セレス
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
世界はどんどん狭まってきた。
どうやったのかはわからないが、小狼たちのほうから光がさして、スピアの中に一箇所だけ穴が開いた。
「おいっ!
しっかりしろっ!!」
動かない男をなんとか引きずっていく。
だがどうしても彼の身体が外に出ない。
「なぜっ!」
出れそうなのに、何かが外に出ることを拒む。
ようやく彼は生きようとしたのに。
皆で生きるために必死に戦ったのに。
決意に満ちた、でもひどく苦しげな瞳が俺を見上げた。
何を彼が言うか、俺は気づいた。
でも、言ってほしくない。
「言うなっ」
「行け!」
彼が叫んだ。
「馬鹿かッ!!」
血が足りない。
意識が朦朧とする。
「来いっ!!!」
叫ぶのに、彼は出る気がないのか、なされるがままだ。
「……生きろ」
片方だけになった蒼い瞳が、俺にそう言う。
「馬鹿を、言うな!
……俺は、決め……たんだ!
…お前…を……守る!」
言葉を紡ぐのも辛い。
身体がふらつく。
眩暈もひどい。
でも、今手を離すことなどできるはずがない。
「早く行け!
オレは黒鋼に死んでほしくないんだっ!」
「勝手な…ことを……いい加減に…し、ろ!」
でももう限界が近かった。
彼の姿もかすんでいてよく見えない。
痛みも感じなくなってきていた。
夢を見ているような、そんな感覚に襲われる。
よく知った声が、脳裏に響いた。
ーどこかに行きたいなら、自分で行けばいいだろう。
他人に頼まずにー
ー黒たんならそうだろうねぇ。
でも、オレはずっとまってたからなぁ。
連れてってくれる誰かをー
待ってるだけじゃ、やっぱり駄目なんだなって気づいた時には遅かった。
よくある話だ。
「今のお前は、変わった。
お前は……ユゥイは…二人を……連れて行こうと…した。
俺たちを……導いた……」
息も切れ切れだ。
もうとうに限界は来ているだろう。
なのにこの馬鹿はオレに執着している。
オレは目の前の赤い宝石を見あげる。
これがきっと最後だ。
見納めだ。
(もっともっと、見ていたかったけれど……)
「お前が…あの二人に…安堵を…願うなら……俺は…お前に……自由を……それは……対価だ……ッ!!」
彼女の言うことが理解できない。
いったい何が対価だと言うのか。
いったい彼女は何をしようと言うのか。
「お前がっ……自分の手で、つかんだ……!
仲間による、自由だ……ッ!!!」
黒鋼がオレから手を離す。
そして確かに勝ち気にに笑った。
最期に彼女の笑顔が見られて、よかったと言う思いと、なぜここで勝ち気に笑えるのかと言う疑問が頭をもたげる。
オレもこんな形は望んでいない。
でも、君だけでも生きてくれればそれでいいんだ。
右手が、蒼氷を抜いた。
止める間もなかった。
気づいた時には、彼女は、何のためらいもなく、左腕を切り落としたのだ。
「うっ!!!」
さすがに激痛が走ったのか、顔をゆがめる。
腕と刀が、魔法陣の中にごとりと落ちた。
オレはあまりのことに声も出ない。
そんなオレの手を、彼女は再びつかんだ。
苦しげに汗を浮かべて、顔をゆがめながら。
でも、勝気な笑みを浮かべて、してやったぞとでも言いたげに。
オレの隣に落ちた腕は、さっき記憶の中で、諏訪の亀神がまじないをかけた手だった。
ーそなたたちの、永久の友情を祈ろう。
守りきれ、今度こそー
勢いよくその腕から発された風に、オレは世界から押し出される。
「黒、鋼……!!!」
彼女の意識がもうろうとしてきているのは、一目瞭然だった。
それでも彼女の手はゆるまず、きつくオレの手を掴んでいる。
「な……何、で…こん、な……無茶、を!!」
恐怖で声が震える。
出血がひどい。
鼻につく甘い香りは、オレの理性を根こそぎ持っていこうとする。
アシュラ王から受けた傷もひどいのに。
細い体を、傷に触らぬよう、でもきつく抱きしめる。
「約束……したから……な……」
紅い目が、優しく微笑んだ。
くらくらする。
噎せ返るような甘い香りと、噎せ返る様に甘い、黒鋼に。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
(オレは……オレは何ということをしてきたんだろう……)
すっかり忘れてしまったオレと違って、幼い時の約束を違わず、オレを守ろうとしてくれた彼女に、なんてことを。
「駄目だ!!」
オレは必死に彼女を呼び止める。
なのに彼女は今まで見せたことのないような、柔らかな笑顔を見せた。
オレに向けられた、笑顔。
彼女の母親に似た優しさと、彼女の父に似た安心感のあるそれ。
「しっかり…しろ……」
細い息の下、かすかな声が聞こえた。
「泣くな……お前は……自由だ……」
ぐっと彼女の重みが増し、気を失ったことを知った。
背筋が寒くなり、体が震える。
「黒様?」
呼んでも反応がない。
「黒、りん?」
最後に見た記憶がよみがえる。
ーいっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来るー
あの日、そう言ったオレに若姫様はにぱっと笑って、大きくうなずいた。
ーふぁい、耳かしてー
そして彼女は、オレに告げた。
彼女の真の名前を。
「咲」
彼女は虚ろな眼が薄らと開いた。
「咲……」
奇跡だと思った。
でもそれは長くは続かない。
瞼はまた閉じていく。
「死ぬ、な」
抱きしめる腕が震えた。
ドクドクと流れゆく命が、恐ろしくて。
「嫌だ……っ!」
ようやく出会った。
自分の命をささげる、ファイという死した身体ではなく、一緒に生きて行きたいと思う人に。
オレを初めて愛してくれた人に。
滴る血。
オレの服にしみこむ血は、白い服を紅く染めていく。
そのスピードは驚くほどで、オレの冷え切った体を温めていく。
それは背筋が凍るほどの恐ろしい温もり。
甘美な香りは、体中が熱くなるほどの歓喜を催す。
「咲……ッ!!!!」
あふれる涙に咲の顔がかすんで見えない。
「イ……、…ァ…、ファイ!しっかりして!」
「移動します!
傷口を押えて、少しでも出血が減るように!」
肩を叩かれて我に帰る。
そこにいたのは、小狼君と、サクラちゃんの躯と、モコナ。
そうか、今、彼女を抱きしめていられるのは、オレだけなんだ。
オレに手を差し出してくれたのは、いつも彼女だったのに。
(ならば今度は、君をオレがつなぎとめる)
どうやったのかはわからないが、小狼たちのほうから光がさして、スピアの中に一箇所だけ穴が開いた。
「おいっ!
しっかりしろっ!!」
動かない男をなんとか引きずっていく。
だがどうしても彼の身体が外に出ない。
「なぜっ!」
出れそうなのに、何かが外に出ることを拒む。
ようやく彼は生きようとしたのに。
皆で生きるために必死に戦ったのに。
決意に満ちた、でもひどく苦しげな瞳が俺を見上げた。
何を彼が言うか、俺は気づいた。
でも、言ってほしくない。
「言うなっ」
「行け!」
彼が叫んだ。
「馬鹿かッ!!」
血が足りない。
意識が朦朧とする。
「来いっ!!!」
叫ぶのに、彼は出る気がないのか、なされるがままだ。
「……生きろ」
片方だけになった蒼い瞳が、俺にそう言う。
「馬鹿を、言うな!
……俺は、決め……たんだ!
…お前…を……守る!」
言葉を紡ぐのも辛い。
身体がふらつく。
眩暈もひどい。
でも、今手を離すことなどできるはずがない。
「早く行け!
オレは黒鋼に死んでほしくないんだっ!」
「勝手な…ことを……いい加減に…し、ろ!」
でももう限界が近かった。
彼の姿もかすんでいてよく見えない。
痛みも感じなくなってきていた。
夢を見ているような、そんな感覚に襲われる。
よく知った声が、脳裏に響いた。
ーどこかに行きたいなら、自分で行けばいいだろう。
他人に頼まずにー
ー黒たんならそうだろうねぇ。
でも、オレはずっとまってたからなぁ。
連れてってくれる誰かをー
待ってるだけじゃ、やっぱり駄目なんだなって気づいた時には遅かった。
よくある話だ。
「今のお前は、変わった。
お前は……ユゥイは…二人を……連れて行こうと…した。
俺たちを……導いた……」
息も切れ切れだ。
もうとうに限界は来ているだろう。
なのにこの馬鹿はオレに執着している。
オレは目の前の赤い宝石を見あげる。
これがきっと最後だ。
見納めだ。
(もっともっと、見ていたかったけれど……)
「お前が…あの二人に…安堵を…願うなら……俺は…お前に……自由を……それは……対価だ……ッ!!」
彼女の言うことが理解できない。
いったい何が対価だと言うのか。
いったい彼女は何をしようと言うのか。
「お前がっ……自分の手で、つかんだ……!
仲間による、自由だ……ッ!!!」
黒鋼がオレから手を離す。
そして確かに勝ち気にに笑った。
最期に彼女の笑顔が見られて、よかったと言う思いと、なぜここで勝ち気に笑えるのかと言う疑問が頭をもたげる。
オレもこんな形は望んでいない。
でも、君だけでも生きてくれればそれでいいんだ。
右手が、蒼氷を抜いた。
止める間もなかった。
気づいた時には、彼女は、何のためらいもなく、左腕を切り落としたのだ。
「うっ!!!」
さすがに激痛が走ったのか、顔をゆがめる。
腕と刀が、魔法陣の中にごとりと落ちた。
オレはあまりのことに声も出ない。
そんなオレの手を、彼女は再びつかんだ。
苦しげに汗を浮かべて、顔をゆがめながら。
でも、勝気な笑みを浮かべて、してやったぞとでも言いたげに。
オレの隣に落ちた腕は、さっき記憶の中で、諏訪の亀神がまじないをかけた手だった。
ーそなたたちの、永久の友情を祈ろう。
守りきれ、今度こそー
勢いよくその腕から発された風に、オレは世界から押し出される。
「黒、鋼……!!!」
彼女の意識がもうろうとしてきているのは、一目瞭然だった。
それでも彼女の手はゆるまず、きつくオレの手を掴んでいる。
「な……何、で…こん、な……無茶、を!!」
恐怖で声が震える。
出血がひどい。
鼻につく甘い香りは、オレの理性を根こそぎ持っていこうとする。
アシュラ王から受けた傷もひどいのに。
細い体を、傷に触らぬよう、でもきつく抱きしめる。
「約束……したから……な……」
紅い目が、優しく微笑んだ。
くらくらする。
噎せ返るような甘い香りと、噎せ返る様に甘い、黒鋼に。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
(オレは……オレは何ということをしてきたんだろう……)
すっかり忘れてしまったオレと違って、幼い時の約束を違わず、オレを守ろうとしてくれた彼女に、なんてことを。
「駄目だ!!」
オレは必死に彼女を呼び止める。
なのに彼女は今まで見せたことのないような、柔らかな笑顔を見せた。
オレに向けられた、笑顔。
彼女の母親に似た優しさと、彼女の父に似た安心感のあるそれ。
「しっかり…しろ……」
細い息の下、かすかな声が聞こえた。
「泣くな……お前は……自由だ……」
ぐっと彼女の重みが増し、気を失ったことを知った。
背筋が寒くなり、体が震える。
「黒様?」
呼んでも反応がない。
「黒、りん?」
最後に見た記憶がよみがえる。
ーいっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来るー
あの日、そう言ったオレに若姫様はにぱっと笑って、大きくうなずいた。
ーふぁい、耳かしてー
そして彼女は、オレに告げた。
彼女の真の名前を。
「咲」
彼女は虚ろな眼が薄らと開いた。
「咲……」
奇跡だと思った。
でもそれは長くは続かない。
瞼はまた閉じていく。
「死ぬ、な」
抱きしめる腕が震えた。
ドクドクと流れゆく命が、恐ろしくて。
「嫌だ……っ!」
ようやく出会った。
自分の命をささげる、ファイという死した身体ではなく、一緒に生きて行きたいと思う人に。
オレを初めて愛してくれた人に。
滴る血。
オレの服にしみこむ血は、白い服を紅く染めていく。
そのスピードは驚くほどで、オレの冷え切った体を温めていく。
それは背筋が凍るほどの恐ろしい温もり。
甘美な香りは、体中が熱くなるほどの歓喜を催す。
「咲……ッ!!!!」
あふれる涙に咲の顔がかすんで見えない。
「イ……、…ァ…、ファイ!しっかりして!」
「移動します!
傷口を押えて、少しでも出血が減るように!」
肩を叩かれて我に帰る。
そこにいたのは、小狼君と、サクラちゃんの躯と、モコナ。
そうか、今、彼女を抱きしめていられるのは、オレだけなんだ。
オレに手を差し出してくれたのは、いつも彼女だったのに。
(ならば今度は、君をオレがつなぎとめる)
