、国のための、でも今だけは親友としての、手。
だからこそ。
「それと同時に、やはり俺は今までよりも、もっと強くなりたいと思った」
知世は表情を暗くした。
「……分かってくれるな」
「ええ。
……そう思ってほしくないとは、思いますが」
「力だけでは守れないものはある。
だが、力がなければ守れないものもある。
俺は左手を失った。
あの男も魔力はもう使えない」
「……ええ」
「守れるなら、守りたい。
そのための強さがほしい」
知世は泣きそうな顔で笑った。
「私が貴方を守れればいいのに。
そうしたら私の気持ちが分かりますわ」
「……そうだな。
そうしたらお前も、俺の気持ちが分かる」
愛おしい者を、命に代えてでも守りたいと思ってしまう、自分勝手な思いを。
それを抑えて、己をも生き残るために必死に刀を振るう恐怖を。
(己が生きることは、人の願いを絶つこと)
それが身に沁みる旅なのだ、これは。
「お待たせしました、どうぞお入りくださいな」
襖の向こうから現れた姿。
生きていたのだとホッとする。
ずいぶんと伸びた髪で表情は見えない。
ずんずんと目の前までやってきた。
殺気はない。
怒っているわけではなさそうだが。
「……おい」
とりあえず声をかけてみると、思いっきり頭を殴られた。
目の前に星がちらつき、頭がぐらつく。
でもその視界の端に移った笑顔。
「お返しだよ、黒様」
その何かが吹っ切れたような顔に、俺も思わず頬が緩んだ。
「黙れ、」
そして息を吸って、小さく呼んだ。
「ーーふぁい」
初めて出会った日に教えられた名を。
知世は嬉しそうに微笑んで部屋から出ていった。
「悪いがここに刀はない。
小刀でも取ってきてくれないか」
彼はふっと表情を曇らせた。
「……ごめん」
喉が渇いているだろうと思ったが、どうやら心配はいらなかったらしい。
「気にするな」
「君が気を失っている間に一度飲んだ。
……だから……今はいい」
気にしているのか俯いて暗い顔をしている。
馬鹿な男だ。
「そうか。
だが気にすることはない。
食事だろう」
彼はゆるりと頭を振った。
「……まるで獣になったようだ」
「食事は人もする。
そもそも人も獣の一つだ。
今まで知らなかったのか」
ため息交じりにそう言えば、驚いた顔をする。
「俺がお前でもそうしただろう。
それだけの話だ」
そう言えば微かに笑う。
心根の優しい男なのだ。
殺せと言われても、恩があれば殺せぬような優男。
「……寝ていた方がいい」
「そうだな」
片腕を失った今、独りで横になるのは難しい。
ふぁいが俺の背中に手をまわして手伝ってくれる。
「お前は傷はもういいのか」
「ずいぶん前に完治しているよ」
笑いながら彼は俺をそっと布団に横たわらせる。
その笑う振動が、ぬくもりとともに伝わってくる。
そして左腕が背中に回ったまま、右腕を俺の頭の上についた。
視界が彼でいっぱいになる。
「なん……だ……?」
片方だけになった蒼い目が、至近距離で俺を射すくめる。
彼は真剣な表情のまま、何も言わない。
なんだかひどく気まずくて、そして急に恥ずかしさがこみあげてきて、顔を背ける。
その耳に唇が寄せられた。
「咲……」
体がびくりと跳ねる。
ふぁいは嬉しそうに笑った。
その吐息が、耳朶をくすぐる。
「あ、そぶ……な!」
睨みつければ、そこに今まで見たことないような穏やかな顔があった。
「あの日の約束、覚えてる?」
吐息のような、どこか情けない声が降ってくる。
「……どれだ?
お前を守ると言ったことか?
会いに来ると言ったことか?
それとも、再会の約束か?」
彼はキョトンとしてから、泣きそうな顔で笑った。
「全部だよ、若姫様」
「……今さら幼名で呼ぶな」
「黒鋼っていうのは、仮名?」
「ああ。
諏訪の領主が代々受け継ぐ仮名だ」
俺は彼を見ていたくなくて、顔を背けた。
「諏訪は滅んだ。
両親も、家臣も、民も死に絶え、俺だけが生き残った」
彼には聞いてほしかった。
彼もきっと、好きでいてくれたはずだから。
理由を聞くだろうか。
悲しむだろうか。
俺が忘れてきた過去を。
忘れることでしか強くなれなかった日々を。
しばらくして、ほほに柔らかく温かな感触があり、目を見開く。
この柔らかさは知っていた。
俺を傷つける彼の歯とは対照的なほど、愛おしく柔らかな、ふぁいの唇。
その感触が好きだとは、口が裂けても言いたくはないけれど。
かあっと頬が熱くなった。
見上げれば彼は悲しそうに笑う。
「これはオレの国での挨拶だよ。
アシュラ王も死に、家臣も、民も、皆が死んだ世界での、だけれど」
そうだ、彼は聞くはずがないのだ。
彼も知っているから。
この苦しみも、痛みも。
俺よりもずっとずっと、身に沁みているだろうから。
「王はきっと、オレ達がまたまっさらな状態で出会えるようにしてくれたんだ。
これって……とても素敵なことだよね」
お互い暗い過去を背負った。
あの時のままではいられなかった。
互いを殺さねばならない運命にまで、なってしまった。
その中で、記憶がなかったのはせめてもの救い。
「だから、全部終わったら、もう一度約束しよう。
王の願いが、叶うように」
ー全ては必然だと、言っていた人がいたけれど、もしそれが本当なら、君たちが生涯大切な人であり続けるように私は願おうー
今は亡き、王の言葉がよみがえる。
ーふぁい、おれ、ふぁいのこと、だいすきだよ!ー
ー若姫様、オレもだよー
幼い日の言葉は、不思議と変わることはない。
「そうしよう」
ぱらぱらと頬に水が降ってくる。
俺は思わず困ったように笑った。
「馬鹿」
今度はふぁいが顔を赤くしている。
体まで熱くなっているのだろう。
その熱が伝わってくる気がして、俺はまた笑みを深めた。
それに気づいたのだろう。
「ごめん……恥ずかし……っ」
俺の上からどいて顔を隠そうとするから、その腕を力いっぱい引いた。
「うわっ!」
「いっ!」
「ごめんっ!」
左手がないこともあって上手く誘導できず、身体の上に倒れられてしまって傷にひどく響いた。
また慌てて避けようとするから、今度は俺も起き上がって、そして、彼の頭を胸に引き寄せた。
「……えっ……」
震える声が驚きを伝える。
吐息がふわりと俺にかかった。
「お前の青い目、昔から好きだった。
諏訪の湖のようで」
胸の包帯が涙でぬれる。
「一緒に生きよう……ゆぅい」
「……うん」
木の天井が目に入った。
どことなく懐かしさを感じる。
そこではっと現状を思い出した。
「ここは?!
あいつらっ……」
左腕がなく、起き上がれずにバランスを崩した。
傷の処置はしてあるらしいが、彼らは無事なのだろうか。
姫もひどい傷だったはずだ。
小狼や、ふぁいも。
「ここは日本国。
貴方と一緒に旅をしてきた方たちもこの白鷺城にいます」
かけられた声に目を見開く。
声の方を見れば、この旅の間に何度か見た、姿があった。
「知世……姫……」
「おかえりなさい、黒鋼」
親友が、優しく笑う。
ずっとずっと見たかった微笑み。
俺は思わずそれにつられて笑った。
なんとか知世の助けを借りて体を起こす。
「また怪我をさせました」
無くなった左手を、知世はそっと撫でた。
彼女が教えなければ、確かにこの腕は失わなかっただろう。
だが、その代わりにかけがえのないものを失うところだった。
自分よりも小さな手をそっと掴む。
「腕の一本で命が助かるなら、安いものだ。
……感謝する」
知世は小さく首を振った。
「こうなることも夢で見て、呪などかけたのか」
俺の手の中で、小さな手に力がこもった。
「ファイさんには申し訳ないですが、そうならなければいいと思っていました」
「馬鹿言え。
お前らしくない」
本当はそんなところもあるのが知世だと知っている。
彼女も人なのだ。
でも、俺の心配などしなくていいのだ。
「何を。
貴方は女の子なのです。
少しでも怪我はない方がいい。
私の守(呪)でも守り切れず、内臓と血の大半は失うなんて……」
苦しげな知世の頬に、右手を添える。
「月読」
我に返ったように目を見開いた。
「お前はいつもそうだ。
守られるべき者が、俺の心配などしなくていい。
傷ついてもお前のもとに帰ってくる。
必ず生きて帰る。
だからお前は、笑っていてくれ。
いつものように」
知世は泣きそうな顔で笑った。
「それも……辛いことなのですよ」
それが誰かによく似ていると思う。
「……母上もそう言っていた」
そういうと彼女は驚いた顔をした。
「貴方が過去の話をするなんて」
「過去なんて関係ないのは変わらない。
だが……大切なことを思い出せば、強くなれると思った」
知世は優しく笑った。
「真の強さは分かりましたか」
「さぁな。
しかし強さは減ったようだ。
一人殺した」
右手を見る。
この手も傷ついたらしく、包帯が巻かれている。
握ればアシュラ王を殺した感触が蘇る。
旅先で何度も戦ったのに、人を殺したのはあれが初めてだった。
「俺は強さがほしかった。
大事な物を、もう誰にも奪われないように。
だが力があることが災いを呼ぶこともある。
そして力だけでは……守れないものも」
俺は守ることができたものもあった。
そして守れなかったものもあった。
悔しい思いもしたし、血を吐くような苦しみも味わった。
でもそのなかで、守られたこともあった。
優しい仲間によって。
「真の強さ、分かってくださったようですね」
知世がそっと左手の傷を撫でた。
優しい手だ。
民のための、国のための、でも今だけは親友としての、手。
だからこそ。
「それと同時に、やはり俺は今までよりも、もっと強くなりたいと思った」
知世は表情を暗くした。
「……分かってくれるな」
「ええ。
……そう思ってほしくないとは、思いますが」
「力だけでは守れないものはある。
だが、力がなければ守れないものもある。
俺は左手を失った。
あの男も魔力はもう使えない」
「……ええ」
「守れるなら、守りたい。
そのための強さがほしい」
知世は泣きそうな顔で笑った。
「私が貴方を守れればいいのに。
そうしたら私の気持ちが分かりますわ」
「……そうだな。
そうしたらお前も、俺の気持ちが分かる」
愛おしい者を、命に代えてでも守りたいと思ってしまう、自分勝手な思いを。
それを抑えて、己をも生き残るために必死に刀を振るう恐怖を。
(己が生きることは、人の願いを絶つこと)
それが身に沁みる旅なのだ、これは。
「お待たせしました、どうぞお入りくださいな」
襖の向こうから現れた姿。
生きていたのだとホッとする。
ずいぶんと伸びた髪で表情は見えない。
ずんずんと目の前までやってきた。
殺気はない。
怒っているわけではなさそうだが。
「……おい」
とりあえず声をかけてみると、思いっきり頭を殴られた。
目の前に星がちらつき、頭がぐらつく。
でもその視界の端に移った笑顔。
「お返しだよ、黒様」
その何かが吹っ切れたような顔に、俺も思わず頬が緩んだ。
「黙れ、」
そして息を吸って、小さく呼んだ。
「ーーふぁい」
初めて出会った日に教えられた名を。
知世は嬉しそうに微笑んで部屋から出ていった。
「悪いがここに刀はない。
小刀でも取ってきてくれないか」
彼はふっと表情を曇らせた。
「……ごめん」
喉が渇いているだろうと思ったが、どうやら心配はいらなかったらしい。
「気にするな」
「君が気を失っている間に一度飲んだ。
……だから……今はいい」
気にしているのか俯いて暗い顔をしている。
馬鹿な男だ。
「そうか。
だが気にすることはない。
食事だろう」
彼はゆるりと頭を振った。
「……まるで獣になったようだ」
「食事は人もする。
そもそも人も獣の一つだ。
今まで知らなかったのか」
ため息交じりにそう言えば、驚いた顔をする。
「俺がお前でもそうしただろう。
それだけの話だ」
そう言えば微かに笑う。
心根の優しい男なのだ。
殺せと言われても、恩があれば殺せぬような優男。
「……寝ていた方がいい」
「そうだな」
片腕を失った今、独りで横になるのは難しい。
ふぁいが俺の背中に手をまわして手伝ってくれる。
「お前は傷はもういいのか」
「ずいぶん前に完治しているよ」
笑いながら彼は俺をそっと布団に横たわらせる。
その笑う振動が、ぬくもりとともに伝わってくる。
そして左腕が背中に回ったまま、右腕を俺の頭の上についた。
視界が彼でいっぱいになる。
「なん……だ……?」
片方だけになった蒼い目が、至近距離で俺を射すくめる。
彼は真剣な表情のまま、何も言わない。
なんだかひどく気まずくて、そして急に恥ずかしさがこみあげてきて、顔を背ける。
その耳に唇が寄せられた。
「咲……」
体がびくりと跳ねる。
ふぁいは嬉しそうに笑った。
その吐息が、耳朶をくすぐる。
「あ、そぶ……な!」
睨みつければ、そこに今まで見たことないような穏やかな顔があった。
「あの日の約束、覚えてる?」
吐息のような、どこか情けない声が降ってくる。
「……どれだ?
お前を守ると言ったことか?
会いに来ると言ったことか?
それとも、再会の約束か?」
彼はキョトンとしてから、泣きそうな顔で笑った。
「全部だよ、若姫様」
「……今さら幼名で呼ぶな」
「黒鋼っていうのは、仮名?」
「ああ。
諏訪の領主が代々受け継ぐ仮名だ」
俺は彼を見ていたくなくて、顔を背けた。
「諏訪は滅んだ。
両親も、家臣も、民も死に絶え、俺だけが生き残った」
彼には聞いてほしかった。
彼もきっと、好きでいてくれたはずだから。
理由を聞くだろうか。
悲しむだろうか。
俺が忘れてきた過去を。
忘れることでしか強くなれなかった日々を。
しばらくして、ほほに柔らかく温かな感触があり、目を見開く。
この柔らかさは知っていた。
俺を傷つける彼の歯とは対照的なほど、愛おしく柔らかな、ふぁいの唇。
その感触が好きだとは、口が裂けても言いたくはないけれど。
かあっと頬が熱くなった。
見上げれば彼は悲しそうに笑う。
「これはオレの国での挨拶だよ。
アシュラ王も死に、家臣も、民も、皆が死んだ世界での、だけれど」
そうだ、彼は聞くはずがないのだ。
彼も知っているから。
この苦しみも、痛みも。
俺よりもずっとずっと、身に沁みているだろうから。
「王はきっと、オレ達がまたまっさらな状態で出会えるようにしてくれたんだ。
これって……とても素敵なことだよね」
お互い暗い過去を背負った。
あの時のままではいられなかった。
互いを殺さねばならない運命にまで、なってしまった。
その中で、記憶がなかったのはせめてもの救い。
「だから、全部終わったら、もう一度約束しよう。
王の願いが、叶うように」
ー全ては必然だと、言っていた人がいたけれど、もしそれが本当なら、君たちが生涯大切な人であり続けるように私は願おうー
今は亡き、王の言葉がよみがえる。
ーふぁい、おれ、ふぁいのこと、だいすきだよ!ー
ー若姫様、オレもだよー
幼い日の言葉は、不思議と変わることはない。
「そうしよう」
ぱらぱらと頬に水が降ってくる。
俺は思わず困ったように笑った。
「馬鹿」
今度はふぁいが顔を赤くしている。
体まで熱くなっているのだろう。
その熱が伝わってくる気がして、俺はまた笑みを深めた。
それに気づいたのだろう。
「ごめん……恥ずかし……っ」
俺の上からどいて顔を隠そうとするから、その腕を力いっぱい引いた。
「うわっ!」
「いっ!」
「ごめんっ!」
左手がないこともあって上手く誘導できず、身体の上に倒れられてしまって傷にひどく響いた。
また慌てて避けようとするから、今度は俺も起き上がって、そして、彼の頭を胸に引き寄せた。
「……えっ……」
震える声が驚きを伝える。
吐息がふわりと俺にかかった。
「お前の青い目、昔から好きだった。
諏訪の湖のようで」
胸の包帯が涙でぬれる。
「一緒に生きよう……ゆぅい」
「……うん」
