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世界はどんどん狭まってきた。
どうやったのかはわからないが、小狼たちのほうから光がさして、スピアの中に一箇所だけ穴が開いた。
「おいっ!
しっかりしろっ!!」
動かない青年をなんとか引きずっていく。
だがどうしても青年の身体が外に出ない。
「なぜっ!」
出れそうなのに、何かが青年が外に出ることを拒む。
ようやく彼は生きようとしたのに。
皆で生きるために必死に戦ったのに。
決意に満ちた、でもひどく苦しげな瞳が俺を見上げた。
何を彼が言うか、俺は気づいた。
でも、言ってほしくない。
「言うなっ」
「行け!」
青年が叫んだ。
「馬鹿か!!」
血が足りない。
意識が朦朧とする。
「来いっ!!!」
叫ぶのに、彼は出る気がないのか、なされるがままだ。
「お前は生きろ。」
片方だけになった蒼い瞳が、俺にそう言う。
「馬鹿を、言うな!
俺は、決め、たんだ!
お前を、守る!」
言葉を紡ぐのも辛い。
身体がふらつく。
眩暈もひどい。
でも、今手を離すことなどできるはずがない。
「早く行け!
オレは黒鋼に死んでほしくないんだっ!」
「勝手な、ことを言うのも、いい加減に、し、ろ!」
でももう限界が近かった。
彼の姿もかすんでいてよく見えない。
痛みも感じなくなってきていた。
夢を見ているような、そんな感覚に襲われる。
よく知った声が、脳裏に響いた。
ーどこかに行きたいなら、自分で行けばいいだろう。
他人に頼まずに。ー
ー黒たんならそうだろうねぇ。
でも、オレはずっとまってたからなぁ。
連れてってくれる誰かを。ー
待ってるだけじゃ、やっぱり駄目なんだなって気づいた時には遅かった。
よくある話だ。
「今のお前は、変わった。
お前は・・・ユゥイは、二人を・・・連れて行こうと、した。
俺たちを・・・導いた。」
息も切れ切れだ。
もうとうに限界は来ているだろう。
なのにこの馬鹿はオレに執着している。
オレは目の前の赤い宝石を見あげる。
これがきっと最後だ。
見納めだ。
(もっともっと、見ていたかったけれど・・・。)
「お前が、あの二人に・・・安堵を、願うなら・・・
俺は、お前に・・・自由を、願おう。
・・・それは・・・対価だ。」
彼女の言うことが理解できない。
いったい何が対価だと言うのか。
いったい彼女は何をしようと言うのか。
「お前がっ・・・自分の手で、つかんだ・・・・!
仲間というものによる・・・自由だ!」
黒鋼がオレから手を離す。
そして微かに笑った。
(最期に見られて、よかった。)
オレもこんな形は望んでいない。
でも、君だけでも生きてくれてよかった。
右手が、蒼氷を抜いた。
止める間もなかった。
彼女は、何のためらいもなく、左腕を切り落としたのだ。
「うっ!!!」
さすがに激痛が走ったのか、顔をゆがめる。
腕と刀が、魔法陣の中にごとりと落ちた。
オレはあまりのことに声も出ない。
そんなオレの手を、彼女は再びつかんだ。
苦しげに汗を浮かべて、顔をゆがめながら。
でも、勝気な笑みを浮かべて、してやったぞとでも言いたげに。
オレの隣に落ちた腕は、さっき記憶の中で、諏訪の亀神がまじないをかけた手だった。
ーそなたたちの、永久の友情を祈ろう。
守りきれ、今度こそー
勢いよくその腕から発された風に、オレは世界から押し出される。
「黒、鋼・・・!!!」
彼女の意識がもうろうとしてきているのは、一目瞭然だった。
それでも彼女の手はゆるまず、きつくオレの手を掴んでいる。
「な・・・何、で、こん、な、無茶、を!!」
恐怖で声が震える。
出血がひどい。
鼻につく甘い香りは、オレの理性を根こそぎ持っていこうとする。
アシュラ王から受けた傷もひどいのに。
細い体を、傷に触らぬよう、でもきつく抱きしめる。
「約束、したから・・・な。」
紅い目が、優しく微笑んだ。
くらくらする。
噎せ返るような甘い香りと、噎せ返る様に甘い、黒鋼に。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
(オレは・・・オレは何ということをしてきたんだろう。)
すっかり忘れてしまったオレと違って、幼い時の約束を違わず、オレを守ろうとしてくれた彼女に、なんてことを。
「駄目だ!!」
オレは必死に彼女を呼び止める。
なのに彼女は今まで見せたことのないような、柔らかな笑顔を見せた。
オレに向けられた、笑顔。
彼女の母親に似た優しさと、彼女の父に似た安心感のあるそれ。
「しっかりしろ・・・」
細い息の下、かすかな声が聞こえた。
「泣くな。
お前が、つかんだんだ・・・もう、自由だ。」
ぐっと彼女の重みが増し、気を失ったことを知った。
背筋が寒くなり、体が震える。
「黒様?」
呼んでも反応がない。
「黒、りん?」
最後に見た記憶がよみがえる。
ーいっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来る。ー
あの日、そう言ったオレに若姫様はにぱっと笑って、大きくうなずいた。
ーふぁい、耳かして。ー
そして彼女は、オレに告げた。
彼女の真の名前を。
「咲。」
彼女は虚ろな眼が薄らと開いた。
「咲・・・。」
奇跡だと思った。
でもそれは長くは続かない。
瞼はまた閉じていく。
「死ぬ、な。」
抱きしめる腕が震えた。
ドクドクと流れゆく命が、恐ろしくて。
「嫌だ・・・っ!」
ようやく出会った。
自分の命をささげる、ファイという死した身体ではなく、一緒に生きて行きたいと思う人に。
オレを初めて愛してくれた人に。
滴る血。
オレの服にしみこむ血は、白い服を紅く染めていく。
そのスピードは驚くほどで、オレの冷え切った体を温めていく。
それは背筋が凍るほどの恐ろしい温もり。
甘美な香りは、体中が熱くなるほどの歓喜を催す。
「咲・・・ッ!!!!」
あふれる涙に咲の顔がかすんで見えない。
「イ・・・、・・ァ・・、ファイ!しっかりして!」
「移動します!
傷口を押えて、少しでも出血が減るように!」
肩を叩かれて我に帰る。
そこにいたのは、小狼君と、サクラちゃんの躯と、モコナ。
そうか、今、彼女を抱きしめていられるのは、オレだけなんだ。
オレがつかめるように、手を差し出してくれたのは、いつも彼女だった。
(ならば今度は、君をオレがつなぎとめる。)
どうやったのかはわからないが、小狼たちのほうから光がさして、スピアの中に一箇所だけ穴が開いた。
「おいっ!
しっかりしろっ!!」
動かない青年をなんとか引きずっていく。
だがどうしても青年の身体が外に出ない。
「なぜっ!」
出れそうなのに、何かが青年が外に出ることを拒む。
ようやく彼は生きようとしたのに。
皆で生きるために必死に戦ったのに。
決意に満ちた、でもひどく苦しげな瞳が俺を見上げた。
何を彼が言うか、俺は気づいた。
でも、言ってほしくない。
「言うなっ」
「行け!」
青年が叫んだ。
「馬鹿か!!」
血が足りない。
意識が朦朧とする。
「来いっ!!!」
叫ぶのに、彼は出る気がないのか、なされるがままだ。
「お前は生きろ。」
片方だけになった蒼い瞳が、俺にそう言う。
「馬鹿を、言うな!
俺は、決め、たんだ!
お前を、守る!」
言葉を紡ぐのも辛い。
身体がふらつく。
眩暈もひどい。
でも、今手を離すことなどできるはずがない。
「早く行け!
オレは黒鋼に死んでほしくないんだっ!」
「勝手な、ことを言うのも、いい加減に、し、ろ!」
でももう限界が近かった。
彼の姿もかすんでいてよく見えない。
痛みも感じなくなってきていた。
夢を見ているような、そんな感覚に襲われる。
よく知った声が、脳裏に響いた。
ーどこかに行きたいなら、自分で行けばいいだろう。
他人に頼まずに。ー
ー黒たんならそうだろうねぇ。
でも、オレはずっとまってたからなぁ。
連れてってくれる誰かを。ー
待ってるだけじゃ、やっぱり駄目なんだなって気づいた時には遅かった。
よくある話だ。
「今のお前は、変わった。
お前は・・・ユゥイは、二人を・・・連れて行こうと、した。
俺たちを・・・導いた。」
息も切れ切れだ。
もうとうに限界は来ているだろう。
なのにこの馬鹿はオレに執着している。
オレは目の前の赤い宝石を見あげる。
これがきっと最後だ。
見納めだ。
(もっともっと、見ていたかったけれど・・・。)
「お前が、あの二人に・・・安堵を、願うなら・・・
俺は、お前に・・・自由を、願おう。
・・・それは・・・対価だ。」
彼女の言うことが理解できない。
いったい何が対価だと言うのか。
いったい彼女は何をしようと言うのか。
「お前がっ・・・自分の手で、つかんだ・・・・!
仲間というものによる・・・自由だ!」
黒鋼がオレから手を離す。
そして微かに笑った。
(最期に見られて、よかった。)
オレもこんな形は望んでいない。
でも、君だけでも生きてくれてよかった。
右手が、蒼氷を抜いた。
止める間もなかった。
彼女は、何のためらいもなく、左腕を切り落としたのだ。
「うっ!!!」
さすがに激痛が走ったのか、顔をゆがめる。
腕と刀が、魔法陣の中にごとりと落ちた。
オレはあまりのことに声も出ない。
そんなオレの手を、彼女は再びつかんだ。
苦しげに汗を浮かべて、顔をゆがめながら。
でも、勝気な笑みを浮かべて、してやったぞとでも言いたげに。
オレの隣に落ちた腕は、さっき記憶の中で、諏訪の亀神がまじないをかけた手だった。
ーそなたたちの、永久の友情を祈ろう。
守りきれ、今度こそー
勢いよくその腕から発された風に、オレは世界から押し出される。
「黒、鋼・・・!!!」
彼女の意識がもうろうとしてきているのは、一目瞭然だった。
それでも彼女の手はゆるまず、きつくオレの手を掴んでいる。
「な・・・何、で、こん、な、無茶、を!!」
恐怖で声が震える。
出血がひどい。
鼻につく甘い香りは、オレの理性を根こそぎ持っていこうとする。
アシュラ王から受けた傷もひどいのに。
細い体を、傷に触らぬよう、でもきつく抱きしめる。
「約束、したから・・・な。」
紅い目が、優しく微笑んだ。
くらくらする。
噎せ返るような甘い香りと、噎せ返る様に甘い、黒鋼に。
ーふぁいのことだって、守ってやる!ー
(オレは・・・オレは何ということをしてきたんだろう。)
すっかり忘れてしまったオレと違って、幼い時の約束を違わず、オレを守ろうとしてくれた彼女に、なんてことを。
「駄目だ!!」
オレは必死に彼女を呼び止める。
なのに彼女は今まで見せたことのないような、柔らかな笑顔を見せた。
オレに向けられた、笑顔。
彼女の母親に似た優しさと、彼女の父に似た安心感のあるそれ。
「しっかりしろ・・・」
細い息の下、かすかな声が聞こえた。
「泣くな。
お前が、つかんだんだ・・・もう、自由だ。」
ぐっと彼女の重みが増し、気を失ったことを知った。
背筋が寒くなり、体が震える。
「黒様?」
呼んでも反応がない。
「黒、りん?」
最後に見た記憶がよみがえる。
ーいっぱい練習して、できるようになるよ。
それで、また若姫様に会いに来る。ー
あの日、そう言ったオレに若姫様はにぱっと笑って、大きくうなずいた。
ーふぁい、耳かして。ー
そして彼女は、オレに告げた。
彼女の真の名前を。
「咲。」
彼女は虚ろな眼が薄らと開いた。
「咲・・・。」
奇跡だと思った。
でもそれは長くは続かない。
瞼はまた閉じていく。
「死ぬ、な。」
抱きしめる腕が震えた。
ドクドクと流れゆく命が、恐ろしくて。
「嫌だ・・・っ!」
ようやく出会った。
自分の命をささげる、ファイという死した身体ではなく、一緒に生きて行きたいと思う人に。
オレを初めて愛してくれた人に。
滴る血。
オレの服にしみこむ血は、白い服を紅く染めていく。
そのスピードは驚くほどで、オレの冷え切った体を温めていく。
それは背筋が凍るほどの恐ろしい温もり。
甘美な香りは、体中が熱くなるほどの歓喜を催す。
「咲・・・ッ!!!!」
あふれる涙に咲の顔がかすんで見えない。
「イ・・・、・・ァ・・、ファイ!しっかりして!」
「移動します!
傷口を押えて、少しでも出血が減るように!」
肩を叩かれて我に帰る。
そこにいたのは、小狼君と、サクラちゃんの躯と、モコナ。
そうか、今、彼女を抱きしめていられるのは、オレだけなんだ。
オレがつかめるように、手を差し出してくれたのは、いつも彼女だった。
(ならば今度は、君をオレがつなぎとめる。)
